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「療養病床もしっかりやっている」 ── 地域包括ケア病棟の議論で井川常任理事

Posted By araihiro On 2021年7月9日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 地域包括ケア病棟の機能をめぐる議論があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は、保険者団体の委員が問題視した機能のばらつきについて「地域差がかなり出てくるのが地域包括ケア病棟だ」と反論した。厚労省が課題に挙げた病床種別の違いについては「療養病床もしっかりやっている」と理解を求めた。

 厚労省は7月8日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和3年度第4回会合をオンライン形式で開き、当会からは井川常任理事が出席した。

 令和2年度の調査結果を踏まえ、厚労省は同日の分科会に地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟に関する課題や論点を示し、委員の意見を聴いた。

 この日の議題は、前回6月30日の「急性期入院医療」に続いて、「回復期入院医療について」としている。
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01_厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐_2021年7月8日の入院分科会(全国都市会館)
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バランスよく担っていない

 厚労省の調査によると、一般病棟からの受け入れ(ポストアキュート機能)と自宅等からの受け入れ(サブアキュート機能)のいずれかに偏っている病院があった。

 また、療養病床で届け出ている地域包括ケア病棟は一般病床の場合よりも平均在棟日数が長いなどの違いが見られた。

 保険者団体の委員は「地域包括ケア病棟には3つの役割があるが、この役割をバランスよく担っているとは言えない施設があったことが明白になった」と指摘。病床種別の違いによる差にも言及しながら、「一部のみを担っている、一部しか担っていない地域包括ケア病棟」と苦言を呈し、「新たな要件設定につなげることを考えなければいけない」と問題提起した。
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地域差が出るのが地域包括ケア病棟

 これに対し、井川常任理事は「地域差がかなり出てくるのが地域包括ケア病棟」との認識を示し、「院内で高度急性期を持っている病院と、回復期リハビリ病棟と地域包括ケア病棟しか持っていない病院では、それぞれ担うものが違う。それが当然ではないか」などと反論した。

 病床種別による違いについては、「退棟先に差がない」と指摘し、「療養病床もしっかりやっているのではないか」と述べた。重症患者の割合について厚労省が「(療養病床は)低い傾向」とした記載については、「統計学的有意差も何もない」と訂正を求めた。
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スライドP40_【入-1】回復期入院医療について_2021年7月8日の入院分科会

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 この日の会合では、回復期リハビリテーション病棟のFIM利得も議論になった。井川常任理事は「恣意的に入棟時FIMを低く見積もりがちか、あるいは整形外科疾患のほうがFIM利得を高く得やすいからか。両者が絡んでいるのではないか」との見方を示した。

 井川常任理事の発言要旨は以下のとおり。
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02_2021年7月8日の入院分科会(全国都市会館)

■ 地域包括ケア病棟の機能について
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 地域包括ケア病棟の機能に関して中野委員からご意見があった。私はどちらかと言うと逆の考え方で、ポストアキュートとしての運用やサブアキュートを中心とした運用にやっぱり分かれてしまう。地域差がかなり出てくるのが、私は地域包括ケア病棟だと思っている。
 例えば、院内で高度急性期を持っている病院と、回復期リハと地域包括ケアしか持っていない病院がある。これらの病院は、それぞれ担うものが違ってくる。それが当然ではないかと考えている。そういう意味で言うと、このばらつきというのは仕方がないと考えている。
 先ほどから、地域包括ケア病棟の入棟元の割合が話題になっている。確かに、自院の一般病棟からの転棟割合が100%という病床は、地域包括ケア病棟としての位置づけとは少し意味合いが違うような気がしている。
 自院の一般病棟からの転棟割合について、入院料1・2を比較すると歴然とした分布の差があるので、そういう機能の差をしっかりと見極めた上で、地域包括ケア病棟の運用の仕方について、ここは少しおかしいのではないかという点を見つけていかなければいけない。

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■ 病床種別による違いについて
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 地域包括ケア病棟の病床種別ごとに見た重症度、医療・看護必要度について、「療養病床のほうが、基準を満たす患者割合が低い傾向にあった」としている。
 資料では、看護必要度Ⅰで基準を満たす患者割合は「一般病床」34%、「療養病床」31%である。このような数字が出ていて、事務局はこれを「療養病床のほうが、基準を満たす患者割合が低い傾向」と書いておられる。
 これについて私はいろいろ統計的に検討した。P値で言うと、0.05どころか0.1にもいかない。どう考えても統計学的有意差も何もないのに、このように「低い傾向」と書かれてしまい、これがオフィシャルな文章として出てしまうと、いかにも「療養病床のほうが重症度が低いんだよ」という感じにイメージされるので、これは訂正していただきたい。
 一般病床と療養病床の患者の退棟先のデータを見ると、退棟先には差がない。そういうことから考えると、療養病床を多く持つわれわれとしてはホッとしていると言うか、療養病床もしっかりやっているじゃないかという感覚がある。
 一般病床と療養病床の疾患別で差が出ているが、これは入棟元として一般病床の患者さんは自院の一般病床、地域包括ケアや回復期リハ以外の所が多く、療養病床では自宅や他院の一般病床が多い。すなわち、療養病床の地域包括ケアでは、サブアキュートの患者の受け入れが増加しているので、そういう変化が起きているのではないかと考えている。
 また、療養病床の地域包括ケアでは平均在院日数がやや長くなっているが、療養病床には他院の一般病床からの転院患者が多い。これらの患者さんは一般病床を退院できなかったから療養病床の地域包括ケアに来られているわけで、そういう患者さんを引き受けた結果として、入院が長引いてしまったと考える。
 全体的に見ると、一般病床から来られる場合と療養病床から来られる場合で、多少、機能的にすみ分けがされているとは思うが、療養病床からの地域包括ケアは十分な機能を果たしていると私は考えている。

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■ FIM利得について
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 入棟時FIMと退院時FIMの経年変化がかなり気になっている。ほかの委員がおっしゃるように、さらに詳細に調べていただきたいと思う。
 現在あるデータだけを見ると、2016年度改定でFIM利得に基づくアウトカム評価が導入され、2018年度改定で実績指数が引き上げられて以降、入棟時FIMが一段ずつと言うか、階段状に下がっているようにも見て取れる状態である。
 ちょっと言い過ぎかもしれないが、「恣意的」というのか、入棟時FIMを低く見積もりがちになったのか。
 あるいは、整形外科疾患が増えてきているからなのか。整形外科疾患のほうがFIM利得を高く得やすいということもあるので、多少、両者が絡んでいるのかなとも思う。
 FIMはご存知のように運動では13項目・7段階に分けられている。特に、介助の程度を25%、50%、75%で区切っており、感覚的に、例えば「ちょっと厳しい」とか「半分ぐらいかな」というのを「ちょっと多めに」という感じにすると、簡単に1点上がってしまう。そのような項目がいくつもあるので、見事に数点上がってしまうようなことが実際にあり、そういう点で言うと、感覚的な部分がかなり多い。
 一方、Barthel Index も使われている。Barthel Index は10項目で、できるかできないか、介助が要るかという、3段階しか分かれていない関係上、割と、そういう恣意的な部分が入りにくいということもある。
 そういう点から考えると、FIM利得と言うか、FIMだけに偏った評価法というのが今後も妥当なのかどうかというのも考えていかなければならないという気がしている。日慢協としては、BIというのも一回考えてみてはどうか、という提案をしている。
 先ほど、回復期リハビリ病棟の対象疾患の関係で、心臓リハビリについて意見があった。回復期リハビリ病棟に心疾患の患者が入ってくると、一番最初、つまりベースとなるFIMが高い。そうすると、「重症度で絶対に取れない」という方が非常に増えてしまって、実績部分のところでカウントされない方がどんどん増えていく。呼吸器リハも同様である。心臓リハや呼吸器リハを要する患者が回復期リハビリ病棟に入院されると実績指数が取れない。リスクを背負うことになる。
 そう考えると、いつの時期かは分からないが、FIM利得一辺倒に偏った実績評価というのは考え直さなければならないのではないかと個人的には思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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