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介護現場の事故、「再発防止へデータ分析を」 ── 介護給付費分科会で田中常任理事

Posted By araihiro On 2023年3月17日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 介護現場の安全管理に関する調査結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「事故数を出すだけではミスリード」とし、報告件数を掲載しない厚労省の方針に賛同した上で、「アカデミアの先生方に色のつかないデータを分析していただき、再発防止への科学的・学術的示唆を出していただける仕組みづくりをお願いしたい」と述べた。

 厚労省は3月16日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第215回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に令和3年度改定の効果などを調査した結果を示し、大筋で了承を得た。

 今回の「令和4年度調査」の主な内容は、①地域の実情、②リスクマネジメント、③介護施設での医療、④LIFE、⑤介護ロボット等──の5項目で、田中常任理事は調査①②④⑤について意見を述べた。

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調査項目

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事故報告の件数、「掲載しない」

 この日の分科会に先立ち、厚労省は2月27日の委員会に調査結果を報告。調査②については、事故報告の件数について課題を挙げた上で、「同報告件数の集計結果を公表することについて、本改定検証・研究委員会にご意見をいただきたい」と求めた。

 同日の議論を踏まえ、3月16日の分科会で厚労省老健局老人保健課・古元重和課長は「本報告書においては当該件数に係る項目については掲載しない」と伝えた。

 古元課長は「介護施設からの事故報告件数の公表にあたって整理すべき事項として、『介護事故』という用語の妥当性やその定義について、また施設以外の場と施設内における発生状況の比較について、報告件数を広く公表することの意義についてなどを丁寧に議論・整理を行った上で公表することが望ましいとされた」と説明した。

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報告書案の135ページ

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現場が萎縮してしまう

 質疑で、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「先般、愛知県で誤嚥による死亡事例に対し、特別養護老人ホームに約1,000万円の賠償を命じる判決が出た」と切り出し、「介護事故に関しては今後、用語の妥当性についてもきちんと検証していただきたい」と要望した。

 東委員は「嚥下機能が低下していても、できるだけお口からの食事を心がけている現場において、誤嚥による事故を『介護事故』と片付けられて多額の賠償金が課せられるのでは現場が萎縮してしまう」と指摘した。

 その上で、東委員は「介護事業所で起きた事故イコール事業所の責任というのが世間一般的な認識となることを大変危惧している。転倒全てが過失による事故ではない」と強調。「行政に提出された事故報告の内容や原因等の分析も必要だが、そもそも『事故』という用語の使い方を検討していく必要がある」と述べた。

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再発防止に向けたフィードバックを

 古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)は「令和3年度の介護報酬改定で安全対策に関する体制を評価し、事故内容の実態把握や事故情報の分析が介護現場にフィードバックされて日常のケアに生かされることが期待されている」とし、「事故報告の集計分析結果についてのフィードバックが進まない状況がある」と指摘した。 

 その上で、古谷委員は「今後、事故内容の件数のみならず、事故原因の分析もあわせて、再発防止に向けたフィードバックをすることが非常に重要」と今後の検討を求めた。

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データを詳細に分析し、共有できる仕組みを

 稲葉雅之委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、介護事故防止や再発防止に関する支援に言及。市区町村からの支援を得ていないと回答した施設が特養57.3%、老健62.6%、介護医療院61.7%であった結果を挙げ、「3施設ともに過半数を超えている」と指摘した。

 その上で、稲葉委員は「事故報告の仕組みが単なる報告データの蓄積にとどまっており、事故の再発防止に役立つようなフィードバックが事業者に十分にされていない事情が明らかになった」とし、「データを詳細に分析し、施設のみならず全国の在宅も含めた介護事業者が共有できる仕組みを構築することで有効に活用できるのではないか」と提案した。

 こうした議論を踏まえ、田中常任理事は「やむを得ない転倒や誤嚥などの老年症候群によるものなのかが分析できないまま、事象として報告されるのは不適切だ」とし、再発防止に向けた仕組みづくりを求めた。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 調査①について
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 資料「2-1」(都市部、離島や中山間地域などにおける改定等による措置の検証等)に関する調査は、どこに住んでいてもサービスを受けることができるかどうかを調べたものであるが、スライド16(事業所への周知状況)、17(自治体からの周知状況)によると、事業所に対して措置や対応の仕組みを伝えていないことなどが判明している。 
 サービスを受ける仕組みがあまり周知されていないということであれば、サービスを受けることができる人がサービスの手前で止まっているという受益者不平等になっている可能性があると思う。そこで国として具体的にどう対応するおつもりか。「指導します」といった根性論だけではなく、具体的な取り組みを入れていただけると安心すると思う。

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■ 調査②について
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 資料「2-2」のリスクマネジメント関する調査については、ほかの委員がおっしゃっていたように、事故数を出すだけであればミスリードになりかねないと思う。現場で事故報告を提出しているものへのフィードバックが欲しいが、それが事故なのか。あるいは先ほど東委員がおっしゃったような、やむを得ない転倒や誤嚥といった老年症候群によるものなのか分析できないまま事象として報告されるのは不適切だと私も考えている。数だけを見ることで報告数が減ったり隠したりということが起こってはいけないと思う。 
 担当部署におかれては、アカデミアの先生方に色のつかないデータを分析していただき、発生ならびに再発防止への科学的・学術的示唆を出していただける仕組みづくりをお願いしたい。

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■ 調査④について
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 資料「2-4」のLIFEに関する調査ついては、まずデータを出している現場にきちんとフィードバックするにはどうしたらいいかを詰めることが最も喫緊の課題であると考えている。スライド7(未登録事業所)だけでなく、13(モデル事業)にあるように、モデル事業に参加している施設でさえ質の向上に役に立たないと思われていることは真摯に受け止めて改善しなければならないと思う。 
 また現在、パブリックコメントでLIFEに新規項目の追加への意見を募集をしているが、単に項目を増やし、現場の負担を増やしかねない方向へ動くのではなく、これまで行った老健事業や、現在、走っているLIFEの老健事業との兼ね合いのベクトルを合わせていただき、進んでいただくことをお願いしたい。

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■ 調査⑤について
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 資料「2-5」の介護テクノロジー活用に関する調査について述べる。変則時間帯の人員不足がどの地域でも深刻である。スライド14(テクノロジー活用関連加算算定や基準緩和の状況)にあるように、経営改善しているような報告もある。
 見守り機器等を用いることで廃業を回避できるようであれば、夜間3人でなくても2人でもよい環境では見守り機器をうまく使いこなして、2名体制の対応も考えなければいけないと考える。今後、施設に入れない方も増え、在宅独居で過ごす高齢者割合が増すことを鑑み、自宅でも見守り機器を活用する可能性についてエビデンスを蓄積していく時期にも来ていると思う。そうした施設でのデータは今後、在宅にも転用可能であると考える。 
 また、装着型バイタル測定器も質が向上している。それらを現場に取り入れ、うまく活用できている施設があれば、そうした施設の調査もお願いしたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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