広く国民の意見も聞くべきだった ── 多床室の室料負担等で田中常任理事
厚生労働省は12月27日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第237回会合を持ち回りで開催した。当会の田中志子常任理事は多床室の室料負担について「もっと精緻な調査を行い、しっかりとした話し合いをし、パブコメを含めて広く国民の意見も聞くべきだった」との意見を提出した。
田中常任理事ほか、各委員の意見は28日付けで厚労省のホームページ「第237回社会保障審議会介護給付費分科会(持ち回り)資料」に、「意見概要」として掲載された。田中常任理事の意見は以下のとおり。
【田中志子常任理事の意見】
介護報酬については、介護職員、介護職員以外の処遇並びに賃上げに資する部分に大いにご配慮をいただき心からお礼を申し上げたいと思います。
次に今回の介護医療院、介護老人保健施設の一部に多床室料金負担についての議論は、大変突然であり尚且つ性急な議論を求められました。このことについて強く遺憾の念をお伝えしたいと思います。このことは、到底、国民の皆様に理解を得られると考えられませんし、過去に示されたように住民票は自宅にあることが調査からも明らかで、ホテルコストが二重負担になる状況です。さらには介護医療院でも、亡くなる方の割合は、約半数にしかなりません。ご指摘の類型の老健であっても3割の方は死亡以外の転機を辿っております。
繰り返しの主張になりますが、ご利用者の立場を考えて、多床室で室料をご負担いただくには、カーテンや仕切り家具で区切られただけの空間で、特養の多床室とは異なり、わずか8平米という狭い面積の空間であり部屋とみなせるものではなく、倫理的にも室料としてご負担してもらうにはふさわしくない生活環境です。現状から何らサービスが変わらない状況の中で、どのように説明をしたら室料負担増をご利用者やご家族にご納得していただけるのか全く想像もつきません。国はどう説明させるおつもりなのかと不思議でなりません。もっと精緻な調査を行い、しっかりとした話し合いをし、パブコメを含めて広く国民の意見も聞くべきだったと今でも考えています。
これからでも介護医療院と同様に、室料負担を求める以上老健の多床室の仕切り家具導入について補助金で環境を整えるなどの配慮を求めます。
もともと特養は、措置の時代から「終のすみか」として住まいの役割を担っています。このことで平成27年度に室料の議論が進められた違いと経緯をこの分科会でも共有するべきであったのではないかと考えます。
また、ご指摘のように看取りの場でもありますが、老健も介護医療院も設備要件に調剤所をはじめ医療設備を求めており、実際に喀痰吸引やインスリン注射などの医療行為が常態的に行われ、加えて老健の施設長は医師であり、当然介護医療院にも常に医師がおります。言うなれば生活の場であるとともに紛れもない医療の場です。実際に、これら医療行為が伴うことで、特養はじめ他の施設へ退所できない利用者の介護保険を伴った医療の最後の砦でもあり、良質な慢性期医療がなければ日本の医療が成り立たないという当会の理念においても到底受け入れ難いことは重ねて申し上げたいです。
これらの重要な幾つもの理由から生活の場として室料を取ることには引き続き強く抗議すると同時に、これまでの経年の審議会での意見を踏まえているものとは言えないことから、審議会での論点や、意見の整理の際に真偽事項の歴史的背景や、決定プロセスについても丁寧な説明をこれからも実施してくださるようお願いを申し上げます。
2023年12月29日