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在宅での看取り、病院の役割は?

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年10月1日 @ 1:30 AM In 役員メッセージ | No Comments

 急性期から慢性期、そして自宅に戻って療養した後、元気に社会復帰することが望ましいのですが、回復しないまま「終末期」という出口もあります。

 在宅での看取りについて、札幌市の定山渓病院院長で日本慢性期医療協会副会長の中川翼氏は、「いまだ訪問診療・看護の献身的な業務に依存せざるを得ない現状がある。その過程で病院の役割も見直されているのではないか」と問いかけます。

 今年6月、札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」を振り返り、中川氏がJMC77号に寄稿した「END-OF-LIFE-CARE~患者・家族の意思と病院の役割~」をご紹介します。
 

終末期医療・看護では、
医療者側と利用者側の認識、意思を共通にすること

 

 これまで、日本慢性期医療学会では、終末期についてのシンポジウムを継続的に行ってきた。毎年のシンポジウムは押しなべて好評であり、多くの学びがあったとの意見も聞こえていた。

 ただ、私としてはマンネリ化を避ける観点からも、今回は「END-OF-LIFE CARE~患者・家族の意思と病院の役割~」というテーマにし、多彩なシンポジストにご登壇いただくこととした。
 

 今回意図したことは、
 

 ①  「終末期」という言葉は少し暗いイメージが漂うことから変えてみた。

 ② 終末期医療では特に、医療者側と利用者側の認識、意思を共通にすることが求められる。そこを強調してみた。

 ③ 終末期医療における病院の役割である。
   在宅での看取りには、未だ訪問診療・看護の献身的な業務に依存せざるを得ない現状がある。
   その過程で病院の役割も見直されているのではないかと考えた。

 ④ 今回、日本慢性期医療協会の参与になられた岡田玲一郎先生のご提案で、市民公開にした。

 ⑤ 本年5月に開催された、老人の専門医療を考える会のシンポジウム「胃ろうの現状と課題」の座長を勤めた桑名斉先生(信愛病院院長)にも、その内容の一部をお話していただいた。
 

■ 講演
 

 1. 湧波淳子氏(沖縄県・北中城若松病院理事長)

 湧波先生の病院は以前から終末期医療にとても熱心に取り組んでいると聞いていた。したがって、今回のシンポジストの最初にご登場していただいた。

 先生の病院では、ターミナルカンファレンス、死亡後カンファレンスが実施されていることを述べられた。また、法人内にチャプレンが4名勤務しており、終末期の心のケアを患者さん、ご家族に行っていることを述べた。

 チャプレンの存在は、病院の設立母体にもよろうが、全国的にもあまり例がないことのように思われ、素晴らしい実践と思われる。

 また、亡くなられた方の「しのぶ会」を1年に1回行っていた。先生のご発表はアンケートからも好評であった。

2. 平田済氏(福岡県・たたらリハビリテーション病院院長)

 平田先生は、日本慢性期医療協会で実施した調査の報告をされた。医療保険病床の回収患者数28,102名のうち経管栄養の患者数は11,750名、41.8%であり、そのうち、胃ろうは28.8%と報告された。

 先生は、高齢者の認知症患者に人工栄養を差し控える場合に、どのような過程をクリアすべきか考察された。

 2010年3月から月1回ランチタイムに、終末期ケア研究会を各職種が参加して実施している。この会で死生観、終末期医療のガイドライン等を検討している。今後は事例検討を深めたいと述べられた。

 さらに、DNRの指示の患者には、弁護士1名、住民代表1名を含む倫理委員会で検討している。この委員会では、意思確認の不十分さを指摘されることが多いという。

 倫理委員会の開催は極めて真摯な態度であると思われるが、私の病院ではほとんどがDNR希望の患者であることを考えると、ここまで検討が必要かとも考えさせられたが、いかがであろうか。当日時間がなく、平田先生にこの件について質問できなかった。
 

3. 山田智子氏(山口県・光風園病院病棟科長)

 光風園病院も長年、終末期医療・看護等にチームで熱心に取り組んでいる病院である。

 山田氏は医療療養病棟(60床)の看護師長である。私の記憶が正しければ、医療療養病棟の在院日数は664日といわれた。しかし、死亡された方は14か月で60床中28名であり、かなり多い数であった。

 ・ 事例1 : 90歳代、胃ろう希望、職員と家族で丁寧に看取った。

 ・ 事例2 : 80歳代、特別養護老人ホームから救急で入院。緩和的に看取った。

 ・ 事例3 : 多系統萎縮の事例。

 山田氏の温かいお人柄が表われ、日常の看護が見えてくるようなよい発表であった。

4. 蛸島八重子氏(北海道・北海道難病ネットワーク連絡協議会、難病医療専門員・看護師、北海道医療センター所属)

 神経難病はがん、高齢者(認知症)、救急、小児とともに5つの終末期医療の対象カテゴリーの一つである。

 日本慢性期医療協会の会員病院でも、高齢者(認知症)と高齢者のがんに次いで、神経難病の終末期に相対することも少なくないのではなかろうか。

 なお、蛸島氏の前職は定山渓病院の看護師長である。

 神経難病、特に、もっとも進行が早い筋萎縮性側索硬化症(ALS)の相談が多いようであった。診断はついたが、病気・病状がどうなっていくか等の相談は、北海道医療センター内の難病相談外来(週1件、予約制)を紹介、神経内科医師が丁寧に説明するという。蛸島氏はそのつなぎ役や同席も行っている。

 蛸島氏の発表を通し、難病の患者・ご家族の相談内容の多様さと氏のご苦労を知った。慢性期医療を担当する病院は今後、このような神経難病の方の入院相談にも十分対応していくことが求められよう。

5. 桑名斉先生(東京都・信愛病院院長)

 高齢者の終末期医療を考えるとき、「胃ろう」の問題は避けて通ることができない大きな課題である。

 老人の専門医療を考える会の第35回シンポジウム「胃ろうの現状と課題」が2011年5月14日、東京で開催された。その際、シンポジウムの座長を担当された桑名斉先生に、そのシンポジウムの内容の一部をご報告していただいた。

 この5月のシンポジウムのシンポジストとテーマは、「有益か否かで適応基準を判断」(山下晋矢・永生病院医師)、「患者家族の意思決定プロセスに寄り添う」(中島朋子・東久留米白十字訪問看護ステーション看護師)、「老衰には不適応」(石飛幸三・特別養護老人ホーム芦花ホーム医師)、「何のために生きるか、誰のための人生かに基づいた判断」(池田誠・NHK報道局社会部記者)であった。

 その中で、「日本では諸外国に比べて、一度胃ろうを造設したら中断する選択肢はない。法律が整備されていない」との指摘があった。

 全日本病院協会の調査(2011年3月)では、胃ろう造設決定の72~84%が「家族の意思」であること、そのうち、「造設してよかったと考える家族」は53~71%、「何ともいえない」40%、「よくなかった」2.7%であったという。

 私の突然の申し出に対して快諾され、貴重なお話をいただいた桑名先生に感謝したい。
 

■ 討論
 

 討論時間は20分以上あったが、多くの質問が飛び交った。その一つずつを正しく記憶していないことをお許しいただきたい。

 ・ 長谷川和男先生(兵庫県・いなみ野病院院長)より、インフォームド・コンセントを確認する際、選択肢の提示の重要性についてご意見があった。また、患者の意思確認の難しさについて言及された。

 ・ 横山宏先生(山梨県・恵信甲府病院理事長)から、急性期病院は誤嚥があると、胃ろうを簡単に造設しすぎるとの指摘があった。

 ・ 藤田博司先生(山口県・光風園病院副院長)から、終末期の評価と、言葉の問題の整理の必要性についてのコメントがあった。

 ・ その他、原健二先生(奈良県・奈良東病院院長)をはじめたくさんの質問があったが、詳細は割愛させていただきたい。

■ 所感
 

 ・ 会場より多くの質問があったので、質問の舵取り、つなぎ役に終始していたように思う。特に、何かに焦点を合わせて議論することができなかった。

 ・ シンポジストの抄録を見てはいたが、この点をよろしくというインフォメーションを事前に出さずに当日になってしまった。

 ・ したがって、ややテーマにフォーカスされていない発表が出てきた場合、それをどう今回のテーマに結び付けていくかに十分な配慮ができなかった。

 ・ また、シンポジストの発表の想いを明確にすることにも、私からの補足が不足であった。

 ・ 今回、岡田玲一郎先生のご提案で、このシンポジウムを市民公開とし、約70名の市民が参加された。よい試みでもあり、今後検証していきたい。市民公開という新しい学会のあり方をご提案をいただいた岡田先生に感謝申し上げたい。

 ・ その中で、学会10日ほど前に依頼した桑名斉先生のご発表は、市民を含めた参加者の理解に寄与したのではないだろうか。

 ・ 私の「終末期について」の最初のシンポジストは1998年の老人の専門医療を考える会主催の「高齢者の終末期医療2~尊厳死を考える~」であった。
 東京銀座ガスホールで開かれたこの会には、300名以上の市民(医療・福祉関係者を含む)が参加してくれた。その際の緊張感は今でも忘れられない。
 それから13年経ち、「終末期」の問題も市民と同様の目線で話ができるようになりつつあることを実感した。

 ・ 会場入り口に、定山渓病院での発表を整理した小冊子「終末期医療2011」を200冊置いたが、すべてお持ち帰りいただいた。依然としてこのテーマに強い関心をもたれていることを感じた。

■ 参考
 

 なおご参考までに、今までの日本慢性期医療学会全国大会時の「終末期についての講演・シンポジウム」を列挙し、参考としたい(敬称略)。

 * 私が参加したのは第3回以降である。第3回~第7回まで特別な企画はなかった。

 ○ 第8回東京大会(2000年・5時間)

   ・ 講 演:橋本肇、中川翼 
   ・ シンポジスト:富安幸博、田中久美子、吉岡あき子、三田道雄、照沼秀也

 ○ 第9回沖縄大会(2001年・1時間)

   ・ 講 演:中川翼

 ○ 第10回大阪大会(2002年・2時間)

   ・ 講 演:井口昭久
   ・ シンポジスト:鈴木直人、中川翼

 ○ 第11回青森大会(2003年・2時間)

   ・ 講 演:井形昭弘
   ・ シンポジスト:藤田博司、中川翼

 ○ 第12回札幌大会(2004年・2時間30分)

   ・ 講 演:石垣靖子
   ・ シンポジスト:藤田博司、桑田美代子、蛸島八重子

 ○ 第13回東京大会(2005年・2時間30分)

   ・ シンポジスト:中川翼、山下絵里、藤田博司、桑名斉、照沼秀也

 ○ 第14回京都大会(2006年・2時間30分)

   ・ シンポジスト:斉藤克子、高野喜久雄、有吉通泰、宮岸隆司、藤田博司

 ○ 第15回神戸大会(2007年・2時間)

   ・ シンポジスト:横山宏、佐藤伸彦、熊切桃子、田岡亮一、井上孝義

 ○ 第16回福岡大会(2008年・2時間)

   ・ シンポジスト:中川翼、原健二、門脇章子、二ノ坂保喜

 ○ 第17回浜松大会(2009年・2時間)

   ・ シンポジスト:中川翼、桑名斉、今野民子、三原絵美、宮崎美智代(認知症の会)

 ○ 第18回大阪大会(2010年・1時間20分)

   ・ シンポジスト:桑田美代子、中野絵奈、工藤理

 ○ 第19回札幌大会(2011年・1時間30分)

   ・ シンポジスト:湧波淳子、平田済、山田智子、蛸島八重子(桑名斉)



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