「病院の収益構造を変えるような政策も」 ── 定額負担の拡大で池端副会長、「合わせ技で」

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00_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_201126_医療保険部会

 大病院への患者集中を防ぐために定額負担の拡大を検討している厚生労働省の会議で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「北風政策だけではなかなか進まない」とした上で、「病院の収益構造を変えるような政策も進める必要がある。外来を手放して入院に特化するような転換誘導策も合わせ技で検討してはどうか」と提案した。

 厚労省は11月26日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第135回会合を都内で開き、前回に引き続き定額負担の拡大などを審議した。当会からは池端副会長が会場で出席し、一部の委員はオンラインで参加した。
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01_201126_医療保険部会
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「紹介患者への外来を基本とする医療機関」

 厚労省は同日の会合に、前回の資料を修正した上で提示。定額負担の拡大対象となる病院について、「紹介患者への外来を基本とする医療機関」と表記した。

 厚労省保険局保険課の姫野泰啓課長は、「前回はこの括弧内にあるように『医療資源を重点的に活用する外来』(仮称)を地域で基幹的に担う医療機関という形で表記していたが、より分かりやすく、新たに『紹介患者への外来を基本とする医療機関』という形で表記させていただいた」と説明した。

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スライド01_P2_【資料2】定額負担の拡大について_20201125医療保険部会

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まだまだ外来を手放せない

 池端副会長は「明確になった。これに賛成したい」と表記の変更は承認したが、定額負担の対象病院を拡大する方法で集中を防ぐ施策に対しては「このスキームではなかなか進まない」との認識を示した。

 池端副会長は「医師の働き方改革が進められる中で、一定規模以上の病院は入院に特化したいという思いはあるが、病院の収益構造を考えると、まだまだ外来を手放せない。大学病院でも、外来患者によってなんとか収支を合わせている面がある」と説明し、「病院の収入構造を変えるような政策も進める『合わせ技』にしないと進まないのではないか」と述べた。

 この日の会合では後期高齢者の窓口負担もテーマになり、池端副会長は「凍結することも視野に入れながら、実施時期については慎重に検討すべき」と改めて慎重な姿勢を示した。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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02_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_201126_医療保険部会

■ 後期高齢者の窓口負担について
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〇池端幸彦副会長
 まず1つ質問したい。気になっているのはタイムスケジュールである。今年中に取りまとめをして来年の国会を経て2022年4月から実施というスケジュールを想定しているのか。
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〇厚労省保険局高齢者医療課・本後健課長
 全世代型社会保障検討会議の中間報告に「2022年度初までに改革を実施できるよう」との記載があるので、その趣旨を踏まえて時期を検討していく。
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スライド02_中間報告P10

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〇池端幸彦副会長
 先ほどからの議論にもあるように、今回ご提案のような窓口負担の引き上げを実施したとしても、現役世代の負担軽減効果はさほど大きくない。先ほど松原委員がおっしゃったように、わずかな軽減効果の一方で、お年寄りの不安は高まる。
 私が特に心配するのは、受診抑制である。窓口負担が2倍になった場合に受診抑制につながる可能性が高いので、もう少し丁寧に検討して、配慮措置の対象にならない4割の方々に対しても段階的な負担軽減策ができるような方向で進めるべきである。そうしないと、受診抑制を増やしてしまう。
 新型コロナの感染が今後どうなるのか分からない状況である。そのため、凍結することも視野に入れながら、実施時期については慎重に検討するべきではないか。たとえ改革プランをまとめたとしても、実施については十分な配慮が必要である。現時点におけるスキームに関して、慎重の上に慎重を期すべきであり、少なくとも一般区分まで対象範囲を広げることには反対したい。
 2022年度初めに実施することになった場合、窓口負担が2倍になる6割の方々に対して配慮措置を実施する方針が前回会合で示された。しかし、逆に言えば4割の方々には配慮措置がない。この4割はどのような方々なのか、ご説明いただきたい。

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〇厚労省保険局高齢者医療課・本後健課長
 参考資料の9ページ(配慮措置の考え方案)をご覧いただきたい。前回示した考え方を改めて載せている。この配慮措置は、1割負担の時と比べて負担の増加額を最大で4,500円以内に抑えるという仕組みにしている。
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スライド03_P9抜粋_【参考資料】議題に関する参考資料_20201125医療保険部会

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 配慮措置の対象にならない4割はどこにおられる方々かと言うと、グラフの左側の総医療費「45,000円」の所、自己負担1割の場合に4,500円を下回る方々については、2割になっても負担の増加額が4,500円にいかないので配慮措置の対象にならない。また、右側の総医療費「135,000円」の所で、2割負担になると月額上限の18,000円に突き当たるので、ここも1カ月の増加額が4,500円に満たないということで配慮措置の対象にはならない。従って、配慮措置になるのは、その間に該当する自己負担の方々6割であり、グラフ左側と右側に該当する方々が4割である。

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〇池端幸彦副会長
 左側の4,500円以下になる方々はどれくらいの割合か。
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〇厚労省保険局高齢者医療課・本後健課長
 参考資料12ページ(配慮措置の対象者となる者の割合等)をご覧いただきたい。
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スライド04_P12抜粋_【参考資料】議題に関する参考資料_20201125医療保険部会

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 配慮措置の対象となる月がある者は、いずれかの受診月の負担増加額が4,500円超である。この方々をカウントすると約60%になる。従って、40%の方々は、いずれかの受診月でも4,500円を上回らない方々である。

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■ 受診時の定額負担の拡大について
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〇池端幸彦副会長
 定額負担の拡大対象となる病院について、前回会合では「『医療資源を重点的に活用する外来』(仮称)を地域で基幹的に担う医療機関」としていたが、今回、新たに「紹介患者への外来を基本とする医療機関」との表記になり、明確になった。これに賛成したいと思うが、1つ確認したい。
 「紹介患者への外来を基本とする医療機関」について、「地域の実情を踏まえつつ、明確化する」とあるが、これは地域医療構想調整会議などで協議の上で決めた場合であり、あくまでも手挙げした医療機関がここに入るということだろうか。あるいは一定の基準に基づいて強制的に「紹介患者への外来を基本とする医療機関」とされるのだろうか。

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〇厚労省保険局保険課・姫野泰啓課長
 この点については現在、医療部会で議論されている。手挙げを前提に議論されていると承知している。
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〇池端幸彦副会長
 それを踏まえて意見を申し上げる。資料3ページに、定額負担の増額と公的医療保険の負担軽減についての案が示されている。また、4ページには定額負担を徴収しない場合の要件(除外要件)の見直しについて提案がなされている。私は、このスキームではなかなか進まないと考える。
 なぜ進まないのか。病院は経営しなければいけない。この会議には経済界の方も多く参加しておられるのでご理解いただけると思うが、経営努力する場合に人員を削減したり価格を見直したりICT化を進めたりする。
 その中で、価格の見直しについては、皆さんご承知のとおり診療報酬は公定価格であり、さらに人員については施設基準などで厳しく規定されている。患者が多くても少なくても一定の人員を確保しておかなければ病院の運営が成り立たない仕組みになっている。
 こうした制限のある中で、非常に厳しい運営をしている。入院医療だけではなく外来医療の収入も原資になっている。どの程度の外来収入が運営に必要な状況になっているかを調べていただいてもいいと思うが、外来の収益に依存している病院が一定数ある。これを十分に精査していただく必要がある。
 北風政策だけでは、なかなか進まない。大病院への患者集中を防ぐために今回の提案がなされているが、実は一定規模以上の大きな病院は入院に特化したいという気持ちがある。医師の働き方改革が進められる中で、入院医療に特化したいという思いはありながらも、病院の収益構造を考えると、まだまだ外来を手放せない。大きな大学病院でも、外来患者によってなんとか収支を合わせている面がある。
 従って、病院の収益構造を変えるような政策も進める「合わせ技」にしないと、大病院への患者集中を防ぐ施策はなかなか進まないのではないかと思う。
 例えば、例が適切かどうかは分からないが、介護報酬では介護医療院への移行を促進するための誘導策として移行定着支援加算がつくられた。
 これは中医協マターかもしれないが、診療報酬でも、外来を手放して入院に特化するような転換誘導策も合わせ技で検討し、収益構造の改革を進めてはどうか。そして、病院が入院に特化した形で運営できるようにして、全体的に効率の良い病診連携が進むような体制を構築してはどうか。やや大きな話かもしれないが、こうしたことも考えながら対応してはどうか。「大きな病院に行かせないようにしよう」というだけでは、なかなか難しいのではないかと思うので、こうした考え方についてもご検討いただきたい。

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■ 育児休業中の保険料免除について
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〇池端幸彦副会長
 今回、1カ月以下の育休取得に関する保険料免除の方向性(案)が示された。その中で、「月の半分にあたる2週間以上の育休取得を保険料免除の基準としてはどうか」との提案がある。この「2週間以上」について、1つ質問したい。
 賞与保険料については、「連続して1ヶ月超の育休取得者に限り、賞与保険料の免除対象としてはどうか」としており、「連続して」とある。一方、1カ月以下の育休取得に関する保険料免除については、「連続して」という記載がないので、連続しない2週間以上の育休取得でもこれを満たすという考え方でよろしいのか。私はそのほうが柔軟性という意味でいいと思うが、これについて質問したい。

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〇厚労省保険局保険課・姫野泰啓課長
 この点については、「(同月内に取得した育児休業及び新たな仕組みによる休業等は)通算して(育休期間の算定に含める)」としており、連続しなくても構わないという考え方である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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