「要介護度改善加算」の創設を提案 ── 1月9日の定例会見で橋本会長

日本慢性期医療協会は1月9日、今年最初の定例記者会見を開き、「介護保険におけるアウトカム評価 〜要介護度改善加算の創設を〜」と題して見解を示した。橋本康子会長は「現行の介護報酬制度が要介護度改善のインセンティブを十分に提供できていない」と指摘し、リハビリを適切に行うことで要介護者を軽度化し、介護保険の持続可能性を高めるべきとの考えを提示。東京都の「要介護度等改善促進事業」を紹介した上で、「要介護度改善加算」の創設を提案した。
会見で橋本会長は、介護職員が減少する中で介護の質を維持・向上させるため、介護職の育成と並行し、要介護者数そのものを減らす仕組みを構築する必要性を改めて訴えた。特に、リハビリを通じて要介護度を改善することが介護現場の負担軽減につながるとし、現行制度において評価が十分とは言えない要介護度改善への加算創設を求めた。
また、要介護度4や5の重度要介護者を軽度化させる取り組みについても触れ、現場で適切なリハビリと栄養管理を行えば、再び元の要介護度に戻すことが可能であるとの考えを示した。さらに、要介護度改善による費用抑制効果に言及し、要介護度2や3の利用者を維持・軽度化することで、月額100億円以上の費用削減が見込まれると試算した。
最後に、橋本会長は、要介護状態を短期間に抑えることが本人や家族にとっても望ましい状況であり、国の財政負担の軽減にもつながると強調。今後も医療と介護の連携などを通じて、健康寿命の延伸、要介護者の軽度化を図る取り組みなどを進めるべきとの考えを示した。
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本日の内容について
[矢野諭副会長]
定刻となったため、これより令和7年1月の定例記者会見を開催する。久しぶりに対面形式での開催となる。多くの方々にご参加いただき、感謝申し上げる。では早速、橋本会長より本日の資料について説明をお願いする。
[橋本康子会長]
新年あけましておめでとうございます。本日はご多忙の中、ご参集いただき、誠に感謝申し上げる。では、本年最初の定例記者会見を開始する。最初に1ページ目をご覧いただきたい。
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今回のテーマは「介護保険におけるアウトカム評価」である。副題として「要介護度改善加算の創設を」と掲げた。要介護度を改善した際に加算等で評価すべきという提案である。ただ、現段階では1つの試案に過ぎない。
目的として掲げるのは、介護職員が減少する中でも介護の質を維持することである。介護職員の減少は今後さらに進むことが予測されており、そのような状況下で質をどう保つかが重要な課題となる。
プロセスについては、他の職種にも共通する課題かもしれないが、特に医療・看護・介護分野においては、いくらIT化や高度なロボット技術が発展しても、人の手を完全に離れることは困難である。したがって、人員の確保は極めて重要であり、その確保した人員を「量」と捉えるならば、量も質の一部と考えるべきである。
「リハ介護士の育成」について。多くの介護福祉士が確保できれば望ましいが、現状ではその数が減少しており、確保が困難な状況である。この問題に対して、処遇改善加算などにより給与の見直しが図られているものの、他産業における職種の給与水準には追いついていない現実がある。処遇改善加算のみでは、介護職の増加という明確な成果にはつながっていない。
介護職にとって重要なのは、仕事のやりがいである。具体的には、努力によって患者や利用者の状態が大きく改善し、感謝されるといった成果が実感できる働き方が求められる。このような観点から、「リハビリテーション介護士」を育成することが有効であると考えている。なお、この件については、次回以降の記者会見において、改めて詳しく説明する機会を設ける予定である。
「要介護度改善への評価」については、これまで何度も申し上げてきたとおり、要介護度を改善した場合の問題である。例えば要介護度3が2になる、あるいは要介護度4のほぼ寝たきり状態の方がリハビリや介護によって排泄介助を受け、要介護度2程度に改善し自立して歩けるようになると、結果として介護報酬が減額される仕組みとなっている。
報酬が減額される状況において、施設経営者の方々が積極的にモチベーションを高めて取り組むことは難しいと考えられる。この点に関して、「医療や介護に携わる者として、そのような姿勢はいかがなものか」との指摘を受けることがある。「患者のために誠心誠意、尽くすべきである」という主張である。
確かにそのとおりだ。私たちも誠心誠意、取り組んでいるつもりである。しかし、経営が伴わなければ、いくら誠意を尽くしても限界がある。そのため、要介護度の改善に対して適切な評価が得られる体制を構築する必要があると考える。
その結果として、要介護者や寝たきり患者の減少、要介護度の改善率向上が期待できる。例えば、要介護度3から2に改善した人、2から1に改善した人、さらには要支援に移行した人が増加すれば、それは患者やその家族、さらには社会全体にとっても極めて有益である。このような成果の向上を目指すことが「アウトカム」である。
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介護人材減少の現実
2ページ目は「介護人材減少の現実」について。現在の状況を示す。
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左側の棒グラフは2018年から2023年までの5年間の推移を厚生労働省のデータに基づいて示したものであり、介護施設や事業所に従事する介護職員数を表している。
2018年時点で介護職員数は184万人であった。その後、185万人、186万人と微増を続けてきたが、2022年から2023年にかけて初めて減少に転じ、2.5万人の減少が見られた。
現時点で2024年および2025年についての具体的な数値は示されていないものの、今後も徐々に減少する可能性があると考えられる。2022年から2023年にかけて介護職員数が減少に転じたという事実は重要である。
右側の折れ線グラフは介護福祉士の受験者数および合格者数の推移で、2010年から2024年までの14年間のデータを示している。それによると、2017年を境に受験者数および合格者数が大きく減少している。
それまで3年間の実務経験のみで受験資格を得られていたが、2017年より実務者研修を6カ月間受講することが義務化されたことが主な要因である。仕事を続けながら実務者研修を受講することが難しくなり、結果として受験者数が大きく減少した。その後、処遇改善加算やベースアップ支援加算などが導入されたものの、受験者数および合格者数は回復せず、依然として低い水準にとどまっている。
介護人材の供給源である介護福祉士試験の受験者数および合格者数が減少を続けている現状は深刻である。介護士および介護福祉士の数が不足している中で、人材を増やす必要性が叫ばれている一方、受験資格の厳格化により入口が狭められていることが一因である。今後の対策を慎重に検討する必要がある。
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需給バランスと高まる負荷
3ページ目は、介護職員減少にもかかわらず介護サービス受給者数が増加している現状を示している。その結果として、介護職員への業務負荷が増大している。
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左側の折れ線グラフは、2018年から2023年までの5年間における介護サービス受給者数、すなわち患者数の推移を示している。このグラフでは、2018年を基準値100とした場合に110と、受給者数は1割以上増加している。一方で、介護職員数は減少している。
右側の棒グラフは、2018年からの5年間で1人当たりの介護職員が対応する患者数の変化を示している。2018年時点では介護職員1人につき3.2人の患者を対応していたが、5年後には3.6人となり、約0.4人増加している。
増加幅が0.4人と聞くと小さく感じるかもしれないが、2018年時点における介護職員の業務内容を考慮すると、その負担は非常に大きい。具体的には、食事介助、排泄介助、おむつ交換、夜勤、さらにはシーツ交換やゴミ捨てなど、多岐にわたる業務を担っている。こうした状況下で、業務量が5年間で12.5%、すなわち1割以上増加したことは、介護職員にとって極めて大きな負担となっていると考えられる。
このような負担増加は、介護職員の退職につながる要因となり得る。他業種への転職を考える職員も増える可能性があるため、介護職員の業務負荷についても早急に対応策を講じる必要がある。
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ケア=量も質のうち
4ページ目は、医療と介護において「量も質のうち」という視点から、ケアの質を高めるには十分な人員確保が不可欠であることを示している。介護職への門戸を広げ、処遇改善を図り、育成するシステムの構築が必要である。
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左側の図表は要介護者の増加を、右側は介護職員の減少を示している。要介護者が増加し、介護職員が減少することは明らかであり、その結果として介護職員の業務負荷が増大し、ケアの質が低下する懸念がある。
具体的には、起き上がりや移乗、移動、食事介助、入浴介助、排泄介助、おむつ交換といった業務の質が低下する可能性が高い。いくらDX化やIT化、ロボット化が進んでも、直接介護には人の力が必要である。
今後20年、30年、若い世代であれば40年後には、自らも介護を必要とする立場になる。例えば2時間から3時間おきにおむつ交換を行う現在の状況が維持できず、夜間では夜9時に交換した後、次は朝6時まで交換されないといった事態が現実となる可能性がある。
また、人手不足によってトイレ誘導が行えず、おむつを使用することを余儀なくされるケースも増加している。現状、地方では特別養護老人ホームや介護老人保健施設において、求人を行っても応募が少なく、応募者があっても早期退職に至る例が多い。そういった中には、コンビニエンスストアの店員から転職してきたものの数日で退職し、入浴介助などを行う前に辞めてしまう例も見受けられる。
介護は特殊な業種である。今後、真剣に対策を講じなければ、自身が高齢となった際に深刻な影響を受ける可能性がある。その現実を痛感することになったのが、昨年震災が発生した能登地域である。能登では、若年層の約2割しか戻らず、7〜8割を高齢者が占めている。しかし、その高齢者をケアする人材が不足しており、深刻な状況に陥っている。
この能登の現状は、2040年の日本の姿だと言える。こうした未来が予見されているにもかかわらず、何らかの手立てを講じなければならないことは明白である。今後の対応が強く求められる。
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要介護度改善と寝たきりゼロ
5ページ目は、介護職員が減少する中で医療介護従事者が取り組むべき課題について述べている。その最も重要な役割は、要介護者を増やさず、改善を図り、寝たきりゼロを実現することである。
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このデータは、要介護(要支援)認定者数の推移を示しており、2018年からの5年間で約643万人から710万人へ増加している。長寿国である日本において、要介護認定者数の増加は当然のことであり、ある意味では望ましい側面もある。しかし、健康寿命と平均寿命の差を縮めることが重要である。
日本は平均寿命が世界一であり、健康寿命も世界トップクラス。この健康寿命と不健康寿命の境界は、要介護度2で区別されている。具体的には、要支援1・2および要介護度1以下の人々は健康と見なされ、要介護度3以上の人々は不健康とされている。
このため、医療従事者が取り組むべきは、要介護度1および要支援1・2の人々を重度化させないこと、さらに要介護2や3の人々を軽度化し、要介護度1や要支援へと移行させることである。このような取り組みによって健康寿命を大幅に延ばすことが可能である。実際、日慢協の会員病院ではすでに多くの施設がこれを実践している。
高齢になれば寝たきりになるという認識は誤りである。90歳以上であっても、適切な対応を行えば健康的に生活することは十分に可能である。病気や怪我、骨折が原因で寝たきりになるという認識も誤解である。治療の目的は元気に生活を取り戻すことであり、手術後に適切なリハビリテーションと栄養管理を行えば、元の生活に復帰することができる。したがって、このような取り組みを積極的に進める必要がある。
急性期病院においては、2024年度診療報酬改定により、地域包括医療病棟の新設や急性期リハビリテーション加算、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算、看護補助体制充実加算など、寝たきりを防ぐための施策が講じられている。
私たちは、「寝たきりは急性期でつくられている」という認識を武久洋三前会長の時代から持ち続けており、急性期でのリハビリや栄養管理を徹底することが不可欠と考えている。このため、急性期において、こうした対応策が講じられていることは大いに評価したい。
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介護保険における報酬体系
では、介護保険に関して、改善した際に報酬等で評価する仕組みがあるのか。現在、「ADL維持等加算」がある。ADLが向上または維持された場合に加算が付与されるが、30単位または60単位にとどまっている。
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「単位」は診療報酬の「点」と同様に、1単位10円であるから、評価が高い60単位は、60×10円=600円で、月額600円の加算となる。このような加算は、通所介護や地域密着型通所介護、特別養護老人ホームなどのサービスには適用され、FIM利得が3以上であれば月額600円の加算が付く。
しかし、改善を目的としたリハビリテーションサービスである通所リハビリや訪問リハビリは、この加算の対象外となっている。おそらく厚生労働省としては、「リハビリ」と名の付く通所リハや訪問リハにおいてADLの維持や改善が行われるのは当然であり、加算を設ける必要がないと考えているものと思われる。
確かに、その見解には一理あるものの、通所リハや訪問リハを利用している方々のADLが顕著に改善しているかというと、そうではない。むしろ、改善はあまり見られない状況である。
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具体的には、先ほどのスライド5ページに示した介護度2・3の赤い点線枠の部分において、ADLの維持は約7割で達成されているものの、改善はほとんど見られていない。このような現状を踏まえると、「ADL維持等加算」を通所リハや訪問リハにも適用すれば、より一層、改善に向けた取り組みが進むのではないかと考える。
現在、高くても月に60単位、すなわち600円の加算しか得られない。この点について右側の表を参照すると、要介護度3の利用者を要介護度2に改善させた場合、加算として600円は支給されるものの、報酬は1,230円減額されるため、実質的にはマイナスとなる。結果として、倍近いマイナスとなるため、このような状況で施設が積極的にリハビリに取り組むかどうかは疑問である。
要介護度が下がることで患者にとっては大きなメリットがあり、身体の状態が改善し、生活の質が向上する。しかし、施設にとっては報酬が大幅に減額され、経営上の負担が増加する。加算が多少は付いたとしても、その額は減額分を補うには程遠く、リハビリやケアを積極的に行い、要介護度4の利用者を3に、また3を2に、2を1に改善しようというモチベーションにはつながりにくい。
特に施設長はリハビリ専門のスタッフではなく、経営面から判断せざるを得ない立場であり、「そのような対応をされては経営的に成り立たない」と考える施設長がいても不思議ではない。実際に、特別養護老人ホームでは要介護度4や5の重度の利用者しか受け入れない。例えば、要介護度1・2の利用者が在宅で生活している中で状態が悪化して要介護度3になった場合であっても、報酬が低いために受け入れを拒む施設もあるだろう。せっかく受け入れた要介護度4や5の利用者を要介護度3や2に改善させるために多大な労力をかけ、リハビリスタッフを雇用し、その人件費を負担してまで報酬を減額させる対応を行う施設はほとんど存在しないのではないか。したがって、改善したら減額されるという現在の仕組みを見直さなければ、寝たきりの高齢者は増加の一途をたどることになる。
さらに、介護職員が減少している現状において寝たきりの高齢者が増加すれば、介護現場は深刻な危機に直面する。現在の加算額では、改善による減額分を補うことができない。何らかの改善が強く求められる。
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要介護度改善の分岐点
7ページ目は、要介護4や5の重度者が軽度化する一方で、要支援や要介護3までの比較的軽度な利用者が重度化する割合が高い現状を示している。
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令和5年4月から令和6年3月の1年間で、要支援1・2および要介護1から5の利用者がどのように変化したか。白い棒グラフは「維持」を示しており、要介護度5では88%、その他の要介護度でもおおむね77%程度が維持されている。すなわち、1年間を通じて変化がなかった利用者の割合である。
一方、ピンクの網かけ部分は「重度化」を示している。具体的には、要介護度1では23%、要介護度2では18.5%、要介護度3では17.4%の利用者が1年間で重度化していることが分かる。これらは、要介護度2の利用者が3・4・5へと悪化した例を指している。
斜めの斜線部分は「軽度化」を示しており、要介護度5についてはさらに悪化することがないため、約1割の利用者が要介護度4や3に改善したことを示している。赤い点線が示すように、特に要介護度2や3の利用者が重度化する割合が高い点が問題である。逆に、要介護度4の利用者については、ほぼ寝たきり状態であるにもかかわらず、約1割が軽度化していることは良い傾向といえる。
しかし、重要なのは要介護度2や3の利用者である。この層を重度化させないように維持し、さらには軽度化を図ることで、車いすでの移動や椅子への着座が可能となる。場合によっては、要介護度2の利用者が歩行器を使って歩行できるようになる可能性もある。
したがって、リハビリや適切なケアを積極的に行うことで、要支援へと改善し、健康を取り戻すことが十分に期待できる。要支援および要介護3までの利用者において重度化の割合が高い現状を踏まえ、これらの層に対する対策を講じる必要がある。
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要介護度5の発生要因
8ページ目は、要介護度5の利用者に関する発生要因について、令和5年4月から令和6年3月までの1年間におけるデータを示す。
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この期間において、令和5年4月時点で34万2400人であった要介護度5の利用者数は、令和6年3月には41万7700人に増加した。その内訳を見ると、令和5年4月時点で39万7000人の利用者が改善し、要介護度5から軽度化した。一方で、11万5000人の利用者が新たに要介護度5に重度化している。
この11万5000人の内訳をさらに詳細に見ると、要介護度4から5に重度化した利用者が60%を占めている。これは、ほぼ寝たきり状態から完全な寝たきり状態に移行したケースが主である。
注目すべきは、要介護度2や3から5に重度化した利用者が45%に達している点である。これらの利用者は、もともと比較的軽度の要介護状態であったにもかかわらず、1年間で寝たきり状態にまで悪化している。
この中には、骨折や肺炎、脳卒中、心疾患などを発症したケースが含まれている。また、これらの利用者は施設から病院に搬送され、治療を受けた後に再び施設へ戻った際に、要介護度が大幅に悪化している例が多い。具体的には、施設入所前は要介護度2で自力歩行が可能であったにもかかわらず、骨折後に寝たきり状態となり要介護度5に移行したケースや、心疾患により治療を受けた結果として要介護度が悪化したケースなどが含まれる。
このような事例が多く含まれている一方で、単に放置されてリハビリを受けなかったために要介護度2から5に悪化したケースはそれほど多くはないと考えられる。
しかし、骨折や疾患によって要介護度5になった場合でも諦める必要はない。リハビリを適切に行い、栄養状態を整えれば元の状態に戻る可能性は十分にある。特に、悪化してからの期間が短ければ回復の可能性は高い。したがって、要介護度2や3から5へと悪化した利用者に対して適切なリハビリとケアを実施し、元の状態に戻すことを目指す必要がある。
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改善を目指すべきサービス
9ページ目は、平均要介護度が2や3の利用者がどのような施設にいるかについてである。
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要介護度4や5の利用者は、主に介護医療院や特別養護老人ホームに入所しており、ほぼ寝たきりの状態である。これらの施設は要介護度4や5の重度者を多く受け入れている。しかし、これらの利用者に対しても単に日常の世話をするだけでなく、適切なリハビリを実施することが重要であると考える。この点については別途検討が必要である。
一方、平均要介護度が2や3の利用者については、訪問リハビリ、通所リハビリ、通所介護、認知症対応型通所介護といったリハビリ関連のサービスを利用している。また、有料老人ホームの利用者も含まれる。これらの施設・サービスにおいては、リハビリやデイサービス、デイケア、訪問リハビリを積極的に行い、利用者が一時的に骨折などで状態が悪化した場合でも、適切なリハビリを行うことで要介護度2や3まで回復させることが求められる。
必ずしも要介護度1に改善することを求めているわけではなく、少なくとも元の要介護度に戻し、維持することが必要である。リハビリ関連の施設や有料老人ホームは、現状以上にリハビリに力を入れて取り組むべきであると考える。
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要介護2・3の重度化防止効果
10ページ目はコストの問題について。介護に必要な資金はどこから出るのかという点を考える。改善した際に加算を付けることを求めるが、その財源をどうするかという課題がある。
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一番左側の枠は、1人当たりの費用額を示している。要支援の場合、月額2万2300円の費用がかかり、要介護度5になると月額31万3600円の費用が発生する。
中央にある2つの枠は現状を示しており、要介護度別の人数と、それに伴う年間費用の合計を算出している。それによると、令和5年から6年の1年間で、要介護度5の利用者が7万5000人増加した。その結果、令和5年4月から令和6年3月までの1年間で、総額313億円の費用が月単位で増加している。
全国的に見ると、要介護度2から5の利用者数が増加しており、要支援1・2および要介護度1の利用者数は減少しているものの、要介護度2から5の増加により全体の費用が膨らんでいる。これらを計算すると、月額で313億3900万円の増加となっている。
仮に、一番右側の枠に示しているように、要介護度2および3の利用者の半数を改善させるのではなく、現状を維持した場合でも費用削減効果は大きい。具体的には、半数の利用者を維持することで月額105億5300万円の費用削減が可能である。月額100億円の削減が実現すれば、加算を付ける際の財源として十分に活用できると考える。私たちが努力して要介護度の維持や悪化を防ぐことで、月額100億円規模の費用抑制が可能となる。
要介護度5の利用者は、もともと要介護度2や3であった人が骨折や病気を経て要介護度5の状態に悪化して戻ってくるケースが多い。このような利用者に対し、再度リハビリを行い、元の要介護度2や3に回復させることが重要である。それ以上の改善を求めるわけではなく、単に元の状態に戻すだけでも月額100億円の費用削減が可能となる。
現在の状況は、悪化を放置して多額の費用を費やしながら、結果として財源不足を訴えているように見える。悪化を防ぎ、利用者を元の状態に戻すことを重視する必要がある。悪化した利用者を元に戻すだけでも月額100億円の削減効果が見込めるし、わずかでも状態を改善させることができれば、より大きな費用削減につながる。
現行の介護保険制度内でも、1カ月あたり100億円の効果が見込める点は非常に大きな意義がある。このような観点を踏まえ、今後は悪化を防ぎ、適切なケアによって状態を維持・改善する取り組みを進めるべきであると考える。
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要介護度改善への評価例
11ページは東京都の取り組みを参考として紹介している。
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東京都では昨年から「要介護度等改善促進事業」を実施しており、ADL維持等加算を算定している施設に対し、報奨金を交付する制度を導入するという。今年度はまだ開始されていないが、今後こうした促進事業が実施される予定である。
この事業では、要介護度の維持または改善が認められた施設に対し、10万円から20万円程度の報奨金を交付する。詳細な金額は不明であるが、東京都が先行してこうした取り組みを進めている点は注目に値する。
他の自治体でも同様の取り組みを行っている可能性があるが、現状を鑑みると、要介護度を改善したことを評価する仕組みが求められていると考える。報奨金など金銭的な評価を含むさまざまな方法で、改善を促進する考え方への転換が必要である。
介護保険制度が創設されたのは2000年であり、約四半世紀前のことである。当時は、重度の要介護者に対する介助が非常に大変であったため、その支援に重点を置いて財源を配分する方針が採られていた。この方針は当時の状況に適したものであった。しかし、現在では時代が変化しており、介護保険制度の考え方も見直すべき時期に来ている。要介護度が改善された場合に報酬を増やすような仕組みへと転換する必要がある。
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要介護度改善をデザインする
最後に、12ページは「要介護度改善をデザインする」ということで、これまでの説明のまとめである。要介護者を減らし、軽度化することが重要課題であり、事業者、介護従事者のベクトルを合わせるためにも、要介護度改善加算を創設すべきである。
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東京都が実施している「要介護度等改善促進事業」は、改善した際に評価を行う仕組みであり、同様の考え方に基づいている。介護職員の減少は明らかであり、今後その傾向が続くと予測される。このような状況下で介護の質を維持するために、どのような対策を講じるべきかを検討する必要がある。
まずは、介護職員の育成である。そして、要介護者を減少させる仕組みを構築する。介護職員を増やすことも重要だが、要介護者自体を減らすことで介護現場の負担を軽減することができる。要介護者の減少を図ることが最も重要な課題である。
いくら要介護度5や4の利用者を要介護度1や2に改善させても、年齢を重ねると再び要介護度4や5に戻るのではないかという懸念があるかもしれない。確かにそういう面もある。しかし、人は永遠に生きるわけではなく、いずれ亡くなる。その際、亡くなる前の1年間を要介護度5で過ごすよりも、2週間から3週間、あるいは1カ月から2カ月程度の短期間にとどめるほうが、本人にとっても家族にとっても幸せであり、国の財政的負担も軽減される。
理想は、健康な状態を維持したまま突然亡くなる、いわゆる「ピンピンコロリ」である。しかし、全員がそのような理想的な形で亡くなるわけではなく、病気などにより要介護状態が避けられない場合もある。可能な限り健康な状態を長く保ち、要介護状態となる期間を短縮することが重要である。これにより、介護職員の需要も過度に増加することはなく、持続可能な介護体制を構築できると考える。以上である。
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医療と介護の連携は本質的な課題
[矢野諭副会長]
(質疑応答を終えて)今後、記者会見は毎月継続して開催する予定である。毎回さまざまなテーマを取り上げており、橋本会長から斬新なアイデアが数多く提示されている。
本日、十分に説明できなかった点については、今後のテーマとして改めて取り上げる予定である。皆様からいただいたご質問を通じて多くのサジェスチョンをいただいた。その中で、医療と介護の連携については、さらに検討を深めていく必要があると考えている。
特に介護分野におけるリハビリテーションについては、役員会においても重点的に議論を進めていく考えである。医療と介護の連携を図る上で、医療職が介護を理解していない、あるいは介護職が医療を十分に理解していないという課題が指摘されている。このギャップを埋める役割を担うのが慢性期医療の現場である。
その一環として、リハビリマインドを介護職やリハビリ専門外の医師・看護師に浸透させることが慢性期医療の重要な役割であると考える。医療と介護の連携は本質的な課題であり、今後も継続して取り組むべきテーマである。
2月の記者会見で、橋本会長から新たなアイデアが提示されることを楽しみにしている。これにて定例記者会見を終了する。本日は多数のご参加いただき、深く感謝を申し上げる。
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2025年1月10日