「治療可能な認知症? 最新のトピックから」── 第26回学会シンポ2

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01_鹿児島学会シンポジウム2

 「超少子・高齢社会 ~慢性期医療からの提言~」をメインテーマに、平成30年10月11日・12日の2日間にわたって鹿児島市内で開催された第26 回日本慢性期医療学会では、多彩なシンポジウムが繰り広げられた。1日目のシンポジウム2は、「治療可能な認知症? 最新のトピックから」と題して開かれ、認知症治療に精通している当協会の常任理事2人が座長を務めた。シンポジストとして脳神経外科医と精神科医の2人が参加し、てんかんと認知症との鑑別や治療方法などについて最新の知見を伝えた。
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 【座長&シンポジスト】
  熊谷賴佳 (京浜病院 院長)
  田中志子 (内田病院 理事長)

 【シンポジスト】
  久保田有一 (MGあさか医療センター 脳卒中・てんかんセンター長)
  渡辺 裕貴 (天久台病院 精神科医師) 

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 本シンポジウムでは、最初に田中志子座長(内田病院理事長、日慢協常任理事)と、熊谷賴佳座長(京浜病院院長、日慢協常任理事)が症例を提示。これを受け、久保田有一氏(TMG あさか医療センター脳卒中・てんかんセンター長)が「高齢者てんかん:知られざる真実」と題して講演。1週間以上にわたるビデオ脳波検査などによって改善に導いたケースなどを紹介した。続いて渡辺裕貴氏(天久台病院精神科医師)は、てんかんと認知症を合併しているケースが少なくないことを指摘。家庭用防犯カメラで常時撮影する方法などを提案し、「てんかん発作はビデオを見れば即座に分かるので、これで診断上の疑義をなくす」と伝えた。

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最近のトピック、「みんなで一緒に考えたい」

[田中志子座長(内田病院理事長、日慢協常任理事)]
 高齢者てんかんは、いわゆるけいれん発作とされるてんかん発作ばかりではなく、発作中に開眼していて声をかけても反応がなく、ボーっとしているように見えることや、発作後ももうろうとしていること、また普段と違った行動をとることなどから認知症と誤診されることが多いといわれている。

 本シンポジウムでは、高齢者てんかんに造詣が深い、TMG あさか医療センター脳外科部長で、脳卒中・てんかんセンター長の久保田有一先生と、天久台病院の精神科医師である渡辺裕貴先生のお二人のご講演を拝聴し、本協会からも症例を提示しながら、みんなで一緒に高齢者てんかんについて学びたい。てんかんは最近、大変ホットなトピックである。初めに私からイントロダクションとして自身が経験をした例について、症例を提示して導入していきたい。

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レビー小体型認知症で他院から紹介された

 80歳の男性。平成30 年2月、夕食後に急に左下腿が動かなくなり、A病院に救急搬送された。そこで右側の脳梗塞と診断され、保存療法を受けた。その後の3月、Bリハビリテーション病院に転院した。入院当日、夜間からせん妄様の状態があったが、日中はリハビリができたという。

 B病院に入院して5日後、日中にも空中をつかむような動作が出現し、「扉があるんだよ」などの幻視を疑わせる言動が見られたようだ。同20 日後、朝より、間欠的に両下肢にミオクローヌスのような発作があり脳波検査を受けたが、筋収縮にて判断困難であった。

 また発作が治まった際の再検査時にははっきりした異常がなかった。てんかん発作というよりは、何か見えているものに反応しているようだった。認知機能の低下や起立性低血圧による失神が頻回だということで、経過ならびに認知症の幻視疑い、起立性低血圧、便秘などの自律神経障害を認めて、レビー小体型認知症ではないだろうかということで、当院に紹介となった。

 当院の初診で、主訴はめまいがするということ。本人は会話ができて、「意識がなくなるみたい」とおっしゃっていた。他覚的所見としては低血圧、そして大きな身体的な異常はなく、指タッピングはやや遅延して、山口の輪、キツネ、逆さキツネ、ハトの模倣は遂行できず、ハトの失敗は握手型。手首の固縮は中等度でバレー兆候は陰性だった。

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てんかんを疑い、ポリファーマシーも改善

 この患者さんは、てんかん発作中ではないかと思うようなボーっとしたような状態も見られた。画像所見では、MRI の検査中に体動があり、検査はその日は遂行できなかった。臨床心理検査中にけいれん発作があり、検査を中止したところで、心理士も「てんかんじゃないかな?」と考えたケースである。

 初診時に、紹介元に宛てて次のように返事を書いた。

 「視空間認知機能の低下が疑われ、低血圧、便秘・立ちくらみを伴う幻視、日差変動も本人が自覚していて、レビー小体型認知症は確かに疑わしいでしょう。頻繁なけいれん発作、ミオクローヌス、脳派検査では陽性所見がなかったものの、高齢者の所見ははっきりしにくいともいわれているので、高齢発症のてんかんの可能性もあるのかもしれません。ポリファーマシーの改善も必要でしょう。投薬内容をシンプルにしたいと思います。最終的には、自宅近くの施設に退院できるように介護保険の見直しをして、退院に向けて進めたいと思います」

 入院時は9剤を内服していた。入院中に症状を見ながら5剤まで減薬した。抗てんかん薬を処方した後は、症状がなくなり、退院になった。

 考察すると、レビー小体型認知症では、主症状に意識レベルの変動があり、同様の症状を見せる複雑部分発作とよく似ている。レビー小体型認知症で見られるレム睡眠行動障害も、側頭葉てんかんの夜間の症状によく似ているので、鑑別の必要な疾患として常に高齢者てんかんを頭に置いておく必要があると感じた。本症例では実際に上記を痛感したので、本セッション導入の症例として皆さんにご紹介した。

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「よく分からない」と他院から紹介された

[熊谷賴佳座長(京浜病院院長、日慢協常任理事)]
 続いて、私から3つの症例を提示したい。1例目は52 歳女性。「どきどきする」という症状で循環器内科に行き、不整脈といわれて薬を処方されたが改善しなかった。婦人科に行ったが、特に更年期の症状もない。

 やがて、よく食べているのに痩せてきた、夕暮れになると寂しくなる。「うつ病かな?」と思ったが、特に不安は感じなかったらしい。でも、どきどきするという。相手の声が聞こえなくなる。手が震える。甲状腺機能だろうか。たまに涙目になったり充血したり、顔が真っ青になったりする。焦点を1点に見据えて目を見開いている。意識はあるように見えるが言葉が出ない、話しかけに返答しない。

 このような症状で、いろいろな医療機関に行ったが「よく分からない」ということで、当院に紹介された。ホルモン検査等で、何の異常も見付からなかった。しかし、CT で右の側頭葉内に異常なmassを認めた。MRI により、海綿状血管腫という脳腫瘍が見つかって、これによる症状だということが分かった。

 複雑部分発作(欠神発作)、側頭葉てんかんによる自動症であろうということで抗てんかん薬を開始したところ、症状はすべてなくなり、2年前とほぼ同様の状態で元気に働いている。最初は若年性認知症の始まりかと心配した症例である。

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BPSDと勘違いして見落としていないか

 2例目は、他院で若年性認知症の診断がついて抗認知症薬を投与されていたが、1年半経っても一向に認知機能は改善しなかったケースである。脳波検査をしたところ、側頭葉にたまたまスパイクが見つかった。側頭葉てんかんという診断がついて、抗てんかん薬を始めたところ劇的に改善して治った。現在は、以前と同じように第一線で、社長としてバリバリ働いている。

 3例目は、レビー小体型認知症の78 歳女性。外来通院中に脱水と肺炎を起こし入院した。退院後、徘徊、せん妄などの症状が出現したということで、ご主人の希望で再入院した。入院中、勝手に動き回って失神発作があり、「死にたい」と言って自殺企図がある。「帰る」と言っていきなりご主人を蹴飛ばす。非常に穏やかな優しい人だったのだが、精神的におかしい感じがしたので都立の有名な精神病院に紹介した。

 しかし、レビー小体型認知症によるBPSD だろうということで当院に戻ってきた。薬もそのまま続けたが、また同じような症状が当院で発生した。その時の様子を撮影した動画で示す。

 皆さん、どうだろうか。認知症によるBPSD、夜間せん妄、また夜間行動障害と鑑別が付くだろうか。これが複雑部分発作というてんかんである。こういう複雑部分発作の患者さんは、もしかしたら多くの介護現場や療養型の病院にいるのだが、気づかないのではないか。私たちはてんかんを認知症によるBPSD、夜間行動障害、せん妄と勘違いして見落としているのではないか。この症例も、最初は認知症のBPSD と勘違いし、また見落としかねないケースであった。

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1週間100 時間以上の「ビデオ脳波検査」で発見

[久保田有一氏(TMG あさか医療センター脳卒中・てんかんセンター長)]
 昨年、認知症学会が出した「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、初めに認知症と診断する前に除外して鑑別することを求めている。内科的疾患では代謝性疾患や内分泌系疾患、感染症など、外科的疾患では、正常圧水頭症や慢性硬膜下出血、脳腫瘍などで、これらは画像で診断できるものだが、除外すべき疾患の中に「特殊なてんかん」と書いてある。すなわち、われわれは日々の臨床現場で、「特殊なてんかん」などを除外する必要がある。

 では、この「特殊なてんかん」とは何か。高齢者のてんかんは実際にあるのか、ちょっとピンとこない部分があるかと思う。有病率は約1.2%。その原因について調べた報告によると、半分はMRI やCT で比較的明確な病変があるてんかん。残りの半分は画像検査ではっきりしない、釈然としないようなてんかんで、本日はこちらの「器質的病変が明確でないてんかん」について述べたい。

 67歳の男性。元学校の教職員で既往症は高血圧症しかなかったが、首都高速道路で2回も追突事故を起こしてしまった。本人は事故のことを全く覚えていない。ブレーキ痕は全然なく、前方に停車中の車にズドンとぶつかってしまった。近隣の神経内科を2箇所受診したが、MRI で脳波も異常なし。そのまま診断がうやむやになってしまった。高齢者てんかんに関する私の記事を読んで、来院された。

 私は当初、てんかんを全く疑っていなかったが、診断にちょっと自信がなかったので1週間入院していただき、脳波とビデオを同時に測定する「ビデオ脳波検査」をした。私はビデオを見るまでてんかんだと思わなかった。しかし、1週間100 時間以上、脳波をモニタリングして、たった1回だけ発作を見つけた。ラモトリジンを処方したところ、それから3~4年、発作がなく生活している。

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高齢者てんかん、約8割は薬で発作を止められる

 当院では、こうしたビデオ脳波モニタリングの検査で約8割はてんかんと診断できている。しかし残念ながら2割は、何もてんかん性の放電がなくて、認知症や一部不整脈という形で診断した患者さんもいる。

 このうち13 例の高齢発症てんかんについて見ると、発作頻度は人によってばらつきがある。平均は2.38 回で、前兆のない患者さんが約9割。軽妙な自動症、とんとんとか口をくちゃくちゃするような症状がある方が約6割で、ない方ももちろん多い。けいれんした方は1割だけで、ほとんどの患者さんはけいれんしないのが特徴。認知症と違って、約8割は薬によって発作を止めることができる。

 ただ、治療原則がある。てんかんは再発率が高いので、患者さんには「お薬はずっと続けて、棺おけまで持っていきなさい」と説明している。薬をやめると非常に再発しやすい。高齢者の医療の難しさは、やはり年齢に問題があると思っている。高齢になると多くの方がさまざまな病気を合併しているので、それを理解して薬をチョイスしなければいけないことにある。胃酸分泌が減少している高齢者が多いので、抗てんかん薬の吸収は遅い。ポリファーマシーの問題もある。内服薬の数が、70 歳以上で平均6剤というデータもある。さまざまな薬の相互作用に注意する必要がある。

 今後の超高齢社会において、隠れた高齢発症てんかんが増加する可能性がある。診断されれば治療反応性は非常に良い。これは高齢者の福音になるのではないかと考えている。高齢者てんかんを誰が見つけるのか。それは今日、ご参加の皆さま方であると思う。

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てんかんと認知症の合併を念頭に診断すべき

[渡辺裕貴氏(天久台病院精神科医師)]
 高齢者てんかんの特徴は、意識障害やもうろう状態が主体である。それから二次性全般化発作、いわゆるけいれんの発作の出現率は若年者より少ないと一般的にいわれている。若い人には自動症が比較的少なく、非特異的な「意識・精神・行動」の変容、つまり、ボーっとしているとか反応がにぶいとか遅いとか、目立たない地味な形をとることが多いといわれている。それから、ごくまれではあるが、意識変容状態が普通のてんかん発作のように1分や2分で終わらず、数時間から数日間あるということが指摘されている。このように長く続く意識障害の場合は認知症との鑑別が重要になってくる。

 最初に鑑別しなければいけないのは認知症。こういう意識障害、記憶、反応の鈍いものは認知症と区別しなければいけないが、現実にはてんかんと認知症を合併している人が結構多い。従って、てんかんと認知症を鑑別するというよりは、「認知症があって、てんかんもあるかもしれない」ということを念頭に診断することが大事である。これには脳波検査と記憶力検査を行うことで、てんかんだけによる記憶障害なのか、合併しているのかなどが分かる。

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家庭用防犯カメラで撮影し、診断の迷いをなくす

 夜間、寝ている間に暴れたり変なことをする「レム睡眠行動障害(RBD)」は自動症なのか区別が分かりにくい。RBD は高齢者に多い。睡眠中だけてんかん発作が起こることがあるので、睡眠中のてんかん発作との鑑別が必要になる。そのためには、睡眠時のビデオを撮る以外に方法はない。診察室で診ることはできないので、どうするかという問題がある。

 私が考案したのは、家庭用の防犯カメラで常時撮影すること。カメラの価格は1万円程度であり高くないので、自宅の寝室に設置してもらう。入院検査のようなつらさはなく、自分の家で寝ているだけなので、1カ月でも1年でもずっと撮れる。そうすると、例えば1カ月に1回しか発作がない人でもビデオに捉えることができる。日時も記録されるので、詳しいデータを得ることができる。部屋の中の問題点も分かる。どんな時に発作が起こり、危険物がどこにあるかも分かるので、実生活に合った指導もできる。

 夜間のRBD なのか、あるいはてんかん発作なのかはビデオを見ればすぐに分かる。これで、とにかく迷いをなくす。診断上の疑義をなくす。治療について、若年者のてんかんは治りやすいことが知られている。7~8割は大人になるまでに改善する。しかし、大人で発病した場合は、てんかんの治療成績があまりよくない。薬物で止まる人は、半分ぐらいか3分の2ぐらいで、6割ちょっとぐらいが目安といわれている。ただ、65 歳以上は治りやすい。85%は発作が止まるので、てんかんと診断したら積極的に治療すべきである。

 高齢者の場合は、発作が1回あると2回目の発作が出る可能性が高い。従って、発作が1回出たら、てんかんを疑う。てんかんは薬物治療によって発作が抑制される可能性が高いので、初回発作から積極的に薬物治療を開始することが望ましい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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