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「官民かかわらずギリギリの経営」 ── 基本方針の議論で池端副会長

Posted By araihiro On 2021年10月23日 @ 5:17 PM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 令和4年度診療報酬改定の基本方針などを審議した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「官民かかわらずギリギリの経営を強いられている。これまでどおりの議論の進め方をすると再び逼迫した状態が続き、新興感染症等に対応できない」と警鐘を鳴らした。

 厚労省は10月22日、社会保障審議会(社保審)の医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第146回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に、令和4年度改定の基本方針で定める「4つの視点」などを提示。新型コロナウイルス感染症等への対応等を「視点1」、働き方改革等の推進を「視点2」とし、この2つの視点を次期改定の「重点課題」に位置付ける方針を示した。提案はおおむね了承された。
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02_2021年10月22日の医療保険部会
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医療従事者を急に確保するのは難しい

 「視点1」では、「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」としている。
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02_【資料1】次期診療報酬改定に向けた基本認識、視点、方向性等について_2021年10月22日の医療保険部会

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 質疑で、秋山智弥委員(日本看護協会副会長)は「これまでの新型コロナ対応でも明らかになったとおり、現状のようなギリギリの人員配置では非常時の対応ができなかった」と振り返り、「病床はいざとなれば臨時の確保も可能だが、重症患者に対応できる医療従事者を急に確保することは難しい」と明かした。

 その上で、秋山委員は「それぞれの病院が地域でどのような機能を担うべきかは、今後の医療計画の中で議論されると思うが、重症患者にも対応できる医療従事者を平時から、ある程度、手厚く配置することも必要」と指摘。「平時からの取り組みによって、地域における感染対策の推進の向上、医療の質の向上を図ることが期待できるので、診療報酬でもこれを後押しする必要がある」と訴えた。
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余裕がない医療提供体制を強いられた

 
 池端副会長は秋山委員の意見に賛意を示し、「病棟や病室は何とか確保できても、それを支える医療従事者等の確保が必要で、人材は急に沸いて出てくるものではない」と指摘。その原因の1つに近年の診療報酬改定の審議の在り方を挙げた。

 池端副会長は「医療経済実態調査で収支差が少しでも出れば、そこを削るというやり方で何とか財源を見つけてやりくりをしてきた。こうした中で、本当にギリギリの経営を強いられている。官民かかわらず、急性期も含めて余裕がない医療提供体制を強いられた中で、急に新型ウイルスなどに対応することが難しかった」と伝えた。

 その上で、「医療提供体制を維持するために、ある程度、余裕を持った部分が必要」とし、「新興感染症等への対応は、あくまでも余裕の部分であるということが、もう少し明確に示せるようなかたちで進めるべき」と述べた。
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かかりつけ医機能の整理を

 この日の会合では、20日の中医協に続き、かかりつけ医をめぐる議論もあった。厚労省は、コロナ対応等に関する「視点1」について「考えられる具体的方向性の例」を提示。その中で、「かかりつけ医の機能の評価」を挙げている。
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03_【資料1】次期診療報酬改定に向けた基本認識、視点、方向性等について_2021年10月22日の医療保険部会

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 これに対して、藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「まず、かかりつけ医の機能や仕組みを整理し、外来や在宅を含めた地域全体での医療機能の分化、役割分担を進めることが重要ではないだろうか」と問題提起した。

 これに続けて佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「今後、国民が身近で信頼できるかかりつけ医の推進が非常に重要になる」とし、「そのためには、かかりつけ医の評価について、患者目線で見て納得感を得られるような評価となるように、ご検討いただきたい」と求めた。
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患者のメリットを明確化すべき

 こうした主張に、中医協の支払側委員も兼ねる安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)が続いた。「既に中医協でも議論が行われているが、かかりつけ医が大きなポイントの1つ」とし、「今回の新型コロナウイルス感染症をきっかけとして、かかりつけ医の重要性が広く国民の中で再認識されたと思う。一方で、かかりつけ医の定義や在り方については十分な整理がなされていない状況」との認識を示した。

 その上で、安藤委員は「医政局での議論の状況を踏まえて連携しながら、かかりつけ医機能が果たされることによる患者のメリットを明確化し、それに見合った評価をしていくという方向性について、医療保険部会においても、しっかりと議論をしていく必要がある」と主張した。
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かかりつけ医が地域に根ざすように

 これに対し、池端副会長は「かかりつけ医について、ある程度の枠組み、定義を決めることはいい」としながらも、「がっちりとはめてしまって、人頭払い方式のようにしてしまうと硬直化してしまい、切磋琢磨できない、かかりつけ医制度になってしまう」と懸念した。

 その上で、池端副会長は「フリーアクセスを担保することによって、良質なかかりつけ医が淘汰されずにしっかりと生き残っていくシステムをつくる必要がある」とし、「かかりつけ医が地域に根ざしていく体制ができるような考え方が必要」と述べた。

 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。
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03_2021年10月22日の医療保険部会

■「視点1」について
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 病院団体を代表するというかたちで発言させていただく。まず、改定の基本的視点の「視点1」から「視点4」については、おおむね賛同したい。
 特に、「視点1」「視点2」を重点課題に位置付けることは私も同感である。ぜひ、集中的に対応していただきたい。
 「視点1」では、「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」が謳われている。一方で、「改定に当たっての基本認識」では、「平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替えるなど円滑かつ効果的に対応できるような体制を確保していく必要がある」としている。この「平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える」ということが、今回のコロナ禍で、なかなかできなかったという反省点があるかと思う。 
 その原因はいくつかあるとは思う。特に、先ほど秋山委員もおっしゃったように、病棟や病室は何とか確保できても、それを支える医療従事者等の確保が必要。人材は急に沸いて出てくるものではないので、そこが難しい。
 それはなぜかと言うと、最近の診療報酬改定のやり方を見ると、医療経済実態調査を行って、それで収支差が少しでも出れば、そこを削るというやり方で何とか財源を見つけてやりくりをしてきた。こうした中で、本当にギリギリの経営を強いられている。これはもう官・民かかわらず、ということになる。
 急性期も含めて、本当に余裕がない医療提供体制を強いられた中で、急に、こういう新型ウイルス等々の特別なものに対応することが難しかったことは、皆さんもある程度、ご理解をいただけるのではないかと思う。
 そのため、医療提供体制を維持するために、ある程度、余裕を持った部分が必要である。新興感染症等への対応の部分については、あくまでも余裕の部分であるということが、もう少し明確に示せるようなかたちで進めるべきである。これまでどおりの議論の進め方をすると、結局、再び逼迫した状態が続いてしまうことになり、新興感染症等になかなか対応できないおそれがある。
 平時と緊急時にどう切り替えるか。もちろん、持続可能性ということを考えれば、むやみに点数を付けるわけにはいかないことは十分理解しているが、ここは少し知恵を絞って、一定程度の新たなものを見つけなければいけないのではないか。
 さらに、今後の感染対策については、現行の感染防止対策加算を算定できる医療機関が少ない。この加算を取っている医療機関は、感染対策をある程度はやっているだろう。では、取っていない医療機関は感染対策をしなくてもいいのか。あるいは、コロナ患者を受け入れている医療機関だけ感染対策をすればいいのか。そうではない。最終的には、全ての医療機関がしっかりした感染対策を実施することが必要であるということは今回、十分に理解できたと思う。 
 そこで、感染対策の裾野を広げるための対応として、診療報酬上の何らかのインセンティブ等、あるいは少し基準を緩めてはどうか。現在、感染防止対策加算には1と2があるが、これに3・4を加えるような見直しをするなど、感染対策の裾野を広げる工夫も必要ではないか。

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■ かかりつけ医機能の評価について
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 かかりつけ医の定義などをめぐり、中医協でも議論があった。かかりつけ医の定義については、日本医師会と四病院団体協議会の合同提言が1つの指針を示していると思う。
 かかりつけ医について、ある程度の枠組み、定義を決めることはいいが、がっちりとはめてしまって、人頭払い方式のようにしてしまうと硬直化してしまい、切磋琢磨できない、かかりつけ医制度になってしまう。世界に冠たる日本の医療保険制度の良いところ、フリーアクセスを担保することによって、良質なかかりつけ医が淘汰されずにしっかりと生き残っていく、そういうシステムをつくる必要がある。それにより、かかりつけ医が残っていく。そして、地域に根ざしていく。そういう体制ができるような、少し先を見た考え方も必要ではないか。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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