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令和4年度改定「日本慢性期医療協会のスタンス」 ── 令和3年12月の記者会見

Posted By araihiro On 2021年12月10日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 日本慢性期医療協会は12月9日、令和3年最後の定例記者会見を開き、「令和4年度の診療報酬改定について 日本慢性期医療協会のスタンス」を示した。会見で武久会長は「急性期病棟は重症で、慢性期病棟は軽症という概念は大きく崩れている」との認識を示し、「重症度、医療・看護必要度を廃止して、急性期だけでなく慢性期にも共通する重症度評価を導入してはどうか」と提案した。

 武久会長が令和4年度改定について挙げたのは、①重症度、医療・看護必要度、②地域包括ケア病棟、③回復期リハビリテーション病棟、リハビリテーション提供体制の見直し、④療養病床、⑤DPCデータの活用、⑥基準リハ・基準介護の導入、総合診療医の養成、⑦特定看護師のさらなる活用──の7項目。

 このうち①について、武久会長は「各病棟によって差があり、統一性を欠く」とし、「亡くなる前にすることは療養病床であろうとICUであろうと、それほど大きく変わるものではない。瀕死の状況では、急性期でも慢性期でも行う医療対応は共通している」と指摘した。

 武久会長はまた、DPCデータの提出が慢性期の病院にも広がりを見せていることに触れ、「1人の患者の病気をフォローするためには、診療統計や診療報酬請求システムはDPCデータで一本化すべき」との考えを示した。
 
 この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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02_2021年12月9日の記者会見資料

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日慢協のスタンスとして7項目

[池端幸彦副会長]
 ただいまから、日本慢性期医療協会12月度の記者会見を始めたい。まず会長に、ごあいさつをお願いする。
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[武久洋三会長]
 12月ということで、とうとう2021年も終わりを迎え、今年最後の記者会見となった。今回の記者会見では、22年度診療報酬改定について見解を述べたい。

日慢協は診療報酬改定に関しては、毎回は要望書を出してはいない。保険局医療課の独占事業のようなものであり、彼らが考えて進めているため、われわれがあまり要望を出すのはどうかと思うが、検討していただけたらというつもりで、時々は出している。今回は、検討をお願いすることにした。

 令和4年度診療報酬改定について、日慢協のスタンスとして7項目を挙げた。

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03_2021年12月9日の記者会見資料

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急性期は重症、慢性期は軽症ではない

 最初に、重症度、医療・看護必要度について述べる。当会では、これまでの記者会見において、療養病床はいまや療養の場ではないと説明してきた。
 
 すなわち、死亡リスクの高い重症患者をきちんと治療し、半数以上を軽快退院させている。そうした慢性期重症治療病床であることを示すさまざまなデータを公表してきた。とてもではないが、「療養」などという生易しい状況ではない。
 
 また、懸命な治療をしたにもかかわらず、残念ながら死亡退院された患者の死亡前7日間に提供された医療内容について調べてみると、かなり多くの医療行為が提供され、医師や看護師の頻回の回診やケアが行われていることがわかる。
 
 2018年11月に実施した日慢協の調査によると、慢性期病棟において、重症度、医療・看護必要度が30%以上の病棟が見られた。急性期病棟は重症で、慢性期病棟は軽症という概念は大きく崩れている。

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療養病床でも重症者を診ている

 
 9ページのグラフを見てほしい。20対1療養病床のうち29%で、重症度、医療・看護必要度が30%以上である。50%近いところもある。重症度、医療・看護必要度が15%から30%の病床は28.5%、重症度、医療・看護必要度が15%未満のところが42.5%となっているが、これだけ療養病床のグレードに差がある。

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09_2021年12月9日の記者会見資料

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 従来の療養病床に近い運営をしているところもあれば、重症者をどんどん診て頑張っているところもあり、幅が広くなっている。
 
 中心静脈栄養を実施している重症患者に医療行為を提供する病棟として、ICU、ハイケアユニット、一般病棟などがあるが、いずれの病棟でも、患者が重症であればモニター管理は必要であろう。
 
 また、中心静脈栄養によって1日に必要なカロリーを摂取する必要もある。決して、医療区分を上げるために中心静脈を入れているわけではない。血圧を上げるためのシリンジポンプについても同様で、ICUであろうと療養病床であろうと、当然に必要なものである。
 
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10_2021年12月9日の記者会見資料

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慢性期にも共通する重症度評価を

 
 重症度、医療・看護必要度の尺度は各病棟によって差があり、統一性を欠くものである。また、「何をしたか」に重きが置かれている。亡くなる前にすることは、療養病床であろうとICUであろうと、それほど大きく変わるものではない。
 
 瀕死の状況では、急性期でも慢性期でも行う医療対応は共通している。より急性期を評価したいなら、病態で評価するべきだろう。特に、高度急性期病棟の入院患者を高く評価したいのであれば、現在の状況に陥っている病気とその各論の治療と、その現況について評価すべきではないか。
 
 こうした中で、療養病棟の入院基本料はどうなっているか。重症患者が死亡するような状況での医療行為には、本来、病床種別による差はあるべきではない。
 特定集中治療室は手厚い治療を行うが、療養病床は適当でよいなどということは許されるべきではない。スタッフの少ない療養病床では、非常に苦労をして重症患者を診ているという現状がある。重症患者に対し、なんとかして適切な治療を行い、病態を改善するために努力するのが医師の務めである。
 
 死亡するリスクの高い患者であれば、重症度、医療・看護必要度の基準に該当する。療養病床にも、死亡するリスクの高い患者が多くいる。とすれば、ICU、急性期のみに限定される指標の項目を設定することは難しい。ICU、急性期、慢性期に共通した尺度が必要である。
 
 そこで提案したい。医療区分も重症度、医療・看護必要度も廃止して、急性期だけでなく慢性期にも共通する重症度評価を導入してはどうか。

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一般と療養、重症度に差はない

 地域包括ケア病棟はどうか。2021年9月現在、約2700病院、約9万6000床が地域包括ケア病棟を届け出ている。
 
 全病棟を急性期として維持できず、次善の策として地域包括ケア病棟に格下げする病院も見受けられる。
 
 一方、療養病床が中心の慢性期病院でも、地域の高齢者の急変時に対応しようと、病院の機能向上を図る目的で積極的に地域包括ケア病棟に転換している病院もある。一般病床と療養病床で看護必要度に差はなく、特定入院料包括対象のリハビリの出来高換算は療養病床が高い。
 
 21ページをご覧いただきたい。一般病床と療養病床における重症度、医療・看護必要度は入棟元の種類にかかわらず、ほとんど変わらない。地域包括ケア病棟の重症度は、一般病床か療養病床かという「病床種別」による差異はない。

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21_2021年12月9日の記者会見資料

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在宅実績の基準は適切か

 国は全国の病院運営を、在宅患者支援機能を持つ地域包括ケア病棟を中心にしたいと考えており、許可病床数200床未満のみを算定可能とした地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料1・3の実績要件として、自宅等からの患者受け入れとともに在宅医療機能を重視し、地域包括ケアの実施部分に関する6つの基準のうち、少なくとも2つを満たせばよいとしている。
 
 また、地域包括ケア病棟の在宅実績の基準項目について、数値的基準が定められている訪問サービス等を医療保険対応に限定している。
 
 医療保険と介護保険の間を行ったり来たりしている患者もおり、また、医療と介護の中間的な病院もある。それを無視して医療保険対応に限定しているのは適切ではないと考えている。

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アウトカム評価はFIMからBIへ

 回復期リハビリテーション病棟については、リハビリ提供体制の見直しを改めて指摘したい。
 
 回復期リハビリテーション病棟では、2016年からFIM利得を評価する画期的な改定が行われたが、その直後から、一部の病院でFIM利得を多くしようという動き、すなわち入棟時FIM利得の急激な低下が顕著に見られるようになった。

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27_2021年12月9日の記者会見資料

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 2016年から入棟時FIM利得が低下しているのは恣意的に下げているのではないかということで、このような資料を厚労省の医療課が出した。こういうことを言われるのは、現場でリハビリテーションを提供している者として誠に恥ずかしい限りで申し訳ないと思っているが、関係団体の調査でも同様の結果が出ている。
 
 リハビリ関連の団体は第三者評価の導入を要望しているようだが、さまざまな問題点のある現行のリハビリテーションシステム全体を変えるのが先ではないか。第三者にお願いするより、自分たちで対応すべきである。アウトカム評価は、現在用いられているFIMから、ごまかしにくいBIに変更してはどうか。

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「リハビリテーション集中病棟」に変更を

 回復期リハビリ病棟の入院料では現在、リハビリは出来高算定となっている。そのため、療法士と患者が1対1で20分間、リハビリを行わなければ点数にならない。しかし、スタッフの自己満足や病院収入のためのリハビリではなく、患者のニーズに応えるリハビリにすべきではないか。
  
 患者は、まず自分の口で食べて、自分で排泄できるようになりたい。歩くことよりも先にそれを望んでいる。地域包括ケア病棟のように、リハビリを完全包括化してはどうか。回復期リハビリテーション病棟は、「リハビリテーション集中病棟」に名称を変更すべきである。

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アウトカムにインセンティブを

 
 現在、回復期リハビリテーション病棟で用いられている実績指数の4つの除外項目がある。しかし、適切なリハビリテーションを実施することで十分なアウトカムが得られるものであり、安易に除外すべきではない。

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29_2021年12月9日の記者会見資料

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 一方、都道府県によってリハビリテーションを恣意的に削っているところがある。30ページに示した審査結果には「廃用症候群のリハビリは原則6単位まで」と書かれているが、国の出した資料のどこにも、そのような記載はない。これは何かの違反ではないだろうか。

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30_2021年12月9日の記者会見資料

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 中医協の支払側団体をはじめ、患者を診てもいない人たちから、ああだ、こうだと言われるくらいであれば、リハビリテーション料を入院費に包括してくれたほうがよい。その上で、アウトカムを出している病院にインセンティブを認めてほしい。

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医療区分制度は使命を終えた

 療養病棟について見解を述べる。2006年に医療区分が導入されて15年が経過し、療養病床の入院患者の病態は多彩になり、年齢分布も広くなっている。
 
 現在、医療区分2・3が8割以上という基準だが、実際には9割以上である。また、医療区分1の中には重度な病態も多く含まれており、すでに医療区分制度は、その使命を終えている。
 
 「医療区分2・3以外」と定義されている医療区分1の病態を調べてみたところ、重いところでは重度意識障害、がんのターミナル、腎不全、仮性球麻痺などがあった。これらの病態の全ては「医療区分1」である。

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35_2021年12月9日の記者会見資料

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医療区分制度も看護必要度も廃止を

 「医療区分3」に該当させるため、中心静脈栄養を恣意的に増やしているのではないかと疑うような資料が中医協に出されている。
 
 2019年7月、日本慢性期医療協会が療養病棟入院基本料1を算定する役員病院に緊急調査を実施したところ、中心静脈栄養実施患者のうち、代替可能な栄養法があるにもかかわらず中心静脈栄養を実施している患者は、わずか1.5%であった。「医療区分3」に該当させるために、リスクを伴う中心静脈栄養を実施しているわけではないことは明白だ。
 
 高齢患者の場合、低栄養、脱水状態に陥れば、通常量の栄養分と水分に加えて、これまで不足した分を足さなければ、すぐに死に至る。よって、経口摂取、経管栄養だけでは不十分であり、中心静脈栄養を併用する期間も必要である。
 
 ただし、胃腸を使わなければ、絨毛が退化してしまうので定期的に見直し、経口摂取もしくは経管栄養を併用し、最終的に切り替える方向で中心静脈栄養は抜去すべきである。とはいえ、現場で嚥下訓練が十分にできていないことも事実である。
 
 医療区分制度も重症度、医療・看護必要度も廃止して、急性期だけでなく慢性期も共通する重症度評価が必要ではないか。医療関連データはDPCデータに集約すべきである。急性期病床でも慢性期病床でも、同じく超重症患者の治療を担っている。

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DPCデータで一本化すべき

 令和2年度から回復期リハビリ病棟と療養病棟もDPCデータを提出しなければならなくなった。これは大変な作業で、現場は頭を抱えているが、データが正しく厚労省に伝わり、それに対して正しい評価がしてもらえるのであれば、われわれも協力したい。

 厚労省は平成24年度改定のデータ提出加算の導入後、データ提出加算が要件となる入院料を拡大してきた。急性期から慢性期、在宅に至るまで、治療内容は多少変わっても、1人の患者の病気をフォローするためには、診療統計や診療報酬請求システムはDPCデータで一本化すべきである。
 
 しかしながら、DPC算定病院以外の、特に中小病院では、データ提出に伴う業務負担が大きく、対応に苦慮しているのが現状だ。全ての医療機関からデータ提出が行えるようなシステムの構築などについても検討してほしい。

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「基準介護」「基準リハビリ」を

 現在、入院患者の多くを高齢者が占めているが、急性期病棟では高齢者に対する十分な介護ケアやリハビリテーションが行われていない。2006年から基準看護で定められた看護職員数は増えていない。
 
 約2年前、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」で身体拘束をめぐる討論が繰り広げられた。認知症状が見られる患者や歩行不安定な患者、夜中にトイレに行く高齢患者に対して身体拘束や膀胱留置バルーンカテーテルを挿入する。これにより、急性期病棟から約1カ月後に退院する時には、すでに関節拘縮が進行しており、寝たきり状態となっている。
 
 急性期病院の入院中に発生する寝たきり患者を減らしていくために、病棟内スタッフ配置について、基準看護だけでなく、基準介護、基準リハビリテーションを追加すべきである。
 
 また、総合診療医の育成・増員が急務だ。全身状態管理が必要な高齢者の治療は、臓器別専門医ではなく総合診療医が担うべきである。総合診療医は19番目の臓器別専門医ではない。臓器別専門医にも総合診療医の知識が必要である。
 
 医師国家試験合格後、2年間の前期研修を終えた後の2年間、臓器別専門医としての技術を磨くとともに、総合診療医としての知識とスキルを習得する研修期間とするなど、超高齢化に対応しうる医師の臨床研修制度の見直しが急務である。急性期病院での栄養・水分摂取の軽視、リハビリテーション軽視、身体拘束をなくし、病棟内に多職種スタッフを配置すれば要介護者は必ず減る。

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慢性期医療の重要性は増している

 最後に、特定看護師のさらなる活用について述べる。特定看護師は当初の見込みより、かなり少ない。厚労省も特定看護師を増やしていきたいと考えてくれている。
 
 現状、特定看護師はどこで仕事をしているか。病院が7割程度で、訪問看護ステーションや介護福祉施設は5%程度となっている。特定看護師は、医師のいない所でこそ、その実力を発揮するのではないか。

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47_2021年12月9日の記者会見資料

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 特定行為研修で認められている6つの領域のうち、医師や看護師が多くいる救急や集中治療領域よりも、むしろ在宅・慢性期領域こそが特定看護師の活躍の場であると思う。

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48_2021年12月9日の記者会見資料

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 慢性期病院にも重症患者が多くいる。半分程度が死亡退院している状況の中、少ないスタッフで対応している。この分野で特定看護師の配置を評価していただけると非常にありがたい。

 良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない。急性期以外を広く言えば慢性期医療である。回復期も含め、急性期医療が非常に厳密化されるとともに、慢性期医療の重要性は増している。
 
 慢性期救急という考え方も重要だ。慢性期の入院患者が急変した場合には、急性期病院に救急で行くよりは、今まで診ていた在宅専門の医療機関で対応すべきだろう。
 
 慢性期医療は、ここ20年で大きく変わってきたが、さらに大きく変わろうとしている。本日ご報告した内容について、令和4年度診療報酬改定に向けて検討していただきたいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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