医療と介護の同時改定にどう対処すべきか

官公庁・関係団体等

医療と介護の同時改定にどう対処


■ 討論 ─ 理論的に診療報酬・介護報酬改定を考え
 国民の目線で見る (小山秀夫・兵庫県立大学大学院教授)

 

 【小山秀夫座長(兵庫県立大学大学院教授)】

 診療報酬と介護報酬同時改定で一番心配なのは、財源がないことである。

 38兆円ぐらいしか税金は集まらない。

 51兆円毎年使っていたから、雪だるま式に借金が増えている。日本医師会の立場として財源確保についてどのようにお考えいただいているのか。

 【原中会長】

 今までの経過を見ると保険料の分配が変わり、国の税金の歳入が非常に少なくなる。雇い主の保険料が安くなった。増えたのは個人負担と市町村負担である。

 もう一つ問題なのは、今、国民健康保険は各市町村単位になっているが、安い保険料と高い保険料で5倍も違う。現在、会社を解雇されて国民健康保険に入る方たちが100万人を超え、保険料を納めていない人が20%を超えている。そのためには至急、介護保険のように広域性を持った国民健康保険をつくらなくてはいけない。

 高齢者の医療費は若い人と比べて5倍であり、高齢者が増える中で税金の投入が少なくなることは大変な間違いである。そこをきちんと要求していかなければいけない。

 【小山座長】

 宇都宮先生、医療保険の医療区分と介護保険での要介護認定の2本柱となっているが、一本化はできないのだろうか。

 【宇都宮課長】
 それはかなり難しい。これまでの歴史的な経緯がある。ADL区分ならば、将来的には現場の考え方で整合性を検討していく可能性はある。

 【小山座長】

 西澤先生、民間の救急病院の15対1に入っている高齢者が、認知症だからと縛られたり薬を飲まされたりしてひどい目にあっている。

 そこで療養病床を紹介すると、「本当に広くてスタッフもやさしくて、いい病院があるんですね」という。高齢者は療養病床に入った方が絶対幸せである。全体で国民医療の質を上げていくことを、全日病が指導していただけないかと思っている。

 【西澤会長】

 おっしゃるとおり、これからも今まで以上に医療の質向上に努力したい。

 一方で、地域特性も考えてもらいたい。医療従事者、特に看護師さんの裁量がある程度可能な環境と、看護師さんがその地域にいない、しかも、周りには診療所もないという地域では事情が違う。質を上げることは全日病の一番の目標であるが、本当に地域特性を何とかしなくてはいけないと考えている。

 【小山座長】

 斉藤先生がいわれる重介護の通所リハを制度化しないとだめだという話を解説していただきたい。

 【斉藤委員】

 療養病床の看護、介護職の方々にとっては要介護4、5の人たちとの関わりは初めてではない。報酬上も何とかなるので、介護保険でできるのではないだろうか。

 【小山座長】

 武久先生、今の診療報酬でたとえば、地域医療支援病院の入院診療加算1万円というものがあるが、この入院基本料の話は結構大きいと思う。

 【武久会長】

 よい病院もそうでない病院も一様に入院基本料を上げることに、私は賛成しかねる。しかも、今は入院費用は8人部屋でも10人部屋でも2人部屋でもまったく同じ。これは社会通念上、異常な考え方である。

 医療産業は他の産業に比べて非常に優遇されている。40年以上も改装していないファミリーレストランはない。地域医療計画で病院は一定しかないから患者さんが入る。入るから改装しない。それが一般病院の中に残っていて、改装した療養病床よりも高い医療費をとっている。

 入院基本料はよい所に対して手厚く評価するのが、自然のなりゆきではないかと思う。

 【小山座長】

 理論的に診療報酬や介護報酬改定を考えて、国民の目線で見ることが必要だと思う。原中先生、もう一言あればお願いしたい。

 【原中会長】

 最終的に何を基準にして診療報酬や介護報酬の改定を決めるかというと、安心・安全に一生を送られるかということである。問題は、これから若い人の人口が減る。30年後に4,000万人減る。そのとき1人の労働者が自分の5倍も医療費のかかる高齢者のケアをすることは不可能である。しかし、その不可能なことに今から手を打つ必要がある。

 子どもを産む政策をとらなくてはいけない。経済的な理由で人工掻爬をする人が年間20万人いる。外国はシングルマザーが半分以上であるが、日本はまだ2.2%しかいない。

 日本国民が今のような医療制度や社会保障制度を維持できるかというと、基本的な人口構成を考えていかなければ続かないだろうと思う。

 【小山座長】

 宇都宮先生、地域包括ケアを本気で進めるには、療養病床や老健施設に焦点を当て、そこから出発した方が早いと思う。地域包括ケアを進めるための戦略、戦術を考えてもらわないと絵に描いたモチで終わってしまうのではないか心配している。

 【宇都宮課長】

 おっしゃるとおりで、まさに後ろで支えてくれる医療なり介護の拠点が必要である。ただ、あまり専門的なことばかりに頼ってしまうとうまくいかない。

 まず自助とか互助をきちんと考えた上で、そこにプロフェッショナルがどう手を差し伸べて支えていくかという話だと思う。そのプロフェッショナルが手を差し伸べる拠点が必要である。

 【小山座長】

 先生方の意見に根本的な違いがないことがわかった。皆さん、同じ思いになっているので、多分よい方向にいくのではないかと思う。本日はどうもありがとうございました。
 

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