「非常に恐ろしい状況が想定される」 ── 5月23日の定例会見で武久会長

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武久洋三会長_20190523定例記者会見

 日本慢性期医療協会は5月23日、「生き残る病院を目指そう」をテーマに、令和元年最初の定例記者会見を開きました。会見で武久洋三会長は、高齢者が増加しているのに今後の受療率は大幅に低下するとのデータを示した上で、「日本の病院の経営状況がどんどん悪化している。今後、非常に恐ろしい状況が想定される」と危惧。過疎地などの医療・介護サービスを維持するため、「1病床500万円程度の補助金を考慮してはどうか」と改めて主張しました。

 武久会長は同日の会見で、北海道や大阪、岡山などでの医療・介護需要の予測を示し、「(病床稼働率が)62%や43%の病院が将来、残り得るかどうかというと非常に厳しい。人口10万人前後の中堅都市で、10年、20年後の厳しい医療・介護需要がはっきりしてきた」と指摘。「地方部は人口減少が激しい。M&Aが成立せずに倒産してなくなってしまうケースや、経営譲渡したくても、どこの病院も見向きもしないケースが増えてきた」と現状を説明しました。

 その上で武久会長は、「医療過疎が起こっている地方自治体には補助金を出して、何らかの対策を講じるべきではないか。病院は、民間といえども国策医療であり、公的医療保険で運営されている。社会的要因で病床を減少させるときには、1病床500万円程度の補助金を、農業の減反政策と同じように減床の『減反(床)政策』として考慮してはどうだろうか」と提案しました。

 以下、会見の模様をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページに掲載されておりますので、ご参照ください。

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受療率が低下し、非常に恐ろしい状況が想定される

[武久洋三会長]
 皆さんもお気付きだと思うが、日本の病院の経営状況がどんどん悪化しているのが現状である。なぜ、そうなっているのか。今後どうなるか。

 われわれ日本慢性期医療協会としては、こうした状況を早期に認識して対応しなければいけないと考えている。先ほど開いた当協会の常任理事会では、この問題についても話し合いを行った。

 2ページ。これは本日の第77回介護保険部会に出された資料である。2030年ごろまでは75歳以上の人口がどんどん増え、85歳以上の人口は2035年を境に減っていく傾向にある。

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 3ページ。これは4月10日の中医協に出された資料である。高齢者はどんどん増えているにもかかわらず、65歳以上で入院・外来等の受療率が低下してきている。入院も65歳以上はどんどん下がってきており、外来も同じような勾配になっている。

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 4ページは、入院の勾配をこのまま延長した図を仮定して書いてみた。このとおりになることはないと思うが、今後、非常に恐ろしい状況が想定される。

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 5ページ。外来も同じようなことが言えるのではないか。

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病床利用率の低下が止まらない

 高齢者がどんどん増えていくのに、なぜ入院も外来も利用者が減っているのか。平均在院日数を見ると、一般病床で12~13年の間に3.6日短くなっており、療養病床では20日ほど短くなっている。

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 病床利用率の推移を見ると、全体的に利用率が低下してマイナスになっている。高齢の患者さんはどんどん増えているが、平均在院日数の短縮という要素がより大きい。

 療養病床でみても、患者は増えているのに平均在院日数短縮の割合のほうが高くて、利用率の低下が止まらない状況にある。

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公立病院の病床利用率は上がる

 一方、公立の145病院の将来見込として出されている資料を集計すると、2015年から20年までの間で、病床利用率が80%近く上がると推定されている。

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 病床高回転化の流れで利用率の維持は難しいにもかかわらず、新公立病院改革プランでは伸び続けることを目指している。理解しがたい話だ。

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公立病院の2025年度の病床数がほとんど減らない

 8ページは、5月17日付の日本経済新聞の抜粋である。それによると、「公立病院の2025年度の病床数が現在からほとんど減らない計画であることが分かった」としている。

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 急性期の病床数は、17年度に比べて5%減。要するに8年経っても5%ぐらいしか減らないということだ。急性期の病床数は25年度に10万8,568床で、長い治療が必要な慢性期なども含めて全体の病床数は17万床と、ほとんど横ばいであるという。

 「さしたる議論もなく合意されている」「形骸化しているのでは」ということで、16日の有識者会議では、参加者から落胆の声が相次いだという。また、「公立病院の再編をめぐっては、首長選挙などで政治問題になりやすく進みにくいとの指摘が以前から出ていた」という。

 厚労省はこれに対して、いろいろ言いたいことがあるようだが、公立病院のほかに日本赤十字などの公的病院を対象に、地域に欠かせないがん診療や救急などの実績を個別に検証して、他の病院でも代替可能と分析されれば、「再編統合について議論が必要な病院」と位置付けると言っているし、分析結果はこの夏までに公表して、再編や統合も含めた抜本的な見直しを迫るという。

 結局、公立病院側から言うと、先ほどの7ページのような希望的観測で予想を立てており、またベッド数もほとんど減らないとしているが、「公立病院の将来像が固まらなければ、他の民間病院の病床削減も足踏みする。公立病院の再編が進むかどうかは地域医療構想の成否を左右する」と指摘している。

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稼働率が悪い病院、20年後の存在は非常に厳しい

 地域により、医療需要ピークの時期が大きく異なる。小樽市の医療・介護需要の予測を見ると、2015年から65年まで、直線的に医療保険の需要が減ってきている。20年後の2040年には医療需要が30%減少する。すなわち、534億円から357億円と、200億円近い減収が想定されている。

 そこで、小樽市の病院について調べてみた。

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 A病院からP病院まである。ここではっきりすることは、F病院とG病院の間には約10%の大きな差がある。F病院から上は92%以上の病院の稼働率を示しているが、G病院以下は83%から下は60%までの2段階となって、かなり稼働率が悪い病院があることが分かる。
 
 これらの病院が10年後、20年後に存在しているかどうかというと、非常に厳しいと言わざるを得ない。

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人口10万人前後の中堅都市で厳しい状況

 厳しい状況は、北海道のような地方だけではない。大阪市の隣の門真市。パナソニックの本社がある所だが、ここも同じように、やはり2040年には医療需要が22%も下がっている。2040年までの20年間で、489億円が130億円ぐらい減って360億円になる。

 門真市にある病院はA、B、C、D、Eと5つ。周辺にもたくさんあるが、D、E病院とC病院との間で稼働率の落差がかなりはっきりしている。

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 一方、地方都市の岡山県玉野市を見ると、ここも同じように2040年に医療需要が22%ぐらい下がる。医療保険の合計は260億円から199億円と、60億円以上減少する。

 16ページは、岡山県玉野市にある病院の稼働率。これを見てもD病院の81.6%まではなんとかなるが、その下は62%や43%で、これらの病院が将来、残り得るかどうかというと非常に厳しい。

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 全体になんとなく人が減っていく。厳しい状況にある。具体的には、人口10万人前後の中堅都市で、10年、20年後の厳しい医療・介護需要がはっきりしてきた。

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60%台の病院が10年後、20年後に存在しているか

 当院は徳島県にあるため、徳島県南部の状況を見てみた。やはり33%くらい、今よりも医療需要が減っていく。18ページのブルーのラインが医療保険だが、2040年までに21%減っていく。介護保険でも減っていく。

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 19ページが病院の稼働率の具体的なデータ。真ん中にあるG病院が71%である。

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 ここから上は20%の差があるため、上のF病院まではいけるが、G病院を真ん中として、H病院から下、60%台の病院が果たして10年後、20年後に存在しているかどうか。非常に厳しい状況が現実問題としてある。

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過疎化が進めば、座して死を待つのみ

 地方部は人口減少が激しい。M&Aが成立せずに倒産してなくなってしまうケースや、どこの病院も見向きもしないケースが増えてきた。

 人がいなくなれば病院も減り、医師もいなくなる。医師がいない所に人間は住めなくなる。医療過疎が起こっている地方自治体には補助金を出して、何らかの対策を講じるべきではないか。

 病院は、民間といえども国策医療であり、公的医療保険で運営されている。社会的要因で病床を減少させるときには、1病床500万円程度の補助金を、農業の減反政策と同じように減床の「減反(床)政策」として考慮してはどうだろうか。

 人が住んでいる所には、医師が必ず必要である。医師になってから40歳までの間に、最低2年間はへき地勤務を義務付ける時期が来ているのではないか。

 地方の場所にある病院や介護施設はそこから動けないから、過疎化がどんどん進めば、そのままでは座して死を待つのみではないか。

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住居の近くに適正に配置する責務がある

 国民は等しく医療や介護の保険料を払っている。すなわち、国民健康保険や介護保険料を払っているのに、医療や介護サービスが自分の住んでいる周辺にないために利用できないことは不公平ではないか。

 国は、地方であっても、医療や介護の被保険者に入院、入所や通所、訪問などのサービスを住居の近くに適正に配置する責務があるのではないか。

 10年、20年先のことだと思って無策でよいのであろうかという疑問が起こる。今がターニングポイントであるとは思わないか。

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全国で非常に厳しい状況がある

 先ほどの日慢協の常任理事会でも、このお話をしたところ、全員このリスクを共有していただいた。こういうことが全国で起こっているということは、理事の皆さんの共通認識である。

 具体的な病床の稼働率等を調べると、全国で非常に厳しい状況がある。これから5年、10年、20年の間に日本の病院、診療、医療がどう変わっていくか。目が離せない状況である。

 急性期病床の削減が進められているが、高齢の慢性期患者はどんどん増えている。7対1病棟に入院している患者さんの平均年齢が70歳になった。

 これは産婦人科や小児科を入れての平均年齢である。地域包括ケア病棟における入院患者の平均年齢は79歳。このように高齢者医療が非常に進んでいるにもかかわらず、臓器別専門医をどんどん増やしている。

 しかし、高齢者はいろいろな臓器が悪いのだから、総合診療能力のある医師がいてくれなければ非常に厳しくなると思っている。

 以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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