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不妊治療の保険適用、「現状のままがいい?」 ── 池端副会長、患者代表らに質問

Posted By araihiro On 2021年11月18日 @ 9:21 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 不妊治療の保険適用がテーマになった厚生労働省の会合で、患者団体の代表から保険適用への不安の声が上がったため日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現状のままがいいという印象を受けたのでお考えを」と見解を求めた。患者代表は「保険適用は福音」としながらも、「オプション治療が受けられなくなると妊娠から遠のく治療になり、患者にとっては非常に悲しい」と理解を求めた。

 厚労省は11月17日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第497回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 令和4年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の会合に「個別事項(その4)について」と題する資料を示した。

 主な内容は、①不妊治療の保険適用(その2)、②リハビリテーション──の二本立て。このうち、不妊治療の保険適用では、学会や患者団体の代表4人が意見や要望を述べた後、厚労省の担当者が不妊治療に関する今回の資料を説明。その後、質疑に移った。
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関係者の総意により完成した

 最初に意見陳述をした日本生殖医学会の大須賀穣理事長は、日本産科婦人科学会、日本泌尿器科学会の後援で作成したガイドラインの概要を紹介。厚労省の実態調査なども踏まえながら、「多くの関連学会などの意見を得て、アカデアやクリニックなど関係者の総意により完成した」と伝えた。

 ガイドラインでは、受診から妊娠に至るまでに実施される治療や検査などを「推奨度A・B・C」に分類。大須賀理事長は「各ステップの診療を評価し、標準的なものを提示するガイドライン」と説明した。

 推奨度Aは「強く勧める」、Bは「勧められる」、Cは「考慮される」としている。
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01スライド_P31_【総-7-1参考1】生殖医療ガイドラインの考え方_2021年11月17日の中医協総会

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 これに対し、委員からA・B・Cの考え方に関する質問が相次いだ。不妊治療の保険適用に向け、「C」の領域をどこまでカバーできるかが1つの焦点。
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不妊クリニックの経営が困難になる

 日本産婦人科医会の谷川原真吾常務理事は、助成制度から保険診療への移行期に関する問題点を挙げた。

 谷川原常務理事は、「治療が中断しないような何らかの救済措置を設ける必要がある。治療の空白期間が生じれば不妊カップルにとって大きな不利益になる」と懸念。具体的には、「3月に治療を開始して4月まで継続した特定不妊治療に関しては自費診療として令和3年度の助成の対象となるような弾力的な運用も考慮してほしい」と要望した。

 続いて、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の蔵本武志理事長は「もし保険点数が低く抑えられると、これまで世界トップ水準を保っていた質の高い生殖医療が行えなくなり、妊娠率や出産率の低下が起こることが懸念される。不妊クリニックの経営が困難となり、閉院する施設が多く出ることが予想される」と危惧した。

 その上で蔵本理事長は、難治症例に対するオーダーメイド医療の必要性を指摘し、「これまでの公的助成制度がなくなると、患者さんの治療費は全額自費となり、現在より経済的負担が増える患者さんが多く出てくることが懸念される」と訴えた。
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患者の選択肢を減らさないで

 患者代表として意見を述べたNPO法人「Fine」の松本亜樹子理事長は、6項目の要望事項のトップに「現行の治療の維持」を挙げ、「患者の選択肢を減らさないでいただきたい」と求めた。

 松本亜樹子理事長は「保険が適用になり、もし、今、受けているような治療を受けることができなくなったら妊娠が遠のくことになってしまい、患者にとって非常に不利益となる」と強調し、「患者にとって意味のある治療は、たとえオプションの部分があっても、引き続き受けられるような配慮をしていただけないだろうか」と要望した。
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02スライド_P2_【総-7-1参考4】 NPO法人Fine_2021年11月17日の中医協総会

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全体として整理される

 4人の意見陳述に続いて、厚労省保険局の中田勝己室長が今後の課題や論点などを提示。その中で、各ステップの全体像の中に「推奨度」を位置付けたイメージ図を示した。
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03スライド_P31_【総-7-1】個別事項(その4)不妊治療_2021年11月17日の中医協総会

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 赤い点線内は、保険適用が濃厚な推奨度A~B。一方、右下の青い点線内は「追加的に実施される場合があるもの」とし、推奨度BまたはCとなっている。
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04スライド_P31-2_【総-7-1】個別事項(その4)不妊治療_2021年11月17日の中医協総会

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 中田室長は「それぞれの段階で必須となるような行為(赤枠内)と、追加的に実施されるような行為(青枠内)、こういったものが全体として整理されると考えている」と述べた。

 論点では、「診療全体における位置づけや、現在の実施状況、ガイドラインにおける推奨度のエビデンス等を踏まえ、有効性・安全性等の観点から、保険適用についてどのように考えるか」としている。
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05スライド_P57_【総-7-1】個別事項(その4)不妊治療_2021年11月17日の中医協総会

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推奨度Cで「結構いいものもある」

 質疑で、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「有効性・安全性に関するデータが十分に蓄積されていないために現時点で保険適用が認められていないとしても、診療全体における位置づけや現在の実施状況を参考に、診療の実態と齟齬がないように配慮しながら、既存の先進医療の枠組みなどの活用をしつつ、保険診療との併用が可能になるように検討していくべき」と述べた。

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「安全性と有効性の観点からすれば、推奨度が基準になるだろう」との見方を示した上で、「赤い点線と青色の点線の区分や保険適用の妥当性について、ご意見をいただきたい」と質問した。

 大須賀理事長は「一番大事な点はガイドラインで取り上げたかどうかで、これが話題になる」と切り出し、「ガイドラインで取り上げていない技術でも行われているものはそこそこある。ごく一部の人に行われて結構いいものもある。小さいながらもエビデンスがあるかもしれない」との認識を示した。

 推奨度の考え方については、「A・Bは基本的にエビデンスがあり広く行われている。その中で、ほかの要因などを総合的に考えて『強く』とまでは言えないのがB」とした。Cについては、「多くはエビデンスがあっても、まだ非常に広く行われているとは言い切れないが、有効であるという評価はできる」と説明した。
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助成制度、「一連の治療は全て対象」

 助成事業との関係も議論になった。支払側の佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は「不妊治療が保険適用になることで助成金の対象から外れることになってしまうと、今までの要件であれば助成対象だった方にとっては不利益」と指摘し、「保険適用されなかった場合には助成金の対象になるなどの配慮が必要」と述べた。ほかの委員からも同様の意見があった。

 池端副会長は「多くの団体の方々から、保険適用になると、特定不妊治療として国費で投入されているものが外されるという懸念があった」と指摘し、現行の取り扱いなどを質問した。

 厚労省の担当者は「現行の助成制度では、治療の中身は特に見ていない」とし、「領収書を付けて、医師の証明書も出していただき、お金を支払っていることが確認できればお支払いする。基本的には全て、一連の治療については対象となっている」と説明した。
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療養病床でもチームで取り組む

 この日の会合では、リハビリテーションもテーマになり、中心静脈栄養を実施している患者に対する嚥下機能評価等の取り組みなどが論点に挙がった。

 島弘志委員(日本病院会副会長)は「療養病棟は回復期リハビリ病棟のように在棟期間が定まっていないので、いつまで嚥下リハをやるのかといった問題がある」と指摘し、「池端先生に、ご意見を伺いたい」と求めた。 

 池端副会長は「療養病床においても、チームを組んで嚥下機能評価をしながら、しっかりと嚥下リハ等を継続することに取り組んでいきたい」と述べた。

 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。
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2021年11月17日の中医協総会

■ 不妊治療の保険適用について
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 本日、ご説明いただいた参考人の方々に質問させていただきたい。不妊治療に関して、さまざまな視点からご発言いただいて非常に参考になった。感謝を申し上げる。 
 まず、日本生殖医学会の大須賀先生、日本産婦人科医会の谷川原先生に、ガイドラインについてお尋ねしたい。この中医協の議論では、ガイドラインが中心になって、そこからどう展開するかが問題になる。 
 多くの方々が最も懸念されていて、また私自身も専門外として不安を感じるのは、治療法が千差万別である。「玉石混淆」という言い方をしていいかはわからないが、いろいろな治療法が保険適用になれば、一定の標準治療となり施設基準も定められる。
 そこで、このガイドラインを作成された学会に入っておられる方々や、また治療に当たっている先生方が「マル適」みたいにすることが学会として可能なのか、現時点でお考えがあったら、お聞かせいただきたい。
 また、JISARTの蔵本様とNPO法人Fineの松本様のご説明の中で、保険診療に対して不安の要素をかなり強調された。 
 一方で、大きな疑問として、そもそも、現状に満足しているわけではないとは思うが、保険診療に対する不安が多くて、むしろ現状のままのほうがいいのかという印象も受けた。
 しかし、そうではなく、やはり保険診療はぜひ進めていただきたいが、こういう不安点も検討していただきたいという流れではないかと思う。保険診療に対する姿勢、考え方があれば、お聞かせいただきたい。

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【日本生殖医学会・大須賀穣理事長】
 学会としてグリップしていくかどうかというご質問。現在、日本産科婦人科学会が登録制度を行っており、生殖補助医療を受けた患者さんのデータを全て登録していただいている。 
 そうしたことをきちんと続けていくことは、場合によっては保険の要件にしていただかないと、今後の日本の生殖医療が担保できないということになってくるのではないかと思う。

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【NPO法人Fine・松本亜樹子理事長】
 委員の皆さまが、すごく真剣にこの議論をしてくださっているのを拝見し、胸が熱くなる思いである。私ども、18年間活動を行っているが、このような日が来ることは夢にも思っていなかった。池端委員からご質問をいただいた。保険についての考えであるが、国が不妊当事者、不妊患者の経済的な負担を考えてくださるということは本当にありがたいことで、私どもは驚いた。経済的なことで治療が受けたくても受けられない患者がとてもたくさんいる。そうした方々にとって、今度の保険適用は間違いなく福音になると思っている。とてもありがたいことである。
 ただ、その一方で、谷川原先生、蔵本先生がお話しくださったように、私どもが今、受けている治療というのは、本当に1人ひとりにあわせた細かなオプションを付けてくれて受けている治療だと思っている。それが受けられなくなってしまうと、妊娠から遠のくような治療になってしまうのではないか。それは患者にとっては非常に悲しいことである。そのため、今、受けている現行の治療を、ぜひ続けて受けられるようなご配慮をしていただけたら本当にありがたい。

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■ 特定治療支援事業の現状等について
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 事務局に確認したい。多くの団体の方々がおっしゃっていたが、現在、特定不妊治療として国費で投入されているものが保険適用になると、助成金の適用にならないものがあると不安視する声が多かった。 
 現状、特定不妊治療は、学会の推奨度A・B・Cではないものでも全て、不妊治療という治療であれば、現在は特定不妊治療として認められているが、今回、保険適用になり標準治療になると、それが外されるという心配があるということで、よろしいのかどうか。事務局に確認したい。

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【厚労省子ども家庭局母子保健課・山本圭子課長】
 現行の助成制度については、治療の中身などは特に見ていない。どのような治療の流れか、治療の開始日から終了日まで採卵をしたのか移植をしたのか、妊娠の確認をしたのかという領収書だけを付け、医師の証明書も出していただき、お金を支払っていることが確認できればお支払いするかたちになっている。全く対象外のものもあるが、基本的には全て、その一連の治療については対象となっている。
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■ 療養病棟での嚥下機能評価等の取り組みについて
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 資料の22ページでは、中心静脈カテーテル抜去の見込みを嚥下評価の有無で比較している。それによると、嚥下機能評価の「あり」は8%、「なし」は3%で、これに有意差があるかどうかは別として一定の差がある。
 また、21ページでは、中心静脈栄養を実施している患者のうち嚥下リハビリまたは脳血管疾患等リハビリテーションを入院中に実施されたことのある患者が療養病棟入院料1では30%以上いる。これと中心静脈栄養等を関連付けることに対して反対するものではない。
 ただし、現場の感覚から言うと、嚥下リハをしっかりやって、抜けそうなものは抜くということで、可能性があるところに対しては、しっかりリハをやって、中心静脈カテーテルを抜けるほうにもっていく。卵が先か鶏が先かという議論も一部あると思っている。可能性があるものはしっかりリハをするが、脳血管障害等で抜去ができない場合や、何らかの原因で胃瘻も入れられない状況の人が中心静脈栄養で長期間いることは一定数ありうる。
 それについて、島委員もおっしゃったように、ただアリバイづくりみたいに嚥下リハをやっていればいいということではない。その辺は少し工夫が必要と思っている。療養病床においても、チームを組んで嚥下評価をしながら、しっかり嚥下リハ等を継続することに取り組んでいきたいという立場である。少しでもそういう連携のもとで嚥下機能評価ができるような体制を認めていただけることには賛成したい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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