日本介護医療院協会「2024年度調査」の結果を公表 ── 10月10日の定例会見
日本慢性期医療協会は10月10日、介護医療院をテーマに定例記者会見を開き、日本介護医療院協会の鈴木龍太会長が2024年度調査結果を報告した。同調査で寄せられた要介護度に関する要望を踏まえ、日慢協の橋本康子会長が今後の対応案などを示した。
介護医療院に関する調査結果では、多くの施設で稼働率が90%を超えており、経営面でも約45%が収益を増加させている。介護医療院への移行に関する評価については、多くの施設が「良かった」と回答。調査を開始した2019年以降で最も高い73.8%となった。「悪かった」と回答したⅠ型施設はなく、Ⅱ型では2施設にとどまった。鈴木会長は「新しい制度である介護医療院は成功であった。医療が必要な重度要介護者の最後の砦となっている」と評価した。
一方で、課題も見られた。自由記載欄に寄せられた意見では、医療行為が増えているにもかかわらず、介護報酬における包括評価のため「算定できない医療行為が多く、経営が困難」という声があった。また、入所時の要介護度が低いままで医療や看取りを行うことがあり、要介護度が高くならないと収益に影響が出るという「アンマッチ」の是正を求める声もあった。
入所時の要介護度が実態を反映していないため生じる「アンマッチ」について、橋本会長が具体的に解説。救急搬送を経て介護医療院に入所するまでの間に要介護度の見直しがなされないため、要介護度1・2の入所者が短期間で死亡退所しているデータを紹介し、実態を踏まえた評価の必要性を指摘した。
最後に、「第32回日本慢性期医療学会」の学会長を務める矢野諭副会長がシンポジウムの概要などを紹介した。学会は11月14日・15日にパシフィコ横浜ノースで開催され、第12回慢性期リハビリテーション学会も同時開催される。ランチョンセミナーでは、武久洋三名誉会長の講演も予定されている。矢野副会長は、多くの参加者が学会場に集い、「慢性期医療の真髄に触れていただきたい」と参加を呼び掛けた。
会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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介護医療院の開設状況等について
[矢野諭副会長]
定刻となったので、ただいまより、日本慢性期医療協会10月の定例記者会見を開催する。本日のテーマは介護医療院である。はじめに、日本介護医療院協会会長である鈴木龍太先生から説明していただく。
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[鈴木龍太会長]
当会では、毎年すべての介護医療院を対象にアンケート調査を実施しており、おおむね、この時期に記者会見でその結果を発表している。来月開催される日本慢性期医療学会でも発表予定であるが、本日はその内容の一部を抜粋してご紹介したい。
まず、介護医療院の開設状況について。介護医療院は、厚生労働省が発表した2024年4月1日時点で、926施設、53,183床に達している。
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2023年12月からの3カ月間で急速な増加が見られた。この期間中、施設数は110施設、介護療養病床数は2,634床増加した。内訳としては、Ⅰ型が71%、Ⅱ型が29%となっている。
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介護医療院への移行元となっている施設は何か。グレーの折れ線グラフは介護療養病床を示しているが、介護療養病床が廃止されるということで、最後の駆け込みで大きく増加している。
緑の棒グラフは医療療養病床1および2から移行したものであり、ここでも1,000床以上の増加が見られ、合計で6,739床となっている。
黄色の棒グラフは医療療養25対1の経過措置病床を示している。増加は見られず、1,727床にとどまっている。
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このグラフでは、赤い棒グラフが新設の介護医療院を示している。新設は急激に増加しており、現在では2,257床となっている。直近3カ月で422床、1年で1,126床の増加が見られる。
緑色の棒グラフは、従来型の介護老人保健施設からの移行を示しており、こちらも大幅に増加している。現在は1,390床に達している。
黄色の棒グラフは一般病床からの移行を示しており、こちらも徐々に増加しており、今回も大きな増加が見られた。
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まとめると、介護医療院の開設状況は、全国で926施設、53,183床である。介護療養病床数は2,634床増加し、33,724床となったが、2017年時点では介護療養病床が5万床存在していたため、約1.7万床が別の道を選んだと言える。なお、介護療養病床はすでに廃止されている。
経過措置病床は1,727床である。これは2018年時点で6万床あったため、約5万8,000床が介護医療院ではなく、別の道を選択をしたことになる。「別の道」とは、おそらく医療療養病床の2または1を選んだのではないかと考えられる。最近では、従来型老健からの移行や新設が増加している。2024年3月31日で、介護療養病床と経過措置病床は廃止された。
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174施設(13,192床)の調査結果
では、2024年度調査の結果を示す。今年6月、介護医療院770施設を対象に実施した。770施設のうち、当会の会員施設は319施設、非会員施設は451施設となっている。これら全施設に対して、悉皆調査としてアンケートを送付した。
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回答は174施設から得られ、そのうち会員施設からの回答が多く、140施設であった。回答率は22.6%。集計対象の療養病床数は13,192床である。
日本介護医療院協会は日本慢性期医療協会の下部組織であり、2024年4月現在、会員施設は317施設、療養床数は24,764床となっている。
組織率は施設数ベースで34%、療養床数ベースでは47%であり、おおむね半数の療養床数を占めている。
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稼働率、平均要介護度について
まず、稼働率について。Ⅰ型の稼働率は93.7%、Ⅱ型は90.4%である。Ⅰ型の方が若干高いが、これは以前からおおむね高い水準を維持しており、いずれも90%を超えていることから、稼働率は高いと言える。
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平均要介護度は、Ⅰ型が4.28、Ⅱ型が4.02である。Ⅰ型は大きな変動はないが、Ⅱ型については、2018年および2019年当初は老健からの移行が多く、要介護度は3程度であったが、次第に上昇し、現在では4を超えている。
Ⅰ型はほとんどが病院建物内に併設されており、その割合は95%以上である。Ⅱ型に関しては、独立型が約21%を占めている。独立型とは、周辺に病院が存在しない施設であり、老健と同様の形態である。こうした独立型が21%存在している。
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退所の状況について
退所の状況はどうか。退所理由のうち、死亡退所は全体で59.1%であり、Ⅰ型では62.6%、Ⅱ型では47.0%となっている。Ⅱ型はⅠ型に比べて死亡退所の割合が低い。特に、Ⅱ型の独立型では、死亡退所の割合は26.6%まで減少している。
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死亡退所以外の場合、退所者が移行している先としては、他の病院や自施設関連の病院が多い。
この理由として考えられるのは、Ⅱ型の独立型施設では、夜間や土日に医師が不在であることがあり、そのため施設内での看取り対応が難しく、病院に搬送されることが多いのではないかと推測される。
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意思確認カンファレンスについて
意思確認カンファレンスの開催に関する結果を示す。人生の最終段階における意思確認について、今年度から全入所者に対して推奨されている。
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意思確認カンファレンスは合計で3,734回行われたが、「本人が参加し、意思を表明したカンファレンス(ACP)」が実施されたのは116回。わずか3.1%である。
今年度の調査では、その他の対応についても質問した。それによると、「介護医療院入所前にACPを実施していた例」が約15%あり、「介護医療院入所前に事前指示書を作成していた例」が約9%存在している。
介護医療院に入所する時点で、ほとんどの入所者は要介護度が4または5であり、意思の表出が困難な状況にある。しかし、その前の段階で、約23%の入所者はACPに近い行為があったことが今回の調査で明らかになっている。
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身体拘束廃止に向けた取り組みについて
身体拘束廃止に向けた取り組み状況はどうか。詳細は今回の資料に掲載していないが、身体拘束廃止に向けた取り組みは、どの施設でも熱心に行われている。
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しかし、実際には64%の施設で身体拘束が実施されており、身体拘束ゼロの実現には至っていないのが現状である。努力は続けられているものの、身体拘束ゼロに達するのは非常に困難であるという現実が浮き彫りとなっている。
身体拘束の主な理由としては、「経鼻栄養チューブなどのトラブル防止」が最も多く、ミトンの使用が主に行われていると考えられる。
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看護師・介護職の確保、処遇改善について
現場で苦労していることがらで、最も多いのは介護職の確保。次いで看護師の確保、そして抑制ゼロ対策が挙げられる。
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以前は比較的高い割合を占めていた介護職の処遇改善加算に関する問題は、現在ではかなり減少している。処遇改善加算は大多数の施設が取得しており、加算を取得していない施設は5.8%にとどまっている。
今回の報酬改定以前に、処遇改善加算を取得していない施設がいくつか存在している。その主な理由は、併設の病院で働く看護助手との待遇を平等にするためであり、そのために処遇改善加算を取得していなかった。
このような施設は、今回の報酬改定においても新たな加算を取得できず、その結果として処遇改善加算を取得していないまま残ってしまった可能性があるが、正確な原因は不明である。
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介護職には処遇改善加算が適用されているが、2024年の診療報酬改定では、看護補助者にも診療報酬のベースアップ評価料が支給されることになった。
ベースアップ評価料は看護補助者にも支給されているものの、介護職の処遇改善加算と比較すると格差が存在する。そのため、不足分を補填するため病院側が持ち出しで追加支給している施設が40%に上る。
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医療行為等の現状・実施について
医療行為等の現状および実施状況について、2024年4月から6月までの3カ月間に実施された件数を報告する。多くの種類の医療行為が実施されている。
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なお、多くの施設でルーティンとして実施されている行為は記載していない。具体的には、末梢点滴治療、インスリン投与、褥瘡治療、酸素投与、経管栄養投与、持続モニター、膀胱カテーテル管理、単純レントゲン撮影等である。
それ以外の主な対応状況を見ると、「他病棟や他病院への緊急入院もしくは救急搬送」の件数は、Ⅰ型よりもⅡ型で多い。これは、夜間に医師が不在であることが影響している可能性がある。
末期がん患者の受け入れも行っており、中心静脈ラインはⅠ型で多く実施されている。麻薬による疼痛ケアや抗がん剤投与(経口および点滴を含む)も実施されており、これには一定の報酬が得られる。また、コロナ治療薬も使用可能であり、超音波検査、内視鏡検査、CT、MRIはⅠ型で多く実施されている傾向が見られる。
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外国人の採用状況について
介護職員の状況について、「不足している」が41.0%、「ギリギリ」(46.8%)を含めると約88%を占める。
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外国人を採用している施設は48.2%である。
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国籍については、スライドに掲載しているとおりである。外国人の雇用形態としては、特定技能および技能実習が多い状況である。
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介護医療院を開設して良かったこと
介護医療院を開設して良かった点を挙げる。グラフの緑色の部分は、助成金や移行支援加算など、資金面での恩恵を受けたことを示している。移行支援加算はかなり以前のものであるが、このような資金繰りに関して良かったと回答した施設が多く見られる。
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また、「医療区分1の利用者の居場所ができた」という点については、40%の施設が良かったと回答している。
一番多かった理由としては、「介護施設にも病院にも入ることができない方々の最後の砦となっている」というものである。介護医療院は、医療と介護の両方を提供できる施設であり、どちらの施設にも入りにくい人たちが介護医療院に集まっているというデータが示されている。
また、「抑制をしないようになった」という点については、あまり効果が表れておらず、身体抑制を続けざるを得ない状況が続いている。
介護医療院が開設されてから6年が経過し、現在、介護医療院が「医療が必要な介護難民の最期の砦」として機能していることが明らかとなっている。
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赤字の施設は稼働率や要介護度が低い
介護医療院の収益状況はどうか。「移行前より収益が増えた」という回答は全体で45%に達しており、Ⅰ型では48%、Ⅱ型では約40%が増加している。収益が減少した施設は少ない。
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収益が増えた施設は40〜50%である一方、「変わらない」という回答は約30%だった。「移行前より収益が減った」という回答は比較的少なく、15〜20%にとどまっている。
単独で黒字の施設は、Ⅰ型で約45%。単独で赤字の施設は、Ⅰ型で約14%となっている。「どちらともいえない」という回答も多いが、これは介護医療院が病院に併設されている場合、介護医療院単独で収益を判断するのが難しいため、このような回答が多くなっていると考えられる。
Ⅱ型では、単独で黒字と回答した施設は約43%で、昨年の35%より増加している。したがって、昨年よりも収益性が向上しており、これは介護報酬改定の影響がある可能性がある。
「単独で赤字である」と回答したⅡ型は約24%。病院併設の場合は収益を単独で把握しにくいが、単独で黒字と回答した施設が全体の3分の2を占めている。赤字の施設は約24%にとどまるが、昨年より黒字の施設が増えているため、Ⅱ型の経営状態はやや改善していると言える。
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では、どのような条件で黒字になるのか。経営状態と平均要介護度、稼働率を調査した結果を示す。全体として、稼働率が高いほうが黒字になりやすく、要介護度が高い場合も黒字傾向にある。
ただ、Ⅰ型に関して言えば、要介護度はあまり影響せず、稼働率が高いほうが黒字になる傾向が見られる。このため、Ⅰ型では稼働率を上げることが重要と思われる。
Ⅱ型では、稼働率が高く、要介護度も高い場合に黒字になる傾向がある。両方を高く維持することが黒字化の要因の一つと考えられる。Ⅱ型には多少の努力が必要かもしれない。
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やって良かった介護医療院
介護医療院への移行は良かったか。調査を開始した2019年以降の推移を見ると、おおむね70%以上の施設が「良かった」と回答しており、今年が最も高い74%となった。「悪かった」と回答した施設はほとんどない。
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Ⅰ型では、「良かった」と回答した施設が約76%。「悪かった」という回答はゼロだった。Ⅱ型では、「良かった」と回答した施設が約65%で、「悪かった」との回答は2施設にとどまっている。
いずれも、「悪かった」と評価している施設はほとんどなく、介護医療院に移行して良かったという意見が大半を占めている。このことから、新しい制度である介護医療院はほぼ成功であったと思っている。
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施設からの要望、声
最後に、自由記載で寄せられた「施設からの要望、声」を紹介する。まず、介護人材の不足や介護・看護職の賃金が低いという声がある。
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また、医療行為が増えているにもかかわらず、介護報酬における包括評価のため「算定できない医療行為が多く、経営が困難」という声もある。医療行為が増加し、業務負荷が高まっている。治療のためにその都度転院する必要がなくなったが、医療行為の増加が経営を圧迫しているとの指摘もある。
さらに、介護医療院の周知がまだ不十分であるため、周知活動が必要であるとの意見が見られる。また、一部の自治体での対応が厳しい点も問題として挙げられている。
そのほか、「IT化やDX化の補助がほしい」という要望がある。また、「病院にも従来の介護施設にも入れない人々の最後の砦である」「医療行為ができる介護施設として理想形だが、医療の費用は持ち出しになる」という指摘がある。
さらに、入所時の要介護度が低いままで医療や看取りを行うことがあり、要介護度が高くならないと収益に影響が出るというアンマッチの是正を求める声もあった。
介護医療院は、医療が必要な重度要介護者の最後の砦となっており、とても有効に活用されていると思われる。以上で私からの報告を終える。
[矢野諭副会長]
鈴木先生、ありがとうございました。続いてのプレゼンテーションは、当会会長の橋本康子先生。テーマは「介護医療院における介護報酬の課題」である。
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介護医療院における要介護度ラグ
[橋本康子会長]
先ほど、鈴木先生が最後に触れられた「施設からの要望・声」の中に、「入所時の要介護度が低いままで、医療や看取りを実施するというアンマッチの是正」という要望があった。この点について、詳しく説明させていただくとともに、いくつか提言したい。
介護医療院における介護報酬の課題として、2点を挙げる。まず、① 介護医療院における要介護度ラグである。
例えば、自宅で生活している高齢者が要介護度1の認定を受けている状況を想定する。この方が、脳卒中や骨折、がん治療中の急性増悪など何らかの理由により救急搬送された場合、急性期病院で治療が行われる。しかし、急性期病院は医療機関であるため、ここで要介護度の見直しは行われず、要介護度1のままである。
急性期病院に入院していた患者が、ある程度まで治療が終了した場合や、がんの末期に至り、これ以上の治療が完治につながらないと判断された場合、介護医療院へ移ってくることがある。介護医療院は医療を提供できるため、このようなケースでも受け入れやすいという特徴がある。
しかし、介護医療院に送られてきた患者は、この時点でも要介護度が1のままである。介護医療院では、状態が悪化している人や、看取りを目的として入所するケースもあるため、入所時に要介護度1であっても実際には要介護度4・5の重度な寝たきり状態の人なども存在する。しかし、要介護度の見直しを行う時間や機会がない場合は、要介護度1のままとなっている。これがいわゆる「要介護度ラグ」という状況である。この問題については、後ほど具体的に説明する。
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利用者と事業所のベクトルの相違
続いて、もう1つの課題として、② 利用者と事業所のベクトルの相違がある。これは介護医療院に限らず、利用者と事業者の間で方向性の違いが生じることである。
すなわち、利用者は自立した生活を望んでおり、たとえ歩けなくなってもリハビリを受けて再び歩けるようになりたい。また、トイレに自力で行けるようになりたい、食事を自分で取れるようになりたいと考えている。
一方、介護スタッフも患者の回復を願い、その支援に尽力する。その結果、利用者の要介護度が低下し、自立に向かう。そして、要介護度が1になったり、要支援に下がったりする。そうなると、報酬点数が低くなってしまう。
要介護度4・5や寝たきり状態のほうが報酬点数が高いという制度になっているため、事業者としては入所者の状態が良くなることは望ましいが、結果として報酬が下がるという問題が生じる。利用者と事業所のベクトルが相違する。
以下、これら①②の課題について、具体的に説明する。
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要介護1・2が短期間で死亡退所
まず、介護医療院における要介護度ラグについて。左のグラフは、入所から死亡退所までの日数を要介護度別に示している。縦軸は入所日数。1,000日や2,000日までの長期にわたるケースがある。横軸は死亡退所時の要介護度を示しており、要介護度1から5までが表示されている。
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このグラフを見ると、軽度であるはずの要介護度1・2の人たちが短期間で死亡退所していることが分かる。一方、要介護度4・5の人は長期間入所しており、死亡退所までの期間が長い。
このデータは、介護医療院湖東病院(169床)の「退所時の死亡における要介護度と入所期間の調査」(2020年4月1日~2024年3月31日)の結果である。同院は静岡県にある「メガ介護医療院」とも言える169床の施設で、4年間の状況を調査した結果である。
それによると、要介護度1で入所した19名が30日以内に死亡退所。要介護度2では、30名が1カ月以内に死亡退所している。つまり、要介護度1・2の大半が入所から30日以内に死亡退所しているというデータである。
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要介護度1で死亡退所した19名の分析
要介護度1で死亡退所した19名は、どのような経路で介護医療院に入所したか。16名(84%)は急性期病院に救急搬送されてから入所している。
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19名のうち最も多いのは、自宅から救急搬送されて急性期病院に入院し、その後、急性期病院で治療を行ったが十分に回復せず、これ以上の治療が困難と判断され、介護医療院に転院したケース(12名)である。続いて多いのは、介護施設から急性期病院に救急搬送され、その後、介護医療院に来たケース(4名)である。
そのほか、少数ではあるが、自宅から直接、介護医療院に来たケース。または、特養のショートステイから来たケースもある。しかし、大多数は救急搬送されてからの入所であり、非常に悪い状態であったことがうかがえる。
具体的に19名の状態を見ると、8割は食事ができない状態であり、6割が終末期の状態にあった。痩せていたり、自力で寝返りができないなど、実際には要介護度4・5に相当する状態の人が要介護度1で入所している状況がわかる。
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要介護度ラグへの対応案
報酬評価となる要介護と実際の状態とにアンマッチが生じている。要介護認定との時間差「要介護度ラグ」によるものである。
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自宅から要介護度1の状態で急変し、救急搬送され急性期病院に入院した際も要介護度1のままであった。その後、介護医療院に転院したが、要介護度は変わらず1のままである。要介護度の見直しを行う期間がなく、変更申請が間に合っていないためである。
介護医療院では、実際には要介護度4や5に相当するケアを必要とし、非常に時間を要する介護が行われていた。19名は1カ月以内に亡くなったため、その間には多くの医療処置やターミナルケアが必要であったと考えられるが、要介護度は1のままであり、介護報酬の点数も低い状態に留まっている。大きな「アンマッチ」が生じている。
では、要介護度ラグへの対応策として、どのような対策が考えられるか。現在の状況では、変更申請を行っても、1カ月以内には結果が出ないことが多く、死亡してしまうとその時点で介護保険の申請は却下され、適用されなくなる。
したがって、介護医療院に入所した時点で別の評価を行い、療養病床の医療区分などを踏まえた「リアルタイムの利用者評価」が考えられる。また、看取りを行う施設としての実績を評価したり、実際のケア量に応じた加算、例えばターミナルケア加算などで評価する方法も考えられる。こうした何らかの対策を講じなければ、結果的に不採算に陥る恐れがあるため、検討が必要な課題である。
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要介護度での評価はベクトルが合わない
利用者は自立した生活のために身体状態を改善したい(要介護度の軽減)が、事業者は要介護度を軽減させると報酬が減少する仕組みになっている。
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先ほど述べたように、この課題は介護医療院だけでなく、介護施設全般に見られる。利用者や介護スタッフ、治療を行う者にとって、自立した生活を目指し、リハビリに取り組むことは重要である。利用者が回復して自立することを目指してリハビリを進めていく。しかし、リハビリの効果が高まり、状態が良くなるほど、介護報酬は低くなってしまう。
介護施設や病院の経営が厳しい中で、利用者の状態が良くなると介護報酬が減少する。このような状況では、経営的な整合性が取れず、インセンティブが働かない状況になる。つまり、状態を改善しても報酬が上がる仕組みが機能していないということである。この点については、考慮すべき重要な課題であり、今後の対応が求められると考える。
もともと介護保険は、ケアの投入量や時間に基づく評価である。ケアにかかる時間が減ると、介護報酬の点数も下がる仕組みとなっている。しかし、今後はケア人材がますます減少していくことが予想されている。現行の評価体系は、ケア人材が十分に供給されることを前提としている。今後、ケア人材が減少する中で、このようなケア投入量に基づく評価は維持するのが難しくなるのではないか。
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介護報酬評価の方向性
20年後の2040年には、約70万人の介護スタッフが不足する見通しとなっている。
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介護人材が減少することを考えると、介護報酬の評価方法自体も見直す必要があるのではないかと考えている。
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介護報酬評価の方向性として、専門家による要介護者へのアセスメントを実施し、改善可能な人と改善困難な人に分けることが考えられる。ターミナル期の人がいる一方で改善が困難な人も存在するため、改善可能な人と改善困難な人を区別する必要がある。
改善可能な人に対しては、リハビリテーションを提供し、要介護度の軽減を図り、ADLが向上した場合には、その成果に基づくアウトカム評価を行う。
改善困難な人については、従来どおり適切な介護ケアを提供し、より良いQOLを維持するために、実際のサービス量や投入量に基づく評価で介護報酬を算定する。
このように、今後は「改善可能」と「改善困難」の2つのパターンに分けることが、1つの対策として有効ではないかと考えている。私からは以上である。
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第32回日本慢性期医療学会等のご案内
[矢野諭副会長]
最後に、私が学会長を務める「第32回日本慢性期医療学会」についてご案内する。11月14日・15日にパシフィコ横浜ノースで開催する。テーマは「“治し・支える” 良質な慢性期医療 ~サイエンス・アートの調和と統合~」である。
「第12回慢性期リハビリテーション学会」も同時開催され、今年度からは慢性期リハビリテーション学会と同じ学会長による開催となる。
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一般演題のプログラムは600題を少し超える規模となり、ポスターセッションを中心に構成している。学会プログラムを掲載しているが、簡単にその内容を説明する。シンポジウムは、日本慢性期医療学会として5つ予定している。
第12回慢性期リハビリテーション学会のシンポジウムは「シンポジウム6」として、1日目の第2会場で開催する。また、毎年恒例となっている鈴木龍太会長による日本介護医療院協会のセミナーも開催する予定である。さらに、「地域病病連携推進機構シンポジウム」は1日目に「シンポジウム7」として開催する。
1日目のメイン会場での「シンポジウム1」は、同時改定の年であることを踏まえ、「どうなる? 今後の医療・介護提供体制」というテーマで開催する。
また、「学会長対談」として、副題は「サイエンス・アートの調和と統合」である。山本則子先生(東京大学大学院医学系研究科教授)は長年にわたる看護研究を行っており、医師と看護師の立場から「サイエンス・アートの調和と統合」について深く掘り下げた対談を予定している。
「シンポジウム2」では「慢性期医療における緩和ケアと慢性疼痛管理」をテーマに、日本緩和医療学会との共催で行う予定である。
「シンポジウム3」では、日本慢性期医療協会で300名を超える修了者を輩出している特定行為研修修了看護師の活躍の場を取り上げる。
特別講演では、タイムリーなテーマとして「診療報酬・介護報酬同時改定と口腔・栄養・リハビリテーションの一体的取り組み」について、三浦公嗣先生(日本健康・栄養システム学会理事長)にご講演をお願いしている。
「シンポジウム4」では、医療・介護の現場における臨床倫理の諸問題を取り上げる。ここには、身体拘束や終末期対応など、さまざまな問題が含まれる。
「シンポジウム5」は質の評価がテーマである。特に、クオリティ・インディケーターの導入など、慢性期医療の質をどのように評価するかという課題について、さまざまな角度からアプローチする必要があるため、「慢性期医療の質をいかに評価するか」というテーマで、最後のシンポジウムを開催する。
ランチョンセミナーは2日間にわたり5会場で開催されるが、2日目には日本慢性期医療協会主催のランチョンセミナーが行われ、武久洋三名誉会長がご講演される予定である。
本学会は、「全国住みたい街ランキング」で今年12年連続第1位に輝いた横浜での開催である。進化する海辺の大都市横浜にて、この2日間、ぜひご参加いただき、慢性期医療の真髄に触れていただきたい。
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2024年10月11日