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「無理やり死亡退院ではない」 ── 療養病棟の調査結果に池端副会長

Posted By araihiro On 2021年6月24日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 療養病棟に入院している患者の半数以上が「死亡退院」であることが問題視された厚生労働省の会合で日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、病院での入院医療が必要なケースを具体的に挙げた上で「在宅で看取れる人を療養病床で無理やり預かって、どんどん死亡退院を出しているのではない」と理解を求めた。

 令和4年度の診療報酬改定に向け厚生労働省は6月23日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬基本問題小委員会に、入院医療に関する令和2年度の調査結果を示し、その後に開かれた総会に報告した。

 基本問題小委員会では、令和2年度調査の結果について支払側の委員が10分近く発言。その意見に対し日本医師会の委員が反論する場面もあった。
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経過措置を置く必要があったのか

 基本問題小委員会で支払側の委員は、急性期医療から回復期、慢性期まで入院医療全般についてコメント。急性期医療については、「重症度、医療・看護必要度の新たな測定方法(必要度Ⅱ)のほうが重症患者の割合が高く出た結果に着目し、「どのような要因でこういうトレンドになったのか、精緻な分析が必要」と求めた。

 地域包括ケア病棟については、「まだ自院の急性期からの転棟が圧倒的に多いのが気になる」とし、「在宅医療の後方支援の割合を高めていく必要がある。次回改定ではサブアキュートをどうしていくか、実績要件を検討していく必要がある」と指摘した。

 回復期リハビリテーション病棟については、令和2年度改定後に「実績指数が高くなっている」とし、「経過措置を置く必要があったのかと改めて疑問を呈す」と述べた。

 コロナの影響については、「受入あり」「なし」によって「決定的な相違は見出せない」としながらも、重症患者の該当割合について「受入ありの医療機関のばらつきが大きい」とし、「受入規模によって、そのばらつきが出たのではないか」との認識を示した。
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経過措置の延長は適切な判断だった

 支払側の意見に対し、日本医師会の委員はまずコロナの影響について反論。「受入あり・なしの両方とも、コロナによって平時の医療を制限した影響がある。患者の受療行動の変化による影響も受けている」とし、「今回の調査結果だけで断定的な判断をするのは早計」と述べた。

 重症患者の該当割合に関する測定方法ⅠとⅡの違いについては、別のデータを示した上で「必要度Ⅱのほうが高い割合になっているということは必ずしも一概には言えないのではないか」と疑問を呈した。

 回復期リハの経過措置の延長については、「コロナ受入あり・なしの医療機関の両方で改定後の実績指数を満たせない医療機関が一定程度あった」とし、「非常時において医療機関を追い込むようなことはすべきではない。経過措置を延長したことは中医協として適切な判断だった」と反論した。
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集計に誤りがあったので差し替えた

 この日の基本問題小委員会には、中医協の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)が出席し、6月16日の同分科会で取りまとめた調査結果を示した。

 158ページに及ぶ資料は分科会に示した内容とほぼ同じだが、地域包括ケア病棟に自宅等から入棟した患者割合に関する89ページは修正されている。

 尾形分科会長は「集計に誤りがあったので改めて確認を行い、正しいグラフに差し替えた」と説明した。

 16日の分科会には、当会から井川誠一郎常任理事が委員として参加し、「89ページの数字を改定前の調査結果と比べると全く違う。これは何か集計間違いではないか」と指摘していた。
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【修正前】

スライド1_修正前のP89_【入-1-1】令和2年度調査結果(速報その2)_2021年6月16日の入院分科会

               2021年6月16日の入院分科会資料「入-1-1」P89
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【修正後】

スライド2_修正後のP89_【診-1】令和2年度調査結果(速報その2)_2021年6月23日の中医協基本問題小委員会

               2021年6月23日の基本問題小委員会資料「診-1」P89
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療養病棟、死亡退院が最も多く55.0%

 令和2年度の調査結果について尾形分科会長は「調査結果の概要は非常に大部となるので、要点について、かいつまんで、ご報告申し上げる」とし、主な項目のタイトルと結果を簡単に説明した。

 全158ページの中で尾形分科会長が取り上げたのは約30ページで、P4、7、8、10、14、17~19、21、22、27~32、71、76、82、84~86、88~91、95、96、99、122、124、128など。

 このうち療養病棟については、入棟から退棟までの患者の流れを示した128ページを挙げ、「療養病棟の入棟元を見ると、他院の一般病床が最も多く44.5%であり、退棟先を見ると、死亡退院が最も多く55.0%という結果であった」と説明した。
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スライド3_P128_【診-1】令和2年度調査結果(速報その2)_2021年6月23日の中医協基本問題小委員会

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在宅や施設に行けない患者の「死亡退院」

 質疑で、支払側委員は入院医療全般にわたりコメントする中で療養病棟について「医療区分3・2・1の患者像がどんな患者像なのかを深掘りしていく必要がある」と述べた。

 続けて、療養病棟の退棟先に関する結果について「死亡退院が半数を超えているのが非常に気になった」とし、「これからの医療というのは病院完結型から地域完結型へ推進していくことが求められている」との見解を提示。「今後、議論していく必要があるのではないか」と提案した。

 委員の意見を受け、厚労省保険局医療課の井内努課長は「より詳細なデータ分析については、今後、中医協で次期改定を目指して議論を行っていただく中で個別に相談しながら進めたい」と述べ、続いて開かれた総会に報告した。

 総会に診療側委員として出席した池端幸彦副会長は「先ほどの基本問題小委員会で意見が出たので、療養病床を中心とした協会の立場として、お話しさせていただく」と切り出し、病院での入院医療が必要な患者がいる状況を説明。「在宅にも施設にも行けない患者への医療を提供しながら、それでもなんとか治療している中での死亡退院である」と理解を求めた。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

 今回は報告をお受けするだけかと思うが、先ほどの基本問題小委員会で意見が出たので追加の意見を言わせていただく。療養病床の死亡退院が多いことに対する指摘があった。療養病床を中心とした協会の立場として、お話しさせていただく。
 以前から、療養病床の死亡退院に対して問題視される委員の先生方もいらっしゃったかと思うが、現状の療養病床、特に医療区分2・3が8割以上という療養病床の入院基本料1で考えると、在宅や施設等で看取れる死亡退院ではない。この療養病床での死亡退院は、病院での何らかの入院医療が必ず必要な患者の死亡退院である。
 例えば、がんの末期、透析を行っている方、あるいは、もう食事がいろんな形態でとれなくて胃瘻もできず、中心静脈等でやっていかなければいけない患者。また、酸素が必要で呼吸不全を起こしている患者。
 こういう方々が急性期病院から療養病床に移り、在宅にも施設にも行けない。医療区分2・3の範囲に入っている患者への医療を提供しながら、それでもなんとか治療している中で、最後に残念ながら看取るということになり、死亡退院される。
 一般の施設とか在宅で看取れる人を療養病床で無理やり預かって、どんどん死亡退院を出しているということでは決してないということだけは、ご理解いただきたいと思う。
 これは、いろいろな資料の出し方があると思うので、また、議論の時に詳しく説明させていただきたいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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