オンライン診療、「海外とは違う」 ── 池端副会長、要件緩和に慎重論

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年12月22日の中医協総会

 オンライン診療のさらなる普及を求める意見が支払側から相次いだ厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「トリアージ中心の海外と、わが国のかかりつけ医とは違う」と反論した。

 厚労省は12月22日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第507回会合を開き、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「外来(その5)」、「個別事項(その11)」と題する資料を示し、ICTの利活用に関するテーマを中心に審議した。その中で、オンライン診療の要件緩和をめぐり支払側と診療側の意見が激しく対立し、公益委員も意見を述べた。

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対象患者や要件、「どのように考えるか」

 「外来(その5)」のテーマは、「診療におけるICTの活用」について。▼オンライン診療、▼オンライン資格確認、▼電子処方箋──などの論点が示された。

 「個別事項(その11)」の前半では、▼オンライン服薬指導、▼電子版お薬手帳──などの論点が示され、これらオンライン関連を一括して審議。質疑だけで1時間を超える長丁場となった。

 このうちオンライン診療については、「対象患者、算定要件、施設基準等について、どのように考えるか」などの論点が示され、各委員が意見を述べた。

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47-1_【総-4】外来(その5)診療におけるICTの活用_2021年12月22日の中医協総会

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地域医療の弱体化、崩壊のリスク

 質疑の冒頭、城守国斗委員(日本医師会常任理事)がオンライン診療の要件緩和による安全性への懸念などを強調。「オンラインでは到底、行いえないものが数多く存在している」とし、「触診によって熱感を感じることや関節の可動域の診察、採血、検査、処置など」を挙げた。

 その上で、城守委員は「対面診療と比較して得られる情報が視覚や聴覚に限られているため、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要がある」とし、「オンライン診療は定期的な対面診療と適切に組み合わせて実施されるべき」と主張した。

 地域医療への影響も危惧した。城守委員は「対面診療を想定していないようなオンライン診療のみを行う医療機関のようなものは医療の世界においてはあり得ない。遠隔地から問診と視診の一部しか行わないオンライン診療が広がると、地域医療の弱体化、ひいては崩壊させるリスクすらあることは明白」と訴えた。発言は10分以上に及んだ。

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患者の利便性よりも安全・安心を

 一方、支払側委員も対面診療との違いや、患者の安全性、地域医療への影響には理解を示した。

 安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「対面診療との関係を十分に考慮し、安全性と信頼性の確保を前提とした上で、対面診療と同等と評価できるかという観点から、それぞれ適切な評価の在り方を検討していくべき」と述べた。

 佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は「患者・被保険者の利便性よりも、患者・被保険者の安全・安心をもたらすような仕組みづくりが必要であり、必要に応じて指針を見直すなど、一定のルールのもとに実施すべき」とした。

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コロナ禍でメリットを享受できた

 これに対し、同じく支払側の眞田享委員(経団連医療・介護改革部会長代理)は患者の利便性を重視。「コロナ禍を通じてオンライン診療のメリットを享受できた患者は少なからずいる」とし、「緩和の方向で見直しを検討すべき」と主張した。

 具体的には、「3カ月に1回の対面診療という算定要件や、対象患者の制限、30分の目安は不要」とし、「オンライン診療は各月1割以下というルールについて、地域医療に与える影響も踏まえつつ、撤廃の方向で検討すべきではないか」と提案した。

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線引きはなかなか難しい

 支払側の代表である松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、オンライン診療を進めるための要件緩和を中心に意見を述べたが、「現行のオンライン患者を1割に制限することに関して、『何割ならいいんだ』という妥当な線引きはなかなか難しいテーマである」と悩みを見せた。

 松本委員はまた、「問診だけで対応可能なものもあれば、処置や検査が包括されているものもあるので、基本的には『医療の内容が同等であるか』というのが評価の在り方のポイントだろう」と指摘。「関係団体からのヒアリングを検討してもいいのではないか」と提案した。

 その上で、松本委員は「オンライン診療により対面診療と大差ない診療を行うことができる場合が考えられると思うが、オンライン診療のみで治療が結果的に完結することがありえるのか」と問題提起した。

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対面診療に誘導するために

 これに対し、患者代表である間宮清委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、対面診療との違いを認めた上で早期発見の重要性を指摘した。

 間宮委員は「がんが見つかった時には、もう手遅れということもあるので、対面診療に誘導するためにオンライン診療を活用すべき」とし、対面診療の前段階としてのオンライン診療の意義を強調。「1割制限には疑問がある。『枠がないから駄目』と言われてしまうのは避けてほしい」と主張した。

 この発言に別の支払側委員も賛同。安藤委員は「1割制限を設けてしまうと、診療を受けたい患者さんへの制限にもなるので、そうならないように進めていく必要性がある」と述べた。

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どれぐらいのボリュームを認めるか

 「1割制限」をめぐり、議論は海外の動向にも及んだ。城守委員は、オンライン診療の解禁による弊害を指摘。支払側から具体的な事例を求める意見が出た。

 厚労省保険局医療課の井内努課長は「海外の状況について委員各位から要請があったという認識だが、各国の事情がどうなのか、事務局で情報を集められるかどうかの検討はさせていただきたい」と答えるにとどまった。

 そこで公益委員が発言。飯塚敏晃委員(東大大学院経済学研究科教授)は「イスラエルでオンライン診療が非常に進んでおり、最初のロックダウンでオンライン診療が5%ぐらいから40%に上昇し、解除後も20%で安定している」と紹介。「どれぐらいのボリュームを認めるか、お考えいただくとよいのではないか」とコメントし、今回の議論を締めくくった。

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2021年12月22日の中医協総会
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 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。

■ オンライン診療について
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 オンライン診療については、先ほど城守委員がおっしゃったとおりだと思う。閣議決定でオンライン診療の推進が示され、それを受けた今回の論点だと思うが、やはり原則は対面診療を補完するものであって、決して同等の評価をするものではないことを強調しておきたい。決して対面診療に置き換わるものではない。今回のコロナ禍における一定の利便性は理解しているが、時限的・限定的であるべきで、対面診療に置き換わるものではない。
 もちろん、栄養指導やニコチン指導管理などでは、対面診療との組み合わせで、よりきめ細かな管理ができる場合に一定の評価をすることがあるが、例えば在宅医療でもそうだが、対面診療が非常に重要な位置を占めている。
 在宅医療では、単に患者さんの情報だけではなく、その家の情報、服薬状況をはじめ、きちんと整理整頓ができているか、お手洗いにちゃんと行けているかなど、家の中に入って初めて気がつくような情報も非常に重要であり、診療を補完する情報になる。
 これに対し、オンライン診療では極めて限定的な情報しか入らない。それは外来診療も同様であるが、在宅医療では特に対面診療が重要になる。オンライン診療が置き換わるということはありえない。
 先ほどから、海外との比較が議論になっている。私も正確なデータを持っているわけではないが、海外で受診した経験、あるいは書物等で判断する限り、トリアージ中心の海外と、わが国のかかりつけ医とは違う。
 日本の場合は、ただ診療して、そしてトリアージをして風邪薬等を出すという程度ではなく、少なくとも心電図や胸部レントゲン撮影等はできる機器を持っている。日本のかかりつけ医は、一定の診断、治療ができる体制を整えている場合が多い。手前味噌な言い方で申し訳ないが、一般の欧米のかかりつけ医、トリアージだけのかかりつけ医とは違って、かなり高い機能を持ったかかりつけ医である。例えば、イギリスのGPとは違うと思う。
 オンライン診療と比べて対面診療の密度がかなり違うので、欧米ではオンライン資格確認がかなり普及している。対面診療との違いがなく、それならばオンラインが便利ではないかということで、一定程度、普及してしまったのではないか。
 支払側から「対面診療と同等のオンライン診療であれば」という発言があったが、とても同等とは思えない。1割がいいのか2割がいいのか、数字では表せない。対面診療に置き換わってオンライン診療をどんどん普及させるべきものではない。
 オンライン診療の普及率を伸ばそうという意見もあるが、それは本当にいいことか。コロナ禍のような有事には非常に有用な有効なツールだが、コロナが落ち着いてくると、オンライン初・再診の数字が落ちてきたというデータがあったと思う。対面診療のほうが有用だと患者さん自身も感じているのではないか。普及率ありきでは非常に危険である。対面診療が原則であり、それを補完できる場合には利用できるような体制をつくっていく。そういう基本的な考え方を強調したい。

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■ オンライン服薬指導について
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 先ほど述べたような観点から言えば、在宅に関するオンライン服薬指導も極めて限定的である。訪問薬剤管理指導というものは、お薬を届けて、そして実際に現物を見せて、患者さんやご家族に服薬状況、副作用などを相談して、場合によっては、そうした情報を医療側に伝える。そういう非常に重要な役割を担っていただいている。オンライン服薬指導が訪問薬剤管理指導に置き換わるものではない。オンライン服薬指導はあくまでも限定的・補完的なものであると理解してほしい。
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■ オンライン資格確認について
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 周辺機器が揃わないため、二の足を踏んでいる医療機関もまだまだあると聞いている。より普及できる方法を探ってほしい。地方では、オンライン資格確認の申し込みを済ませているのに機器が届かない所が多い。 
 また、レセプトコンピューターに接続するための費用負担について、いまだに100万円、200万円単位で要求されている。いろいろなソフトがあるので、汎用しているものであれば、もう少し低い値段で抑えられるのだろうが、多額の費用を要求されて導入できないケースが県医師会にも多数寄せられている。そういう現状は医療保険部会でも伝えたが、中医協でも指摘しておきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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