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医療と介護の同時改定にどう対処すべきか

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年12月1日 @ 10:14 AM In 官公庁・関係団体等 | No Comments

 来年4月、医療保険と介護保険の同時改定が実施されます。高齢化がピークを迎える2025年に向け、政府の「社会保障と税の一体改革」では急性期病院のベッドを絞り込む一方、地域に密着した病院の役割や地域連携を重視する方向性が示されています。

 3月の東日本大震災で慢性期医療や在宅医療の重要性が改めて問われるなか、今年7月、札幌市内に医療界のキーパーソンが集結しました。「第19回日本慢性期医療学会」です。同学会の記念シンポジウムでは、どのような意見が出たのでしょうか。医療保険、介護保険同時改定にどう対処していくべきでしょうか。JMC77号の特集記事をご紹介します。
 

特集 第19回日本慢性期医療学会 札幌大会
 
 医療保険、介護保険同時改定を控えて ~どう対処していくか~ 

 
 【シンポジスト】

   原中勝征  日本医師会長
   鈴木康裕  厚生労働省保険局医療課長
   宇都宮啓  厚生労働省老健局老人保健課長
   西澤寛俊  全日本病院協会会長
   斉藤正身  厚生労働省介護保険部会委員
   武久洋三  日本慢性期医療協会会長 

 【座 長】

   小山秀夫  兵庫県立大学大学院教授   
 


東日本大震災の救援が第一。
診療報酬・介護報酬同時改定は延期を (原中勝征・日医会長)

 

 私たちは2012年同時改定を待ちに待っていた。今までのいろいろな矛盾を解決するチャンスだと勉強をしてきた。前回の診療報酬改定の結果を見ると、確かに病院側にシフトした。

 しかしそれは急性期病院あるいは大学病院、特に500床以上の病院に偏っていて、慢性期の病院に対してはそれほどの伸びはなかったと考えている。

 そういう中で私たちは同時改定に当たって、慢性期疾患や地域医療を担う診療所の機能をもう一度見直し、在宅医療あるいは末期医療に貢献的で、今後期待できる有床診療所の再興を試みようと考えていたところ、3月11日に東日本大震災が発生し、震災の救援が第一だろうと考えたのである。

 そんな中で私たちは、2012年の同時改定をどう考えていくかについて常任理事会で話し合った。

 その結果、5月19日に厚労大臣に対して、

 ① 2012年度の診療報酬、介護報酬同時改定を見送る
 ② 今年度の医療経済実態調査、薬価調査・保険医療材料価格調査を中止する
 ③ 介護報酬の改定は見送るが、介護保険料の決定のために必要なことは行うこと
 ④ 不合理な診療報酬、介護報酬については、留意事項通知や施設基準要件などの見直しを行うこと
 ⑤ 必要な医療制度改革は行うこと

 ──の5つの項目を申し上げた。

 ①については、われわれ医療人としても東日本大震災の復興支援に全身全霊を捧げるべきである。
 国難の大混乱期においては、国の制度の根幹を左右する診療報酬、介護報酬の同時改定を行うべきではないと考えている。

 ②については、これらの調査に手間をかけている時間があるのなら、被災地に行って支援してほしいとの希望であった。

 ところが厚労省から、将来の基礎にするために調査だけはさせてほしい、これは医療費と連動はしないということであったので、そういう将来的な調査ならいいだろうと賛成したが、被災地を除外した不十分なデータでは地域医療をさらに苦しめることにもなるので、今、中医協で調査内容を調べている最中である。

 ③の介護報酬に関しては、毎年いろいろな調査があるが、お金のことよりも慢性期医療や介護の機能をどう高めていくかについての調査に変更してほしいと申し入れた。 

 ④については、介護施設の従業員の方々が本当に正確な報酬を受けているのかどうか、今の施設基準に照らし、その人員で本当のサービスができるのか、そういう実情を調べた上で質の向上を目指してほしいということである。

 ⑤については、地域医療支援病院の要件がある。

 1998年に制度化されたときは紹介率が80%、あるいは、必ずこれを上回ることを約束した病院だけが指定となった。ところがいつの間にか80%以上ではなく60%でも、逆紹介をすればよいとなった。地域医療支援病院の本来のあり方からすれば、年間に約100億円ほど高いお金を払っていると推計されるのである。

 もう一つは大学病院である。大学病院は特定機能病院という指定を受けて、特別にいろいろな配慮をされているが、大学病院の医療費が毎年多くなっている。

 大学病院の運営費は国から運営費交付金として交付されているが、毎年これが削られてきた。その結果、不足分を病院の収入で稼ぐことを強いられた。民間医療機関の診療報酬分がその分だけ少なくなっているのである。

 今は風邪を引いても大学病院や500床以上の救急病院に行く。しかしそれは本当に正しいのか、もう一度考えなくてはいけない。風邪を引いた方々がこういう病院に行ったときの料金を考えると、近くの診療所に行った方が安いのである。

 私は199床の病院と特養、老健施設、ケアハウスを運営している。病院も介護型と医療型の両方を持っている。厚労省は32万床の介護療養病床を15万床に減らし、6年後には廃止としているが、高齢者が増えるときに半分以下にするということは、到底人のやることではないと思っている。

 私たちは決して厚労省と喧嘩しようと思ってはいない。お互いに意見を出しながら国民のための医療をつくっていくのが日本医師会の決まりでもある。人間の一生に関わる医療、介護が本当に一元化されて、それぞれの分野の中でお互いに協力をしながら質を高めることをしていかなければいけないと考えている。
 

2012年同時改定の重要ポイントの一つは
慢性期の入院医療 (鈴木康裕・厚労省医療課長)

 

 今回の震災では、被災された方について、2つのことを行った。

 1つは、被災されて保険証を紛失した場合でも医療が受けられることとした。2つ目は、通常3割お支払いいただいている窓口負担を徴収しないことにした。

 病院については、被災地の病院と被災地を支援している病院の両方について、以下の対応を行った。

 1つは、医療法で許されている病床数を超えて被災者を収容してしまう場合や、通常の看護基準が看護師が支援に出ることによって薄まってしまう場合もある。さらには、平均在院日数が延びたり病棟でない会議室等を利用する場合もある。こういうことは通常減額になるが、減額しないことにした。

 また、レセプトコンピュータが流されて、どのくらい診療報酬を請求したらよいのかわからないこともあるので、昨年3か月間の平均をとっていただいて、その分お支払いをすることとした。被災地を支援している病院についても同様の扱いにした。さらに、製薬工場が被災して長期間処方されると薬が足りなくなる場合があるので、「投与日数の短縮にご協力を」として日本医師会と厚生労働省の合同でポスターをつくって啓発を行った。

 さて2012年同時改定であるが、重要なポイントの一つは慢性期の入院医療で、その中心は療養病床とその地域特性である。東京や大阪といった大都市と人口密度の低い地域では、病床や在宅医療の進め方にかなり差があり、それを全国一律の仕組みでやっていくことは少し無理がある。地域特性に対してどのように配慮したらいいのかを考えていくことが必要である。

 一般病棟の評価は、基本的には患者さん対看護師さんの比率で点数が決まる。ここまでは基本料が決まっていた上で、一定期間の90日を超えると原則的には特定入院基本料928点になる。しかし除外規定があり、この除外規定に該当すると928点に下がらないという仕組みになっている。この特定除外の仕組みをどのように考えるかが、恐らく次回の改定で問われることになると考える。

 2010年改定が終わった後の中医協全体としての附帯意見がある。そこには、慢性期医療を総合的に検討し、療養病床だけでなく一般病棟や障害者病棟も含めて横断的な調査を行い、その結果を今後の診療報酬改定に反映させるとしている。それについては、慢性期入院医療の包括評価調査分科会において議論し、調査・検討を行っている。

 2012年改定に向けての中医協の意見として、支払い側は、一般病床でも医療区分に基づく包括評価を導入し、特に特定患者の定義を検討するとしている。診療側は、もう少し機能分化を推進させて医療のあり方を明確にすることと、認知症の方はBPSDという症状が出て手がかかる場合があるので、その評価について検討するとしている。

 社会保障と税の一体改革では2025年に着地点を設定しており、2012年改定はちょうど3回ある介護との同時改定の3段階の1段階目になる。2012年、18年、24年、このホップ・ステップ・ジャンプのホップとして、来年の改定は重要と考えている。
 

「地域包括ケアシステム」の実現に向けた取り組みを進める
 (宇都宮啓・厚労省老健課長)

 

 介護保険では、平成12年の制度発足当初に比べて倍以上の方が要介護認定されており、それに伴い費用も制度発足当初は3兆6,000億円だったものが8年でちょうど倍になって、今は8兆円ぐらいになっている。

 2025年(平成37年)には20兆円ぐらいになるという推計もある。それに伴い、65歳以上の高齢者が支払う保険料も上がっていくと予想されている。

 6月15日に成立した「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」の概要には、高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム」の実現に向けた取り組みを進めるということである。

 この地域包括ケアシステムには、①医療との連携強化、②介護サービスの充実強化、③予防の推進、④見守り対処などの生活支援サービスの確保等、⑤高齢者の住まいの整備──の5つの柱がある。この5つのサービスが包括的かつ継続的に推進されていく。

 まず、医療機関からの退院時における連携がある。病院から退院するときに地域の中の受け皿が不足している状況がある。また、高齢化が進むにつれて介護度の重い方や医療の必要性の高い方が増えるが、それらの方への対応といった点がポイントになる。

 介護療養病床については平成18年の制度改革で、介護療養型老健施設という従来型の老健施設よりも医療ニーズに対応できる施設に転換していく施策が登場した。転換については、昨年4月時点で6割ぐらいが未定で、その理由として一番多かったのが、同時改定の方向性を見てから判断するというものであった。

 介護療養病床は今回6年間の延長が法律で決まったが、これまでの転換、廃止という方針は維持し、来年度以降新設は認めない。

 平成18年の制度改革以降、医療療養と介護療養の機能分化が進んでいる。実際に行われている医療内容では、中心静脈栄養や人工呼吸器といった重い医療が必要な方は、介護保険施設ではほとんど見かけないが、喀痰吸引や経鼻経管栄養については介護保険施設でも行われていて、今回の法改正で、こういった行為についてはトレーニングを受けた介護職ができるようになった。そうなると、病院への入院が必要な医療の概念は変わってくると思う。

 医療との連携と関係するが、24時間対応の定期巡回訪問サービスを創設した。イメージをいえば現行では、1回の訪問で長時間対応するが、週に何回かしか訪問してくれない。そうではなく、1日3回ぐらい来てくれるサービスをつくる。また、複合型サービスを創設している。複合型にはいろいろなタイプの組み合わせがあるが、今回は小規模多機能と訪問看護の組み合わせだけを進める。

 介護保険の問題については、法律が通った。今は、介護給付の議論を進めている。例年のパターンであれば、12月ぐらいには改定率が出てくると思うが、それを踏まえてさらに具体的な議論になり、来年の4月から新しい方針でいくことになる。
 

被災地の復興の第一は医療・介護提供体制の構築で、
報酬改定が必要 (西澤寛俊・全日病会長)

 
  
 現在、私は中医協委員をしているが、一方では日本病院団体協議会の議長もしている。今、改定要望のとりまとめをしている最中でまだ公表していないので、今日は具体的なものは控えさせていただく。

 ただ、日本病院団体協議会で一つだけ決まっているのは、入院基本料をしっかり評価してほしいということである。そのほか、救急や認知症の問題等々は、これからまとめていく予定である。

 私たち全日本病院協会も4月ごろ、東日本大震災の影響を考慮して、次回の改定の是非について非常に悩んだ。結果として、これから状況がどう変わるかわからないから、現段階で改定する方向で準備していくということになった。その理由のいくつかを申し上げたい。

 まず一つには、今回の震災では日本医師会のJMATを初めとして、全国各地から救援隊として多くの関係団体が支援活動に従事した。こういう非常時にたくさんの方々が支援を行ったということに、改めて医療人の素晴らしさを感じたところである。

 被災地の復興の第1は、非常時にも医療を継続できる医療・介護提供体制の構築である。そのためには、医療機関の経営基盤の安定が必要であり、もう少し報酬を上げていただきたいというのが本心である。

 2つ目の理由は、前回はプラス0.19という微々たるプラス改定であったが、それでもかなりホッとして息をついた。そのときの改定では、大病院や高度急性期病院に4,400億円のうち4,000億円が回った。次は中小病院、診療所、慢性期の番だといわれた。私たちはそれをずっと望んでいたので、次回いただかないとバランスがとれないということもある。

 3つ目は、医療と介護の役割分担とシームレスな連携である。現状はまだ医療と介護の連携はうまくいっていないと思っているので、同時改定はよい機会である。

 最後に、慢性期入院医療をどうするかという問題がある。医療療養病床や介護療養病床、介護施設、それと一般病床の中の長期入院も含め、これらをきちんとしたデータをもとにした議論が必要になってくると思う。

 その中で一つ考えなければならないのは、先ほど鈴木課長がいわれたが、地域特性だと思っている。私の病院は北海道にあり、7対1看護が入ってからは、地方から看護師さんがいなくなった。

 それまでは10対1看護を取得していた病院が15対1である。しかも、その町に一つしか病院がない。そういう所では、その地域で在宅やほかのシステムをつくって対応しなければだめである。そのようなことも含めて、慢性期入院医療のことを検討していく必要があると思っている。

 

療養病床は老健施設との役割分担、
協働を重視していく (斉藤正身・厚労省介護保険部会委員)

 
  
 今日は社会保障審議会の介護保険部会の委員としてお呼びいただいたが、私としては、老人の専門医療を考える会(以下、考える会)の会長としての立場も含めて、お話ができればと思っている。

 老人病院の役割分担については、継続的な医学的管理と重介護を同時に必要とする高齢者をどう受け入れていくのか、広義のリハや質の高い生活をどう提供するのか、終末期や在宅ケア支援はどうするのか──。

 これはまさに、考える会の2代目会長の大塚先生がいわれている「キュアが大事なのではなく、その人の生活や人生が大事」、それが大もとにあって、ケアと必要な量のキュアがあればよいという考え方でずっと関わってきたのが考える会である。

 その中で大塚先生は、「特養、老健施設との機能の違いをさらに明確にしていく必要がある」といわれている。ということは、他の施設では対応できない重介護、重医療の高齢者の方を積極的に受け入れる、そういう姿勢が大事であるということである。

 今回関わらせていただいた介護保険部会で、特に地域包括ケアシステムを実現するのに重要なことは、今ある既存サービスが本当にこれでいいのか、そのサービスの有効活用や見直しがまず大前提にあるべきではないかと思っている。その上で、地域包括ケアシステムは老健施設が中心になり、医療機関がどのように関わっていくのかを考えていくことが重要だと考える。

 また連携、連携といっているが、うまくいかないのであれば、連携でない方法を考えることが必要だろう。その場合、介護保険と医療保険を同時に2本のレールで進め、お互いの専門性を活かし合う協働が大事である。療養病床に関しても老健施設との役割分担、協働を重視していくべきではないだろうか。全国老人保健施設協会と日本慢性期医療協会がもっと密に連携をとるべきだと考える。

 介護保険制度が導入されて10年が経過した。私も現場にいながら非常に感じることは、重介護、重度認知症の人たちが在宅に多くいらっしゃる現状がある。そういう人たちに対して、老健施設の通所リハで対応しきれるのか、今こそ療養病床がそういう役割を担うときではないかと思う。ぜひ重度対応の通所リハを併設していただきたい。

 東日本大震災後、私は毎週どこかに行って支援している。当院の職員は、埼玉県医師会の派遣ということで、3けたの数の人間が何らかのボランティア活動をしている。今回の震災は教訓だと思っている。

 いつも高齢者、介護保険ということで活動してきたが、もっと地域や社会のための活動を考えるべきではないか。そして、居場所、行く場所、座る場所をつくっていかなくてはいけない。利用者を選ばない、利用者が選ぶ。具体的に達成可能な目的があって、地域住民とともにやっていける場所をつくっていくことが大事である。
  
 

療養病床が長期急性期機能を持った
ポストアキュートを担う (武久洋三・日慢協会長)

 

 3月11日の震災に対して50トン余りのお見舞い物資を送っていただき、また1週間以内に3,000万円もの義援金をいただいた。それらは、被災病院を通じて地域の皆様にお配りした。最大では、全壊病院に300万円をお送りすることができた。重ねてお礼を申し上げたい。

 日本慢性期医療協会は決して圧力団体ではない。国民のためになる医療を誠実にやっている病院に対して、きちんと評価してほしいのである。

 今後、どんどん患者さんが増えるので、平均在院日数を3分の1にすることは急性期病院のことだけでなく、慢性期病院でも同じである。また今後は、在宅療養支援病院の存在が重要で、これは地域の中で初期急性期機能がないと対応できない。療養病床の中にはこういう機能をきちんと持っている病院があり、日本慢性期医療協会の在宅療養支援病院部会でのテーマとしている。

 2025年の医療・介護サービスの改革シナリオを見ると、高度急性期病院は20万床程度で、平均在院日数が15~16日。一般急性期病院が45万床前後で、平均在院日数が9日である。そうすると、現在は6万床ほどしかないので、急性期病床を10数年の間に整備するのは非常に大変だと思う。

 回復期リハは高度急性期から回復させる過程で、リハビリは非常に必要になってくるが、残念ながら全員が回復するということではない。気管切開したり中心静脈栄養や人工呼吸器が入った重度な患者さんの長期療養を一体どこが担うのかという問題がある。

 当然、一般急性期病院で9日で診るといっても無理があるので、結果的には療養病床が長期急性期機能を持ったポストアキュートとして実質的にみていくことになる。

 ぜひ皆さん方には、「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」という気概と、現場でどんな患者さんが来ても対応できるという覚悟を持ってやっていただきたい。


■ 討論 ─ 理論的に診療報酬・介護報酬改定を考え
 国民の目線で見る (小山秀夫・兵庫県立大学大学院教授)

 

 【小山秀夫座長(兵庫県立大学大学院教授)】

 診療報酬と介護報酬同時改定で一番心配なのは、財源がないことである。

 38兆円ぐらいしか税金は集まらない。

 51兆円毎年使っていたから、雪だるま式に借金が増えている。日本医師会の立場として財源確保についてどのようにお考えいただいているのか。

 【原中会長】

 今までの経過を見ると保険料の分配が変わり、国の税金の歳入が非常に少なくなる。雇い主の保険料が安くなった。増えたのは個人負担と市町村負担である。

 もう一つ問題なのは、今、国民健康保険は各市町村単位になっているが、安い保険料と高い保険料で5倍も違う。現在、会社を解雇されて国民健康保険に入る方たちが100万人を超え、保険料を納めていない人が20%を超えている。そのためには至急、介護保険のように広域性を持った国民健康保険をつくらなくてはいけない。

 高齢者の医療費は若い人と比べて5倍であり、高齢者が増える中で税金の投入が少なくなることは大変な間違いである。そこをきちんと要求していかなければいけない。

 【小山座長】

 宇都宮先生、医療保険の医療区分と介護保険での要介護認定の2本柱となっているが、一本化はできないのだろうか。

 【宇都宮課長】
 それはかなり難しい。これまでの歴史的な経緯がある。ADL区分ならば、将来的には現場の考え方で整合性を検討していく可能性はある。

 【小山座長】

 西澤先生、民間の救急病院の15対1に入っている高齢者が、認知症だからと縛られたり薬を飲まされたりしてひどい目にあっている。

 そこで療養病床を紹介すると、「本当に広くてスタッフもやさしくて、いい病院があるんですね」という。高齢者は療養病床に入った方が絶対幸せである。全体で国民医療の質を上げていくことを、全日病が指導していただけないかと思っている。

 【西澤会長】

 おっしゃるとおり、これからも今まで以上に医療の質向上に努力したい。

 一方で、地域特性も考えてもらいたい。医療従事者、特に看護師さんの裁量がある程度可能な環境と、看護師さんがその地域にいない、しかも、周りには診療所もないという地域では事情が違う。質を上げることは全日病の一番の目標であるが、本当に地域特性を何とかしなくてはいけないと考えている。

 【小山座長】

 斉藤先生がいわれる重介護の通所リハを制度化しないとだめだという話を解説していただきたい。

 【斉藤委員】

 療養病床の看護、介護職の方々にとっては要介護4、5の人たちとの関わりは初めてではない。報酬上も何とかなるので、介護保険でできるのではないだろうか。

 【小山座長】

 武久先生、今の診療報酬でたとえば、地域医療支援病院の入院診療加算1万円というものがあるが、この入院基本料の話は結構大きいと思う。

 【武久会長】

 よい病院もそうでない病院も一様に入院基本料を上げることに、私は賛成しかねる。しかも、今は入院費用は8人部屋でも10人部屋でも2人部屋でもまったく同じ。これは社会通念上、異常な考え方である。

 医療産業は他の産業に比べて非常に優遇されている。40年以上も改装していないファミリーレストランはない。地域医療計画で病院は一定しかないから患者さんが入る。入るから改装しない。それが一般病院の中に残っていて、改装した療養病床よりも高い医療費をとっている。

 入院基本料はよい所に対して手厚く評価するのが、自然のなりゆきではないかと思う。

 【小山座長】

 理論的に診療報酬や介護報酬改定を考えて、国民の目線で見ることが必要だと思う。原中先生、もう一言あればお願いしたい。

 【原中会長】

 最終的に何を基準にして診療報酬や介護報酬の改定を決めるかというと、安心・安全に一生を送られるかということである。問題は、これから若い人の人口が減る。30年後に4,000万人減る。そのとき1人の労働者が自分の5倍も医療費のかかる高齢者のケアをすることは不可能である。しかし、その不可能なことに今から手を打つ必要がある。

 子どもを産む政策をとらなくてはいけない。経済的な理由で人工掻爬をする人が年間20万人いる。外国はシングルマザーが半分以上であるが、日本はまだ2.2%しかいない。

 日本国民が今のような医療制度や社会保障制度を維持できるかというと、基本的な人口構成を考えていかなければ続かないだろうと思う。

 【小山座長】

 宇都宮先生、地域包括ケアを本気で進めるには、療養病床や老健施設に焦点を当て、そこから出発した方が早いと思う。地域包括ケアを進めるための戦略、戦術を考えてもらわないと絵に描いたモチで終わってしまうのではないか心配している。

 【宇都宮課長】

 おっしゃるとおりで、まさに後ろで支えてくれる医療なり介護の拠点が必要である。ただ、あまり専門的なことばかりに頼ってしまうとうまくいかない。

 まず自助とか互助をきちんと考えた上で、そこにプロフェッショナルがどう手を差し伸べて支えていくかという話だと思う。そのプロフェッショナルが手を差し伸べる拠点が必要である。

 【小山座長】

 先生方の意見に根本的な違いがないことがわかった。皆さん、同じ思いになっているので、多分よい方向にいくのではないかと思う。本日はどうもありがとうございました。
 



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