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【第4回】 慢性期医療リレーインタビュー 橋本康子氏

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年3月6日 @ 11:41 PM In インタビュー | No Comments

 「病院」でありながら、「病院」とは思えない日本初の「リハビリテーション・リゾート」。リハビリ医療の専門家としての視点と患者さんの視点、2つの視点によってもたらされた大切な「気づき」から誕生した千里リハビリテーション病院(大阪府箕面市)を運営する医療法人社団・和風会の橋本康子理事長にお話を聞きました。
 

■ 医師を目指した動機
 

 正直に言いまして、「医師を目指した動機」というのはあまりないんです(笑)。他の先生方のインタビューを拝見しますと、みなさん、いろいろな理由がおありになるようですけれども、私の場合は父が開業医でしたので、明確にお話しするような内容はないかもしれません。

 「医師になってからこうしたい」とか、「こんなことがあったから医者になりたいと思った」というようなことはなかったんですよね。大学に進学する直前まで、音楽の道に行きたいと考えていました。高校が音楽専門の学校でしたので、医師とは全く違う方向でした。ですから、医学部に入る半年前まで医者になる気は全くなかったんです(笑)。

 私は小さいころからずっとピアノの勉強をしていましたので、その流れで音楽高校、そして音大に行ってプロのピアニストを目指そうと思っていました。音大に進むことは高校入学の時にすでに決めていました。

 ただ、音楽の場合は才能の有無がはっきり分かりますよね。小沢征爾さんとか、中村紘子さんとか、ごく稀な一流の方々をはじめとして、才能がはっきりする分野です。大学に行くころになりますと、自分の才能というものがだいたい分かってきます。

 中学、高校生ぐらいのころはね、どこか地方のコンクールで優勝したりとか、本当にピアノが大好きであったりとか、そういう思いでやっていけるものですが、プロになろうと思うと、やはり才能があるかないかで分かれてしまいます。だから医学部、というのも本当に不純な動機なんですけれども(笑)。

 香川医科大学(現香川大学)に入局しましたが、当時は医学部が新設されたばかりでガラガラなんですね。医局の先生が1人、2人いるぐらいでしたし学生も少なかったので、本当にかわいがってもらいました。付属の大学病院も、まだできたてのほやほやでしたから、教授と研修医との間に誰もいませんので、教授から直接教えてもらうことができました。

 医局ができたばかりでしたので、ボールペンを購入するための申請を出したりなど、とにかく何もない環境で、私が入局したころは患者さんもいませんでした。いろいろなものをつくっていく所からスタートしまして、「入院第1号の患者さんだ」とか、そんな感じでした。

 「医師になってからこうしたい」という強い思いがなかったことが逆によかったのか、新しいものに積極的に入っていくことができました。いろいろなことに興味を持つことができました。
 

■ 慢性期医療に携わって思うこと
 

 日本は急速な高齢化が進んでいますので、慢性期医療という分野が非常に重要になっていますよね。患者さんの数から言えば、急性期医療よりもはるかに多い。維持期の領域においてニーズが増大している点から考えましても、慢性期医療は量的に多い。

 もちろん、急性期の高度医療も重要な分野ですから、これからどんどん充実させていく必要がありますが、慢性期の時期にある患者さんの数が今後、膨大になってきます。私としては、「大変だ」というよりも、「興味深い」「面白い」と言うべき分野ではないかな、と思っております。

 私の病院は現在、リハビリテーションを中心にやっております。医療における「陰と陽」という見方で言えば、リハビリというのは「陽」です。リハビリをすれば、ほんのちょっとでも良くなっていきます。「明るい医療」と言うのでしょうか、私としてはとても良い医療だと思うんですよね。

 今の医療界を細分化する必要はないと思いますが、高度医療をやって介護もやって、何でもかんでもやる能力があればいいのですが、最近ではそれぞれの領域でのレベルが高くなっています。そういう流れから考えますと、リハビリならリハビリの分野に集中してやっていく必要があります。慢性期医療は今、そういう段階に入ってきていると思います。

 私の父の時代は、「外科」と言えば、消化器系が専門の先生でも手術から何から何まですべてやる。ところが、最近は違いますね。がんの治療にしても手術にしても、どこの部位かによって、ものすごく細分化されています。その分、各領域がものすごく奥深くなってきている。それが現在の急性期医療、高度医療ですね。そうしていかないと、今の患者さんのニーズに応えられない。医療技術の進歩に追い付けません。

 その一方で、「慢性期医療」と言うと、ボワーンと、何かひとくくりの感じで思っておられる方も多いと思います。しかしもう、そういう時期は過ぎたかなと思っています。「慢性期のリハビリ」とか、「慢性期のターミナル」とか、「慢性期の中の急性期」と言うんでしょうか、「慢性期の中の重症」とか、そういう分化が進んでいます。

 しばしば、「慢性期」と、そして在宅への橋渡しとなる「維持期」とを分けることがありますが、実際には慢性期から維持期への移行部分も1つの専門分野になるぐらい大変な領域なんです。そこの認識がまだまだ足りないような気がいたしますので、こうした慢性期から在宅へ移行する部分が、今後は非常に重要になってくると思います。
 

■ 若手医師へのメッセージ

 
 医学部を卒業するころ、「跡を継ぐかもしれないな」という気持ちがありました。私には弟と妹がおりますので父の跡継ぎはいたのですが、私は長女ですのでそういうこともあるなとぼんやりと思いました。ですから、内科系のほうがいいだろうと考えて内科を選んでいったん地元に帰りました。

 最初に勤務した大学病院では、第1内科(呼吸器内科)に所属しましたが、父の跡を継いで開業するだろうなという思いが常にありましたので、専門分野を極めていくというよりは地域医療を支えていくような方向性を意識していました。呼吸器内科の医者も、消化器系の分野、例えば胃カメラなどもできないといけないと思いましたし、糖尿病の患者さんへの対応もできるようにしようと思って勉強しました。

 ですから、専門分野を突き詰めていくというよりは、ジェネラルというか一般的な分野ですね。診療所には、骨折した人が来院することもあるし、糖尿病の人も来るでしょうし、いろいろな疾患を抱えた患者さんが来ます。それぞれの専門ではなくても、ある程度、見逃さないようにすることが必要です。そういう意識がありましたので、大学病院時代は、呼吸器内科の分野だけでなく、画像診断のことを勉強したりするなど、いろいろな分野を幅広く学びました。超高齢社会でお年寄りの患者さんが増えているので、ジェネラルに診ていくことが必要だと思います。

 現在、医局制度が崩壊していると言われます。私は大学病院の医局に十年近くおりました。呼吸器内科でしたので、肺がんなどの治療が多かったのですが、他の分野の先生の姿や、他科の様子を見ることができました。また、いろいろな先生方から様々なことを教えていただきました。医学的なことだけではなく、医者としての礼儀作法なども学びました。

 どの職種でも、サラリーマンの方々もそうだと思いますが、先輩や目上の方からの指導を当たり前のように受けることができるのが大学病院の医局でした。学生と同じような感覚で叱られるんですよ。市中病院などは忙しくてそういうことは少ないでしょうし、一般の病院では、大学病院のように上の先生から怒られたり指導されたりすることはないと思います。

 医者というのは、若いうちから「先生、先生」と言われます。その時点ではスキルや技術がほとんどないのに、一人前になったような錯覚に陥るし、そのような扱いを受けますね。しかし、礼儀作法や患者さんとの接し方まで、いろいろと厳しく指導してくれるのが大学病院です。そういう意味で、私にとってはすごく良かったです。

 「医者としてのあるべき論」と言うんでしょうかね、最近、ちょっと変じゃないですか。すべての医師がそうだとは言いませんけれども、患者さんとの接し方とか、約束の時間に遅れてはいけないとか、そうした基本的なことを自然に身につけることができるのが大学病院です。医学部を卒業したばかりのころは勘違いしていることも多いので、怒られなければ分からないこともあると思います。ですから、大学の医局に残る研修医が減っている状況を見ますと、ちょっと気の毒だなあと思います。医局で学ぶことはすごく多いと思います。
 

■ 日本慢性期医療協会への期待
 

 いま、日本慢性期医療協会はすごくアクティブに活動されていますよね。私もリハビリテーション委員会の委員長になっていますので、私自身ももっと頑張らなくてはいけないなと思っています。ですから、慢性期医療協会に対して要望や期待を述べる立場にはありません(笑)。

 ただ、少しだけ希望を言いますと、これからも今以上に発信していただけたらいいなと思っています。武久会長はすごくアクティブにどんどん発信されていますね。今後も末永く続けていただきまして、協会をさらに活性化させてほしいなと思っております。会員も約1000となって、慢性期医療の重要性、必要性を感じている方々が広がっていると思います。数は力です。

 先ほども申しましたように、慢性期医療は今後の超高齢社会をさせていく上で医療の中核と言えます。全体の患者さんの中で、慢性疾患の患者さんが圧倒的に多いわけですから、慢性期医療が医療の基礎になる部分です。高度急性期医療ももちろん大切ですが、基礎の部分がしっかりしていないと地域医療を支えられません。

 ですから、今後も慢性期医療について多くの方々に知っていただき、理解を深めていただけたらいいなと思います。発信力をどんどん高めていく、そうした活動に今後も期待しています。(聞き手・新井裕充)
 

【プロフィール】

 1981年 名古屋保健衛生大学(現 藤田学園保健衛生大学)医学部卒業
 1981年 香川医科大学第1内科教室入局
       国立療養所高松病院勤務
 1985年 米国インディアナ大学腫瘍学研究所勤務
 1987年 帰国(同内科学教室勤務)
 1988年 医療法人社団和風会橋本病院 勤務
 1996年 社会福祉法人福寿会 理事長就任
 2000年 医療法人社団和風会 理事長就任
       社会福祉法人徳樹会 理事長就任
 2001年 全国抑制廃止研究会 理事
 2003年 香川県抑制廃止研究会 会長就任
 2004年 日本療養病床協会(現 日本慢性期医療協会) 理事就任
       香川県女医会 会長就任
 2006年 日本療養病床協会(現 日本慢性期医療協会)常任理事就任
 2007年 医療法人社団和風会 千里リハビリテーション病院 開設
       医療法人社団和風会 千里リハビリテーション病院 院長就任

 [資格等]

 1988年 日本内科学会認定内科医[第51808号]
 1991年 医学博士号取得(香川医科大学[医博乙第11号])
 2006年 運動器リハビリテーション医師研修会終了
 



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