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年頭所感2022 日本慢性期医療協会 会長 武久洋三

Posted By araihiro On 2022年1月1日 @ 12:00 AM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 コロナに始まり、コロナに明け暮れた2021年が終わり、新しく始まる2022年はまた新たなオミクロン旋風に悩まされる恐れがあります。

 この原稿を書いている今はまだ2021年12月年末です。思い起こせば2008年に木下毅前会長のあとを受け第4代目の会長に推挙された直後、日本療養病床協会という名称を日本慢性期医療協会に改称させていただいてから、もうすでに14年が経ちました。幸い「慢性期医療」という言葉は市民権を得ることができています。若かった私も2022年早々に80歳、傘寿となります。こんな歳になるまで協会を私に委ねて頂いて本当に感謝致しております。医療関係の団体の中で80歳を越えて会長をされているのは日本精神科病院協会の山崎學先生だけのようですが、日本慢性期医療協会は、もう他にどんどん優秀な先生達が育ってきてくれています。

 2022年6月の総会で私の任期が終わります。そこで長く務めさせて頂いた会長を退任させて頂きたいと思っています。日本慢性期医療協会には、優秀で協会の為ならば身を捧げてくれるという若い先生方が何人もいらっしゃいます。このように若い優秀な会員の先生方がどんどん育っている会も少ないと思っています。後任にはたくさんの期待溢れる先生方の中から、医療団体として初めてとなる女性の会長を推薦したいと思っています。それは、女性なのに男性より男らしい橋本康子副会長です。勿論、会長は6月の会長選で会員の中から選ばれますが、私個人としては橋本康子先生に期待をしています。

 橋本康子先生は香川県の病院で2代目を務められておられますが、その病院だけでなく2007年に大阪の千里に千里リハビリテーション病院をいきなり開院されました。設計は今をときめく 佐藤可士和氏に依頼し、「これが病院か!」というような見事に病院らしくない病院を立ち上げられました。私も開院式に招かれましたが、その時にこの先生の中にある底知れぬ才能に惚れ込みました。斬新なアイデアと今をデザインしている佐藤可士和氏と共に新しい時代のリハビリテーション病院を見事に立ち上げたのです。その後はさらに東京に進出され、新しい企画でどんどん新しい慢性期医療を企画してくれているのです。大いに期待したいと思っています。

 さて、日本慢性期医療協会は実は名称を4回も変更してきているのです。元々は天本宏先生や大塚宣夫先生が介護力強化病院連絡協議会を立ち上げた時からが始まりですが、1998年に介護療養型医療施設連絡協議会、2003年に日本療養病床協会へと国の制度が変わるたびにそれに合わせて会の名称を変えていくという経緯をたどってきました。そこで、私を会長に選任頂けたときに、かねてから思っていたことを会員の皆様に「私たちは何をしているのでしょうか」と問いかけ、「『慢性期医療』をやってきています」ということを再認識していただくために「日本慢性期医療協会」という名称をご承認いただきました。それから14年、どうやら私たちの会の名称も日本の中で知られるまでに成長してくれました。

 私が会長をしている間に療養病床という病床自体が厚労省によって、どんどん脱皮させてくれているのです。日本慢性期医療協会の会員病院の多くは、この時代の変遷につれて、会の方針に沿って多機能化してきてくれています。残念ながら療養病床としての運営を旧態依然として、比較的高度な医療を必要としないか、必要とする病態でも積極的な高度医療を提供しないで、療養を主目的として、従来の「お世話料」的発想の保険外費用で経営を維持している病院も一部には残っています。

 しかし、2006年までのようなできるだけ軽い患者にできるだけ長く入院してもらって、その療養入院の差益で運営が成り立っていたような時代はもう完全に終わったのです。特養や老健だけでなく、有料老人ホームやサ高住、グループホーム、ケアハウスなど、昔の療養病床に代わる施設が爆増しています。高齢者でも4人部屋で少々広いくらいの療養病床よりも、個室を好むのです。国からも医療区分の高い患者の入院割合90%程度を求められています。いつ亡くなってもおかしくないような患者しか紹介されてきません。病状が軽い人は病院ではなく新しくできた介護系施設の方へと「民族の大移動」が起こっているのです。

 もう一度医療の原点に戻りませんか。病院とは何をするところでしょうか?そうです、「患者を治療して良くして日常生活に戻ってもらう」というところでしょう。そうでない気持ちが少しでもあれば、その病院は以心伝心で地域住民に次第に頼りにされなくなります。「家族の要請により看取り優先の病院」、「差益を取りたいために十分な治療をしない病院」、逆に「急性期病棟で過剰な検査や治療をする病院」。このような病院は概して入院率が低いのです。要するに地域住民に信頼されていないのです。どうしてだと思いますか?なぜなら職員が自分の働く病院を信じていないからです。そういう病院では職員の家族の利用がとても少ないのです。身内の職員に信頼されていない病院が地域住民に信頼されるわけがありません。1000以上ある会員病院の多くは、日本慢性期医療協会がずっとお願いしている多機能化を進めてくれています。地域多機能病院化して、一部には急性期一般病棟もどんどん活発にやってくれている急性期多機能病院も多くなりました。慢性期多機能病院と共に急性期以外は慢性期だという認識で多機能化してきてくれています。自院を急性期病院だと信じたい自称急性期病院は多くありますが、住民が求めているのは地域多機能病院です。高度急性期病院が必要な患者以外の軽中度の急性期、特に高齢者の「慢急」(慢性急性期)を含む、急性期機能も持たなければ良いアウトカムを得ることはできません。

 日本の現状と真逆の方向に進んでいる2018年から始まった新しい臓器別専門医制度は日本の現状にも将来も役に立ちません。超高齢化に伴う総合的に診療できる医師が現場で求められているのです。大学の医局から去っていった若い医師は、なかなか大学には戻ってこないかもしれません。とにかくレベルの高い慢性期医療のニーズが急速に高まっています。純然たる高度医療も当然必要ですし、レベルの高い急性期医療は求め続けられています。しかし、大多数の患者は高齢化による複雑な病態を呈している患者です。これらの患者を治すには、とてもじゃないですがかなり優秀な総合診療医の存在が必要です。

 次のような症例があります。都会の国立病院の医師からの紹介状です。診断は正しいし、紹介状の内容も適切です。しかし、紹介前の治療が適切であったとは思えません。慢性期病院で見事に症状回復されています。

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01スライド

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 この症例の問題点は、国立病院で血液検査結果がどんどん悪化しているのに対応できていないことです。当院に紹介入院してこられてから短期間で改善されました。紹介されてこられた時点では死亡リスクが高かったにもかかわらず、50日後に国立病院の外来受診依頼をしてくることなども問題点として挙げられる
と思います。

 また、入院時検査においてBUN高値の強度脱水の見られた患者さんは下図のように、適切な水分投与をはじめとする治療を行うことにより、1週間以内に症状は改善しています。

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02スライド

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 この超高齢化の日本で大学の医局入局者が少ないからといって、今さらに「臓器別専門医」制度を強化することは、正に時代に逆行しています。高度急性期病院から紹介されてくる極端な脱水、低栄養で瀕死の状況になった患者を優秀な総合診療医により短期間で治さないといけません。地域多機能病院には、提示症例のW氏のような一般的に紹介されてくる急性期の臓器別専門医の治療による弊害症例を、努力しながら改善している慢性期医療の総合診療医がいます。失われそうになった命を何とか救って彼等の人生を少しでも長く楽しめるようにできる、とても有意義な医療を広めましょう。

 しかし、改めてこれまでに日本慢性期医療協会が主張して実践してきたこと(下表:赤字)の多くは診療報酬、介護報酬に取り入れてきてくれています(下表:青字)。厚生労働省の若い医師に心からお礼を言いたいです。

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01_日本慢性期医療協会が主張して実践してきたこと
02_日本慢性期医療協会が主張して実践してきたこと
03_日本慢性期医療協会が主張して実践してきたこと
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 今や慢性期医療は付け足しではありません。良質な慢性期医療があるからこそ急性期医療が生きてくるのです。そうです。「後はよろしく」と言って、急性期治療に全力を尽くしていただければ、急性期後は日慢協会員病院の優れた慢性期医療で患者を日常にかえします。

 さて、私は6月をもって退任しますが、まだまだ改革すべき問題は山積しています。

① 寝たきり患者を半分に―「基準介護」「基準リハビリテーション」の導入を―
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 高度急性期病院で絶対安静を強いられて発生する寝たきり患者を減らすためには、急性期病棟に「基準介護」「基準リハビリテーション」を導入すべきです。
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② リハビリテーション提供体制改革―リハビリは摂食・排泄自立を最優先に行うべき―
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 リハビリテーションを提供する際にどの機能回復を優先すべきかということを考えなければなりません。まず回復させるべきことは、「自分で食べて」「自分で排泄する」ことではないでしょうか。
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③ 「病院給食を考えませんか」
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 入院したばかりの患者は衰弱し、食欲もないのに、基準給食で出された画一的な食事だと食べられません。でも患者の食べたいものを具体的に尋ねて食事に追加して提供することで、食欲が出て、体力がつき、早期退院につながります。
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④ 「『看護補助者』と呼ばないで」
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 介護福祉士は介護保険施設ではその名で呼ばれますが、医療の世界では「看護補助者」としか呼ばれません。介護職員は看護補助者ではなく、急性期病院でも「介護職員」として評価すべきです。
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⑤ 「特定看護師」
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 特定看護師は医師しか行えない行為を行うことができます。急性期医療より慢性期医療の現場、在宅部門、特に訪問看護には絶対必要です。
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⑥ 「現状に合った病院機能分類を」
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 現在の病床機能分類は「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」ですが、これからは「急性期」「地域包括期」「慢性期」の3つに大別し、急性期多機能病院、慢性期多機能病院を多くすべきです。
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⑦ 「高齢救急患者の増加に対応できる新たな救急体制」
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 救急患者の大部分が高齢者の軽中度になっています。救急病院を大別し、高度医療救急と軽中度救急とし、後者は地域の多機能な病院が受け持つべきです。
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⑧ 重症度、医療・看護必要度の根本的見直し―「病態」に応じた評価を―
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 重症度、医療・看護必要度は、患者に対して行う高度な医療処置を行うかどうかにより判断されています。むしろ病態に沿った評価に変えるべきでしょう。
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⑨ 総合診療医は19番目の臓器別専門医ではない!
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 現在、日本の入院患者の80%近くが高齢者です。全身の多くの臓器に病変を持つ患者は総合診療医が担当すべきです。
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⑩ 「『終末期』を考える」
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 生命を維持するには、栄養と水分は必須です。終末期とはそれらを投与しても回復することが困難な患者の状況を指すべきです。
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⑪ 病院の病室環境
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 今や日本は1人1部屋に住んでいます。病気になっていつもより環境の悪い4人部屋に入院させるなんて本末転倒です。病院病室はすべて個室とすべきです。

 これらの項目はほんの一部にすぎませんが、任期満了を迎える日までできる限り提言を続けていきたいと思っています。そして私の後に日本慢性期医療協会会長となられる橋本康子先生にも引き継ぎ、継続して「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」の精神が会員施設に受け継がれていくことを切に願っております。

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