「2018 行動宣言10」を発表 ── 6月21日の定例記者会見

会長メッセージ 協会の活動等 役員メッセージ

武久洋三会長20180621

 日本慢性期医療協会は6月21日の定例記者会見で、「2018 行動宣言10」を発表しました。同日開かれた通常総会で会長に再選されたことを受け、武久洋三会長は、「この10項目は私個人の行動戦略でもある。あと2年、これらの項目を重視して仕事をさせていただきたい。今後、これらがきちんとできているかどうか、チェックしていただけたら幸いである」と抱負を述べました。

 会見の冒頭で、池端幸彦副会長が新役員について報告。新たに副会長に就任した矢野諭副会長も会見に同席しました。6期目となる武久洋三会長は「若い人たちに継承するために、あと1期だけ会長をさせていただくことになった」とあいさつ。会長を務めた5期10年間を振り返り、「慢性期医療という言葉が前面に出てくるようになった。慢性期医療の存在感、座標軸がある程度決まりかけてきた」との認識を示しました。

 武久会長は、10項目のトップに「高度慢性期医療の確立」を掲げました。高度慢性期医療について武久会長は「穂高に行く稜線の上を歩くような、非常に危なっかしい道を進む。いろいろな因子をうまく絡ませながら、最高の成績、結果を得て、やっと日常生活に戻れる。日本慢性期医療協会では、『高度慢性期医療とはこういうものだ』ということをこの2年間で皆さま方にお示しをしたい」と意欲を示しました。

 以下、同日の会見要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2018/chairman180621.html)に掲載しておりますので、こちらをご参照ください。

【2018 行動宣言10】

 1. 高度慢性期医療の確立
 2. 地域包括ケア病棟機能の取得と地域貢献
 3. 人間力回復リハビリテーションの徹底
 4. 在宅医療への積極的関与と支援
 5. 低栄養と脱水、認知症に対する理解と実践
 6. 病院・診療所の機能分化と連携
 7. 総合診療医機能の強化と多職種連携
 8. 重度障害者に対するQOLの維持向上
 9. 介護医療院転換への積極的関与
 10. 「寿命100歳時代」に向けた医療・介護の一体化

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武久会長が6期目、新たに2人の副会長が就任

[池端幸彦副会長]
池端幸彦副会長20180621 ただいまから平成30年6月の記者会見を始めたい。まずご報告として、先ほど当協会の総会で新役員が決定された。互選により武久洋三先生が引き続き当協会の会長にご就任することになった。第6期目になる。

 新しい役員には、2名の新副会長がご就任された。改めてご紹介をさせていただく。私の隣にいらっしゃる矢野諭先生(多摩川病院)と、もう1人は急用のためご欠席になったが、橋本康子先生(橋本病院)である。

 この2人の先生が副会長に新たに入り、安藤高夫先生(永生病院)、中川翼先生(定山渓病院)と私が留任し、5人の副会長体制となった。引き続き、よろしくお願い申し上げる。では、新会長からごあいさつをいただく。

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慢性期医療の存在感、座標軸が決まりかけてきた

[武久洋三会長]
 もう顔は見飽きたと思うが(笑)、あと1期、若い人たちに継承するために会長を務めることになった。今まで皆さま方にはいろいろとご迷惑をおかけしているが、よろしくお付き合いをいただきたい。

 今回の同時改定で急性期の絞り込みなどがあったように、いろいろなことがまたこの2、3年に起きるだろう。2020年度改定はなかなかドラスティックなものになるのではないかと予想している。

 10年間、私が会長を務めてきた中で、「慢性期医療」という言葉が前面に出てくるようになった。慢性期医療の存在感、座標軸がある程度決まりかけてきた。実際に現場で医療を行っていると、慢性期病院に来る患者には、急性期病院の治療、要するに臓器別専門医の治療によって全身状態はかえって悪くなった患者が沢山いる。これを治すのは本当に至難の業となっていることは皆さんもご理解いただけると思う。
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会見の模様20180621

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1.高度慢性期医療の確立

 本日、皆さん方に「2018 行動宣言10」をお示しする。この10項目は、私が6期目の会長をお引き受けしたことを踏まえた私個人の行動戦略でもある。あと2年、これらの項目を重視して仕事をさせていただきたい。

 まずは、「高度慢性期医療の確立」である。これはあまり聞いたことがない言葉かもしれない。「高度慢性期医療」の反意語は「高度急性期医療」である。高度急性期医療では、難しい手術の実施など最新の医療を駆使して治療する。一方、高度慢性期医療では、急性期の治療によってかえって状態が悪くなった患者さんの低栄養や脱水、腎不全、心不全など、いろいろな状態が重なった患者さんに対応する。こうした患者さんは因子がたくさんあるため、まっすぐな王道を歩くような治療が難しい。

 すなわち、非常に曲がりくねった細い道、例えば穂高に行く稜線の上を歩くような、非常に危なっかしい道を進む。ちょっとまずいと患者さんはすぐにお亡くなりになってしまう。ちょっと量を多く輸液すると心不全になってしまう。閾値の幅が非常に狭いところで、10以上あるようないろいろな因子をうまく絡ませながら、最高の成績、結果を得て、やっと日常生活に戻れる。

 これはめちゃくちゃ難しいから、うまくいくとめちゃくちゃうれしい。医療側もうれしいし、患者もうれしい、家族もうれしい。やはり、こういう医療をやるべきであると思う。日本慢性期医療協会では、「高度慢性期医療とはこういうものだ」ということをこの2年間で皆さま方にお示ししたいと思っている。

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2.地域包括ケア病棟機能の取得と地域貢献

 
 2番として、「地域包括ケア病棟機能の取得と地域貢献」を挙げる。ご存じのように、2014年に地域包括ケア病棟ができて、直ちに日本慢性期医療協会として地域包括ケア病棟協会を立ち上げた。この病棟こそがわれわれの求めてきた、これからの将来にベストな病棟だという考えを示した。

 そして、仲井培雄先生が会長になることに役員全員から了承を頂いた。仲井先生はどんどん活躍されて、いまや日本慢性期医療協会から独立して歩き始めている状況である。ただ、親が日本慢性期医療協会であるので、仲井先生はそういうことも含められた上で、慢性期医療と地域包括ケア病棟のさらなる向上を目指している。

 すなわち、同病棟の入院期間は2カ月以内となっているが、できれば1カ月以内に良くしてさしあげて、ご自宅に帰すことを目指す。地域から患者が入ってくる。リハビリは2単位包括とされているが、必要があればそれ以上のリハビリテーションを提供する。在宅から来た患者さんを早期に在宅にお帰しすることを目標とする。在宅療養中の患者さんが急に熱を出した、あるいは急に骨折をした、急に腰が痛くなった、いろいろな状況が考えられる。こうした患者さんに対応できて、きちんと治して日常に帰してあげるという機能を担っていくことが非常に重要である。

 地域包括ケア病棟への移行について、現在は残念ながら療養病床から地域包括ケア病棟に移る病院がまだまだ少ない。一方で、一般病床から地域包括ケア病棟への移行は進んでいる。日本慢性期医療協会の会員病院の皆さま方には、ぜひ地域包括ケア病棟を持っていただきたい。

 しかし、急性期病院の中の地域包括ケア病棟で、同じ病院内の7対1から同じ病院内の地域包括ケア病棟に変更するというような使い方は、むしろやめていくべきである。地域包括ケア病棟では地域の在宅患者を受け入れているが、75歳以上の後期高齢者が多く、急性期病院の入院患者さんも含めると約7割が後期高齢者である。慢性期に近い病院では8割以上にも上る。すなわち、いろいろな障害を持っている、だけど在宅で暮らしている、そういう人たちが急変したときにはわれわれが見るのだという意識の高まりが必要だと思うし、これによって地域医療貢献をしていこうと考えている。

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3.人間力回復リハビリテーションの徹底

 3番目は、「人間力回復リハビリテーションの徹底」である。これまで、「リハビリテーション」と言うと、どうしても「歩こう」「歩かせよう」という目標がメインになりがちだった。しかし、われわれの目標は、人間力を回復させるようなリハビリテーションの徹底である。

 ここ10年、後期高齢者が猛烈な勢いで増えている。そうした中で、95歳の人が病院で歩けるようになったからといって、ご自宅に帰ってからも安定した歩行が得られるだろうか。歩行だけではなく、自宅で安定して療養できるようなレベルに上げていく必要がある。たとえ車いすでもトイレは自分で行けるとか、食事は自分でできるというような人間力の回復を目標とする。

 ご自身でちゃんとごはんを食べて、ちゃんと排泄する。これは人間として当たり前であり、動物として当たり前のことである。いろいろな日常生活が自分でできるように、患者さん一人ひとりの人間力を回復させるようなリハビリテーションを徹底していきたい。

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4.在宅医療への積極的関与と支援

 4番目は、「在宅医療への積極的関与と支援」である。誰が何といっても、患者さんは自分の家が一番いい。独り暮らしのお年寄りの場合は在宅に帰せない場合もあるが、できるだけ在宅に帰していくことを日慢協の会員病院にはぜひお願いしたいし、積極的に関与して支援をしていきたいと思う。

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5.低栄養と脱水、認知症に対する理解と実践

 5番目に、「低栄養と脱水、認知症に対する理解と実践」を挙げたい。今回の同時改定では、診療報酬でも介護報酬でも非常に大きく取り上げられた。日本慢性期医療協会では、かねてから低栄養と脱水をきちんと治していくことが寝たきりを減らすことにつながると訴えてきた。低栄養と脱水をきちんと治して入院患者を減らしていく、また介護施設への入所者を減らしていく。これは非常に重要なことである。

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6.病院・診療所の機能分化と連携

 われわれの会員は病院が多いが、地域には診療所がある。開業医の先生方には、「慢性期病院で大丈夫なのか」「そんな所に送っても大丈夫か」という不安があり、なんとなく一般病床にどんどん送ってしまう。しかし、一般病床を中心にした急性期病院で、後期高齢者の慢性期の変化に対して適切な治療ができるか、ベストな治療ができるかというと、できるところはむしろ少なく、われわれのような慢性期病院のほうがそういう患者に慣れている。それなのに、地域でそういう評価が十分にされていないのは非常に残念なことである。

 われわれは近くの開業医の先生と連携して、開業医の先生が対応できることは先生にしていただき、われわれしかできないような訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、デイケアなどを近くの開業医と連携をとって、入院は短期間に、そして早く在宅にお帰しする。そういう連携がとれると、日本の総医療費も総介護費も減らせる可能性がある。こうした連携強化に向けて、日本慢性期医療協会としてさらに取り組んでいきたい。

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7.総合診療医機能の強化と多職種連携

 7番目は、「総合診療医機能の強化と多職種連携」である。高齢の患者には、いろいろな臓器の機能不全が起きる。だから、心臓なら心臓の専門医、脳なら脳の専門医、肺なら肺の専門医だけではなかなか対応できない。従って、慢性期の患者の急変を診るのは、やはり総合診療医としての機能である。

 それと、コメディカルがたくさん関わっている。今までの医療は看護師と医師だけで行ってきたきらいがあるが、実際にはコメディカルが非常に多くの働きをしているので、多職種での総合診療を進めていきたい。

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8.重度障害者に対するQOLの維持向上

 8番は、「重度障害者に対するQOLの維持向上」である。子どもでも若年者でも、重度の心身障害を抱えている方々がたくさんいる。こういう人もわれわれ慢性期医療はきちんとみて、そのQOLを良くして、少しでも生きがいのある人生を送っていただくように努力するのは当然である。

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9.介護医療院転換への積極的関与

 4月から介護医療院の設置が始まった。日本慢性期医療協会として、こういう施設があってほしいという要望を出してきた。介護医療院には、積極的な関与をしていきたいと思う。

 ただ、介護療養病床から介護医療院にはすぐに移行できるが、医療療養病床からの移行については、財源が医療保険から介護保険に変わるため、小さな市町村では1つの病棟の50床が医療保険から介護保険に変わった途端に介護保険料が跳ね上がるというリスクがある。この問題について厚労省老健局でいろいろ検討中のようであり、近いうちに解決されて何らかの方針が出ると思う。介護医療院は間違いなく10万床単位になっていくだろう。

 一方では、地域包括ケア病棟が10万床以上に増えている。今後の地域医療は、地域包括ケア病棟と介護医療院が双璧をなすだろう。

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10.「寿命100歳時代」に向けた医療・介護の一体化

 最後に、「『寿命100歳時代』に向けた医療・介護の一体化」を挙げたい。100歳以上の人が7万人近い時代において、100歳で大きな手術をされる人も増えている。

 医療と介護は一体である。しかし、これまで医療と介護は分けられていて、一体化はあまり進んでいなかった。今回の同時改定では特別養護老人ホームでの看取りのように、介護に医療が関与していく方向性が進められた。看護職員の夜勤を評価するなど、福祉施設に医療が介入することに対し、改めて評価がなされた。

 医療と介護を一体として追求していけるのは日本慢性期医療協会であると自信を持って言えるように、これからの2年間を務めていきたいと思う。こうした方向性については本日、理事全員からご了解をいただいている。

 以上、皆さま方に10項目をお示しした。今後、これらがきちんとできているかどうか、チェックしていただけたら幸いである。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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