高齢者の窓口負担、「広い意味での国民的議論を」 ── 社保審の部会で池端副会長

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01_池端副会長_20180719医療保険部会

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は7月19日、委員に就任して初めて出席した厚生労働省の社会保障審議会(社保審)医療保険部会で、「広い意味での国民的議論をしていくことも非常に必要ではないか」と問題提起しました。75歳以上の高齢者の窓口負担を増やすよう求める意見が相次ぐ中で、「現役世代対非現役世代、受給者対被保険者という構図でとらえると、相対する原因になってしまう」と指摘し、「自分たちはどこまで負担できるのか、自分たちのことを自分たちで考える、そういう土壌をつくっていくことも必要」と述べました。

 約2カ月ぶりの開催となった同日の医療保険部会では、最初に委員の異動について報告がありました。全国知事会の福田富一氏(栃木県知事)が退任し、尾﨑正直委員(社会保障常任委員会委員長、高知県知事)が就任。また、日本看護協会からは菊池令子氏に代わって、新たに秋山智弥委員(日本看護協会副会長)が就任しました。当協会の武久洋三会長も委員を退任し、池端副会長が新委員として出席しました。

 この日の会合は、政府が6月15日に骨太方針や成長戦略などを閣議決定してから初めての開催となります。厚労省は同日の部会で、骨太方針などに盛り込まれた「保険局関係」の記述を抜粋して提示。消費税の引き上げが実施される2019年以降のスケジュール(一体改革後の展望)などについて説明しました。
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02_事務局_20180719医療保険部会

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高齢者の窓口負担の在り方、「先送りされた」との声

 質疑で、委員の意見は後期高齢者の窓口負担の在り方に集中。最初に発言した藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「中小企業の社会保険料負担は賃上げをはるかに上回るペースで増加を続けており、中小企業や子育て・現役世代の負担は限界に達している」と訴え、「さらなる給付の重点化、効率化を断行し、高齢者の応能負担割合を高めるなど、一歩進んだ、踏み込んだ改革により、足元の社会保障給付費の伸びを抑制し、子育て・現役世代に振り向けるべき」と主張しました。

 続いて、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)も「高齢者医療費に対する現役世代の負担はもうすでに限界に来ている」と声をそろえ、「高齢者の自己負担の見直しが今回の骨太方針で先送りされたかのような印象を受けるのは大変残念」と述べました。その上で佐野委員は、厚労省が示した「一体改革後の展望」に言及し、「改革工程表では今年末までにということではあるが、やはり先送りされたような感を受ける。ぜひ今年中に結論を得て、早期実現をお願いしたい」と強く求めました。安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も「高齢者医療費の負担の問題については先送りせず、2018年度内に結論が出るような形でやっていただきたい」と要望しました。

 経済界の代表からも同様の要望がありました。望月篤委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)は、給付の適正化に関連する骨太方針の記載を紹介し、「勤労世代の高齢者医療への負担状況にも配慮しつつ、必要な保険給付をできるだけ効率的に提供という指摘が極めて重要」と強調。また、「団塊世代が後期高齢者入りするまでに、世代間の公平性や制度の持続性確保の観点から、後期高齢者の窓口負担の在り方について検討する」という記載を指摘し、「改革工程表では18年度中の検討事項であったものなので、先送りすることなく、給付費の伸びの抑制に確実につながる方向で見直しを行うよう、当部会においても引き続き検討をお願いしたい」と求めました。
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人の暮らしの世界、「割り切れるものではない」

 医療費を負担する立場から「先送りせず早期に結論を」との声が相次ぐ中で、医療団体から松原謙二委員(日本医師会副会長)が発言。「持続可能性の面からすれば、後期高齢者の方が増えるということに対応していくのは当然。従って、例えば終末期においてどのような医療費の使い方をするのか、本人が望まないような医療を受けなくていいようにするにはどうしたらいいのか、これをもっと速やかにやっていかねばならない」と指摘しました。

 松原委員はまた、社会保険診療報酬支払基金の見直しをめぐる問題に触れながら、「コンピューターですべて判断すれば何とかなるというのも1つの考え方であるが、物理や数学の世界と違って人の暮らしの世界であるので、例えば薬でも太った人とやせた人、身長の高い人と低い人、老齢の人とそうでない人、腎機能の問題のある人、肝機能の問題のある人、すべてを1つの基準で当てはめるのは無理。1つで決めて割り切ることは魅力的ではあるが、人の暮らしというのはそういうもので割り切れるものではない。基準から外れる人にとってもその医療が必要だという概念をぜひ入れていただきたい」とくぎを刺しました。

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自分たちのことを自分たちで考える土壌をつくる

04_池端副会長_20180719医療保険部会 こうした発言に続いて池端副会長は「いろいろなご意見をお聴きして、納得できるご意見を頂いたと思っている」と理解を示した上で、「やはり、現役世代対非現役世代、あるいは受給者対被保険者という構図でとらえると、どうしてもいろいろなことが相対する原因になってしまう」と指摘しました。
 
 池端副会長は、持続可能な社会保障制度を目指す点については委員の方向性は一致しているとの認識を示した上で、「慢性期医療の現場で高齢者とお話をすると、お一人おひとりがよく理解しているので、これをなんとかもっと国民的議論にして、自分たちはどこまで負担できるのか、自分たちのことを自分たちで考える、そういう土壌をつくっていく、そういう広い意味での国民的議論をしていくことも必要ではないか。専門家がここでいろいろ話をするだけではなくて、そういうところも必要ではないかということを強く感じた」と述べました。

                          (取材・執筆=新井裕充) 
 

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