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「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(4) ─ シンポ1(慢性期近未来)

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年12月26日 @ 4:19 PM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等 | No Comments

 「第20回日本慢性期医療学会福井大会」では、各界のキーパーソンを招いて5つのシンポジウムが開催されました。最初のシンポジウムは11月8日午後、「日本の慢性期医療の近未来」と題して、日本医師会常任理事の高杉敬久氏、日本病院会会長の堺常雄氏、日本看護協会副会長の大久保清子氏がシンポジストとして参加、座長を日本慢性期医療協会の武久洋三会長が務めました。各シンポジストのご講演要旨と、意見交換の模様をお伝えします。
 

■ 高杉敬久氏(日本医師会常任理事)
 

今後、療養病床をどうするか
 

 日本の医療の在り方や進め方は先進諸国と少し違う。地域で開業して有床診療所をつくり、ある診療所は病院に発展し、その病院が大きくなって地域を支える。全国の病院の7割以上が民間病院で、いろいろな面で医療や介護を支えている。国民皆保険制度の下、いつでも誰でも安価に医療を受けられるようにするため、大病院や小さな病院、診療所などが共存しながら日本の医療を進めてきたという歴史がある。
 
日本医師会常任理事・高杉敬久氏 そうした中で、病床の機能に応じた医療提供が経済的な誘導で進められてきた。地域の拠点病院を中小規模の民間病院が補完しながら、二次医療圏で完結できるような医療を提供してきた。高齢化が急速に進む中で、病院が福祉的な役割も担ってきた。国は、医療や介護の療養病床をつくって対応してきたが、今後さらに高齢化が進むため、いかに対応すべきかが大きな課題となっている。

 わが国の病床区分は制度当初、「精神病床」「伝染病床」「結核病床」、そして「その他の病床」に区分されていた。全体の病床の中で、「結核病床」が多くを占めていた時代もあったが、国立の病床になったり、民間病院が受け継いだりしながら減少していった。

 一方、高齢化の進展や疾病構造の変化に伴い、昭和58年に「特例許可老人病棟」が導入された。さらに、高齢化の進展や疾病構造の変化に対応するためには老人のみならず、広く「長期療養を必要とする患者」の医療に適した施設をつくる必要が生じたため、平成4年に「療養型病床群制度」が創設された。こうして、「その他の病床」の一部が「特例許可老人病棟」と「療養型病床群」となった。すなわち、「その他の病床」の一部は、「長期にわたり療養を必要とする患者」に対応する病床となった。

 その後、長期にわたり療養を必要とする患者が増加し、平成12年に「一般病床」と「療養病床」が創設されたため、「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に分かれた。こうした中で、多くの民間病院が自分たちの位置付けを決めてきたという歴史がある。

 では今後、慢性期病床をどうしていくか。決して経済的なインセンティブで誘導されるのではなく、われわれ医療人がそれぞれの地域での役割をどのように果たすかが重要となる。これから高齢者が爆発的に増え、病院で死ぬことがなかなか難しい時代にあって、どのように地域住民に安心を与えるかが課題である。
 

介護療養病床の廃止は廃止で
 

 療養病床に入院している患者さんの実態について、平成17年の中医協の調査によれば、「介護療養病床と医療療養病床の入院患者の状況に大きな差は見られず、両者の役割分担が明確ではなかった」とされる。

 「明確ではなかった」とは、それぞれの地域で介護の比率が高い患者さん、医療の比率が高い患者さんが混在していたというのが実態だろう。福祉の役割を果たしていた病院が、「悪いことをしていた」ということでは決してない。昭和48年の老人医療費無料化を契機に、いわゆる「老人病院」が増え、高齢者の福祉基盤の役割をも実質的に担っていたことは確かである。

 療養病床再編成の考え方は、「医療の必要度に応じた機能分担を推進しましょう」ということだった。「医療が必要な人は医療サービスを受けましょう」、「介護が必要な人は介護サービスに移ってください」ということだが、療養病床からの転換は進んでいない。今後、行き場のないお年寄りをどうするのか。

 介護療養病床については平成24年3月31日までに老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護施設等に転換し、制度は廃止されることとになっているが、廃止されても移れない所があることを忘れてはならない。私たちは今、これから増えていくお年寄りのために、なぜ介護療養病床を廃止するのかと問いかけている。介護療養病床の廃止は廃止、つまり「廃止の廃止」でいいのではないか。
 

国民と共に歩む専門家集団を目指す
 

 あたかも急性期だけが医療のごとく思われているが、大切なのは慢性期、回復期の医療だ。身近な通院先、往診をしてくれる在宅医、かかりつけ医の存在が重要となる。切れ目のない医療がなければ、地域住民は安心できない。日本医師会はこれまでにも増して地域の実状を考えながら、多様な提供体制を柔軟にできる仕組みを考えていきたい。

 地方の高齢化は一段落かもしれないが、大都市周辺に住む団塊の世代が一斉に年を取ったときに向け、国民の意識を変え、われわれの意識も変える必要がある。
世界の中で高齢化のスピードが速いわが国。われわれが最初に経験する高齢社会を何とか克服しなければいけない。そのためには、われわれ医療人が先頭に立って進まなければいけない。まさに、意識改革をして迎えなければいけない。

 急性期を終えた後の医療、在宅患者さんの急変時の対応など、そうした日ごろの安心がなければ、地域で生活できない。在宅のお年寄りが急性増悪したときは、まさに武久洋三会長が主張されるように、質の高い慢性期医療の病院づくりも安心の医療を提供する1つの方法だ。在宅医療に取り組んでいるかかりつけ医と病院との連携こそが、安心した町づくりにつながる。

 そのために、医師会を中心にした地域連携づくりを主張したい。医療現場の意見、医療現場の考えを地域に広げよう。それぞれの地域に応じた町づくりのためには、医療の安心、介護の安心がなければいけない。いろいろな段階で、行政は医師会の意見を聴くだろう。その意見を堂々と述べられるような体制をつくることが大切だ。医者だけが動いても何もできない。介護サービスと医療サービスが連携して、うまくやる。

 いろいろな取組みの中、日本医師会は各団体と協議を進めている。東日本大震災などの被災者支援も続けている。多職種連携を繰り広げながら、いろいろな側面から町づくりを支えていく。厚生労働省も、医政局や保険局などが横断的に連携し、各政策を地域で実行していく。あるいは地域から意見を述べながら政策を展開していくことが求められている。日本医師会もその中で頑張らなくてはいけない。

 「継続と改革。地域から国へ」──。これは横倉会長の言葉だ。「国民の健康と命を守るため、日本医師会を強い専門家集団にする。機動力を発揮できる体制をつくる。スピーディーに対応する」と述べている。そして、地域医療の再興。それぞれの地域で、それぞれの町で医療や介護を適切に提供する仕組みを実行してほしい。そして行政を動かそう。それが県を動かし、国を動かすことにつながる。

 国民が等しく医療を受けられる国民皆保険の堅持が大前提であり、営利を目的とした医療の参入は、地域医療を崩壊に導く。TPPに反対している理由はそこにある。地域医療を崩壊に導くことがあってはならない。日本医師会は、国民と共に歩む専門家集団を目指し、世界に冠たる国民皆保険の堅持を主軸にして、国民の視点に立った多角的な事業を展開する。真に国民に求められる医療提供体制の実現に向け、これからも国民と共に努力していく。
 

■ 堺常雄氏(日本病院会会長)
 

3つのステークホルダー
 

 日本病院会にはあらゆる形態の病院が入っている。本日は、「慢性期医療の近未来」について急性期医療の立場からお話しするが、日本病院会は必ずしも急性期医療の病院だけではないことを最初にお断りしておく。

日本病院会会長の堺常雄氏 本日の主題は、「どういう医療提供体制をとるか」ということになる。医療を考える際、私はいつも3つのステークホルダーを考える。患者さんである利用者や社会、それから政府や行政、そして医療提供者であるわれわれ病院や診療所などがある。望まれる医療提供体制は時代により変わる。例えば、急性期病院だけの立場から考えてもいけない。望まれる医療提供体制を考える場合、この三者の立場から考える必要がある。

 3つのステークホルダーいずれもが望んでいるのは、「医療の質」「経営の質」の担保だ。一時期、良い医療をしていればお金が足らなくても何とかなるという時代もあったが、そういう時代は終わった。患者さんの視点で考えれば、予防から入院医療、在宅医療、介護を「シームレスな提供体制」で支えてほしい。病院も行政もそれを目指している。

 しかし、病院の機能は分かりにくい。例えば、公的病院と民間病院、県立病院や市立病院などが混在している。大学病院と一般病院の違いなども、患者さんにはなかなか分かりにくい。そのため、患者さんの都合でいろいろな病院を選んでいる。今後は、それぞれの機能を明確にする必要がある。

 地域の事情に合致した提供体制も望まれる。例えば、東京の医療と浜松の医療にはずいぶんと違いがある。従って、行政が金太郎飴のように中央の考えで「こういう医療提供をしなさい」と言ってもなかなか難しい。地域の事情に合致している必要がある。

 われわれ提供者から見ると、どのような医療を提供するとしても、十分なマンパワーが必要となる。医師だけでなく、看護師ら医療者を確保できる提供体制が望まれる。診療所と在宅医療、介護との連携も非常に重要になる。病院が継続していくためには、健全な経営が可能になるよう診療報酬上の手当ても必要だ。

 政府や行政からすれば、効率的な提供体制を望んでいるだろう。医療法と診療報酬との兼ね合いも重要だ。われわれ医療提供者は医療法に縛られている。もう一方では診療報酬でお尻を叩かれる。その両者で、絶妙なバランスを取りたいと考えているだろう。
 

医療法と診療報酬のバランスを
 

 平成12年以降、「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に分かれた。この「一般病床」がなかなか分かりにくいので、厚生労働省が「急性期病床群」を考えた。これは社会保障審議会の医療部会でさまざまな議論があり、「急性期病床群」だけではなく、「一般病床」の機能を明確化することになり、そのための検討会が近く開かれる。

 一方、診療報酬上は、「高度急性期」や「一般急性期」などの機能に応じてさまざまな区分がある。そうすると、経済的なインセンティブが働き、各病院はそれぞれの機能に応じた診療報酬を取りに行く。

 その結果、どうなるか。例えば、「7対1入院基本料」を創設した当時は、現在ほど多くの病床が同基本料を算定するようになるとは思われていなかった。経済的なインセンティブが働けば、少々無理をしてでも「7対1入院基本料」を取りに行く病院が多くなる。

 従って、医療法の縛りと診療報酬上の手当てをバランスよくやっていただかないと、本当に望まれる医療提供体制はつくれない。
 

急性期病床の再構築が必要
 

 「社会保障・税一体改革」で2025年のシナリオが描かれている。「高度急性期」は22万床で、病床稼働率が70%程度、平均在院日数が5~16日。それに対し、「一般急性期」は病床稼働率が70%程度だが、平均在院日数が9日程度になっている。

 この図を見て、われわれは非常にびっくりした。例えば、平均在院日数は現在、ここまで短縮されていない。こういう数字がどんどん独り歩きしていく。そうすると、いつの間にか「高度急性期」の平均在院日数が5~16日、「一般急性期」は9日程度で定着していくと、各病院はいろいろなシミュレーションをしてマンパワーの確保をはじめ、さまざまな対応策を取る。

 例えば、静岡県内の急性期病院の実態を調べてみた。それぞれの病院の病床稼働率を見ると、ICUの平均在院日数が3.7日。非常に短い。一方、一般病床は13.8日。これを見る限り、「高度急性期」はICUに近い。

 平成24年度の診療報酬改定では、DPCに「医療機関群」が導入された。恐らく、1群(80病院)と2群(90病院)、それに救命救急センター(217病院)を加えた病院が「高度急性期病床」に該当するのではないか。

 現在、急性期病院はさまざまな課題に直面している。救急患者さんの受け入れにはさまざまな形態があり、救急車で来る患者さんのほか、自家用車やタクシー、ウォークインの患者さんもいる。こういう患者さんを受け入れている病院は救急室がオーバーフローになっている。スタッフの課題もある。すべての救急病院に救急医や総合診療医がいるわけではない。多くの病院は各科当直で対応している。では、それで本当に質の高い救急医療が担保されるかは問題がある。

 後方病床が空かないとICUの患者さんが移れない。後方病床から見れば、診断・治療が済んで病態が安定した患者さんをどうするかが大きな課題だ。受け入れ施設との連携は必ずしもうまくいっていない。診療報酬でいろいろ手当てしていただいたが、まだまだ理想的な連携は進んでいない。ややもすると、信頼関係ができない場合がある。「病診連携」はできているが、「病病連携」がなかなかできにくい状況にある。
 

慢性期医療の役割はポストアキュート
 

 「一般病床」の機能をいかに明確化するかが課題だ。急性期病床の再構築が必要だろう。救急医療体制については、多くの地域で行われている一次、二次、三次という救急体制がいいのか。あるいは福井県のようなER型の救急体制がいいのか。これを真剣に考える必要がある。

 急性期病院とリハビリ病院との連携は進んでいる。リハビリ病院の機能が明確だから連携がうまくいっているのか。決してそうではない。連携できる体制が重要だ。ポストアキュートに望むことは、病態が落ち着いた患者さんを総合的に診ていただくこと。そこで働くドクターは、いわゆるアメリカで言う「ホスピタリスト機能」、日本で言えば「総合診療内科的な機能」を持つ必要がある。

 ポストアキュートでは、充実したチーム医療をやっていただきたい。リハビリ機能も非常に重要であり、患者さんの急変に対応できる体制も必要だ。地域と良好な連携を進め、患者さんのスムーズな流れを望む。遠隔画像診断など、急性期病院と診療機能を連携する。そうした中で、慢性期医療の役割として、充実したポストアキュートを期待する。
 

新しい考え方に変える必要がある
 

 インセンティブは診療報酬に偏りがちだが、それだけではなく、医療法と診療報酬のバランスを取ってやっていただきたい。さらに言えば、今までの評価はストラクチャーやプロセスが中心だったが、今後はアウトカムやバリューなど、この両者を含めた評価が必要だ。医療提供体制については、「一般病床」と「療養病床」という区分けがあるが、特に「一般病床」の機能の明確化、分化を図って、その中で慢性期医療をどう構築するかが課題だろう。

 厚生労働省も医政局と保険局などが効率的に連携していただきたい。良質なポストアキュート医療なくして、良質な急性期医療は難しい。パラダイムシフトは、良質で安全な医療。今までは行政主導だったが、利用者・行政・提供者の協働が必要だろう。

 今までの古い考え方から新しい考え方に変える必要がある。利用者の視点に立って、機能を分かりやすく明確化し、分化していく必要がある。現在の病院は、暗黙のヒエラルキーがある。大学病院と一般病院、急性期病院とその他の病院、公的病院と民間病院。しかし、これからは機能分化による類型化が必要ではないか。

 日本病院会は4月1日に一般社団法人となり、7月には在日ローマ法王庁大使館の隣に自社ビルを取得した。今後とも、皆さま方と一緒に医療提供体制の整備に邁進したい。
 

■ 大久保清子氏(日本看護協会副会長)
 

暮らしと医療を切り離さない
 

 看護の立場からお話しする。まず将来人口の推移を見ると、2025年に向けて、「高齢・多死社会」が世界に類を見ないスピードで進む。高齢者の9割が慢性的な疾患を持っているため、高齢者が増えると慢性期医療の対象者が増える。医療・介護を必要とする高齢者が今後もどんどん増加する。

日本看護協会副会長の大久保清子氏 高齢者の多くは、生活習慣病や合併症、副傷病を抱えている。認知能力や身体機能が低下する。社会との交流も希薄になる。環境の変化に適応しづらいという特徴もある。
 個別性も大きい。性格、人生の経験、環境も違う。1人ひとりが大きな個性を持っている。家族の形態も変化しており、独り暮らしの高齢者も増える。

 こうした状況を踏まえると、多様な療養に対応していくため、医療や介護の提供体制を確立する必要がある。看護の立場から言えば、「暮らしと医療を切り離さずに支援する」ということが必要になる。暮らしながら医療を受ける。暮らしと医療を切り離さないという視点が必要になる。
 

退院後の生活を支える看護職が足りない
 

 「社会保障・税一体改革」で2025年の医療・介護モデルが示されている。在宅サービス、居住系サービス、介護施設の役割が大きくなる。一方、高度急性期から慢性期、在宅につながる縦のつながりを考えていかなければならない。情報をいかに共有するかも課題となる。

 これまでは、病気になったら病院で治療すること、すなわち病院医療が重視され、看護の教育体制も整えてきた。しかし今後は、退院した後の住まいや生活、地域に重点を置き、コミュニティをつくり、支えていくシステムが必要になる。高齢者を地域で支えていく仕組みはまだ十分に構築されておらず、これからの分野と言える。

 看護職は現在、約147万人いる。2025年までにもっと増やさないといけない。看護職の多くは病院で働いている。訪問看護を含めた在宅ケアを支える看護職が少ないので、いかに増やしていくかが問われる。現在、病院で働いている看護職の人数と同じ割合まで増やす必要がある。

 2025年の医療・介護モデルに沿って改革を行おうとすれば、看護職は195~205万人が必要になるが、現状のままでは20~30万人不足する。高齢化で退職する看護職が増えることを考えると、もっと足りないかもしれない。
 

特定の医行為が可能な制度を
 

 平均在院日数の短縮化に伴い、医療依存度の高い患者さんが在宅に帰っている状況がある。自宅で最期まで療養することが困難な理由として、「家族の負担」と「急変時の対応」が指摘される。

 看護職の特長として、患者さんと接する時間が長いことや、生活の場に直接関わっていること、情報を多く持っていることなどが挙げられる。看護職には、チーム医療のキーパーソンとしての役割が期待されている。患者さんの生活を踏まえたマネジメントが求められている。

 訪問看護を受けている患者さんやご家族から、「ナースが来ると柔らかい風が入ってきたようにホッとする」という声を聞く。看護職は、在宅ケアにおいて患者さんのQOLの維持や向上に大きな役割を果たし、家族が疲れている時の支えにもなる。

 シームレスな医療・介護の提供に向け、「施設完結型」から「地域完結型」が進んでいる。機能分化による施設間の連携だけでなく、学校や保育園など社会生活の場でも連携していく必要がある。職種を問わずに地域内での合同勉強会をしたり、ITの活用により情報共有を進めたりするのもいいだろう。

 地域を1つの病院と見れば、患者さんのご自宅が病室であり、訪問看護ステーションがナースステーションであり、施設に通う道が廊下である。看護職が院内で多職種と連携するように、各施設をつなぐ「キーパーソン」として連携する。看護の役割は、患者さんの主体性を重視しつつ、患者さんやご家族のQOLの向上を目指すこと。暮らしと医療を切り離さずに、急性期から在宅までのシームレスな看護を提供していく。

 そのためには、看護職の活動を強化していくことが必要だ。専門性の高い看護師の活用が必要であり、特定の医行為が可能な看護活動の制度化に期待がかかる。

 在宅医療に従事する人材の確保や、訪問看護事業所の規模の拡大も課題だ。24時間、在宅に出入りし、1回でも多く、1人でも多く訪問する。そのために、ネットワークで患者さんの情報を共有し、医療依存度の高い患者さんを支える複合的サービスを普及することも進めていきたい。
 

■ 武久洋三氏(日本慢性期医療協会会長)
 

慢性期病院にも急性期的な機能が必要
 

 今回の同時改定では、上流の高度急性期から中・下流の慢性期を通って、海という在宅への一本の幹線道路がつくられた。その道を患者が渋滞なく通過するように努力している医療機関は評価するが、意図的に渋滞を起こそうとしている機関は評価しないというベクトルが示された。

武久洋三・日本慢性期医療協会会長 今後、「高齢・多死社会」が進む。入院患者が3倍になるのに、病院・病床数が増えなければ、3分の2の患者さんは入れない。しかし、入院期間を3分の1に短縮すれば入れる計算になる。平均在院日数をどんどん短くしていかないと対応できない。そうすると、急性期から慢性期、在宅へとさらに移り、全患者の約9割が慢性期医療の対象となる。都内の大学病院では、NICUなどを含めた入院患者の平均年齢が70歳以上と聞く。

 平均在院日数の短縮化が進むと、例えば急性期病院に30日間入院していた患者さんが10日で退院する。そうすると、残りの20日はポストアキュートに移る。従って、現在の急性期医療の後半部分を慢性期病院が担うため、慢性期病院にも急性期的な機能が求められる。いわゆる「老人収容所」のような慢性期病院は5年以内になくなるだろう。
 

アウトカムが悪ければ評価されない時代に
 

 今回の診療報酬改定により、「一般病床」の看護配置13対1、15対1に「医療区分」が導入された。「一般病床」に長く入院している患者さんの診療報酬が「療養病床」と同じになったということは、もはや「一般病床」と「療養病床」に分けている意味はない。

 日本には、米国のLTAC(長期急性期)のような機能を持った病院群がない。これからは、高度急性期病院の後を引き受けるポストアキュート病床が必要になる。米国では、同一法人のLTACからSTAC(短期急性期)への移動は4分1しかないが、日本のケアミックス病院では同一施設内でキャッチボールが行われている。

 今後は、病期別、病態別の評価に変わっていくだろう。きちんと治療してアウトカムが良い病院は評価されるが、悪ければ評価されない時代になる。現在、療養病床から急性期病院に紹介される患者さんが多くいる。急性発症の場合はやむを得ないが、そうではなく慢性疾患が急性増悪したような場合は、できるだけ慢性期病院で診ることや、老健や特養でも慢性期の増悪に対応することが必要だ。その結果、かなりの医療費が削減される。

 「7対1入院基本料」の病院では、1日の入院料が6万円以上掛かる場合もあるが、療養病床ならば1万5,000円程度しか掛からない。その差は5万円以上。療養病床を削減するよりも、「一般病床」の中にいる慢性期の患者さんを減らしたほうが、1人当たり1日5万円以上も減る計算になる。
 

良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない
 

 慢性期病院には、どのような役割が求められるか。高度急性期病院の後方を担う「長期急性期」は、レベルの高い慢性期病院の一部と、急性期病院の一部で形成するようになる。「長期慢性期」は、難病や重い後遺症の患者さんを受け入れる。今後、療養病床はこうした2つの役割に分かれていくだろう。

 また、在宅療養の支援は国是であり、今後ますます重要になる。そのために地域連携を進めていく必要があるが、疾患パスがうまく回っていない。脳卒中や大腿骨頚部骨折の連携パスは回復期リハまでしかフォローできない。疾患パスをコーディネートする「地域包括医療センター」のような所が必要であり、在宅医療を支援する後方病院などが担う必要がある。一方、「地域包括支援センター」で介護保険をうまくマネジメントする。

 在宅の患者さんを受け入れる後方病院は、最高の治療をして早く自宅に帰して、在宅療養支援診療所の先生につなぐことが必要だ。7日以上入院させてしまうと、介護者は患者さんが自宅にいないことに慣れてしまい、継続的な在宅療養が難しくなる場合もある。

 日本慢性期医療協会では、在宅療養を支えるために「在宅医療認定医講座」をスタートしたほか、近く「在宅療養家族講座」も開催する。来年から「ケアマネジャー講座」も始める。良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない。今後もさまざまな取組みを進めていきたい。[→ 続きはこちら]
 


 

 

■ パネルディスカッション
 

[武久氏]
座長・武久洋三会長 私から3人のシンポジストの先生方にご質問したい。まず高杉先生、在宅医療政策の推進に関する日本医師会の方針をお聞かせいただきたい。
 
[高杉氏]
 私が子どものころは、ちょっと熱を出すと開業医の先生が往診に来てくれた。そういう時代を思い出しながら今の医療を考えると、「待ちの医療」では駄目な時代が来るだろう。医療の原点に帰る必要がある。在宅医療の醍醐味を味わえば、若い先生方も変わってくるだろう。

 地域の医師会が医局になり、患者さん宅が病室になる。院内の回診と同じように訪問診療をする。そういう地域の安心づくりに地区医師会がしっかり関わっていくこと、これがキーワードになる。

[武久氏]
 ありがとうございます。堺先生にお尋ねしたい。「高度急性期」を「急性期病床群」として区分けしたら、その残りの部分はどうするか、その処方せんがないまま「急性期病床群」が出てきたような気がする。厚生労働省は、約100万床ある「一般病床」のうちの約50万床を「急性期病床群」と想定していると思うが、残りの50万床について、病院団体として何らかのご提案はあるか。
 
[堺氏]
 それは非常に大きな課題だが、急性期の立場から、その後のポストアキュートをどうするのか言いにくい。病院単位か病棟単位か、いろいろな議論があると思うが、軽々には言えない。

シンポジスト

[武久氏]
 急性期病院の中に、慢性期の患者さんがいる。厚労省も同じような考えを持っているだろう。ただ、「急性期病床群」に入れない病院が直ちに良質な慢性期病院になることは難しいと思う。

 何が「急性期」で、何が「慢性期」かについては議論があるところだが、いずれも診療の質が問われていることは確かだろう。

 大久保副会長にお尋ねしたい。「盃型」になっている「7対1」「10対1」について。「7対1入院基本料」が新設された2006年度以降、約15万人の看護師が移動しないと、このような形にはならない。

 一方、100万床のうち50万床が「急性期病床群」ではないと仮定すれば、看護師の再移動もあり得ると思うが、日本看護協会としてどのように考えているか。
 
[大久保氏]
 おっしゃるように、看護師の配置を「ツボ型」から「スルメ型」に変えていく必要がある。急性期と慢性期の機能が明確化されれば、看護師の配置も変わるだろう。

 診療報酬上で有利になるので「7対1入院基本料」を算定する病院が増えたと思うが、「10対1」でも決して損にならないような計算もある。今後、診療報酬上で何らかの手当てをして、看護師の配置を左右させていくことも必要になるだろう。
 
[武久氏]
 フロアーから、何かご質問はあるだろうか。

[池端幸彦氏(福井大会大会長)]
 大久保先生にお尋ねする。在宅医療の訪問看護師が不足しているので、「訪問看護推進協議会」で、その理由をいろいろ検討している。例えば、急性期病院ではOJTのトレーニングシステムが非常に発達しているが、訪問看護ではなかなか難しいという事情がある。そこで、訪問看護のOJTシステムについて、日本看護協会として何らかの取組みやお考えはあるか。

[大久保氏]
 日本看護協会でも、それを非常に重要視している。在宅医療に従事する看護師の確保や養成への取組みを進めている。訪問看護のOJTは行っているが、枠が少なかった。

 これまでは、命を助ける急性期医療にポイントが置かれていたため、急性期の教育システムは整っているが、今後は慢性期や在宅などを充実していく必要があると認識している。そういう動きが徐々に出てきているので、もう少しお待ちいただきたい。

[武久氏]
 大久保先生も講演の中で触れられたが、「特定看護師」の問題について、医師会や病院団体などの意見が違うと思う。特養に重症の患者さんが入所しても医師はいない、看護師の当直もない。そうすると、オンコールで看護師さんが来て、患者さんの状態を見る。そこで、「救急車を呼びなさい」とか「朝まで様子をみよう」ということを看護師が判断している。実際、現場はそうやって動いている。

 私は、特養や介護施設にいる看護師さんは、一番高いレベルが必要ではないかと思っている。「特定看護師」について、日本看護協会は急性期を想定しているのか、慢性期を想定しているのか。

[大久保氏]
 すべての分野に対応できればいいが、やはり一番求められているのは在宅や特養だと思う。試行事業では、特養で深夜に発熱した入所者に対し、医師が不在でも一定の対応をしている特定ナースがいる。入所者にも家族にも喜ばれているとの報告を聞いている。これからは、特養や訪問看護で「特定看護師」が特に必要とされるだろう。

[武久氏]
 現実には行われているが、法制化となると、高杉先生いかがだろうか。

[高杉氏]
 「特定看護師」の法制化は二重資格になるので、基本的には反対だ。ただし、がんや小児、在宅医療など、各分野に精通した認定看護師が能力を高めることは非常にいいことだと思う。その能力アップがなければ地域医療はもたない。

 かつて助産師問題があった。助産師がいないとお産に支障があるような、「その人がいなければその行為ができない」という資格をつくるべきではない。かえって不便になると考える。従って、在宅医療を専門とする看護師の養成を医療界は求めている。

[武久氏]
 医療は歴史的に、看護師と協調してやってきた。われわれも病院では看護師に頼っている部分が多く、在宅医療ではさらに、いろいろな指示をあらかじめ出しておくことが増えるだろう。これからの医師と看護師の関係について、急性期病院の立場からいかがだろうか。
 
[堺氏]
 「特定看護師」の問題は、救急や在宅医療など広範囲にわたって議論されている。すべておしなべて決めようとするとなかなか難しいが、1つひとつの場面では必ずしも難しい状況ではないと思う。

[武久氏]
 看護師は非常に頼りになる存在だと思っている。在宅医療を含め、地域包括ケアシステムは医療のサポートが強くないとなかなかうまくいかない。私は国の一大事だと思っている。各医療機関、各職種が己の利己的な考え方を捨てて、協調して準備していく必要がある。そのためには、医療団体の長である日本医師会のサポートが非常に重要である。高杉先生、日本医師会としての決意をお願いしたい。

[高杉氏]
 会長の代行としてこういう場に出ると非常に厳しいということを痛感している(笑)。

 2025年に向けて今回の診療報酬・介護報酬の同時改定があった。その中に読みとれるものがたくさんある。読みとって動かなければならないことも多い。日本医師会は先頭に立って、情報をくみ取って流し、あるいは各地での先駆的な取組みを紹介し、各地域に合った医療・介護体制の構築に努めていきたい。ナースを中心とした各医療関係の職種を巻き込んで、町づくりをしていきたい。

[武久氏]
 ありがとうございました。語り尽くせない部分もあったと思うが、これでシンポジウムを終わりたい。[→(5)はこちら]
 



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