慢性期医療におけるチーム医療とは

役員メッセージ

 2. 「事件は現場で起きる」 岡村正夫氏(新潟県・三条東病院薬剤長)

 三条東病院は240床の療養型病院である。薬剤師は薬剤長を含めて3名であり、基本業務だけでも多忙な現場である。院長の方針で、ナースステーションをスタッフルームという呼び方に位置付けており、患者担当はすべての職種に反映している。各職種は各部署ではなく、スタッフルームで仕事をしている。この中で「事件は現場で起きる」というチームの意識が非常に強い病院であると自負している。

 ここでは薬局にインターネットサーバーを置き、さまざまな現場を薬局から眺望できる環境を整備して、有効に稼働している。薬剤部門がチーム医療の中心として牽引役を担い、達成した成果を発表していただいた。
 
 日常業務におけるチームと実践例を抜粋して紹介する。

 ・ 疥癬と薬:自院で起きた院内感染・職員感染を事例に挙げ、感染症に対する取り組みを紹介した。情報共有の重要性と疥癬の感染予防の具体的な対策を薬剤部が中心となり、院内に徹底された。

 ・ 病衣と点滴のルートトラブル:拘縮がひどく袖通しが大変な患者様に対して、病衣の改善に着手した。介護職員の意見を取り入れて、特殊な病衣を独自に考案し浜松大会で発表された。

 ・ 膀胱留置カテーテル:紫色尿バッグ症候群(PUBS)の発生に対応し、病棟の汚れの現われと捉え作業手順・手指消毒を見直すきっかけとした。

 ・ その他:「pHに着目したスキントラブルへの取り組み」「ノロウィルスへの対応」など、チームでの取り組みによる成果は大きい。

 病棟で生じる諸問題に対して積極的に取り組み、問題の原因探索から始め、具体的な解決法の模索を薬局がリーダーとなって多職種に展開している様子が伝わってきた。既成概念に捕らわれず、何よりスピード感を大切にしている。委員会で解決できない事例でも、病棟の小さなチームが解決の糸口を掴んでいる可能性を指摘している。

 病棟薬剤師の今後のあり方として、課題を共有し多職種と協働して目標達成のために事例を記録に残していく。結果は外部への発表や報告によって職員のモチベーションを高めることが重要と考え、実際に学会で発表されている。毎日の高齢者医療は患者中心のチーム医療とケアの実戦であることを実感させる内容であった。

3. 「在宅介護スコアを活用して」 小林裕恵氏(島根県・鹿島病院社会福祉士)

 鹿島病院は特殊疾患病棟60床を含め180床で、リハビリから人工呼吸器装着まで医療ニーズの高い患者様を受け入れ、終末期医療にも重点を置いている。在宅サービス部門が併設され、地域介護サービスの拠点ともなっている。病院・施設・行政と交流を深め、保健所を巻き込み、圏域病院間共通の情報提供書を作成したり、他施設とのチーム活動が盛んな病院である。今回は平成16年から記録している「在宅介護スコア」(以下、スコア)から自宅退院支援の要因は何かを分析し、発表された。

 スコアは平成10年、旧厚生省が作成したもので、チーム医療を行う各担当職種が患者情報に共通の認識を持つために有効な道具であると考え取り入れた。入院時と退院時にスコアをつけ、入院判定会議や病院のカンファレンスにも活用される。平成21年度の1年間に医療療養病床に入院した患者190名を対象に、自宅退院・施設入所の患者様のスコアを分析した。16項目の点数を合計した22点満点の評価スコアで、在宅介護の可能性と困難等を評価した。

 今回ボーダーラインとされる11点以下でも44%の方が自宅退院されていることがわかり、8点以上で自宅退院の可能性があると判断されている。項目ではADLや医療処置の改善・患者や家族の意欲が自宅退院に大きく影響しているため、医師・看護師・介護士・リハビリ・MSWやケアマネなどがチームとして連携してはじめて、患者様や家族の意欲を引き出し、自宅退院を促進できたのではと考察している。

 現場では、入院時のスコアを多職種チームが共有し、在宅に向けての具体的な方法を考え、家族の持っている力を引き出すアプローチに努力された。医療だけでなく生活面のニーズ、メンタルな支援や住み慣れた環境など、さまざまなニーズを持つ患者様の退院支援をしていくためには、多職種チームによる関わりが非常に重要であり、情報が共有されて初めて目標に向けて各職種の足並みが揃う。

 スコアは各職種が患者様の生活全体について考えるきっかけとなり、そこからチーム全体での支援が可能になることが多い。慢性期医療を担当するMSWとして、このスコアをさらに活用し、患者の生活全体に目を向けた支援を行っていきたいと話を締めくくった。

 4. 「チーム医療における管理栄養士の役割」 倉本悦子氏(徳島県・博愛記念病院管理栄養部課長)

 博愛記念病院では、歯茎でも食べられる咀嚼調整食、むせる方に対する嚥下調整食を開発導入し、そのほか、経管栄養の工夫や脱水・電解質の補正目的でのさまざまな工夫を紹介された。

 管理栄養士はいろいろな委員会の一員としてチーム医療に関わるが、その中で診療適正化委員会という特殊な会議についての報告があった。診療適正化委員会とは、安全で安心な医療を提供するため、適正な医療が提供されているか客観的に評価し検討する委員会である。週1回開催し、構成員は看護師・薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士。入院時の情報を用いて、各職種の視点からの指摘を行い、委員会議事録に記載するというもの。

 具体的には新入院患者の状態チェック、臨床検査技師による治療パスに沿った治療が行われているかのチェック、薬剤師による投薬内容のチェック、管理栄養士や薬剤師によるカロリー不足の是正、管理栄養士による適正な食事療法がなされているかのチェックが主な内容だ。そして内容に問題がある場合は、主治医に提案していく。

 検査結果をもとに経過を追い、改善があれば投薬や食事療法の変更を進言もする。詰所担当の管理栄養士は、診療適正化委員会より渡されたデータをもとに、プランと問題点をまとめた上で多職種による回診に参加し、その場で主治医に提案するというもの。

 多職種に伝えるためのツールは、栄養管理マニュアルの配布。電子カルテでは、栄養管理の実施記録を多職種が閲覧できる医療記録に入力しており、こちらでも多職種間における情報の共有化・記録内容の標準化を目指している。

 今後この専門性を活かして、管理栄養士がチーム医療の一員としての役割を果たしていくためには、患者の病態を理解し、食事形態の工夫や栄養投与方法、食材の適切な選択を実施すること、そして、患者の日々の摂取量の状況の把握により、適切な対応をいち早く行えること、退院後も継続した栄養状態の把握に取り組んでいくことが大切であるとの発表であった。
 

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