「多職種配置の視点で根本的な議論を」 ── 改定の基本方針について池端副会長

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TOP_2021年7月29日の医療保険部会(全国都市会館)

 令和4年度の診療報酬改定に向けて基本方針の策定がテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長はコロナによる病床不足などの影響に言及した上で「新興感染症にもしっかり対応できるように余裕を持った配置基準が必要であり、多職種の配置に視点を置いて、令和4年度、あるいは次の同時改定に向けて根本的な議論が必要ではないか」と述べた。

 厚労省は7月29日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第144回会合を一部オンライン形式で開催し、当会からは池端副会長が委員として参加した。

 厚労省は同日の部会に「診療報酬改定の基本方針について(前回の振り返り)」と題する資料を提示。診療報酬が改定されるまでの流れや令和2年度改定の基本方針を紹介した上で、委員の意見を聴いた。
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Photo1_厚労省保険局医療介護連携政策課・山下護課長_2021年7月29日の医療保険部会(全国都市会館)
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部会の役割は「医療政策の方針の決定」

 厚労省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は説明の冒頭、「令和4年度改定を控えている」と伝えた上で、診療報酬改定の流れを紹介。「医療費の総額の決定は内閣、分配の決定は中央社会保険医療協議会、当部会は医療部会とともに医療政策の方針の決定」と説明した。

 その上で、山下課長は「今後、皆さま方との意見交換を通じて、令和4年度の診療報酬改定にあたって、どういう方針で臨むのかをこれから議論いただいて、(基本方針を)作っていくことになるので、よろしくお願いしたい」と意見を求めた。
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スライド1_P2_【資料1】診療報酬改定の基本方針について(前回の振り返り)_2021年7月29日の医療保険部会

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病棟薬剤師や管理栄養士、介護士の評価も

 質疑で、松原謙二委員(日本医師会副会長)は「日本で病床が十分にあるのか、ないのか」と問題提起。「ウイルスや感染症に医学が十分に対応できているわけではない。今後、いろいろなことが起きる。それに対して対応するためには、余裕がなければできないということをご理解いただきたい」と訴えた。

 続いて池端副会長が発言。「日本の医療というのは医師・看護師の配置基準でほぼ決まっている」と指摘し、新たな感染症にも対応できるよう病棟薬剤師や管理栄養士の配置のほか、介護を必要とする高齢患者らのために看護補助者(介護士)などの配置の評価も検討する必要があるとした。

 池端副会長は「そろそろ、日本の病床も多職種の配置をどうやってしっかり置くかということに視点を置いて、もう少し考え直さなければいけないのではないか」と問題提起した。
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都道府県での努力があまり見えてこない

 この日の会合では、「医療費適正化計画の見直し」も議題に挙がった。6年を1期とする同計画の「第4期」が2024年度からスタートすることを見据え、「都道府県医療費適正化計画の課題」が示された。

 この中で、医療費の見込みについて「都道府県単位でPDCA管理を働かせる観点」を挙げ、「算定の考え方や実効性の確保の方法、保険料率等との関係を整理すべきではないか」と指摘した。

 こうした課題を挙げた理由について山下課長は「診療報酬改定で医療費が変わっていくと、都道府県での努力があまり見えてこないという観点もあるので、それをどうしていくのか。また、都道府県の取り組みを踏まえて、医療費と保険料率の関係を整理すべきではないか」と説明した。
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スライド2_P15_【資料2】医療費適正化計画の見直しについて_2021年7月29日の医療保険部会

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フリーアクセスが損なわれないように

 質疑で、池端副会長は「日本が一番世界に誇れるフリーアクセスが損なわれないような形での適正化を考え、国民の健康保持・向上が一番の目標だということを明確に意識しながら、この適正化計画を進めていくべき」と述べた。

 このほか、同日の部会では「保健事業における事業主健診情報の活用」、「今後のNDB」なども議題となった。

 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。
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Photo2_2021年7月29日の医療保険部会(全国都市会館)

■ 診療報酬改定の基本方針について
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 2点、お話しさせていただきたい。松原委員のお話とかぶるところもある。まず病床の件。コロナ禍において日本の医療の病床数はある程度は数があるというお話があったが、一方で、当初言われていた、なぜ、これだけ頑固にコロナに対応できないのかというご批判をいただいたという経緯がある。
 その大きな理由の1つは、数はあるが、その中身、体制の問題。医師、看護師等の数の上では欧米のような急性期医療としての数とは大きな違いがある。日本の病床というのは急性期だけではなくて回復期、慢性期を合わせた病床の数であり、しかも、配置基準で言えば、例えば看護配置基準では7対1が最高になっている。ギリギリの配置基準であり、なおかつ、場合によっては今回のコロナ下で重症の患者をみようとすれば、1人の患者に対して2人、3人、4人というような看護師等の人数を配置しなければいけない。このような状況では対応が難しいのは当然のこと。
 その辺も含めて、これからの新興感染症にもしっかり対応できるように、ある程度の余裕が必要である。余裕を持った配置基準が必要ではないかと考えている。
 一方で、働き方改革を進めなければいけない。今、日本の医療というのは病床に対しては医師・看護師の配置基準でほぼ決まっている。そのほかは、看護補助者、薬剤師や管理栄養士を配置するか、しないかということになっている。
 そろそろ、日本の病床も多職種の配置をどうやってしっかり置くかということに視点を置いて、もう少し考え直さなければいけないのではないか。そういう意味で、多職種の配置をきちんとした、どんなときにも対応できる病床がどれぐらい必要かを検討しながら、令和4年度、あるいは次の同時改定に向けて根本的な議論も一方では必要ではないかと思う。
 それは、多職種の配置である。医師や看護師だけではなく、特に病院では病棟薬剤師や管理栄養士、そして、看護補助者という名であるが、看護師以外の介護士も必要になる。
 今回のコロナ禍で一番大変であったのは、高齢者が重症化した場合の介護の手間である。これを看護師が全てやるということは非常に大変だったということもある。
 そろそろ、病院における介護をどうするかという問題にも手をつけていかなければいけないのではないかという気がしている。
 2点目は、オンライン診療について。アクセスの良さということを考えると、今回のコロナ禍で、やはり一定の利便性は高いと思う。
 ただし、オンライン診療はあくまでも対面診療の補完的な役割ということを逸脱してはいけないと思う。例えば、ずっと続いている医療保険部会のこういうWEBでの会議。なんとなく、やっぱり物足らなさを感じることがある。
 診療で言えば、患者さんの顔色、声の調子、歩き方など、全てを見て診療というものがなされる。そういう対面の診療の重要さを補完するためのオンライン診療である。アクセスを良くするということに対しては私も賛成だが、あくまでも補完的な役割であるということを逸脱してはいけない。

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■ 医療費適正化計画の見直しについて
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 世界に冠たる日本の医療保険制度を維持するために、医療費適正化計画が必要だということに対しては、おそらく保険者側、被保険者側、そして国民も総論としては賛成することではないかと思っている。
 ただ、その手法として、資料15ページ(都道府県医療費適正化計画の課題)に挙げている項目について、少し気になる点を述べたい。 
 私は都道府県単位で適正化を行うことに対して反対するものではないが、この「課題」の3番目に「医療費見込みについては、都道府県単位でPDCA管理を働かせる観点から、算定の考え方や実効性の確保の方法、保険料率等との関係を整理すべきではないか」とある。医療費の目標設定を数字で落とし込もうとすると、医療費目標が達成できなければ、最終的には「都道府県単位で1点単価を変えてしまおう」というような拙速な議論になる。これに対しては、明確に反対をさせていただきたいと思う。
 また、こうした適正化に寄与するために保険者として努力していただくことに対してはもちろん反対するものではないが、一方で、それも進んでいくと、例えば、「保険者の言うとおりになるような医療機関を指定しよう」というような、欧米でみられるシステムを考えられると、これもまた本末転倒だと思う。
 日本の医療はあくまでもフリーアクセスである。日本が一番世界に誇れるフリーアクセスが損なわれないような形での適正化ということを考えて、本末転倒にならないように、そして、国民の健康保持・向上が一番の目標だということを明確に意識しながら、この適正化計画を進めていくべきではないか。

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■ 事業主健診情報の活用について
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 保健事業における事業主健診情報の活用を促進するために、40歳未満にも適用することについては診療する側として賛成したい。特にこの年代は健康について自信があり、あまり頓着しない。例えば、産業医健診等を受けてから受診を勧められても1年ぐらい放っておくという人も結構いらっしゃる。そのため、40歳未満の方々のデータがオンライン資格確認システムを経由して医療機関でも常に見られるようになると、診療所にもメリットがあると思う。
 今後、40歳未満の健診情報のデータが医療機関で見られるようになったとして、本人の同意は不要とのことだが、個人の情報が事業者から保険者に、そして医療機関でもマイナンバーカードを通して見られることに対する周知が必要ではないかと思う。周知するということについて事務局にお伺いしたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・山下護課長】
 本人の同意なく事業主健診の情報が届くのは事業主健診を行った事業主から、その事業主の加入する保険者のほうだけである。それらの情報は、まさに保険者としてどういうふうに使っていくのかという利用目的をしっかりと伝えるということが今、私が資料で説明したとおり、個人情報保護法上の規定にもとづいて、それをしていただくということである。周知は厚生労働省とともに、その情報を得ようとする保険者も一緒に行う。
 あわせて、それらの情報が保険者に入って、将来、オンライン資格確認のシステムに、この事業主健診の情報も入ってくると、マイナンバーカードを使って受診する際に、本人が、その都度、同意をして自分の信頼する医療機関に共有するので、医療機関で見る際には、本人が同意をした場合にのみ見ることができる。
 事業主健診の情報を医療機関でも活用していただくためには、本人に知っていただかないと使っていただけないので、さまざまなルートで周知していきたい。

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■ 今後のNDBについて
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 NDBのデータも含めて、ビッグデータの利活用が進んでいくことに対しては、私も大いに賛成したい。さらなる発展を期待したい。
 ただ、NDBと介護DB、さらにDPCのデータを活用できるのであれば、高齢者の在宅医療などに対する評価をする場合に、KDB(国保データベース)のデータの利活用も視野に入れていかなければいけないのではないかと思う。
 KDBデータの匿名化は非常に難しいと聞いているが、その後の進捗状況はどうだろうか。2年前、私はKDBデータの利活用の必要性について当部会で発言させていただき、「前向きに検討」というようなお答えであった。その後、KDBの利活用についての進捗状況等が分かれば教えていただきたい。むしろ原委員にお聞きしたほうがいいかもしれない。

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【原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)】
 NDBとKDBは基本的な違いがある。事務局から説明があったたように、NDBはあくまで匿名データである。個人が特定できないことが特徴で、その範囲内で研究や政策立案に活用していくものと理解している。
 一方で、KDBは顕名データであり、これは市町村国保、後期高齢者医療広域連合から依頼を受け、私どもが、それぞれにおける保険事業を展開していく上で活用してもらうためのデータである。
 生涯を通じた健康づくり、あるいは家族単位で顕名データを見られるようにしたほうがよいのではないかという意見もある。将来的な方向性としてはそういうことだが、現時点では、直接結びつけるということはまだできていない。
 私どもKDB側から言えば、市町村国保や後期高齢者医療広域連合でKDBを研究目的で活用する場合に、匿名データであるNDBデータというものをそれに合わせて活用できないだろうか。例えば、市町村のいろいろな健診などのデータを保健指導とか、その地域の被用者保険の匿名データではあるが、例えば、受診率の程度がどうなっているかを比較してみるなど、そういったNDBを活用したKDBによる保健事業の樹立というものがこれからできるのではないかということで、内部でいろいろ検討しているところである。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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