「働きながら学べる准看コースを全国各地に」── 5月12日の会見で武久会長

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512記者会見

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は5月12日の定例記者会見で、看護人材の確保策を中心に述べ、働きながら学べる准看コースを全国各地に整備する必要性を訴えました。武久会長は「准看や専門学校を廃し、すべてを大学教育化するのは現実的ではない」と指摘、「できれば外国の人に頼らずに、日本の高齢者は日本人で支えたい」と強調しました。
 
 会見で武久会長は、「看護教育の大学化には賛成」としながらも、少子化や人口減少の流れの中で、「看護大学をつくったけれど、応募者が少ないという実感は、いまはまだないかもしれないが、10年後には必ずやそうなる」と予想。民間企業で働く人たちが医療・看護・介護の分野に転向することも視野に入れながら、「日本慢性期医療協会では全国的に夜間の准看コースを整備するよう支援していきたい」との意向を示しました。

 同日の会見には、日慢協の池端幸彦副会長も出席。「慢性期DPC検討委員会」を同日付で発足したことを伝えました。池端副会長は、現行の医療区分について「今日ではさまざまな点で実態に合わなくなってきている」と指摘。「医療区分の抜本的な見直しも視野に入れながら、『慢性期DPC』を積極的に提案するためのデータを年内にまとめたい」と述べ、「慢性期病態別診療報酬試案」を参考にしつつ抜本的な改訂に向けて意欲を示しました。

 以下、同日の会見要旨をお伝えいたします。
 会見資料は、http://jamcf.jp/chairman/2016/chairman160512.htmlをご覧ください。
 

■ 准看を廃止してすべて大学化、「現実的ではない」
 
[武久洋三会長]
 先月の定例会見では医療・介護人材の確保をめぐる諸問題について見解を述べた。本日は、前回の会見でお話しした内容をさらに一歩進めて、具体的な提案を申し上げたい。

 近年、一般産業はどんどん省人化し、ITなどの活用による効率化が進んでいる。ところが医療産業は、「人的集中産業」である。従って、機械化やIT化がなかなか進みにくいという課題がある。こうした中で、いかに医療の効率化を進めながら、超高齢社会を支える人材を養成していくか。

 例えば、看護職員について考えてみる。現在、看護教育の大学化や看護の専門分化が進んでいる。私は看護教育の大学化には賛成である。看護師のレベルがさらに向上し、看護の質が高まることは歓迎すべきである。しかし、その一方で准看や専門学校を廃し、すべてを大学教育化するのは現実的ではない。看護大学に進学する者の多くは、現役の高校卒業生である。今後、少子化がこのまま続けば彼らの数が急激に減少していく。これをどのように想定していくのか。

 4ページをご覧いただきたい。看護師や介護福祉士など、コメディカルスタッフの年間合格者数を示した。

160512記者会見資料_ページ_05
 
 今年の看護師国家試験の合格者数は5万5,585人で、このうち大卒は1万7,399人。これに対し、准看護師試験の合格者数は1万7,236人。すなわち、大卒の看護師と准看護師の数はほぼ同じである。介護福祉士が8万8,300人で、合計16万1,121人。これ以外に、新人の介護職員が約10万人いる。これらを合計すると、看護・介護人材は1年間に合計約26万人になる。

 さらに、薬剤師や臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師などのコメディカルスタッフは合計6万6,229人。このうち女子が5万人近くを占める。このように考えると、医療・介護の世界では、1年間に約30万人が誕生していると言える。

 2035年には、昨年生まれた人たちが進学するので約100万人である。このうち約50万人が女子であるとすると、看護や介護の分野だけで約26万人、さらにコメディカルの女性分を加えるとなんと約30万人が医療職となるのだろうか。これはあり得ない試算である。すなわち、いわゆる「元気中高年」の転向組に医療・看護・介護に参入してもらわないとどうにもならないことが全く分かっていないのではないか。
 

■ 働きながら学べる夜間の准看学校を

 塩崎恭久厚生労働相もおっしゃっていたように、できれば外国の人に頼らないで、日本の高齢者は日本人で支えたい。私もそう思うが、8ページをご覧いただきたい。

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 55歳から75歳までの現在の人口は約3,500万人である。現在、30歳は145万人しかいないが、65歳は220万人もいる。55歳から75歳までの人口約3,500万人の10%で350万人、1%で35万人だから、3,500万人の1%、100人に1人が看護や介護の仕事に転向してくれれば、2025年問題はすぐにクリアできる。子育てを終えた主婦や、大企業をリストラされた人たちが、20代がやるような産業の先端に入っていけるかというと、なかなか厳しいのではないか。

 「転向組」としてはやはり、「人のためになるような仕事をしたい」という気持ちもあると思う。こうした人たちが、われわれの仲間に入りやすいようなコースをつくってあげなければいけない。そう考えると、「昼は働きながら夜間の2年間」という准看コースが必須となる。働きながら学べる夜間の准看学校をどんどん増設すべきである。

 現在、都道府県は文部科学省と日本看護協会の意向に沿って、准看護師をどんどん廃止している。准看護師の専門学校を大学にする方向に一斉に動いている。しかし、これは時代の流れに逆行している。途中で転向した人たちは看護大学にはなかなか行かない。

 シャープや東芝などの突然の人員整理はこれからも起こり得る。優秀な方々が転向する可能性がある。現在でも、大卒の優秀な方々がたくさん看護学校に来ている。大学の卒業者をさらに看護大学に行かせるつもりなのだろうか。

 ところが、看護の世界というのは階級社会であって、准看はことさらに蔑視されているように思う。准看護師は肩身の狭い思いをしているが、果たしてこれでいいのか。ひょっとしたら東大出身の准看学生が誕生するかもしれない。そうしたときに正看護師たちは、「准看護師は私たちよりもレベルが低い」と言えるのだろうか? 

 有名大学の出身者は基礎学力があるので、看護の分野に転向したらどんどん勉強する。吸収力も非常に早い。このような考え方に基づいて、私たちは「働きながら学べる夜間の准看学校をどんどん増設すべき」と考えている。

 ただし、このような准看コースは、急増する高齢者への対応に資するためのものであってほしい。例えば、産婦人科や小児科などの看護ではなく、高齢者看護を中心に、病院や施設、在宅に行っていただくと非常に助かる。そうすれば、外国からの看護師や介護士にそれほど頼らなくても日本で独自に乗り切れるのではないか。2040年まで増え続ける後期高齢者への対応問題をクリアできるのではないかと思っている。従って、ぜひ全国各地に夜間の准看護師のコースをつくるように方針転換してほしい。
 

■ 看護確保に国費を投入、基金を看護教育に充てることも

 先日、こうした考えを厚生労働省医政局の幹部に提案したところ、大いに評価を得た。「それはいい考えだ」という反応であった。

 都道府県では現在の流れに乗って、准看護師を廃止して高度な看護師を養成していくことに終始しているが、日本慢性期医療協会では全国的に夜間の准看コースを整備するよう支援していきたい。この方針は、先ほど当協会の理事会でも正式に了承していただいた。

 ただし、准看学校の夜間コースだけを特別につくるのは非常にコストが掛かるので、昼間の看護専門学校を運営している所に夜間の准看コースを新設するということにすれば、新たな建築費が要らなくて済む。同じ教室を昼と夜に使えるという利便性もある。ぜひ、こういうことを考えていかないといけない。

 「看護大学をつくったけれど、応募者が少ない」。そんな実感は、いまはまだないかもしれないが、10年後には必ずやそうなるだろう。その頃、われわれはもういないかもしれないが、10年後、20年後は切実な問題になることが確定的に推測できる。従って、いまから準備しなくてはいけない。

 ご承知のように、1人の医師をつくるために、国は約1億円を費やしている。いざ足下に火が付いてきたら、看護師を確保するために国は国費を投入するだろう。また、地域医療介護総合確保基金もある。この基金を看護教育に充てることも十分に考えられる。

 従って、「働きながら学べる准看コース」をぜひ各地につくっていただきたい。そうすれば、今後の超高齢社会を必ず乗り切ることができる。ということで本日は、「働きながら学べる准看コース」の整備を提案したい。
 

■ 同時改定を視野に、「慢性期DPCの検討委員会」が発足

 もう1つ、皆さんにお伝えしたいことは、慢性期DPCについて。本日、当協会の新たな委員会として「慢性期DPCの検討委員会」が発足した。DPCデータの提出が地域包括ケア病棟や回復期リハ、慢性期病棟にも求められている。当協会の会員病院をはじめ、療養病床を持つ多くの病院がDPCデータを提出するようになっている。現在、約700病院がDPCデータを提出している。

 今後、急性期病院と慢性期病院が同じ疾病群分類でデータを提出するようになると、急性期と慢性期のデータを継続的に集積することができるだろう。そこで日慢協では、平成30年度の同時改定も視野に入れながら、慢性期DPCの検討委員会をつくった。これについて、池端副会長からご説明させていただく。
 

■「慢性期DPC」を提案するためのデータを年内に
 
[池端幸彦副会長]
池端副会長20160512 本日付で、「慢性期DPC検討委員会」を当協会内に新設し、本日午前に第1回の委員会を開催した。
 
 当協会は以前から「慢性期DPC」を提唱している。平成18年7月にADL区分・医療区分が導入されてから、もう10年になる。この医療区分等に対して、当協会の会員をはじめ療養病床を持つ多くの病院が鋭意努力してきたが、医療必要度に合わせた包括報酬の医療区分と言いながら、実際は処置区分の意味合いが強く、今日ではさまざまな点で実態に合わなくなってきている。

 そうした中で、私たちは「慢性期病院に適応するような別の報酬体系が考えられないだろうか」との問題意識を抱き、平成24年に「慢性期病態別診療報酬試案」を発表した。このたび、それを参考にしつつ、本格的な「慢性期DPC」の検討を進めたいと考えている。平成30年度の同時改定に向け、医療区分の抜本的な見直しも視野に入れながら、「慢性期DPC」を積極的に提案するためのデータを年内にまとめたい。先ほどの理事会で承認を頂いた。

 中医協の「入院医療等の調査・評価分科会」が6月から再開される。今改定に向けた分科会では、私から「医療区分の抜本的な見直しを」と提案させていただき、厚労省の医療課長から「今回は間に合わないが、次回は考えていきたい」とのコメントを頂戴した。

 ただ、次回改定までの2年間でまとめるのはなかなか大変な作業である。そこで、われわれ慢性期医療に取り組む団体がまずデータづくりをして、何らかの試案を提案したいと思っている。これからの半年間は集中的に取り組みたい。

 具体的にはいろいろな課題があり、今後さらに議論を深めていきたいが、「急性期」と「慢性期」との間で報酬の仕組み上はあまり差を付けないようにしたいと考えている。急性期のDPCから自然な形で慢性期に移行していけるような制度がいいのではないかと思っている。検討委員会には、この制度に詳しい外部の学識経験者にも参加していただく予定である。
 

■「提案型」の協会運営を今後も続けていく
 
[武久会長]
 6月30日に日慢協の総会を開催する。そこで慢性期DPC検討委員会の進捗状況についても報告したい。

 次回の改定は診療報酬と介護報酬の同時改定であるので、厚労省の医療・介護担当者は非常に忙しい。慢性期DPCのような試案を新たにつくるのは難しい状況にあると思うので、われわれから「このようなものはどうですか?」と提案したい。医療区分との整合性を図った上で、調査結果として提出したい。

 その結果、慢性期DPCが導入されるかどうかは別として、「提案型」の協会運営を今後も続けていきたいと思っている。皆さま方のご協力も頂戴したいと思うので、引き続きよろしくお願い申し上げる。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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