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平成24年診療報酬・介護報酬の改定率について

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年12月23日 @ 3:08 PM In 協会の活動等 | No Comments

 平成23年12月22日に、厚生労働省より平成24年診療報酬・介護報酬の改定率が発表されました。

1.診療報酬改定 

 ①診療報酬改定(本体) 改定率 +1.38%
    医科 +1.55%
    歯科 +1,70%
    調剤 +0.46%
 ②薬価改定等 改定率 ▲1.38%
    薬価改定率 ▲1.26%(薬価ベース ▲6.00%)
    材料改定率 ▲0.12%

 *診療報酬本体と薬価改定等を併せた全体の改定率は、+0.00%

2.介護報酬改定 改定率 +1.2%

    在宅 +1.0%
    施設 +0.2%

 今回の平成24年改定は、東日本大震災への早急な対応が迫られている中で行われるため、当初は同時改定を実施することを疑問視する意見も出されていました。しかし、医療、介護をより適正に評価する見直しは先延ばしするべきではなく、日本全体が厳しい状況の中にあっても改定率がアップされたことは、医療・介護についての概ね妥当な評価がなされたと思われます。

 当日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、平成24年4月の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、中医協・慢性期入院医慮の包括評価調査分科会、社会保障審議会の医療保険部会および介護給付費分科会、医療・介護サービスの連携に関する懇談会、その他各所で開催される多数のシンポジウム等に出席し、慢性期医療の必要性と重要性について述べてまいりました。

 医療は、大きく分類すれば、急性期、回復期、慢性期という3つのステージに分かれます。慢性期医療に該当する病床には、制度上の病床区分として、医療保険で対応しているものには、医療療養病床、回復期リハ病棟、特殊疾患病棟、障害者施設等、緩和ケア病棟、認知症疾患治療病棟、一般病床の13:1および15:1があります。そして介護保険には、介護療養病床(介護療養型医療施設)、認知症病棟があります。さらに、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設といった介護保険施設や、サービス付高齢者住宅などの住宅・居住系施設、在宅療養の場においても、慢性期医療は切り離せません。

 慢性期医療の中で、最も大きな病床数を占める医療療養病床には、診療報酬の算定基準として、「医療区分」が平成18年7月に導入されました。患者の状態によって、最重度が区分3、重度が区分2、それ以外が区分1という、大雑把な評価です。区分3と区分2のそれぞれに状態像や処置の項目が決められ、患者の状態がそのどれかの項目に当てはまれば、その区分が算定できるというものです。

 この医療区分には、いろいろな問題があります。例えば、区分2の項目がいくつ重なっても区分2のままです。該当項目が重なれば、患者の状態はより重度となり、医療者側としても、それに対応する時間と費用がより多く必要になってきます。また、区分3と2以外は、すべて区分1ということになっていますから、ある患者の病名が、糖尿病、高血圧症、ネフローゼ症候群、狭心症、脳梗塞、腰部脊柱管狭窄症、というように複数であっても、区分3と2の項目は一つも入っていないため、この患者の医療区分は1となります。このように、医療区分1の患者の状態は、すべてが決して軽いわけではありません。

 そのため、今回の改定には導入されませんでしたが、当会では、平成22年に「慢性期病態別診療報酬(試案)」を作成いたしました。この試案は、患者の病態別に区分を決めたもので、患者の状態像や現場の実態をより反映しやすい評価となっています。

 また、これまでの医療療養病床の報酬改定にあたっては、タイムスタディ調査に重点が置かれてきた経緯があります。しかし、現場の実態とタイムスタディの結果がどこまで噛み合っているのかは疑問で、重症患者や認知症患者の医療とケアを、タイムスタディのデータとして把握するのは難しいといえます。必要とされる医療、できていない医療もタイムスタディでは表せません。タイムスタディ調査の手法で医療の評価をすることには限界があるため、今後、医療療養病床の評価を見直す際には、その評価方法の見直しについての考慮が必要です。

 さらに、現場においては、スタッフが患者さんの直接的なケアに携わりたくとも、記録ばかりに時間がとられ、管理業務が増える一方となっています。医療療養病床で毎日記入しなければならない医療区分評価表のチェック、「QI(Quality Indicator)」(じょく瘡、尿路感染症、身体抑制の3項目)の毎月の提出などに現場スタッフは追われています。

 こういった記録は、とても大事なことではありますが、あまりにも過剰になると現場を繁雑にするだけで、せっかく記録をとっても、医療の質の評価・向上に結び付いているとは言えなくなります。医療療養病床ではない他の診療科や、一般病床の特定除外対象患者の記録などは、もっと現場の裁量に任されており、場合によっては指定通りに記録されていなくてもこれまで見過ごされてきた事実も露顕されたところです。行政は、現場の意見にもっと耳を傾けていただき、残さなければならない記録はどれかを見極め、形式ばかりの、ただ枠に当てはめようとする記録は不必要ではないでしょうか。その労力を患者に振り向けるべきです。

 慢性期医療の中で、医療療養病床の次に大きな比重を占める介護療養病床は、平成24年で廃止と言われていた病床ですが、その廃止はさらに6年延長されました。厚生労働省が平成22年に行った「医療施設・介護施設利用者に関する横断調査」の結果からは、経鼻胃管・胃ろうの患者の割合は、介護療養病床が他のどの施設よりも高い割合(36.8%)を示しています。たんの吸引を必要とする患者も18.3%と高い割合になっています。

 すなわち、介護療養病床には、要介護度、認知症度が高く、さらに医療が必要な患者が入院されているということです。もともと介護療養病床の廃止が浮上したのは、介護療養病床の入院患者にはそれほどの医療は必要ないだろうと思われていたことが大きな要因ですが、最近の調査データからは、介護療養病床の患者の重症化が明らかとなり、介護療養病床が廃止となれば患者の行き先がなくなることがわかりました。

 介護療養病床廃止後の転換先として、国は、介護療養型老人保健施設を創設しました。しかし、現在、全国に約100か所あるこの施設の退所者の約半数は医療機関に移っています。転換先として目論まれていた介護療養型老人保健施設の入所者にも、やはり医療の手が必要であることが明らかになってまいりました。

 医療の効率化はこれからも進めていかなければなりません。しかし、効率化イコール病床削減という単純なものではありません。超高齢社会となった日本では、2025年には年間160万人が死亡すると予測されています。現在の1.5倍です。これらの人々のほとんどは、死亡前の数日から数年間にかけて、なんらかの医療を必要とすることになります。急性期医療に掛かるのは、ほんの一時であり、慢性期医療が中心となって地域での生活を支えていかなければなりません。重度慢性期、回復期、在宅医療の支援、認知症の合併症治療、がん患者支援、ターミナル医療など、慢性期医療を提供しなければならない場所は、これから先増えることはあっても、減らすことは考えられません。

 「急性期」「回復期」「慢性期」という、それぞれの機能に応じて、患者の病態毎に、適切な場所で、適切な対応をしていく仕組みに作り替えていくことが、医療の効率化を図るための近道であり、国民のニーズに応えることではないでしょうか。2025年までに、あと数回の報酬改定が行われますので、医療・介護全体を見据えた良質な慢性期医療の確立に向けて、日本慢性期医療協会として、これからも提言を発信していきたいと思います。
 



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