「2020年行動提言」を発表 ── 2020年6月24日の定例会見

会長メッセージ 協会の活動等 役員メッセージ

武久洋三会長_2020624記者会見

 日本慢性期医療協会は6月24日、定例記者会見をオンライン形式で開催し、「2020年行動提言」を発表した。武久会長は「人の一生をいかに有意義に過ごして送れるかは、今や急性期医療だけではなく、その後の適切な対応が不可欠な要素となっている。私たちは、国民が全て楽しく健康な老後を過ごせるように努力する」と抱負を語った。

 この日の会見は、2年に1度の役員改選のある総会後に開かれた。会見の冒頭で池端幸彦副会長は、武久会長が引き続き会長を務めることを全会一致で承認したことを報告した。

 また、新たな常任理事に茨城県医師会の鈴木邦彦会長が就任したことを伝え、「日慢協でもぜひご活躍いただきたい」と期待を込めた。

 続いて武久会長が「あと1期だけ、お手伝いさせていただく。最終の務めになると思う」とあいさつした上で、10項目にわたる「2020年行動提言」を発表した。
.

「2020年行動提言」_200624記者会見 資料

.
会見の模様は以下のとおり。
.

鈴木邦彦先生に日慢協でもご活躍を

[池端幸彦副会長]
 ただいまから日本慢性期医療協会・定例記者会見6月度を開催したい。今回はこのような形式でWEB記者会見となった。
 
 本日、日本慢性期医療協会の総会が行われた。そのご報告の後、武久会長からのご挨拶と、そして会見の内容をお話しさせていただく。

 まず、私から本日の定時総会の内容について、ご報告をさせていただく。本日は2年に1度の役員改選のある総会であった。退任理事6名、新任理事4名を全会一致で承認した。

 また、理事の互選になっている次の会長候補については、武久洋三先生にもう1期、お願いすることが全会一致で承認された。

 それを受け、武久会長から副会長5名、常任理事17名のご指名をいただき、全会一致で承認された。

 副会長は、現在の副会長5名の留任となった。常任理事については、退任した1名に代わり、新たに鈴木邦彦理事が常任理事にご就任された。

 ご承知のとおり、鈴木邦彦先生はつい先日、茨城県医師会の会長にご就任された。当会は、鈴木先生が日本医師会の常任理事を務めておられる頃から非常にお世話になっている。日慢協でもぜひご活躍いただきたいということで、このたび常任理事にご就任いただいた。

 以上、役員の選任についてご報告を申し上げた。

 続いて、武久会長から就任のご挨拶と、当会の「2020年行動提言」などについて、ご説明を申し上げる。
.

あと1期、最終の務めになる

[武久洋三会長]

 新型コロナウイルス感染症などで大変な時期にもかかわらず、多くの方々にご参加いただき、深く感謝を申し上げる。しばらくの間、当会では理事会を開催できなかった。

 6月は役員改選の時期である。コロナ禍の大混乱の時に、引き続き会長を務めさせていただく重責を感じている。役員の皆さま方の互選により、私がもうあと1期だけ、お手伝いさせていただく。

 このような状況ではあるが、あと2年間、どのような形になるかは別として病院を取り巻く環境が非常に厳しくなっていく。若い役員の方にぜひ、どんどんと前に出てきていただいて、いろんな事業をやっていただきたいと思う。私は今回、最終の務めになると思うが、会長職をお引き受けした。

 2018年に、「行動宣言」を出させていただいた。本日は、「2020年行動提言」として、10項目をお示しして、ご批判を仰ぎたい。この提言は、先ほどの理事会で全員の了承を得ている。
.

「2020年行動提言」_200624記者会見 資料

.

国民が全て楽しく健康な老後を

 慢性期医療の範囲の拡大と重要性が年々、高まっている。人の一生をいかに有意義に過ごして送れるかは、今や急性期医療だけではなく、その後の適切な対応が不可欠な要素となっている。私たちは、国民が全て楽しく健康な老後を過ごせるように努力することを誓う。

 「2020年行動提言」の1番について。慢性期医療を徹底し、患者の日常生活復帰を高める。できるだけ早く、適切な治療を行って早く返してあげる。これを一番に考えなければいけないと思う。

 2番目は、「在宅医療の質的、量的供給の徹底」である。やはり、その人が住んでいる状況にできるだけ早く返してあげる。そのためには、病院も患者も在宅生活が順調に過ごせるようにサポートを徹底しなければいけない。

 3番目は、「治療による回復が困難な患者への適切な対応」である。ここでは、あえて「ACP」や「終末期」という言葉を使っていない。

 医師の中には、特に臓器別専門医の場合には、90歳や95歳の患者さんについて、「もう、いいじゃないか」という対応をする先生もおられるが、私たちは患者さん1人ひとりの命と生活をきちんと元に戻してあげたいと思っている。

 私たちは、患者さんの回復のために一生懸命に努力するが、それが功を奏しない場合には、潔く安らかな最期を迎えていただけるような場を提供しなければいけないと思っている。
.

要介護者が出ないように

 4番目は、急性期病院の現場へのお願いである。「急性期の入院短縮化と急性期病棟への基準介護、基準リハビリ制度の導入」を挙げた。

 急性期の現場でも高齢者の患者は約75%となっているので、高齢者の急増に十分対応できていない。昨年、身体拘束をめぐる問題がNHKの「クローズアップ現代+」で特集された。身体拘束などをしないと、夜間に高齢者への対応が十分にできないという。

 高齢者が非常に多くなっている。看護だけではなく、介護職員やリハビリスタッフが急性期病院の病棟の中に入って、治療だけでなく介護やリハビリテーションを行う必要がある。そうすることで、より早く日常生活に戻れるようにする。要介護を生み出している急性期医療の現場から、できるだけ要介護者が出ないようにすべきである。

 5番目は、「慢性期救急への迅速な対応」である。慢性期的な状況であっても、高齢者は病状が急に悪化する場合がある。私たちが診ている患者の容態が急変した時には、まず慢性期医療の現場で適切に対応し、手術や特殊な処置が必要な場合は急性期病院にお願いするが、慢性期の急変は私たちがきちんと対応すべきであると考えている。
.

現在の医療区分制度は不適切

 6番目は、「慢性期DPC制度の導入(医療区分の廃止)」である。現在の医療区分制度は医学的根拠がないものもあり、不適切である。

 急性期医療がDPCで行われている現在、そのフォローをする慢性期もそのDPC制度の中に組み込まれるべきである。慢性期的な因子をDPCの中に入れることによって、在宅から急性期へ、そこから慢性期、また在宅へと、1人の患者さんの病気の経過において全てを同じような方式で対応することによって有意義な統計ができると思っている。

 7番目は、「慢性期医療へさらなるICTの導入促進」である。若者がどんどん減っている。出産も減っている。この先も、20年以上は高齢者がどんどん増える。少ないスタッフで効率の良い医療を提供するため、慢性期医療にICTが必要である。

 特に、病状の観察や記録については、ぜひ日慢協も中心となってICT化を徹底して、われわれの病院に導入したいと思っている。
.

診療所や介護施設と連携を深める

 8番目は、「生涯リハビリテーションの推進」である。リハビリテーションは、急性期から回復期、慢性期、それから在宅においても必ず必要な技術となっている。

 リハビリテーションは回復期にのみ必要なのではない。生まれてから死亡するまで、人間は動いていなければいけない。人間らしく動けるようにするリハビリテーションが生涯にわたって必要である。このような概念の下、さらに推進していきたいと思っている。

 9番目は、「地域における診療所や介護施設との連携強化」である。病状が重くない患者は入院するべきではないと思っている。病状が悪くても、病状が良くなればできるだけ在宅、もしくは暮らしやすい施設に住めるようにする。そのために、近隣の診療所の先生や介護施設との連携を深め、病院としてできることは最低限、地域の中で協力するという姿勢を果たしたい。

 10番目は、「総合診療医と特定看護師の育成と研修」である。慢性期の患者さんに対しては臓器別専門医というよりは、むしろ総合的に診ることができる総合診療医、さらには特に教育を受けた特定看護師の存在が必須と思われる。従って、総合診療医と特定看護師の育成と研修に日慢協は努力したいと思う。

 以上が2020年の行動提言である。
.

「慢性期型地域多機能病院」として

 次に、新型コロナ患者に対する日本慢性期医療協会のスタンスについて、改めてここで示したい。

 新型コロナに罹ると、80歳以上の高齢者の死亡率は20%と言われているが、逆に言えば80%の人は助かるということである。

 しかし、その状態で1カ月以上も入院していると、ほとんどが要介護者になるのではないか。新型コロナウイルスへの対応は命を助けることが最優先であり、寝たきりになって要介護状態になることを防ぐような余裕は急性期医療には十分にないと思われる。

 重症患者が多い慢性期病棟では、他の入院患者への感染リスクを考えると、新型コロナ陽性患者を積極的に受け入れるということは大変厳しい。

 しかし、第2波、第3波がやってきて患者が急増すれば、「慢性期型地域多機能病院」としての責任を果たさなければならない。

 発熱者専用外来スペースを設け、検査を行い、適切な診療を行わなければならない。

 そして、専門病院での治療を終えた新型コロナ患者も受け入れ、積極的なリハビリテーションを行い、在宅復帰に向けたサポートを行っていかなければならない。

 治療後の患者の積極的な受け入れというものが今、十分になされていない。非常に困った状況になることを何とかして防ぎたいと思っている。

 以上が本日の発表である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »