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医療・介護の連携を考える委員会を ── 次期制度改革に向け、橋本副会長が提案

Posted By araihiro On 2022年3月25日 @ 11:11 AM In 審議会,役員メッセージ | No Comments

 介護保険制度の見直しに向けた議論がスタートした厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子副会長は「医療と介護の連携、シームレス化が必要」との考えを示した上で、「医療と介護の連携を効果的にする橋渡し的な制度を考える委員会などが必要ではないか」と提案した。

 厚労省は3月24日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)の第92回会合をオンライン形式で開催し、当会から橋本副会長が委員として出席した。

 介護保険部会の開催は2020年7月以来、約1年半ぶり。この日の会合では新たな部会長を選任したほか、新任委員が紹介された。

 厚労省は同日の部会に「介護保険制度をめぐる最近の動向について」と題する約90ページの資料を提示。政府の会議で示された論点などを踏まえ、20人の委員らが順番に意見を述べた。

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2025年が第9期の計画期間に訪れる

 厚労省老健局総務課の橋本敬史課長は資料説明の冒頭、「介護保険制度の概要が1ページ目から続いているが説明は割愛する」とした上で、「1点だけ、12ページ目をご覧いただきたい」と地域包括ケアシステムの資料を示した。

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12_【資料1】介護保険制度をめぐる最近の動向について_2022年3月24日の介護保険部会

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 橋本課長は「地域包括ケアシステムの構築について、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に構築を実現することとしており、この2025年が次期、第9期の介護保険事業計画期間に訪れる」と説明した。

 その上で、橋本課長は第8期(令和3~5年度)の介護保険事業計画に向けた議論を振り返り、積み残しとなっている課題などを紹介。制度改革に向けた議論が政府の「全世代型社会保障構築会議」で3月9日に開始したことを伝えた。

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58_【資料1】介護保険制度をめぐる最近の動向について_2022年3月24日の介護保険部会

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政府会議の論点も踏まえ議論を

 資料の中で、橋本課長が時間をかけて丁寧に説明したのは59~60ページ。政府の「全世代型社会保障構築会議」で示された論点が掲げられている。

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59_【資料1】介護保険制度をめぐる最近の動向について_2022年3月24日の介護保険部会

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60_【資料1】介護保険制度をめぐる最近の動向について_2022年3月24日の介護保険部会

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切れ目のない伴走型支援体制」の整備を

 橋本課長はこのうち、「家庭における介護の負担軽減」など介護に関係する「論点②」について、これまで同部会や介護給付費分科会で出された意見を整理して説明。「こうした全世代型社会保障構築会議の論点も踏まえながら、本日はご議論いただきたい」と意見を求めた。

 「全世代型社会保障構築会議」には、同部会の菊池部会長や田辺国昭委員(国立社会保障・人口問題研究所所長)のほか、介護保険制度の創設に関わった香取照幸氏(上智大学総合人間科学部教授、未来研究所臥龍代表理事)も構成員として参加している。

 3月9日の会合では香取構成員が「切れ目のない伴走型支援体制」の整備を提案するなど、すでに議論が進んでいる。

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医療と介護がオーバーラップする

 こうした中で開かれた24日の介護保険部会では、人材の確保や制度の持続可能性・安定性に関する意見が多く出されたほか、医療・介護の連携に関する意見もあった。

 津下一代委員(女子栄養大学特任教授)は「医療と介護がオーバーラップする対象者について、疾病のコントロールと介護予防事業をうまく組み合わせていこうという動きが始まった」と伝え、データの利活用などを通じて「介護予防事業についても新たな局面を迎えていく必要がある」と指摘した。

 大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、高松市長)は介護施設でクラスターが発生した時の対応を振り返り、「医療処置を必要とする場合でも、できるだけ介護施設でやってほしいということになると大変で、対応が非常に難しくなるので苦慮している」と明かした。

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介護と医療の両方のニーズを併せ持つ

 田母神裕美参考人(日本看護協会常任理事)は「介護保険サービスを利用する高齢者は介護と医療の両方のニーズを併せ持っている」とし、「住み慣れた地域で生活を続けていくという点で介護領域における看護職員の役割が重要になる」と強調。「訪問看護を含む介護領域に従事する看護職員の処遇改善について新たな仕組みの検討と財源の確保が必要」と述べた。

 当会の橋本副会長は、退院後もADLを維持することが介護離職の防止につながると指摘。「医療と介護の連携、シームレス化が重要だが不十分」とし、具体的な検討の場を設けることなどを提案した。

【橋本副会長の発言要旨】
 全体的なことを3点述べたい。まず、介護離職について。「全世代型社会保障構築会議」の資料でも、介護離職を防ぐための制度をどうしていくかという論点が挙げられている。介護離職を防ぐためには、医療と介護が連携し、高齢者のADLを向上させる必要がある。退院して自宅に戻った後も自立した生活を送れる高齢者でいることが大切。又、疾病のコントロールができなければ介護離職に陥ってしまう。
 その点で考えると、医療と介護の連携が必要である。「シームレス化」とも言われているが、それがやはり必要になる。回復期リハビリ病棟や療養病床など、医療で、ある程度、疾患をコントロールしてリハビリをしてADLを上げていったとしても、その後、ご自宅に帰られるとADLが落ちてしまったり、また疾病が起きてしまったりすると、誰かが世話しなければいけないので介護離職につながってしまう。医療と介護の連携、シームレス化がすごく重要ではないかと考える。
 しかし、実際にシームレス化や連携がきちんとできているかというと、不十分なところもあるのではないか。例えば介護では、処遇改善加算などが付いている。しかし、医療のところにはなく介護士雇用のひずみが起こっている。。予算の出所が違うので難しいとは思うが、医療の現場と介護の現場で格差が出ている。先ほど日本看護協会の委員もおっしゃったが、介護職の間でも差ができている。現場としては、給与や待遇面などの問題があって難しい。また、たとえば、ADL評価にしてもFIMとBIなど介護と医療では異なることがある。こうしたこともシームレス化問題の一環だと思う。
 今回はキックオフでフリーディスカッションということなので提案したい。医療と介護の連携をスムーズにしていく、効果的に進めるような橋渡し的な制度を考える委員会などが、今後は必要になるのではないか。これが1点目の意見である。
 2点目は具体的なことだが、食事の問題である。施設などの介護職に処遇改善加算が付くことはいいことだと思うが、介護職だけではなく、今、現場で問題になっているのが食事についても検討が必要と思う。厨房スタッフの雇用がなかなか思うようにならず、十分に行えない。皆さんの中には長年にわたり施設を運営されている方もおられると思うが、良質な食事の提供が以前に比べて難しくなっているのではないか。外部に頼もうと思っても、なかなか難しい地域もある。フレイルの防止や栄養改善という話ではなく、まともな食事も出せないようなことになっている所が多数あると聞く。私どもも苦慮している。 食事の提供は人間にとってすごく大事なことなので、食事が人手不足のために質を落とさなければいけない、というようなことがない様に考えていかなければいけないことではないかと思う。これが2点目である。 
 最後に、先ほどご意見があったように、コロナのクラスター対応について。施設でクラスターが起こった場合に、看護師や介護士、ドクターが必要になる。そこも医療との連携が必要である。今後、コロナだけではなく、いろいろな問題が起きてくる可能性もあるので、そこの連携をうまくやっていくことも踏まえ、そういう連携だけを考える委員会をつくって議論を進めていくことも今後は必要になってくるのではないかと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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