「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(5) ─ シンポ2(2012改定)

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福井大会シンポジウム2-「2012年診療・介護報酬同時改定の検証と今後の課題」

 

■ パネルディスカッション
 

「経費を見込んだ点数設定を」 ─ 西澤氏
 

[松谷氏]
松谷之義座長 今改定の後、人件費が上がっているという指摘がある。「お金は後から付いてくる」という考え方もあるが、この点についてご教示いただきたい。安藤先生、いかがだろうか。
 
[安藤氏]
 「後からお金が付いてこなかったら」と考えると非常に怖い。2025年モデルに基づくと、生まれてくる女の子の8人に1人が看護師にならないと足りない数字になっている。看護師を大幅に増やすことが現実的でないならば、看護師でなくてもいい仕事は、質の担保をしながら他職種に移していく必要がある。
 
[西澤氏]
 今回の点数は誘導的であり、何もせずに黙っていては点数が取れないという診療報酬改定だった。これまでと何も変わらずに点数が取れるのは手術料ぐらいで、急性期医療には点数が付いた。

 一方、在宅医療や退院調整などは、スタッフを揃えなくてはならないし、教育したり、場所を確保したりする必要があるため、かなり費用が掛かる。将来のわれわれの病院機能に対する投資だと考えているが、中小病院に関しては基盤が元々弱いので、投資がなかなかできない面もある。

 従って、診療報酬で評価した場合には、人件費などの経費が掛かるということを見込んだ点数設定をお願いしたい。
 
[松谷氏]
 田中先生、病院を経営していないお立場からお答えにくいかもしれないが、このように経費が掛かる結果になっている改定について、どのようにご考察されるだろうか。
 
[田中氏]
 一般企業では、「業務に対して何人」という割り当てだけではなく、業務の中身を細かく分析し、生産性を上げるためにコストの高い人材をどの時間帯に使うかを割り当てて、トータルの生産を上げる。例えば、医師の業務について、どの業務は医師でなくてもいいのかということを、看護師の業務なども含めて振り分けていく作業が必要になる。

 また、固定費に相当する教育費について、病院単位での教育がなかなか難しいならば、地域の自治体や病院団体などが行う負担を、診療報酬や介護報酬以外にも求めていかざるを得ないだろう。
 
[松谷氏]
 必ずしも医師でなくてもいい業務、看護師でなくてもいい業務について、何らかの緩和政策を視野に入れているだろうか。
 
[宇都宮氏]
 その点については私の担当ではなく、医政局の範囲になるので、あまり答えられないが、「どこまでを医者がやるのか」ということは、よく出る話題であり、介護の分野では痰の吸引や経管栄養などの制度改正も行われた。

 高齢者が増えていく中で、今まで「医療が必要だ」と言っていたけれども、その「医療」自体の中身や考え方が少しずつ変わってきて、それに応じて職種ごとの役割分担も変わっていく可能性は十分あるだろう。
 

「療養病床には濃淡がある」 ─ 安藤氏
 

[松谷氏]
 高齢の救急患者さんの中には、肺炎など療養病床でも十分対応できる疾患もある。療養病床でも救急を告示できればいいと考えるが、いかがだろうか。
 
[宇都宮氏]
 救急に対する考え方による。何をもって「救急」と言うのか。今回の介護報酬改定では、老健施設でも軽い肺炎を診られるようにした。そのような軽度なものであれば十分可能性はあるが、二次救急の告示は単にそのような患者さんにとどまるものなのか、あるいは重度の患者さんも受け入れるということも想定するのかということ。それと、療養病床がどのような機能を果たしているのかということ。これらの整合性の問題ではないか。
 
[安藤氏]
 療養病床にもいろいろな種類があり、医療内容も異なる。長期の患者さんを中心として、看取りやターミナルをやっている療養病床もあれば、一般急性期のような病院もあり、いろいろな濃淡がある。

 従って、救急受け入れができる病院はやっていただければいいと思うし、ケアミックス病院のほうがより取り組みやすいだろう。その辺りは、千差万別ではないか。すべての療養病床ができるわけではないが、ちょっと具合が悪くなった患者さんを診られるようにするほうが、地域にとって必要ではないかと思っている。
 
[西澤氏]
 流れは機能分化と連携であり、地域ごとに望まれるものが違う。地域のニーズをきちんと描いて、その中で各医療機関がどのような機能を選択していくかということになる。

 そうした中で、民間病院の強みは、ほとんどの医療法人が何らかの介護事業を運営していることだ。従って、1つの病院を基準に見るのか、医療法人や関連法人を含めて考えるかによって違う。そうしたことも考えて、各地域で納得のいく医療提供体制をつくっていく必要がある。われわれ全日本病院協会も日本慢性期医療協会も、会員の半分ぐらいは同じなので互いに協力し、医師会とも協力しながら進めていくことが大事だろう。
 
[松谷氏]
 経営母体によって、さまざまな事情があると思う。連携や地域包括ケアシステムを運用していく中で、経営に対する影響は否めない。今回の改定で、さまざまな加算が付いたが、それは将来的な人件費を加味してのことだと思うが、連携に関する経費について評価していただけるスタンスはあるのだろうか。
 
[宇都宮氏]
 連携を進めることは重要なことであると考えている。
 
[松谷氏]
 2025年モデルに示された病床数などは、きちんとした根拠に基づいて想定されたのだろうか。
 
[宇都宮氏]
 誰かの気分で決めたわけではなく、「社会保障国民会議」での内閣府の推計を踏まえている。現状投影した場合の推計に対し、一定の機能分化などを進めればこうなる、という数字だ。
 
 平均在院日数と1病床当たりの職員数を見ると、日本は1病床当たり1人ちょっとで、平均在院日数が30日弱になっている。これによると、1病床当たり2人から2.5人ぐらいまで増やせば、平均在院日数は10日弱ぐらいまで減るが、それ以上職員数を増やしても、平均在院日数はもうほとんど減らないことが分かる。

 こうした推計を踏まえて、高度急性期については現在の職員数を2倍にして、平均在院日数を9~10日にしている。病床数などもこのようにして出しているので、決して根拠のない話ではない。
 

「社会全体に納得してもらう」 ─ 田中氏
 

[松谷氏]
 ケアマネジャーの質が問題になっている。資質を向上させるために、どのような方策が考えられるか。
 
[田中氏]
 ケアマネジメントの一連のプロセスの中で、ケアマネジャーが固有に担当するのはどこかという見分けが必要だ。特養や老健で、ケアマネジャーが1人でアセスメントしているわけではない。従って、在宅でケアマネジャーが1人でアセスメントするのはおかしい。

 例えば、ケア会議の招集やケアプラン原案の作成などはケアマネジャー固有の業務だが、アセスメントやケアプラン全体の作成には、多職種が関わる。どこについて資質があり、どこについては無理なのかを分けておかないといけない。ケアマネジメント全体のプロセスについて、非常に高いレベルを要求しておいて、「現在のケアマネはできない」という対応をしたら、たぶんスーパー・ケアマネしかできないだろう。もちろん、ケアマネジメントのプロセスを後から評価する指標は必要であり、これから検討する。

 もう1つ言いたいことがある。みなさんは厚労省に対し、「こういう点数を付けてほしい」という要望をするが、厚労省は相対的に業務を判断して、点数を上げるとか下げるとか、相対的な振り分けはできるが、全体の報酬改定がプラスなのかマイナスなのかを決めるのは厚労省ではない。そこは厚労省に言っても駄目だ。

 この業界が地域で果たしている役割が高いとか、地域の雇用を生んでいるとか、人々が安心して暮らせるというプラスを厚労省ではなく、財務省かもしれないし、社会全体、財界や労働界に納得してもらう必要がある。今後は、機能に応じた点数という傾向が強まるだろう。「療養病床だからこういう点数」ということではなく、「こういう機能を果たしている療養病床のこういうサービスにはこの点数」という細かい点数がこれから増えるだろう。
 

「いろいろな提言や助言を頂きたい」 ─ 宇都宮氏
 

[安藤氏]
 日本という国には資源がないので、ある程度の年齢になっても働き続けなくてはならない。そうすると、「自宅」という意味での在宅医療が伸びてくることへの不安がある。本来の「自宅」と、介護施設や療養病床との間に多くの選択肢を考えていく必要があると思う。「医療と高齢者住宅」、「医療と介護施設」、「医療と本当の自宅」という部分が臨機応変にやりやすいようなシステムをつくることが非常に重要になると考える。
 
[西澤氏]
 2025年、30年、55年に向け高齢者がどんどん増えていく。2055年には1.2人で1人の高齢者を支える。われわれ団塊の世代は自分たちでなんとかして死んでいくが、私たちの息子世代の30代、40代は大変だと思う。彼らが後期高齢者になった時、彼らの子ども世代はもっとひどい。将来そうならないように、今の30代、40代の方々に頑張ってもらいたい。
 
[田中氏]
 ヨーロッパ人に会っても、アジア人に会っても、北米人に会っても、「日本人はなぜ2025年のことをこんなに細かく考えてきちんと制度設計しているのか」と褒められる。20年前に比べて、急性期医療も慢性期医療も在宅ケアも素晴らしい進化を遂げている。これは誇りを持っていい。

 将来不安があるかもしれないが、将来を真面目に考え続けていることはすごいことだ。この力を生かして、高齢化を乗り切る。2025年から後期高齢者は増えないので、そこまでにつくっておけば乗り切るのは簡単で、あとは質を向上させていけばいい。よく、「2025年以降はどうなるのか?」ときかれるが、「それは団塊の世代の責任ではない」と言いたい(笑)。
 
[宇都宮氏]
 最後に私からは、「7対1入院基本料」などについて述べたい。「盃型」と言われるが、地域のニーズに合った医療提供を考えたとき、この形が本当に地域のニーズに合っているのか。また、医療機関もそういうことを考えて「7対1」を取っているのかという問題がある。

 これは、「医療機関が悪い」という問題だけではなく、西澤先生が指摘されたように、そういう報酬をつくったわれわれ自身の問題も当然あると思う。そういう中で、こういう形を続けていっていいのかと言ったときに、「では、こうしましょう」という案はあるか。

 ちょっと刺激的な言い方をすると、先生方から「どうするのか?」という声は聞けるが、「こうしてはどうか」という意見もぜひ聴きたい。問題点を指摘するのは誰でもできる。われわれもそれは感じているが、ではどうしたらもっと良い形に、ニーズに合う形に変えていけるのか。先生方のお考えもあるだろう。それに合うように、われわれも報酬をつくっていくことではないか。ぜひご提言いただきたい。単に、「今度はこういう報酬になったから儲かった、損した」ということだけではないと思う。

 今回の介護報酬改定では、リハビリの関係にすごく点数を付けた。例えば、自宅にリハ職が行って自宅の状況をよく見て、「自宅に帰ったらこういうリハビリをしなきゃいけないね」という計画を作ってもらうことなどを評価する加算をつくった。そうしたら、いろいろな所からすごく喜ばれて、「今まで報酬が付かないけれど私たちはやってきたので、それが認められた」という声や、「今まで外に出たかったが、施設の許可がなくて出られなかった。今回の報酬でやっと出られるようになったので、地域の自立支援ができるようになった」という声を聞いて嬉しく思った。

 恐らく、こうしたことが慢性期医療の分野でもいろいろあるのではないか。高齢者医療が変わってきている中で、どんなニーズがあり、どうしなければいけないのか、そこのところをわれわれは知りたい。ぜひ、いろいろなご提言や助言を頂きたいと思っている。「支える医療」をどのようにやったらいいのか、そういうことを先生方からお聞きできれば、われわれもありがたく思う。
 
[松谷氏]
 どうもありがとうございました。そろそろ時間になったので、このシンポジウムを終わりたい。座長として1つお願いしたいのは、さまざまな調査依頼が病院や施設に届いていると思う。この調査結果が、次回の診療報酬、介護報酬改定で点数設定の1つの根拠になるので、できるだけ速やかに回答していただきたい。[→(6)はこちら]
 

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