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慢性期医療の質をどう担保する?

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年10月1日 @ 1:38 AM In 会員・現場の声 | No Comments

 脳卒中や心筋梗塞などを発症して急性期病院で治療を終えた後、その受け皿となる慢性期医療の質が担保されていることは患者さんにとって重要です。

 いまや、慢性期医療は「Post Acute Therapy(PAT)」として、急性期医療を支える重要な医療であり、質の確保、評価などが大きな課題です。今後、慢性期医療の質をどのように評価し、どう担保していくべきでしょうか?

 日本慢性期医療協会は、「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」を理念として、数々の取組を進めています。

 同協会の「診療の質委員会」の委員長で、南小樽病院病院長の矢野諭氏は、本年度から厚生労働省の「医療の質の評価・公表等推進事業」への参画が決定したことを受け、「慢性期医療の臨床指標が評価された結果である」と述べています。

 その上で、「慢性期医療認定病院」を広く周知させる活動や、「慢性期病態別診療報酬体系(試案)」の調査結果の収集・分析などに注力する決意を示しています。

 今年7月に札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」のシンポジウムを振り返り、矢野氏がJMC77号に寄稿した「慢性期医療の質をどう担保するか~慢性期医療認定病院の取り組みの進展~」をご紹介します。
 

慢性期医療の臨床指標が評価された結果
本年度からの厚労省事業に参画が決定

 

 この数年で慢性期医療に招来した「担当医療領域の拡大・多様化・高度化」という劇的な変化は、必然的に慢性期病院に質の高い診療機能の担保を要請した。

 『良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない』を理念として、「Post Acute Therapy(PAT)としての慢性期医療の必要性・重要性」を継続して訴えてきた日本慢性期医療協会(以下、協会)は、「診療の質委員会」が中心となり、平成22年4月に「診療の質」を測るための「慢性期医療の臨床指標(Clinical Indicator:以下、CI)」を完成させた。

 CIは10領域62項目からなり、点数化が可能で124点満点となっている。従来の急性期医療が中心のCIとの差別化を鮮明にして、CIに「慢性期医療のスタンダードとして、各病院がその項目を達成していくことが、質の向上につながるもの」としての意義を付加し、同年5月より「慢性期医療認定病院認定審査」を開始した。

 認定病院が続々と誕生しているが、認定審査のデータ集積や取り組みやすさに対するサーベイヤーと受審病院の評価は、項目は適切か、基準値(cut off値)は適当か、ハードルは高すぎないか、逆に低すぎないか、追加が必要な項目はないか等の分析・評価によるCIの妥当性の検証となる。

 本シンポジウムでは、CIから見た慢性期医療における「質」評価を主題として、認定審査受審病院、サーベイヤー、研究者の立場からの4人のシンポジストの講演を通して、協会CIの特徴、日本病院機能評価機構や他の第三者評価との比較など、慢性期医療に求められる診療の質について、多角的な視点からの議論が展開された。

 なお座長は、協会「診療の質委員会」委員長の矢野が担当した。

■ 講演
 

 1. 「慢性期医療認定病院の取り組みの進展」 飯田達能氏(東京都・永生病院院長)

 飯田氏はまず、自らが院長を務める永生病院(東京都八王子市、626床)の概要と特徴、同院で行ってきた多くの医療の質の改善の取り組みについて紹介。日本医療機能評価機構の病院機能評価認定(平成9年より5年に一度の評価)更新を継続し、自院では平成17年にTQMセンターを創設して、独自の慢性期医療の臨床指標を導入して毎月の評価を行い、業務改善に取り組んできたことに言及した。

 また同氏は、老人の専門医療を考える会の「老人医療の質の評価プロジェクト委員会」の委員長を務めており、「老人専門医療の臨床指標8項目」(協会CIの総論的指標としての位置付け)についても解説した。さらに協会の「診療の質委員会」副委員長として、認定審査のサーベイヤーを務め、自院でも4月に協会の認定審査受審した経験もふまえ、協会CIの臨床指標について概説した。

 その中で、自院の認定審査1年前の自己評価における「各種カンファレンスの実施率」が予想以上に低かったことがわかり、1年かけて業務改善に取り組み、評点を上げることができた点に触れた。最後に「慢性期医療を担う病院には、急性期病院から今後さらに重症の患者が押し寄せてくることが推察され、医療の質を確保することが必須である」ことを強調し、「いろいろな臨床指標や第三者評価を有効に活用して、業務改善に役立てる取り組みが不可欠である」と結んだ。
 

 2. 「認定審査の実際~サーベイヤーの立場から~」 鈴木龍太氏(神奈川県・鶴巻温泉病院院長)
 
 鶴巻温泉病院(神奈川県秦野市)院長の鈴木氏は、協会認定審査のサーベイヤーであるとともに、日本医療機能評価機構の病院機能評価のサーベイヤーも務めている。

 同氏はまず、超高齢社会の到来、急性期病院の平均在院日数短縮などの背景から、慢性期病院の負担が増加してより亜急性期病院化すること、良質な慢性期医療を提供するために、CIによる客観的評価や第三者評価・医療の標準化などで「医療の質」を測ることが必要であることを強調した。また「従来までに急性期のCIは存在したが、慢性期医療にCIを導入したのは日本で初めて」である点にも触れた。

 次に、10領域62項目の協会CIの内容と特徴について解説。62項目をストラクチャー指標(S指標)、プロセス指標(P指標)、アウトカム指標(O指標)に分類して提示した。

 特に62項目中S指標が7項目、P指標が35項目、O指標が20項目であり、S指標やP指標が中心でO指標がほとんどない日本医療機能評価機構の評価との違いを指摘し、計算式により点数化されることで、受審病院にとってわかりやすく改善しやすい指標になっていると述べた。

 また、実際の認定審査のスケジュール(半日)、審査の内容、聞き取り審査の準備(職種・用意すべき書類など)、採点、基準値の根拠(会員病院のデータを基本)、5年後の更新基準等についても詳説した。

3. 「慢性期医療認定病院認定審査を受審して」 富家隆樹氏(埼玉県・富家病院理事長)

 富家氏が理事長を務める富家病院(埼玉県ふじみ野市、202床)は、慢性期医療認定病院認定審査において最高得点(124点満点中104点)を獲得した病院である。

 富家氏はまず自院の概要について説明。同院で行われている「先進の重度慢性期医療」の数々を紹介した。気管切開・人工呼吸器患者をはじめとした、全国平均と比較して突出した医療区分3・2患者の比率(91.1%)、人工透析患者の比率(50.6%)が示され、それを支える最新の自動喀痰吸引器やFTXレスピレーター・サチュレーションマルチモニターの導入とその効果が発表された。

 ソフトウエア面では、先進のリハ体制(回復期リハ28床、セラピスト56名)と効果、看護スタッフをサポートするための「ナースサポートチーム」、MSW中心のチーム医療などが提示された。

 さらに、これだけの重症患者を診療している中で、「抑制患者ゼロ」を達成していること、充実した教育研修制度、シームレスな地域連携、「ナラティブホスピタル」など、まさに最高得点の病院にふさわしい、質の高い診療の内容とユニークな種々の取り組みが発表された。

 4. 「慢性期医療の質をどう担保するか」 高木安雄氏(慶應義塾大学大学院教授)

 最後に研究者の立場から、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の高木安雄教授の講演が行われた。

 高木氏は、まず「医療の質がなぜ問題になるのか」についての背景を説明、それは医療の「量」の確保から「質」が問われる時代への変化、医療に対する安全・安心への関心の高まり、医療機能の分化・選択・集中と連携における「質」の確認・保証の必要性、そして最も重要なものは、医療財源の確保のための「質」の確保と「効率性」に関する社会的(国民的)合意形成の必要性であると指摘した。

 また、10領域における協会の認定審査のデータを提示し(合計124点満点)、最高点の病院(104点)は薬剤の項目(12点満点)においては7点で、最低点の病院(69点)は9点という逆転現象が起きていることを示した。また、医療安全・院内感染防止対策や終末期医療の領域のように、容易に満点が取れる指標の問題点を指摘した。

 さらに、20:1病棟は25:1病棟よりも身体抑制、留置カテーテル、尿路感染症、褥瘡のいずれにおいても比率が高いという中医協のQIについてのデータを引用し、解釈による差の存在(人員が多いのに臨床指標の値が悪いのか、重症が多いから人員が多いのか)を強調した。

 また、企業評価では誰から見た「優れた会社か」が問われ、総合、投資家、消費者、従業員、社会によるランキングの1位は異なっており、それぞれ指標別での評価が分散することを示した。

 医療の質の評価は臨床指標として導入されており、現場の質の向上に貢献するが、重み付けや評価尺度などの課題を内包し、医療現場においては、各職種が共通の目線、共通の言語のもとに、共通のケアを提供する体制を確立することが重要な課題であると述べた。

 最後に、質の評価は患者の選択・同意・安心と不可分であり、医療の需要・供給者の拮抗とコミュニケーションが必要であると結んだ。
 

■ 討論
 

 シンポジストの講演終了後、討論が行われ1人ずつ順に追加発言をお願いした。

 ○ 飯田達能氏

 臨床指標にもいろいろなものがあり、使いやすさも使い方も、それぞれの病院で異なると考えられる。どれが取り組みやすいかを考えながら、日本の慢性期医療の質を上げるという目標に向かって、皆で有効に指標を活用していくことが重要である。

 ○ 鈴木龍太氏

 日本医療機能評価を最初に受審した頃は、おそらく、言語が抽象的で評価項目が非常にわかりにくかったと考えられる。サーベイヤーとして怒りを買ったこともある。

 協会のCIは比較的わかりやすいと考えられるが、逆に数字を出すのがかなり大変で、数字が独り歩きすることもある。質の向上とともにフィードバックが可能になる。共通の言語、共通の目線で、かつ、サーベイヤーの標準化を行って行くことは必ずしも容易ではない。

 ○ 富家隆樹氏

 平成21年に日本医療機能評価を受審した時は、準備に1年を要したが、業務量が多く、サーベイヤーにいじめられて(?)、看護師が20名も退職した。苦労した割にメリットが少ない。

 その点、協会の認定審査では退職者もなく、特にアウトカム指標はわかりやすく、やりがいのある評価だと考えている。現場の皆が数字が出たときに笑えるような指標が理想である。高得点を取ったいうこともあるが、よい指標であると思う。

 ○ 高木安雄氏

 慢性期病院に、急性期病院からバトンタッチして患者が送られてくる。どのような形で慢性期病院に送ってくるかで、急性期病院の質がわかる。

 急性期病院の質を的確に評価できるのは、慢性期医療に従事する皆さんではないか。診療の質の中にぜひ、療養の視点から医療を見た時に急性期病院を評価する項目を入れてほしい。北の大地からの提言である。
 

■ フロアからの質問・意見と回答
 

 Q1 : 今後は、CIに透析患者を評価する項目があってよいのではないか。

 A : 回復期リハに透析患者が入院できないことも問題。透析患者が脳血管障害を発症した場合の社会復帰は困難である。現在は療養病床で透析患者のリハビリを行っているのが現状。ぜひ、この点も含めた評価が望まれる(富家隆樹氏)。
 
 Q2 : 医療機能評価はあまり一般国民に知られていない。われわれが行っている慢性期医療の内容を身内だけではなくて、広く患者・国民にわかってもらうためには何をどうしたらよいか。

 A : ベースラインを中学校の社会科の教員に置くべきである。高齢化のスピードが速い分だけ、老いを迎える準備が未成熟のままである点をどのように解決していくかが難しい。自分たちが行っている技と、国民の満足度とをいかにつなげるかのツールとしての臨床指標であると考えている。患者ベースで、コミュニケーションギャップを埋めることが必要(高木安雄氏)。

 Q3 : 重症の患者が多く入院されている中で「抑制ゼロ」は驚く。何か独自の工夫は。

 A : まずトップがやらないと決めること。何かあったら自分が責任を取るという姿勢が最も重要。薬物療法の工夫も(富家隆樹氏)。

■ まとめ
 
 
 最後に矢野は、本年度から厚労省の「医療の質の評価・公表等推進事業」(協会CIの項目を中心に、患者満足度を加えた27の指標を選定)に参画することが決定したことを報告し、慢性期医療の臨床指標が評価された結果であると考えていると述べた。

 診療の質委員会は、「慢性期医療における診療の質」をいかに評価するかをテーマに、昨年の8月の第18回日本慢性期医療学会大阪大会、11月のHOSPEX JAPAN2011セミナー、本年4月の慢性期医療展2011セミナーなどで、協会CIと慢性期医療認定病院認定審査を一般に周知させる活動を積極的に行ってきた。

 今後も上記事業と「慢性期病態別診療報酬体系(試案)」調査結果のデータ収集・分析・評価・公表は診療の質委員会が担当することになり、委員長として大きな責任を痛感している。決意を新たにして望みたい。



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