- 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト - http://manseiki.net -

今後どうなる? 慢性期リハ、在宅リハ

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年10月1日 @ 1:34 AM In 役員メッセージ | No Comments

 重い病気で入院、手術して一命を取り留めたとしても、運動機能などが回復しなければ寝たきりになってしまう場合もあるので、リハビリテーションが重要になってきます。特に、慢性期リハ、在宅でのリハが問題になっています。

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の会長を務める石川誠氏によると、今年7月に札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」のシンポジウム「慢性期リハビリテーション~現状と展望~」で、医療・福祉・介護界に慢性期リハの重要性をアピールしていくことが確認されました。

 また、医療法人社団・和風会理事長で、日本慢性期医療協会のリハビリテーション委員会委員長を務める橋本康子氏は、「回復期リハ病棟へ入院しても適切かつ十分なリハが提供されていない場合がある」と指摘します。その上で、「回復期リハ適応外患者のリハは十分に行われていない。そして、回復期リハ退院後の継続したリハが不十分である」と言います。

 石川、橋本両氏がシンポジウムを振り返り、JMC77号に寄稿した「慢性期リハビリテーション~現状と展望~」をご紹介します。
 

総括 ─ 在宅リハの充実が必須に ─ 石川誠氏
      

 第19回日本慢性期医療学会札幌大会のリハビリテーションのシンポジウムでは、千里リハビリテーション病院の橋本康子さん、札幌西円山病院の横串算敏さん、定山渓病院の原田拓哉さんの3人の講演が行われた。座長は私石川が担当した。

石川誠会長 橋本さんは、回復期リハ病棟は現在最も集中的にリハが実施できる病棟であり、単に回復期リハの対象患者だけを選択せず、たとえ期限を超えた慢性期の患者であっても、改善する可能性のある患者は積極的に受け入れるべきと症例をあげて主張した。

 横串さんは、慢性期リハ(維持期リハ)の成果とは何かが明確になっていないことを問題点とし、リハを実施すれば機能やADLの低下を最小限に抑えることができる点を強調、慢性期リハの価値を社会に示すべきと主張された。

 原田さんは、療養病床であっても豊富にリハ専門職を配置することで、すべての患者に1日2単以上の個別リハを提供し、さらに報酬的にはサービスである集団リハを活用するなど、実際の経験からその成果を報告した。

 いずれも、実践に裏付けられた説得力ある講演であった。共通している点は、療養病床といえども、終身入院生活を送ることに否定的であり、それには在宅リハの充実が必須であることを主張するものであった。

 フロアも交えたディスカッションも盛り上がり、慢性期リハにおいて入院によるリハも重要だが、それ以上に在宅リハを充実することの重要性が共通認識された。

 通所リハでは、リハ専門職の配置数をより評価すべき、個別リハだけでなく集団リハも評価すべき、訪問リハの提供に前向きであるべきなど、長期入院によるリハより在宅リハに関するディスカッションが主体であった。

 療養病床を有する病院で、リハの充実に力を入れている先駆的な病院は、いずれも回復期リハ病棟を有しており、通所リハや訪問リハにも積極的であり、今後は、回復期リハより在宅維持期リハを確立することが重要だと意見が一致した。

 それには、慢性期リハの価値・成果を立証し、臨床指標を確立することが必要との共通意見が出され、慢性期医療協会としては、札幌西円山病院の横串さんを中心に特別プロジェクトチームをつくり、医療・福祉・介護界に慢性期リハの重要性をアピールしようと確認された。
 

リハの効果や必要性を客観的に検証する ─ 橋本康子氏
 

 第19回日本慢性期医療学会札幌大会で「慢性期リハビリテーション~現状と展望~」と題してシンポジウムが行われた。

 趣旨は「リハビリテーションは急性期、慢性期、終末期と継続的に必要である。現在広く行われている回復期リハビリテーションは、慢性期の選ばれた患者の短期集中的なリハビリテーションといえる。回復期リハの基準に入らない方、また、回復期リハ終了後の継続的なリハ等について提言し議論する」ことである。

 座長は石川誠先生、シンポジストは石川誠先生、横串算敏先生、原田拓哉先生、橋本康子で行った。

■ 講演
 
 1. 石川誠氏(全国回復期リハビリテーション連絡協議会会長)
 
 最初に石川誠先生から、次のような直近11年間のリハ医療の変化と今後の医療・介護分野の具体的な改革案の講演があった。

 2000年に介護保険制度が施行され、同時に医療保険では回復期リハ病棟入院料が新設された。その後11年が経過するが、この間のリハ医療は大きく変化した。

 20年前、入院リハ医療サービスを受けるには、生活圏から離れた郡部の温泉病院に転院するしかなかった。また、退院して自宅復帰しても、外来や訪問によるリハは極めて乏しく、退院後寝たきりとなる例は少なくなかった。入院・外来・訪問などによるリハの資源が乏しすぎたからである。

 2004年に高齢者リハ研究会からの提言として、急性期リハが不十分、長期にわたる効果のないリハ、医療から介護への不連続な仕組み、リハとケアとの境界が不明確、在宅リハが不十分などの問題点が指摘された。

 それらを解決するべく2006年の診療報酬改定では、医療保険では急性期の状態に対応し、主として身体機能の早期改善を目指したリハを行う。介護保険では、維持期の状態に対応し、主として身体機能の維持および生活機能の維持・向上を目指したリハを行う──という基本的な考え方が出された。そして、1日3時間(9単位)のPT・OT・STの評価が行われた。ただし、標準的算定日数上限の設定があった。

 2008年には、標準的算定日数上限の緩和があり、回復期リハに質の評価(成果指標)が導入された。

 2009年には、訪問リハの1日1回(20分)あたりの評価、短期集中リハの評価、認知症リハの評価がなされた。

 2010年には早期リハの評価、回復期リハには新たな質の評価(過程評価)が導入され、がん患者リハ料の新設があった。またこれに伴い、回復期リハ病棟により機能分化と連携が具現化された。

 次にリハ医療の基盤整備の現状を話された。

 この11年間で回復期リハ病床数は6万床を超える数となったが、都道府県格差は5倍ほどある。また、訪問リハの格差は10倍ほどである。セラピストの資格保持者数も年々増えているが、リハ医療の現場では、未だにPT・OT・STの配置は十分ではなく、しかも若いセラピストが過半数を占める。チームアプローチが十分とはいえない。

 慢性期リハ、特に在宅リハに関するサービスは極めて乏しい状況であり、今後、在宅リハ・生活期リハに十分なスタッフを配置し、教育・研修体制を強化することが必要である。

 2011年の社会保障改革に関する集中検討会議、医療・介護分野の具体的改革案では、医療・介護サービス提供体制の効率化、重点化と機能強化が打ち出されている。

 具体的に医療分野では、医師の確保・医師の偏在是正、病院・病床の機能分化・機能強化、在宅医療の強化、チーム医療の推進、精神保健医療の改革、介護分野では、24時間安心の在宅サービス、介護・重症化予防への重点化、介護人材の確保と質の向上などである。

 最後に、慢性期医療協会の会員病院は、医療・福祉・介護複合体に病院が多数存在し、スタッフ数も豊富なところが多い。ぜひ、地域包括ケアの拠点として、在宅療養支援病院や在宅総合ケアセンターとしての機能を発揮して、入院・入所リハから在宅リハに充実へと積極的に展開するべきではないか──との進言があった。
 

2. 橋本康子(リハビリテーション委員会委員長)

 次に、橋本が回復期リハ病棟基準には対象患者8割が必要であるが、残りの2割の病床を回復期リハ対象外でリハが必要な患者さんに使用した症例を示した。

 症例は62歳の女性で1年前にくも膜下出血を発症。脳動脈瘤クリッピング術、外減圧術、L-Pシャント術を経て、他院回復期リハ病棟へ転院、6か月間リハを行い介護老人保健施設へ退院となる。しかし、家族がもっと動けるのではないか、歩いて自宅へ帰ってほしいとの希望があり、発症後1年を経て当院へ入院となった。

 入院時のFIMは56点、端座位は見守り、立位は上肢支持で不安定、セルフケア・移乗・移動・コミュニケーションでは原点が著明であった。重度失語症、ゲルストマン症候群、身体失認・遂行機能障害・情動障害・記憶障害があり、全体として立位が不安定で情動抑制困難なため、指示が入らず同時課題遂行が困難な混乱した状態にあった。

 これらの負のループを断ち切るために、入院直後から長下肢装具を利用し、麻痺側下肢に支持性を向上させ、混乱のない学習環境を取り入れていった。5か月経過後、直線歩行は見守り杖歩行が可能となり、応用歩行や段差昇降も可能になった。また、家族が希望されていた排泄の自立とコミュニケーションの確立も達成され、自宅へ退院された。

 ここでの問題点は、回復期リハ病棟へ入院しても適切かつ十分なリハが提供されていない場合があるということである。さらに、回復期リハ適応外患者のリハは十分に行われていない。そして、回復期リハ退院後の継続したリハが不十分である。

 当院では2010年の1年間で17名の回復期リハ対象外患者のリハを行い、そのうち5症例が他の回復期リハ病院でリハ経験があった。17名中12名、約70%の自宅復帰率となっている。

3. 横串算敏氏(札幌西円山病院リハビリテーション室)
 
 次に横串先生から「療養型病院で医療ケアの質の向上にリハを活用する」と題して発表があった。最初に、札幌西円山病院の紹介があり、医療療養病棟、介護療養病床、通所リハ、訪問リハでのリハの役割や効果の検証が行われた。

 西村式老年者日常生活動作能力と精神状態評価尺度を用いて、約3年間のデータを示した。医療療養病棟でのリハは、摂食自立度維持、会話、認知、転倒防止に役割が認められた。通所、訪問でのリハは、日常生活能力の維持、運動機能や栄養、口腔ケアなどの効果があった。

 まとめとして、療養型病院では医療ケアの質の向上にリハを活用できる、維持期リハは地域包括ケアシステムを支える重要な柱となる、維持期リハの科学的な検証が必要である──と話された。

4. 原田拓哉氏(定山渓病院リハビリテーション)

 最後に原田先生から、リハ療法士の立場から発表があった。まず、定山渓病院の紹介があった。病床数386床(医療療養245床、特殊疾患病棟141床)、リハスタッフ数52名(PT17名、OT25名、ST10名)であり、1週間のリハ実施単位数は平均8.3単位/患者、リハ実施頻度は医療療養で週平均4.6日、特殊疾患病棟で週平均4.1日だった。

 定山渓病院の療養病床の特徴は、急性期・回復期を終えて継続しての入院が多いが、急性期病院からの受け入れや、自宅や施設での生活が困難になり入院される方もいる。患者さんの疾患は多岐にわたり、年齢層に幅がある。

 また、ADL介助量が多い重度な方を対象にしているため死亡退院される方が多く、終末期リハを実践している。そして、包括病棟である特殊疾患病棟でも個別訓練を多く実施している──などである。

 取り組みとして、生活機能低下につながる進行性疾患などに対しても、継続した個別訓練が重要と考え、実践している。集団訓練では慢性期は社会的交流が重要で、患者同士の活動の中からその人らしい生活を送ることができるようになることを目的としている。

 摂食・嚥下訓練は、経口摂取の可能性を見落とさずに対応し、誤嚥性肺炎による全身状態悪化の防止を目的に取り組んでいる。終末期リハは、最後まで人としての尊厳を維持できる支援、ご家族に対して予期悲嘆の軽減を含めた心理的支援をチームの一員として行っている。そして、発表ではこれらの事例を示した。

 まとめとして、療養病床のニーズは高く、そこで生活されている患者の機能改善と能力低下の防止や、社会的交流を支えるための継続したリハサービスは大変重要である。

 そして、入院におけるリハサービスは在宅生活の継続を支援する介護保険リハサービスと同様に大切な医療サービスの一つと捉え、その人らしい生活を最後まで送れるように支援していくことが必要であると話された。

■ まとめ

 全員の発表終了後に、会場からの質問に答えながらの討論となった。

 在宅リハの重要性は認識されているが、まだまだ不足していてリハスタッフの配置数も問題であるとされた。通所リハでもリハスタッフ数も評価されるべきとの意見があった。

 また、個別リハだけでなく、集団リハも評価すべきとの意見も出た。今後は、慢性期・維持期リハでの効果や必要性を客観的に検証することが重要であると確認された。
 



Article printed from 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト: http://manseiki.net

URL to article: http://manseiki.net/?p=272

Copyright © 2011 Japan association of medical and care facilities. All rights reserved.