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健康QOL中心の判断、「やむを得ない」 ── 費用対効果の議論で池端副会長

Posted By araihiro On 2021年11月13日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 高額な医薬品や医療材料などの価格を調整する「費用対効果評価制度」の見直しに向けて関係業界の意見を聴取した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、健康関連QOLの向上以外の価値も評価してほしいとの要望に対し、「健康関連QOLの評価基準が中心になるのはやむを得ない」との認識を示した。

 令和4年度の費用対効果制度の見直しに向け、厚労省は11月12日、中央社会保険医療協議会(中医協)費用対効果評価専門部会(部会長=飯塚敏晃・東京大学大学院経済学研究科教授)の第58回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が出席した。

 この日の会合には、医薬品や医療機器団体の代表者らが参加。これまでの検討を踏まえて意見を陳述した後、質疑応答が行われた。同部会では、今年7月に費用対効果評価専門組織からの意見が示された後、8月に業界ヒアリングを実施。その後、厚労省が示した「主な論点」を踏まえて9月、10月に検討を重ね、今回2度目のヒアリングとなった。
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投与間隔の延長も「効果は同等」

 費用対効果評価制度は2019年4月から運用を開始。健康な状態での1年間の生存を延長するために必要な費用を「ICER」(増分費用効果比)と呼ばれる基準を用いて算出する。一方、新規医薬品の価格などは薬価算定組織で審議される。

 医薬品の価格設定をめぐっては、関連組織の間で評価が分かれるケースが問題となっている。今年4月14日の中医協総会で、「ユルトミリス点滴静注」の費用対効果評価の結果が示された際、投与間隔の延長によるQOLの向上について費用対効果評価専門組織の田倉智之委員長は「追加的有用性があるものとして評価することは困難であり、効果は同等であるとすることが妥当」と報告した。

 企業からは「投与間隔の延長によって患者負担は低減する」「投与間隔の延長によるQOL向上が認められるべき」などの不服意見が出ていたが、却下される結果となった。
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【総-12】費用対効果評価専門組織からの報告_2021年4月14日中医協総会_ページ_4

                 2021年4月14日中医協総会資料「総-12」P4から抜粋
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判断基準の擦り合わせが必要

 4月14日の質疑で、当時の支払側委員である幸野庄司氏員(健保連理事)は「ユルトミリスが令和元年9月に薬価収載された時、有用性加算が5%付いている。これは類似薬に比較して投与頻度が4分の1でいいことが評価された」と食い違いを指摘。「使用頻度の間隔によって有用性加算を付けるかどうか、今後の議論の対象として検討していく必要がある」と求めた。

 その1週間後に開かれた4月21日の中医協・費用対効果評価部会で、公益委員の中村洋部会長代理(慶應義塾大大学院教授)は「ユルトミリスで費用対効果評価の専門組織と薬価算定組織の判断が分かれた」と指摘し、「判断が分かれないように、判断基準の擦り合わせが必要」と問題提起した。
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患者便益を考慮した評価を

 今回、11月12日に実施された業界ヒアリングで、欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)のレオ・リー副会長は「医薬品の価値は多様な観点から評価されるべきであるのが基本」とし、「医薬品の価値には財政削減効果や患者負担の軽減、労働生産性の向上などがある」と主張した。

 レオ・リー副会長は今後の課題として「海外の医療技術評価機関が実施しているような、ICER以外の要素を含んだ医薬品の多様な価値を評価することができる、そうした体制づくりに関する議論も必要になる」と述べた。

 続いて医療機器4団体を代表して、日本医療機器産業連合会の住吉修吾副会長(MTJAPAN会長)は「ICERに十分反映されない患者便益を考慮した評価については課題として取り上げられておらず、十分な検討が行われたとは言えない状態」と苦言を呈した。
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【費-4】日本医療機器産業連合会等_2021年11月12日の費用対効果部会_ページ_4

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健康系QOLの改善以外にも

 米国医療機器・IVD工業会(AMDD)の小川一弥会長(ジンマーバイオメット社長)は「薬価収載の際に有用性加算が認められたにもかかわらず、費用対効果評価において追加的有用性、具体的には健康関連QOLを評価することが困難とされた事例があった」と指摘し、「医療技術が社会に提供する価値には、患者本人の健康系QOLが改善されること以外に、さまざまなものが含まれている」と主張した。

 その例として小川会長は「低侵襲性治療による早期社会復帰」「医療従事者の負担軽減による医療安全の向上」「医師の技術の均てん化により、いわゆる神の手の技術を全国で受けられるようになること」「廃棄物削減による環境負荷の軽減」などを挙げ、「健康関連QOLの値のみをもって、価格調整係数に最も小さな値を当てはめて価格調査を行うという現状のやり方は再考していただきたい」と要望した。
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価格で評価されずとも経済効果はある

 こうした業界の意見に対し、池端副会長は「ICERに十分反映されない患者便益を考慮して評価してほしいことには一定の理解をさせていただいている」としながらも、「費用対効果評価は、あくまでも薬価を中心に出てきた制度である限り、健康関連QOLの評価基準を中心にすることはやむを得ない」との認識を示した。

 その上で、池端副会長は「価格で評価されなくても、医療機器を使うユーザーや患者に有益性があれば販路の拡大につながり、企業側としても一定程度の利益、経済効果を生むという面もあるのではないか」と指摘し、業界側の見解を求めた。

 AMDD保険委員会の伊藤智委員長は「価格上、費用対効果が劣るというような評価がされてしまうと、国の評価が影響するという懸念があるので、多面的な価値について、どうやって反映させていくかを引き続き検討していただきたい」と理解を求めた。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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2021年11月12日の費用対効果部会

 医療機器の4団体のご報告について、お話をさせていただきたい。まず、医療機器に関して、ICERに十分反映されない患者便益を考慮して評価をしてほしいということに一定の理解はしている。また、陳述資料にある「日本型の費用対効果評価制度に関する最新の知見が企業に共有されやすくなることを期待する」との意見も十分理解している。
 ただ、この費用対効果は、あくまでも薬価を中心にして出てきた制度である限り、健康関連QOLの評価基準を中心になることはやむを得ないところかと思う。4団体がおっしゃっているように、低侵襲性治療や医療従事者の負担軽減、医師の技術の均てん化等々に関する評価も非常に重要だと思うが、価格で評価されなくても、この医療機器を使うユーザー、いわゆる医療提供者のほか、患者さんたちに有益性があれば、それによって販路が拡大される。いわゆるマーケティング拡大につながり、企業側としても一定程度の利益、経済効果が生まれるという面もあるのではないか。企業努力によって、より良いもの、より安くて低侵襲性な医療機器があれば、それを利用するという流れがあると思う。
 その中で、劇的に健康関連QOLの点から有用性が高いものに関しては加算等が付く可能性があるとは思うが、そういう2つの面から皆さんが企業努力されてるということがあるのではないかということで、一定程度、やむを得ないところがあるのではないかという気がする。これに対して何かご意見があれば、お聞かせいただければと思う。

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【米国医療機器・IVD工業会(AMDD)保険委員会・伊藤智委員長】
 費用対効果評価が行われた場合、それに伴って価格調整が行われる。そうすると、比較される医療技術との間で、この新しい技術が費用対効果に優れているか優れていないかという点での結論が出てしまうということが1つ懸念される。 
 おっしゃられたとおり、ほかの低侵襲など、そういった観点でプロモーションなども含めてできることになるが、そちらが評価されない中で、価格上、費用対効果が劣るというような評価がされてしまうと、国の評価というものが影響を受けることも懸念される。そういった観点も含めると、多面的な価値について評価していただいた上で、それを価格調整に反映させていただくという観点も、すぐにできるかどうかはわからないが、検討していただきたい。多面的な価値について、どうやって反映させていくかを引き続き検討していただければいいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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