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医療・介護の基金、「県が恣意的に使える状況か」 ── 武久会長、医療介護総合確保促進会議で

Posted By araihiro On 2021年10月12日 @ 9:07 PM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 消費税財源を活用した基金の配分状況などが示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の武久洋三会長は「地域格差が非常に出ている」と指摘し、「県が恣意的に好きなように使える状況にあるのではないか」と懸念した。使われていない基金の残額については「余らせるように指導でもしているのだろうか」と疑問を呈した。

 厚労省は10月11日、医療介護総合確保促進会議(座長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第15回会合をオンライン形式で開催し、当会から武久会長が構成員として出席した。

 この会議は、地域医療介護総合確保基金の執行状況などを報告するため、最近は年1回のペースで開催されている。

 厚労省は同日の会合に、平成26年度から令和元年度までの医療・介護分の執行状況や、令和2年度の交付状況、令和3年度の内示状況などを示し、構成員の意見を聴いた。
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02_第15回医療介護総合確保促進会議_2021年10月11日
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都道府県格差を広げることになる

 質疑で、佐保昌一構成員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は令和2年度の医療分について、「居宅等における医療の提供に関する事業、勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業への交付額が全くない都道府県がある」と指摘し、「こうした状況は、当該事業の都道府県格差を広げることになるのではないか」と懸念した。

 佐保構成員はまた、介護分について「令和2年度の交付状況と令和3年度内示状況を見ると、医療分と比較して予算額との差が大きい」とし、「十分活用できていないのではないか。基金のメニューが事業者のニーズに合っていないのではないか」と苦言を呈した。
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未執行額が積み上がっている

 厚労省が示した令和2年度の交付状況によると、「地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設備の整備に関する事業」は330億円(国費220億円)。これに対し、「勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業」は28億円(同18.6億円)となっている。

 今村聡構成員(日本医師会副会長)は「2024年から医師の働き方改革が始まるので、勤務医の労働時間短縮に向けた事業は非常に重要だが、額が非常に少ない。執行率が低い。働き方改革を実は大きく求められているような地域から全く申請がない、交付がないという状況にある」と対応を求めた。
 
 今村聡構成員はまた、「介護分の施設整備分で未執行額が積み上がっている」とし、「基金の検証・分析を行った上で、現場で有効に活用していただくための施策を推進していただきたい」と要望した。
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民営圧迫、「どこで議論すればいいのか」

 加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)は、地域の基幹病院の統合に基金が活用された事例などを挙げ、「もともと(病床数が)過剰な地域だったのに330床と392床の病院が合体して、減らすどころか736床の病院をつくった。これが大きな箱物行政だとすれば、今後のこの基金の使い方に対して非常に懸念する」と不満を表した。

 厚労省医政局地域医療計画課の鷲見学課長は「都道府県で、あらかじめ幅広い地域の関係者の意見を反映させた上で国に要望していただいている」と説明。「地域の実情に応じて地域の調整会議などで方針を策定し、周辺の医療機関とも調整しながら進められたと承知している。個別の事業についての説明は現時点ではここまでとさせていただきたい」と理解を求めた。

 加納構成員は「確かに個別の事業であり、都道府県ごとに任せるのが基本だということは分かる」としながらも、「結果的には民営圧迫みたいなことが現実的に起きている。これをどこで議論すればいいのか」と問いかけた。
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会員からクレームが出ている

 東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)は、ある自治体で「ICT・介護ロボット等の導入支援が令和2年度3,000万円であったものが令和3年度は1,000万に減っている」と指摘。「私どもの会員から『ICTを整備しようとしたが基金のメニューが使えない』というクレームが出ている」と訴えた。

 東構成員はまた、施設整備と人材確保のバランスにも地域差があることを指摘。「宮城、秋田、千葉、富山、岐阜、和歌山、香川では施設整備がほぼゼロで、介護従事者の確保にほとんど使われている一方、群馬、山梨、沖縄では、施設整備に使われているのがほとんど95%以上で、介護従事者の確保が5%未満」と紹介。「このように地域差があまりに多くては、地域によって事業者に公平に基金が分配されているとは言えない」との認識を示した。

 その上で、東構成員は「各都道府県にきちんと聞き取りを行って、施設整備が非常に多い所、介護従事者の確保ばかりに使われている所の実情を調べ、報告していただきたい」と求めた。
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予算の執行率を高めていただくように

 こうした議論を踏まえ、武久会長が発言。「皆さんがおっしゃったように、県によって大きな差があるが、これは県が好きなようにやってもいいよということが前提になっているのだろうか。この会は、その調整をして極端にならないようにする役目があるのではないか」と問題提起した。

 その上で、武久会長は「累積したお金が余っているのであれば、もっとほかの使用方法を考えていただき、予算の執行率を高めていただくような方向で進めていただければありがたい」と述べた。

 鷲見課長は「引き続き、都道府県としっかり連携しながら議論を進めてまいりたい」と理解を求めた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。
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03_第15回医療介護総合確保促進会議_2021年10月11日

 皆さんがおっしゃっていたこととも関連するが、交付額と執行額等にかなり差があるわけだから、1年、1年の余った金があるのではないか。これが、この数年にわたって累積していった現在の残高はどれぐらいになるのか。これは予算で取ってきているものだから、できれば100%、同一の目的のために使われるべきでないかと思う。これが一定額、余らせるように、何か指導でもしているのだろうか。それとも、これは自由に使えるものなのだろうか。
 事業区分の各基金の間でいろいろ差がある。資料14ページ(令和2年度地域医療介護総合確保基金・医療分の事業区分別の交付額の割合)、15ページ(公的機関及び民間機関への交付額の割合・医療分)、39ページ(令和2年度地域医療介護総合確保基金・介護分の事業区分別の交付額の割合)、40ページ(公的機関及び民間機関への交付額の割合・介護分)を見ると、先ほど皆さんがおっしゃったように、県によって大きな差がある。これは県が好きなようにやってもいいよということが前提になっているのだろうか。要するに、全く逆のような使い方をしている所もあるし、地域格差が非常に出ている。
 この会は、その調整をして極端にならないようにするという役目があるのではないかと思う。現在、恣意的に県庁が、ある程度、好きなように使えるというような状況下にあるのではないかと少し心配している。この点について、どのように考えていけばいいのか。
 累積したお金が余っているのであれば、もっとほかの使用方法を考えていただき、予算の執行率を高めていただくような方向で進めていただければありがたいと思っている。現在の状況を見ると、そういう調整や指導などが十分にできていないようなフィーリングを感じるので質問させていただいた。

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【厚労省医政局地域医療計画課・鷲見学課長】
 現在、差額分が500億程度、全国にある状況だが、私どもとして「残すように」というような指導を行っているわけではない。
 資料5ページ(平成26年度~令和元年度の医療分の執行状況)の「留意点」に記載がある。未執行額が生じている主な要因は、複数年度にわたって実施中および今後実施予定の施設設備整備事業について、後年度の負担分を確保しているためである。現在、新型コロナウイルス感染症の流行により、各都道府県で地域医療構想調整会議の議論が開催できない等の影響が出ているが、我が国の人口減少と高齢化は引き続き進行するため、地域医療構想は着実に進めるべきであり、未執行額は次第に解消される見込みであるということが私どもの考えているところである。
 これにあわせて、特に施設設備整備については、整備単価、そして補助割合についての検討であるとか、将来を見据えた積み立てにつきましては改めて都道府県にお願いしているところであり、引き続き、都道府県としっかりと連携しながら議論を進めてまいりたいというのが現在の状況である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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