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慢性期医療におけるチーム医療とは

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年10月1日 @ 1:42 AM In 役員メッセージ | No Comments

 急性期から回復期、慢性期、在宅へと切れ目のない医療連携を目指すとき、多くの職種のチームワークが重要になってきます。
 
 特に、「入口」と「出口」をつなぐ中間地点ともいえる慢性期医療では、いかに医療スタッフが連携して、きめ細かなサービスを提供できるかがカギを握ります。

 社会福祉法人・平成福祉会理事長で、日本慢性期医療協会の医療保険委員会委員長を務める伊豆敦子氏は、「より質の高い慢性期医療を目指すには各人の専門性の向上が必要だ」と指摘した上で、こう述べています。

 「チーム医療を考えるときに、ジャズのコンボを想像する。いろいろな管楽器を演奏する中でも、一人ひとりのパートはきちんと聴き分けられる。そして時には前に出てソロを吹く。各職員がそれぞれの専門性を磨き、自分の役割を果たすとともに、全体のリズムは常に合わせて演奏は調和している」

 今年7月、札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」を振り返り、伊豆氏がJMC77号に寄稿した「慢性期医療におけるチーム医療(多職種連携)を考える」をご紹介します。
 

チーム医療はジャズコンボ。
各自専門性を磨き自分の役割を果たし、全体の調和を

 

 慢性期医療では、亜急性期、回復期、維持期、終末期、在宅医療と幅広い病態に適切に対処することが求められている。

 そのためには医療的治療だけでなく、リハビリテーション・看護・介護・薬剤・栄養などの多方面からのサポートが必要である。

 慢性期医療の総合的な力を高め、効率よくきめ細やかなサービスを提供するには多職種協働のチーム医療をどのように推進するかが極めて重要な課題といえる。

 本シンポジウムでは看護・薬剤・MSW・栄養それぞれの立場から、現場の第一線でご活躍の先生方の発表をいただいた。今後のさらなる超高齢化で「慢性期医療における患者中心のチーム医療」のあり方をより具体的に検討していきたい。
 

■ 講演
 

 1. 「患者様の思いを多職種につなげる」 服部紀美子氏(北海道・定山渓病院副院長)

 服部氏はこれまで、神戸・浜松・大阪大会にて看護・介護委員会による看護・介護の相互役割分担と連携について積極的に取り組まれてきた経緯がある。今年の4月からは定山渓病院の副院長となり、多職種を束ねる要として、さらにチーム医療に取り組まれている。今回の発表では、患者様の一番身近で働く看護・介護の立場からの貴重な意見を述べられている。

 慢性期医療では複数の疾患で日常生活支援が必要な患者様が多く、さらに急性期病院で生命危機を脱した後の継続治療を必要とする患者様に対して、医療と看護・介護が提供できる入院施設としてその役割は幅広い。そのためにまず、多職種間の緊密な連携の必要性を訴えた。

 連携を深めるためのツールは多職種が参加するカンファレンス(以下、カンファ)である。定山渓病院での入院から退院の流れは入院調整会議から始まる。入院当日の多職種(医師・看護師・介護職・リハ・MSW・栄養士・薬剤師)による入院時合同評価。入院10日前後に行う初回カンファ、中間カンファ、終末期の患者様へのターミナルケアカンファ、そして、残念ながら死亡された患者様に対しては退院後14日以内に死亡カンファを行っている。

 カンファでは各職種が参加し、報告のみに終わらずお互いの意見を確認し、話し合うことがチーム医療に必要であり、検討の場としての役割が最も重要であると強調された。

 次に最も患者様の身近にいる看護・介護職は患者様やご家族と信頼関係を築きやすく、そこから得られる患者様の情報は多い。多職種にもその情報を伝え、信頼関係の輪を広げてスタッフと患者様のパートナーシップ、看護・介護の質を向上させ、患者様に安心を提供することが必要であるという骨子であった。

 最後には、チームを構成する上で個々の専門性とチームとしての専門性を高めることが重要で、具体的な看護・介護の現場での実践的教育内容も紹介された。
 

 2. 「事件は現場で起きる」 岡村正夫氏(新潟県・三条東病院薬剤長)

 三条東病院は240床の療養型病院である。薬剤師は薬剤長を含めて3名であり、基本業務だけでも多忙な現場である。院長の方針で、ナースステーションをスタッフルームという呼び方に位置付けており、患者担当はすべての職種に反映している。各職種は各部署ではなく、スタッフルームで仕事をしている。この中で「事件は現場で起きる」というチームの意識が非常に強い病院であると自負している。

 ここでは薬局にインターネットサーバーを置き、さまざまな現場を薬局から眺望できる環境を整備して、有効に稼働している。薬剤部門がチーム医療の中心として牽引役を担い、達成した成果を発表していただいた。
 
 日常業務におけるチームと実践例を抜粋して紹介する。

 ・ 疥癬と薬:自院で起きた院内感染・職員感染を事例に挙げ、感染症に対する取り組みを紹介した。情報共有の重要性と疥癬の感染予防の具体的な対策を薬剤部が中心となり、院内に徹底された。

 ・ 病衣と点滴のルートトラブル:拘縮がひどく袖通しが大変な患者様に対して、病衣の改善に着手した。介護職員の意見を取り入れて、特殊な病衣を独自に考案し浜松大会で発表された。

 ・ 膀胱留置カテーテル:紫色尿バッグ症候群(PUBS)の発生に対応し、病棟の汚れの現われと捉え作業手順・手指消毒を見直すきっかけとした。

 ・ その他:「pHに着目したスキントラブルへの取り組み」「ノロウィルスへの対応」など、チームでの取り組みによる成果は大きい。

 病棟で生じる諸問題に対して積極的に取り組み、問題の原因探索から始め、具体的な解決法の模索を薬局がリーダーとなって多職種に展開している様子が伝わってきた。既成概念に捕らわれず、何よりスピード感を大切にしている。委員会で解決できない事例でも、病棟の小さなチームが解決の糸口を掴んでいる可能性を指摘している。

 病棟薬剤師の今後のあり方として、課題を共有し多職種と協働して目標達成のために事例を記録に残していく。結果は外部への発表や報告によって職員のモチベーションを高めることが重要と考え、実際に学会で発表されている。毎日の高齢者医療は患者中心のチーム医療とケアの実戦であることを実感させる内容であった。

3. 「在宅介護スコアを活用して」 小林裕恵氏(島根県・鹿島病院社会福祉士)

 鹿島病院は特殊疾患病棟60床を含め180床で、リハビリから人工呼吸器装着まで医療ニーズの高い患者様を受け入れ、終末期医療にも重点を置いている。在宅サービス部門が併設され、地域介護サービスの拠点ともなっている。病院・施設・行政と交流を深め、保健所を巻き込み、圏域病院間共通の情報提供書を作成したり、他施設とのチーム活動が盛んな病院である。今回は平成16年から記録している「在宅介護スコア」(以下、スコア)から自宅退院支援の要因は何かを分析し、発表された。

 スコアは平成10年、旧厚生省が作成したもので、チーム医療を行う各担当職種が患者情報に共通の認識を持つために有効な道具であると考え取り入れた。入院時と退院時にスコアをつけ、入院判定会議や病院のカンファレンスにも活用される。平成21年度の1年間に医療療養病床に入院した患者190名を対象に、自宅退院・施設入所の患者様のスコアを分析した。16項目の点数を合計した22点満点の評価スコアで、在宅介護の可能性と困難等を評価した。

 今回ボーダーラインとされる11点以下でも44%の方が自宅退院されていることがわかり、8点以上で自宅退院の可能性があると判断されている。項目ではADLや医療処置の改善・患者や家族の意欲が自宅退院に大きく影響しているため、医師・看護師・介護士・リハビリ・MSWやケアマネなどがチームとして連携してはじめて、患者様や家族の意欲を引き出し、自宅退院を促進できたのではと考察している。

 現場では、入院時のスコアを多職種チームが共有し、在宅に向けての具体的な方法を考え、家族の持っている力を引き出すアプローチに努力された。医療だけでなく生活面のニーズ、メンタルな支援や住み慣れた環境など、さまざまなニーズを持つ患者様の退院支援をしていくためには、多職種チームによる関わりが非常に重要であり、情報が共有されて初めて目標に向けて各職種の足並みが揃う。

 スコアは各職種が患者様の生活全体について考えるきっかけとなり、そこからチーム全体での支援が可能になることが多い。慢性期医療を担当するMSWとして、このスコアをさらに活用し、患者の生活全体に目を向けた支援を行っていきたいと話を締めくくった。

 4. 「チーム医療における管理栄養士の役割」 倉本悦子氏(徳島県・博愛記念病院管理栄養部課長)

 博愛記念病院では、歯茎でも食べられる咀嚼調整食、むせる方に対する嚥下調整食を開発導入し、そのほか、経管栄養の工夫や脱水・電解質の補正目的でのさまざまな工夫を紹介された。

 管理栄養士はいろいろな委員会の一員としてチーム医療に関わるが、その中で診療適正化委員会という特殊な会議についての報告があった。診療適正化委員会とは、安全で安心な医療を提供するため、適正な医療が提供されているか客観的に評価し検討する委員会である。週1回開催し、構成員は看護師・薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士。入院時の情報を用いて、各職種の視点からの指摘を行い、委員会議事録に記載するというもの。

 具体的には新入院患者の状態チェック、臨床検査技師による治療パスに沿った治療が行われているかのチェック、薬剤師による投薬内容のチェック、管理栄養士や薬剤師によるカロリー不足の是正、管理栄養士による適正な食事療法がなされているかのチェックが主な内容だ。そして内容に問題がある場合は、主治医に提案していく。

 検査結果をもとに経過を追い、改善があれば投薬や食事療法の変更を進言もする。詰所担当の管理栄養士は、診療適正化委員会より渡されたデータをもとに、プランと問題点をまとめた上で多職種による回診に参加し、その場で主治医に提案するというもの。

 多職種に伝えるためのツールは、栄養管理マニュアルの配布。電子カルテでは、栄養管理の実施記録を多職種が閲覧できる医療記録に入力しており、こちらでも多職種間における情報の共有化・記録内容の標準化を目指している。

 今後この専門性を活かして、管理栄養士がチーム医療の一員としての役割を果たしていくためには、患者の病態を理解し、食事形態の工夫や栄養投与方法、食材の適切な選択を実施すること、そして、患者の日々の摂取量の状況の把握により、適切な対応をいち早く行えること、退院後も継続した栄養状態の把握に取り組んでいくことが大切であるとの発表であった。
 

 

■ まとめ
 

 服部氏はカンファレンスを非常に大切にされ、その中でも介護職が発言し、意見を述べることを重視している。また、患者様の一番身近にいる看護・介護職が信頼感を得て、さらに患者様の発する情報を聞き落とさずにスタッフと共有することが大切であると述べられ、印象的であった。

 岡村氏はすぐに実践に応用できる内容を話され、多くの事例がスタッフルームの中でスピーディに展開している様子が伝わってきた。情熱的に推進する職員が一人でもいれば、推進力がつくとも語られた。

 小林氏は、まずはチームの共通認識を作成し、患者様の在宅復帰意欲とご家族の介護力を引き出すのがチーム力だと、チームだからこそできることを強調された。

 最後に倉本氏は、医療適正化委員会という新しい試みを発表された。医師も含めて多職種が互いに治療内容を提案し合うという実践である。

 より質の高い慢性期医療を目指すには、各人の専門性の向上が必要だと思う。チーム医療を考えるときに、ジャズのコンボを想像する。いろいろな管楽器を演奏する中でも、一人ひとりのパートはきちんと聴き分けられる。そして時には前に出てソロを吹く。各職員がそれぞれの専門性を磨き、自分の役割を果たすとともに、全体のリズムは常に合わせて、演奏は調和している。そんなイメージを持っている。

 そのためには研修や自己研鑽といった病院としての取り組みが大切である。また、多職種スタッフの総合的で切れ目のないスピーディな活動とコミュニケーション能力の獲得も必要である。

 これからも、医療の中心にいる患者様のために、家族のために、適切なチーム医療ができているかを検討していかなければならない。
 



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