ポストコロナ患者を積極的に受け入れる ── 2021年最初の会見で武久会長
日本慢性期医療協会は1月14日、今年最初の定例記者会見を開き、新型コロナウイルス患者の円滑な受け入れに向けて見解を示した。武久洋三会長は「高齢者の治療に熟練した慢性期の多機能病棟がポストコロナの患者を積極的に受け入れ、医療が崩壊しないように協力したい」と述べた。
会見で武久会長は、厚労省が示したコロナ患者の退院基準を提示。症状が軽快して24時間経過した後にPCR検査などで2回の陰性を確認できれば退院可能とする現行の取扱いを紹介した上で、「病院が非常に逼塞してきて、このような余裕をもって対応しているコロナ対応病院ばかりではない」と指摘した。
武久会長は、コロナ専用病棟に入院できない状況を改善するため、急性期病院の後方を担う慢性期病院が積極的に受け入れを進める必要性を強調。「日慢協の会員病院はポストコロナ患者を受け入れるよう努力している。コロナ専用病棟に常に入院できる状況にするのが、われわれの責務である」と述べた。
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この日の会見はオンライン形式で実施され、「第8回慢性期リハビリテーション学会」の中尾一久学会長(医療法人久英会理事長)が主なプログラムの内容などを紹介した。同学会は2月4・5日の2日間、福岡国際会議場からライブ配信する。
同日の会見要旨は以下のとおり。会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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非常に逼塞している
[司会:矢野諭副会長]
ただいまより、本年最初の定例記者会見を開催する。
[武久洋三会長]
おめでたい正月だが日本の状況は決しておめでたくないので、のんびりとお正月を過ごせなかったと思う。
本日、今年最初の常任理事会を開いた。それを踏まえ、3つの項目について述べたい。
1.新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う後方病院としてのポストコロナ患者の受け入れについて
2.新型コロナウイルス感染症に対する一般病床以外での治療について
3.第8回慢性期リハビリテーション学会<オンライン開催>のご案内
まず1について、資料の3ページをご覧いただきたい。これは昨年に厚労省から出された診療の手引きで、「退院基準」が示されている。
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それによると、発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合は退院可能とする。また、症状軽快後24時間経過した後、PCR検査または抗原定量検査で24時間以上をあけ、2回の陰性を確認できれば退院可能とする。
しかし現在、病院が非常に逼塞してきて、このような余裕をもって対応しているコロナ対応病院ばかりではない。
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医療が崩壊しないように協力
昨年12月、日慢協の会員病院に後方病院としての協力を要請した。
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日慢協は慢性期医療を主に担う病院や施設の団体なので、PCR陰性となった患者さん、いわゆるポストコロナを積極的に受け入れて日常生活に戻してあげる責務があると考えている。これにより、医療が崩壊することにならないように協力したい。
それぞれのコロナ専用病棟が逼迫している現状がある。さらに、陽性になってもなかなか病院に入れない地域もある。こうした状況に鑑み、われわれ日本慢性期医療協会としては、陰性になった患者さんを積極的に受け入れたいと考えている。
急性期病院にいつまでも入院するのではなく、陰性になったら慢性期病院が積極的に引き受けるようにすれば、コロナ専用病棟が新しい患者さんを受け入れることができる。コロナ専用病棟に常に入院できる状況にするのが、われわれの責務である。
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地域の慢性期多機能病院が受け入れ
ポストコロナ患者の受け入れ状況について、当会の役員病院を対象に緊急調査を実施した。それによると、回答した42病院のうち、受け入れているのはその半分で22施設だった。
受け入れた患者数は、昨年10月から今年1月にかけて増えている。年齢は平均80歳で、55歳から99歳までの患者を受け入れている。
受け入れ病棟は、回復期リハ病棟が最も多く(11病院)、次いで療養病棟1(6病院)、地域包括ケア病棟(4病院)などの順となっている。
入院時のPCR検査で陽性だったのは1.3%、陰性は6.7%で、検査していない人が92.0%と多くを占めた。
慢性期病院に転院するまでの急性期病院での入院日数は平均59日で、最短は9日、最長は301日だった。継続入院中が約8割を占め、すでに在宅復帰している方は1割程度だった。
このような状況の中で、当会の会員病院もコロナに無関心でいられるはずはない。特に、東京をはじめとして非常に患者さんの多い地域では、必然的に地域の慢性期多機能病院が受け入れている。
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急性期病院で重症化したのでは
新型コロナウイルスに感染してECMOを装着していた重症患者が意識消失していた状態から快方に向かったというニュースを見た。
しかし、体重は20㎏も減っていたという。私はそれを見た時、「これはちょっと問題だな」と思った。1カ月で20㎏も減るということは、2日で1.5㎏近く減るということである。大変な状況が急性期病院で起こっていると推察した。
急性期病院では、命を守るための治療が最優先に行われるが、現時点では新型コロナウイルス感染症の特効薬はない。そのため、急性期病院の入院中に、高齢者のほとんどが筋力低下や低栄養などを起こす。
一部の公立・公的な急性期病院では、投与される栄養や水分が不十分だったのではないか。そのために重症化したのではないか。そう思えるような症例も散見される。
発熱して39度まで上がると必要カロリーや水分量は倍になる。水分と栄養が十分に足りていなければ、当然のことながら抵抗力や免疫力が落ちて肺炎になりやすくなる。
高齢者や基礎疾患を持つ患者は重症化しやすい。特効薬のない現状では、患者自身の抵抗力と免疫力を高めて、自力で新型コロナウイルスに打ち勝たなければいけない。そのために、まずは十分な栄養や水分の補給が必須である。
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慢性期の医師は高齢者の治療に熟練
コロナによる高齢者の死亡率は高い。慢性期医療の現場の医師は高齢者の治療に熟練している。慢性期医療の病院は医療区分2・3の重症患者が9割以上を占めている所がほとんどであり、多くの重症患者を治療している。
そのため、人工呼吸器を使用するような重症患者であっても、慢性期の多機能病院で受け入れることができる。筋力低下に対するリハビリテーションを提供するとともに低栄養や脱水を改善し、早期の在宅復帰を目指すべきである。
新型コロナウイルスは10日から3週間程度で陰性化することが多い。そうした陰性の患者を公的な急性期病院から地域の慢性期多機能病院が速やかに受け入れる。そうすれば、細菌性肺炎を合併するようなリスクを防ぐこともできて、改善する場合も多いだろう。
十分な栄養と水分を投与し、リハビリテーションを行いながら 新型コロナウイルスに立ち向かわなければならない。
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一般・療養で算定範囲が異なる
今後、要介護者らが新型コロナに罹患し、ある程度の軽症である場合は、 慢性期病院で診るケースが増えると思われる。そこで、厚生労働省保険局医療課と調整した結果、とりあえず現段階での対策として、診療報酬上の取扱いが示された。
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それによると、一般病床の施設を利用して受け入れる場合には、現在の入院料の届出のままで臨時的な加算等の算定対象となるが、特定入院料の病床の場合には全てを算定できるわけではない。一般病床と療養病床で算定範囲が異なる。
このため、療養病床の施設を利用して受け入れる場合には、人員配置を見直して医療法上の病床種別を一般病床へ変更できるかを検討するよう当会の会員に伝えた。
しかし、医療提供体制が逼迫している緊急事態時に、療養病床から一般病床へ変更を求めるのはおかしいのではないか。
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慢性期病棟での治療の評価を
かつて、一般病床と療養病床は「その他の病床」として同じ病床区分になっていた。
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現在、コロナ患者は病床種別に関係なく、一般病床でも療養病床でも発生している。コロナ専用病棟ですぐに受け入れてもらえず、慢性期病院の療養病床などで引き続き入院することを余儀なくされる場合も増えている。
こうした中、いわゆる慢性期治療病棟では医療区分2・3状態の患者が80%以上を占め、これらの重症患者に対する医療を毎日提供している。高齢者の治療に熟知した医師による慢性期病棟での治療が評価されるべきではないか。
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そんなバカなことはない
15ページをご覧いただきたい。とにかく一般病床でないと駄目だということだったが、そんなバカなことはないだろう。一般病床がまともな病床で、療養病床はそうでないなんて、そんなことはありえない。
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療養病棟入院基本料1では、重症度、医療・看護必要度で状態像の重い患者割合も非常に高い。そのような病棟を現実に運営している慢性期病院では、コロナの陽性患者さんを引き受けたり、また、陰性になった後のフォローを引き受けたりすることが非常に多くなってきている。
1月13日の事務連絡では、都道府県から受け入れ病床として割り当てられた療養病床にコロナ患者を入院させた場合、一般病床とみなして特別入院基本料を算定することとして「差し支えない」としている。
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多機能病院としての社会的使命
日本慢性期医療協会の会員病院は、ポストコロナ患者を積極的に受け入れるよう努力している。結果的に、陽性患者を診る場合も当然ながらある。
一方、公立・公的な急性期病院では、コロナ患者を受け入れていない病院も少なくない。そういう病院は、急性期治療病院として、どんどんコロナ患者を受け入れていただきたい。
2週間から3週間でPCR検査が陰性になる患者は感染を伝播する可能性が非常に低い。リハビリをきちんと提供し、栄養や水分を十分に取っていただく。当会会員のような慢性期の多機能病院がお引き受けすることは社会的使命だと考えているので、ぜひ、そのように頑張っていきたいと思う。私からは以上である。
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第8回慢性期リハビリテーション学会について
[中尾一久学会長(医療法人久英会理事長)]
2月4・5日の2日間にわたり第8回慢性期リハビリテーション学会を開催する。当初は福岡国際会議場で開催する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、ライブ配信とする。オンラインで視聴できる。
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ライブ収録は福岡国際会議場で実施し、リモートでリアルタイムの参加もできるようにした。学会への参加申込みは施設単位が基本だが、個人での参加も可能。現在、約230施設、個人では46名が参加登録をされている。
参加申込みはまだ受け付けているが、申し込みが遅れた場合は、ライブ配信ではなくアーカイブのご視聴になることをご了承いただきたい。
今学会のテーマは「リハビリテーションの真価を問う」、副タイトルは「多職種連携を再考する」とした。COVID-19の感染拡大の中で、リハビリテーションはどうあるべきなのか。また、どのような多職種連携が理想的なのか、皆さんと議論したい。
プログラムをご紹介したい。
基調講演は「コロナ禍:今こそ地域リハビリテーションの真価が問われる ~多職種協働とリハマインドの追求~」と題して、栗原正紀先生(長崎リハビリテーション病院理事長)にご講演いただく。
招待講演は「コロナ禍の地域医療構想と地域包括ケア」をテーマに、松田晋哉先生(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)にご講演いただき、特別講演では、「外国人労働者の必要性」や「令和3年度介護報酬改定」を予定している。
シンポジウムは、「withコロナafterコロナ時代で我々はどのようにしてリハビリテーションを提供していくのか? ~多職種連携の再考~」、「コロナ禍の介護報酬改定を目前にしての話題」の2つをテーマに議論していただき、スポンサーセミナーでは「コロナ禍の摂食嚥下の在り方」をテーマにご講演いただく。
一般演題は、さまざまな分野から約250演題が集まっている。これらのプログラムはライブ配信とあわせアーカイブ配信もされるので、何度でもご覧いただける。
本来であれば福岡・博多にお越しいただき、九州をご堪能いただきたいのだが、このコロナ禍であるので致し方ない。「リハビリテーション with コロナ」で、コロナを吹っ飛ばすような勢いで熱く語り合うことができればと考えている。皆さま方のWEB参加を心からお待ち申し上げる。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年1月15日