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「死亡率だけでは議論できない」 ── 武久会長、定例会見で反論

Posted By araihiro On 2021年9月10日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月9日の定例記者会見で、療養病棟の死亡退院率に関する見解を示すとともに緊急調査の結果を公表し、「死亡率だけを見て、病院のあり方を議論することはできない」と反論した。

 令和4年度の診療報酬改定に向けた入院医療の審議では、療養病棟の退棟先が「死亡退院」である割合が55.0%と半数を超えている点を問題視する意見が出ている。

 会見で武久会長は、慢性期病院が重度の患者を受け入れている背景を説明。2006年の医療区分導入により従来よりも多くの重症患者が慢性期病院に入院するようになったことや、その後の特定除外制度の廃止で急性期病院から多くの重症患者が慢性期病院に移行したことを挙げ、「急性期病床である一般病床の死亡率は大幅に低下した」と指摘した。

 その上で、武久会長は「適切な治療によって治り得る」とし、「死亡退院率が50%前後であるということは、逆に言うと軽快退院する患者も半分程度存在するということであり、これはかなり評価されてもよいということではないか」との認識を示した。

 また、会員病院を対象に実施した緊急調査の結果を公表し、「死亡率は10%未満のところから90%を超えるところまでさまざまである」と伝えた。調査によると、療養病棟のみを持つ病院では厚労省の調査と同様の死亡退院率であったが、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟などを併せ持つ慢性期病院の死亡退院率は低かった。

 武久会長は「各地域によって病院ごとの機能が非常にバラエティに富んでいる。療養病棟の死亡退院率には、地域内に在宅医療も含めたどのような医療資源が備わっているのかということも関わっている。死亡率にはいろいろな条件が絡んでいる」とし、「死亡率だけを見て、病院のあり方を議論することはできない」と述べた。

 この日の会見には、開催が間近に迫った第29回日本慢性期医療学会の鈴木龍太学会長(鶴巻温泉病院院長、日本介護医療院協会会長)も出席。「慢性期医療は進化する -医療・介護・地域の統合-」とのテーマで10月14日(木)と15日(金)の2日間にわたりWEB開催することを伝えた。

 同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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01_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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[池端幸彦副会長]
 ただいまから令和3年9月度・日本慢性期医療協会定例の記者会見を始めたい。今回も新型コロナウイルス感染症対策のためWEBでの記者会見とさせていただく。では武久会長、よろしくお願いしたい。

[武久洋三会長]
 コロナがなかなか収束しない。皆さんと膝を突き合わせてお話しできる日が早く来ることを待ち望んでいる。

 本日は、中医協での議論を踏まえ療養病棟での死亡退院率について見解を述べたい。また、緊急調査も実施したので、その結果を後ほどご報告したいと思う。

[池端幸彦副会長]
 第29回日本慢性期医療学会が直前に迫っている。本日の会見には、学会長を務める鈴木龍太常任理事がご参加されているので、まず第29回学会について、ご案内を申し上げたい。
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「慢性期医療は進化する」をテーマに学会

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01_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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[鈴木龍太学会長(鶴巻温泉病院院長、日本介護医療院協会会長)]
 10月14日(木)と15日(金)の2日間にわたり第29回日本慢性期医療学会を開催する。テーマは「慢性期医療は進化する -医療・介護・地域の統合-」である。会場はパシフィコ横浜で、当初はハイブリッド開催を予定していた。

 しかし、COVID-19の感染拡大は全国的に災害レベルとなり、いまだ打開策を見いだせていない。こうした状況下で医療に携わる私たちが都道府県を越える移動はもちろん、学会を現地集合型で開催することは控えるべきであると判断した。

 本来、学会は対面での発表をすることで得られるものなどにも大きな価値があり、今回の学会では、現地集合型とオンラインの両方のメリットを活かした学会となるよう、時代にあわせた学会運営を目指してきた。

 しかしながら、感染拡大の状況を見れば現地集合開催は断念するという苦渋の決断をせざるを得ず、誠に残念ながらオンラインのみの学会とさせていただきたい。アーカイブ配信を予定しているので、当日都合が悪くても後で視聴できる。ぜひ注目していただければと思う。

 皆さまにはご心配をおかけするが、学会ホームページやメールなどで順次、学会開催に関するご案内をさせていただく。オンライン開催であっても実りのある学会となるよう努めてまいりたい。
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With Corona 時代の医療の進化

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02_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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 第1日目のプログラムは武久会長の記念講演、私の講演、矢野諭副会長の教育講演を予定している。矢野先生には、医療の進化に必要な慢性期のクオリティ・インディケーターをご紹介していただく。

 学会2日目の文化講演では、鹿児島のしょうぶ学園統括施設長(障がい者支援)である福森伸先生をお招きして、アートや音楽、芸術作品などを通じた取り組みなどをお話しいただく。
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03_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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 メインシンポジウムは「With Corona 時代の医療の進化」と題し、神奈川県医療危機対策統括官の阿南英明先生、厚生労働省医政局長の迫井正深先生にご講演いただく。本学会を計画した時には「Post Corona」にしようか「With Corona」にしようか迷ったのだが、結局、「With Corona」のテーマよかった状況にある。
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慢性期医療の関係者に役立つ

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04_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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 シンポジウム②の「慢性期医療のキャリアアップ」では、総合診療医、看護師特定行為研修、介護認定特定行為業務に焦点をあて、その実情、課題と未来を論じていただく。
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05_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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 シンポジウム③は「長期療養のリハビリテーション」をテーマに、現場の取り組みなどをご紹介いただく。
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06_【資料2】日慢協会見_2021年9月9日(学会広報)

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 シンポジウム④「エキスパートから学ぶ慢性期医療のケア」では、大変勉強になる内容だと思う。明日からすぐに役に立つと思うので、慢性期医療の関係者はぜひご覧いただきたい。その場で役に立つようなお話をしていただけるので、多くの方々に視聴してほしいと思う。

[池端幸彦副会長]
 10月14・15日、第29回日本慢性期医療学会をご視聴いただければ幸いである。
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死亡退院率50%に反論

[武久洋三会長]
 続いて、私から療養病棟の死亡退院率に関する見解を述べたい。6月23日に開催された中医協の基本問題小委員会で、委員から療養病棟での死亡退院率が50%を超えていることを指摘する意見があった。

 そこで、同じく中医協委員であり当会副会長の池端先生が同日の第481回中医協総会で「在宅や施設等で看取れる死亡退院ではない。この療養病棟での死亡退院は、病院での何らかの入院医療が必ず必要な患者の死亡退院である」と反論し、自宅や施設の代わりに看取っているわけではないと指摘している。

 会員病院の多くは重症患者であろうと回復に向けて治療を行っているが、入院患者の平均年齢は80歳を超え、高齢化と疾病等により、体力や免疫力の低下が著しい。そのような状態で入院してきている患者の予後は必ずしも良いものではない。
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「医療区分」の導入で変わった

 療養病棟に「医療区分」が導入される以前、療養病棟の診療報酬体系は包括性であり、いかなる病態でも同じ診療報酬であった。「1人いくら」という包括払いだった。

 いかなる病状でも同じ診療報酬であったため、療養病棟のうち一部の病院は、紹介元の急性期病院に「できるだけ軽度・中度の患者さんの紹介をお願いしたい」と言ってきたことも事実である。重症患者の入院をできるだけ避けてきた。
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04_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 しかし、2006年に「医療区分」が導入された。スライドの表をご覧いただきたい。2006年7月から、このような点数で開始された。医療区分1が軽くて医療区分3が重い状態である。ADL3で医療区分3の患者さんが1万7,400円と一番高い。最も低い点数と比べて1万円ぐらい違う。

 この差は大きい。それまで、「軽い人の照会をお願いします」と言っていた療養病棟の態度が豹変した。「できるだけ重症な患者さんの紹介をお願いしたい」となり、急性期病院側も驚いた。そういう変化が適切であったかどうかは別として、そのような状況が今から14年ぐらい前にあった。
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特定除外制度の廃止を機に

 かつて急性期病院には、長期入院の患者でも高い入院料が算定できる特定除外制度があった。12項目の状態に該当する患者は入院日数に関係なく長期入院が認められていたので、急性期病院には慢性期の重症高齢者が多く入院しており、死亡率も高かった。この12項目は「医療区分3」によく似ている。
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05_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 私たちは「これはおかしいのではないか」と厚労省に訴えていた。2012年に、13対1、15対1の一般病床で、2014年には7対1、10対1の一般病床で特定除外制度が廃止された。

 そのため、これを機に急性期病院で長期入院できなくなった重症高齢患者を慢性期の病院が引き受けることになった。急性期病院から重症高齢患者が一気に療養病棟を有する慢性期病院に紹介されることが増えた。

 その結果、医療区分2・3の患者割合が80%以上(実質90%以上)の医療療養病棟入院基本料1の病床数が増加した。逆に、急性期病床である一般病床の死亡率は大幅に低下した。
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死亡退院率50%、評価されてよい

 人間には寿命がある。生まれたからには必ず死を迎える。療養病棟で重症患者を治療する立場上、療養病棟で死亡する可能性も高く、これらの患者が療養病棟に集まっていることは事実である。

 しかしながら、死亡退院率が50%前後あるということは、逆に言うと軽快退院する患者も半分程度存在するということであり、これはかなり評価されてもよいということではないか。

 現在、急性期病院では死亡退院率が低い。これは病態によって死亡する可能性が高く、長期入院が必要な患者は、急性期病院に設けられた平均在院日数の縛りにより、慢性期病院へ紹介されてくることがほとんどである。

 そして、これらの患者のほとんどが重度の低栄養、脱水状態、感染症の患者で、適切な治療により治り得る患者である。がん末期のターミナル患者というわけではない。

 急性期病院が特定除外患者を多く入院させていた当時、死亡退院率はかなり高かったが、これらの患者が慢性期病院へ移行したことによって、急性期病院での死亡退院率が下がり、逆に慢性期病院での死亡退院率が高いことの遠因となっていると考えられる。

 急性期病院から慢性期病院に紹介されてくる患者さんは重度の低栄養や脱水、それによって合併する感染症が多い。急性期病院で栄養や水分が十分に取れていないこともあって体力が弱り、免疫力が低下している。「治りが悪いので、もう慢性期病院に紹介する」という場合もある。

 しかし、適切な治療によって治り得る患者さんである。がんのターミナルの患者さんとは全く違う。
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死亡退院の状況に関する緊急調査を実施

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10_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 実際にわれわれ会員病院の死亡退院率がどうなっているか。これまで調査していなかった。そこで、当会では死亡退院の状況に関する緊急調査を実施し、1,023の会員病院のうち504の会員病院が協力してくれた。

 会員病院は療養病棟入院基本料を算定する病床のみを有する単独病院よりも、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟など多機能な病床機能を有する病院が多い。

 今回の調査では、病棟種別ごとの死亡退院率とともに、併せ持つ病棟種別ごとに病院全体の死亡退院率もまとめたので報告する。

 この調査は9月初旬に実施した。504病院に協力していただいた。介護医療院を除き全病床数は8万3,979床。
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病院全体では15.5%の死亡退院率

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11_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 2020年4月から2021年3月の1年間の504病院の退院患者数32万3,878人。このうち死亡退院された患者さんは5万289名人で、退院患者に占める割合は15.5%だった。

 慢性期病院と言っても全部が療養病床ではない。一般病床を持っている病院が151施設で平均死亡退院率が7.9%。地域一般病床を持っている病院は30施設で死亡退院率は平均11.9%。地域包括ケア病棟のある病院は183施設あり、平均死亡退院率は6.7%。回復期リハビリテーション病棟を持つ病院191施設で、平均死亡退院率はわずか1.6%だった。

 療養病棟入院基本料1は393病院で49.5%。約50%の死亡退院率である。精神病床は12.2%の死亡退院率で、「その他の病床」である療養病棟入院基本料2、介護療養病床、特殊疾患病棟、障害者病棟などは40%近い死亡退院率だった。すなわち、重度の障害を受けた患者さんがほとんどである。

 療養病棟入院基本料だけしかない病院は71病院で、平均死亡退院率は60%。病院全体としては15.5%の死亡退院率だった。参考として、介護医療院では43.4%の死亡退院率だった。
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多機能な病棟を有している

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12_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 これは病床種別ごとの死亡退院割合である。左側が0%で、右側が90%以上となっている。この棒グラフを見ていただくと、非常に多くの機能を持った病院があることが分かる。

 黄色い棒グラフが療養病棟入院基本料1で、この病棟を持っている病院は比較的死亡退院率が高くなっているが、それ以外に地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟のある病院では、死亡退院率は決して高くない。従って、全ての病院が50%以上ではなく、死亡退院率が非常に低い病院も結構ある。
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13_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 表にまとめた。回答した会員病院のほとんどが、療養病床をはじめ、4つの病棟種別(①一般病床、②地域一般病棟、③地域包括ケア病棟、④回復期リハビリテーション病棟)など、多機能な病棟を有していることが多い。
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14_【資料】日慢協会見_2021年9月9日

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 4つの病棟種別の組み合わせ別に「療養1」の死亡退院率を見ると、「療養1」のみの病院の死亡退院率(60.0%)が高い。
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病院の機能はバラエティに富む

 療養病棟のほかに回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などを併せ持っている病院では、療養病棟単独の病院と比べて療養病棟の死亡率に有意な差は見られず、むしろ死亡率は低い。

 院内に介護医療院を有している場合でも、介護医療院の死亡退院率より療養病床の死亡退院率が高い場合も見られる。

 死亡時の医療の必要性により、入院ベッドを選択されているのではないかと考えることもできる。介護医療院が一概に終末期のターミナルを担うベッドになっているとは言えない。

 死亡退院率で見れば、一般病床の死亡退院率は10%未満のところから90%を超えるところまでさまざまである。同じく、療養病棟の死亡退院率も、全体的に一般病床よりは死亡率が高いものの、10%未満のところから90%を超えるところまでさまざまである。

 つまり、一般病床をどのように使用しているかによるのではないかと思う。一般病床を急性期病院専属にしていれば死亡退院率は少ないが、特殊疾患や障害者などを一般病棟に含めているところはむしろ高い。それぞれ、各地域によって病院ごとの機能が非常にバラエティに富んでいることがよく分かる。
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療養病棟のタイプには幅がある

 療養病棟の死亡退院率には、地域内に在宅医療も含めたどのような医療資源が備わっているのかということも関わっているのではないか。周辺にどんな種類の病院があるのか。また、特養や老健がどの程度あるのかなど、周辺環境も大きく影響する。

 同じ療養病床といえども、「治療」「リハビリテーション」「慢性期救急対応」「ターミナル対応」など、病院がどういう機能に特化しているかにより、療養病棟のタイプが大きく異なっていて、死亡退院率の差が出ているのではないかと思われる。さまざまな機能にそれぞれ特化しており、療養病棟のタイプに幅がある。

 病院全体の死亡率でみれば100%と出る病院もあるが、退院患者数が少なくデータとして見ることは不適当である。逆に、死亡率0%の病院は、回復期リハビリテーション病棟などの在宅復帰に特化した病院であり、いろいろな病床種別との比較は不適当である。

 死亡退院率にはいろいろな条件が絡んでいると思われ、死亡退院率だけを見て、病院のあり方を議論することはできないと思う。
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治る可能性があればきちんと治す

 今後、介護保険施設や自宅での死亡が増えてくることも当然考えられる。このような場合も、地域の慢性期多機能病院の役割を十分に果たしていきたい。

 かつて急性期病院の一般病床の死亡退院率が非常に高かった。その患者さんが慢性期病院に大挙して押し寄せたが、ターミナルとして診ている患者さんは非常に少ない。医療区分2・3の割合が90%以上を占めている中で重篤な患者さんを一生懸命治療した結果として、半分が良くなって退院され、半分は残念ながら亡くなったという状態である。

 日本慢性期医療協会は良質な慢性期医療を追求している。治る見込みがある患者さんを一生懸命に治そうとしている。低栄養や脱水、感染症などは治り得る病態である。もう痩せて衰えているから放っておこうというようなことは日本慢性期医療協会の病院ではしない。治る可能性があればきちんと治してさしあげる。これからも頑張っていきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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