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「今回の介護報酬改定の大枠」を提示 ── 3月11日の定例会見で

Posted By araihiro On 2021年3月12日 @ 11:17 AM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 日本慢性期医療協会は3月11日の定例記者会見で「今回の介護報酬改定の大枠」を示し、自立支援の促進やリハビリ、介護医療院など10項目を挙げた。会見で武久洋三会長は「介護分野に医療的な視点・要素がどんどん取り入れられている」と評価した。

 この日の会見は、前回と同様にWEB会議システムを用いて開かれ、武久会長のほか、矢野諭副会長、橋本康子副会長、鈴木龍太常任理事が参加した。
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2021年3月11日の定例会見
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 今回の主なテーマは、①令和3年度介護報酬改定を受けて日本慢性期医療協会としてのスタンス、②ポストコロナ患者の受け入れに関するアンケート結果について──の2項目。

 このうち①では、新たな科学的介護情報システムである「LIFE」(Long-term care Information system For Evidence)に期待を寄せ、「厚労省の担当課が『介護保険制度全体を変えてやるんだ』という相当な想いを込めて頑張ったのではないか」と評価した。

 ②では、今年2月に会員病院を対象に実施した緊急アンケートの結果を公表。コロナ発症後に専門病床などでの入院を経たポストコロナ患者の受け入れ状況、患者のADLの変化などを示した。

 この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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02_2021年3月11日の定例会見資料

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現場は大変困っている

[矢野諭副会長]
 ただいまより、令和3年3月の定例記者会見を開催する。本日は武久洋三会長、介護保険部会委員の橋本康子副会長、日本介護医療院協会会長の鈴木龍太常任理事にご出席いただいている。

 本日のテーマは、令和3年度介護報酬改定とポストコロナ患者の受け入れである。武久会長にご説明をお願いしたい。
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[武久洋三会長]
 はや3月になり、2020年度も終わりに近づいた。早く皆さまと直接お目にかかって記者会見ができたらいいと思っていたが、この様子ではもう少し長引きそうだ。

 コロナのワクチンが行き渡るまで、WEBでなければ開催はなかなか難しいと思う。ワクチンが予定どおりに入ってきていないので現場は大変困っている。

 今日は3月11日。10年前、私は東京にいた。大きな地震でびっくりした。現地の方々は本当に大変な思いをしたと思う。被災地には当会の会員病院もあったが、比較的早期に回復して現在は順調に運営している。

 さて、本日の記者会見は大きく分けて2つのテーマについて当会の見解を述べたい。まず1つは、昨年から1年間の議論を経て今年1月18日に答申が出された介護報酬改定について、日慢協としてのスタンスを述べたい。

 そして2番目のテーマは、ポストコロナ患者の受け入れについて。日慢協の会員病院では、昨年からコロナの患者を多く引き受けている。昨年末に、特にポストコロナの患者を積極的に引き受けるという方針を進めたところ、非常に大きな反響があったので、その経過報告をさせていただきたい。
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自立支援の促進、厚労省は非常に頑張った

 まず、3ページをご覧いただきたい。今回の介護報酬改定の大枠を示した。この10項目で足りるかどうかは分からないが、特に注目している項目を挙げさせていただいた。
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03_2021年3月11日の定例会見資料

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 まず、①基本報酬の0.7%の引き上げ。今回の改定では、厳しい状況の中で若干のプラスとなった。

 次に、②看護師の関与への評価、③訪問看護におけるリハビリ部分の制限について。訪問看護ステーションでリハビリの割合が多いことが問題になった。厚労省老健局が日本看護協会とも話し合いをしたと思う。

 本来の訪問看護を主体とし、訪問リハビリは従として関与していくことが検討され、看護職員の割合を60%とするような要件なども検討されたが、今改定では見送られた。一方、理学療法士等による訪問看護提供の単位数は引き下げられた。

 ④自立支援の促進については、厚労省の老人保健課は非常に頑張ったと思う。
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ケアマネに対していろいろな注文

 ⑤介護医療院への移行促進については、厚労省の調査によれば約半分がまだ移行するかどうかを決めかねている状況にあるので、もっと迅速に移行していただくような方針も盛り込まれた。

 「移行定着支援加算」の93単位が当初の予定どおり今月末で廃止されることになったが、新たに「長期療養生活移行加算」として60単位が継続されることはありがたいと思っている。

 ⑥ICTの導入評価も重要な改革である。介護現場では介護職員の不足が深刻化しており、ICTでそうした人材不足をカバーできるようにするための方策が盛り込まれた。ICTを導入することによって介護スタッフの数を一定程度まで減らすことができるという改革もしていただいた。

 ⑦居宅介護支援への評価と注文について。ケアマネジャーに対して厚労省からいろいろな注文が付いている。その注文どおりに行っていただければ評価するという内容になっている。
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いつでもどこでもリハビリテーション

 ⑧看取りへの評価について。もう年寄りだから、ご飯が食べられなくなったからという理由で看取りだということではない。

 がんや神経難病の患者に対する看取りが主体であると思うが、老衰という方もいらっしゃる。そういう方々の場合にはお看取りをさせていただくということで期間が少し延びた。

 ⑨利用者データ提出の促進については、皆さんもご承知のとおり、CHASEやVISITから「LIFE」になる。

 ⑩リハビリテーションマネジメントの評価について。医療から介護へどんどんシフトしてきて、いつでもどこでもリハビリテーション、生涯リハビリテーションという方向性で進んでいる。従来のように回復期リハビリテーション病棟だけがリハビリテーションをする場ではないことは今や明らかになっている。
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介護分野に医療的な視点・要素を

 医療分野ではエビデンス(根拠、証拠)に基づく治療が求められ、治療すれば良くなるのは当たり前である。一方、介護分野では介護サービスを受けて良くなることを望まれていない場合がある。

 例えば病院では、改善すれば患者も家族もスタッフも喜ぶが、介護では要介護度が軽くなると受けることができるサービスが少なくなる。このあたりがやや微妙なところで、こういう状況がしばらく続いてきた。

 そこで、今回の「LIFE」は、こうした状況を理論的に何とか改善できないかと知恵を絞っていただいた結果であると評価している。

 介護分野では、施設や事業所によって、どんな介護サービスを提供しているか、提供したサービスでどのような効果が出たのかを評価するためのデータがなかった。

 そこで今後は、「LIFE」をはじめとするビッグデータを活用し、エビデンスに基づく質の高い介護ケアの提供を目指す。すなわち、介護分野に医療的な視点・要素がどんどん取り入れられている。
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要介護認定制度が大きく見直される

 厚労省が長い年月をかけてデータベースを構築し、ようやく全事業所・施設でデータが収集される。そのようなデータから分析された科学的根拠を示せば、要介護者も家族も国民も「なるほど」と納得せざるを得ないだろう。

 やはり、「何となく」ということではダメだ。今回は非常に大きな改革である。厚労省の担当課が「介護保険制度全体を変えてやるんだ」という相当な想いを込めて頑張ったのではないか。

 「LIFE」では、非常に多くのデータが収集される。6ページをご覧いただきたい。
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06_2021年3月11日の定例会見資料

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 1941項目をインプットする仕組みで、このうち必須項目は955項目もある。非常に細かい。毎月、こうしたデータを積み重ねていくと、「この施設は要介護度が全く改善していない」とか、「どんどん良くなっている施設はここだ」ということまで分かってしまうのではないか。

 「LIFE」が実用化されるまで、まず最初の3年間はデータを徹底的に集めると思う。そして、3年後の次期改定でどうなるか。

 「LIFE」が実用化されるということは、要介護度の改善という方向にシフトしていく。3年後には要介護認定の項目が変わるかもしれない。要介護認定制度が大きく見直されて、要介護認定の基本調査なども大きく変わるかもしれない。このような可能性も考えておかなければいけない。
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09_2021年3月11日の定例会見資料

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コロナ受け入れで地域医療を下支え

 続いて、本日2番目のテーマである「ポストコロナ患者の受け入れに関するアンケート結果」について、ご説明する。

 当会の会員病院の中には、昨年度からコロナの急性期患者を受け入れていた病院もある。その後、日慢協としてはポストコロナの患者を集中的にお引き受けしようという方針を公表し、一生懸命、地域医療を下支えする役割を果たしている。

 そうした状況を把握するために、今年2月にアンケート調査を実施した。対象は当会の会員998病院、うち回答は64病院で、患者数は460人。

 この64病院は、ポストコロナ患者の受入れをしているほか、自院もしくは併設の介護施設等でコロナ患者が発生し、コロナ治療専門病床のひっ迫などの理由により自院でコロナ患者を治療した病院も含む。

 今年の2月までのデータであるのでまだ十分ではないが、速報としてお伝えしたい。
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アンケート結果の概要について

 調査結果の詳細を説明する前に、アンケート結果の概要を説明したい。

 まず、コロナを治療した病院は、新型コロナ治療病院が61.5%、自院が23.3%であった。

 ポストコロナ患者の受け入れは昨年5月から少しずつ始まっているが、受け入れ患者の53.8%は2021年に入ってからの受け入れである。

 ポストコロナの受け入れ病棟は、回復期リハが42.4%、地域包括ケアが15.4%、療養病棟が11.3%だった。

 新型コロナ発症前の居所は、自宅が28%、自院が37.8%。ポストコロナ受け入れ後の転帰は、継続入院中が50.4%、自宅が24.9%だった。これは入院してからまだ期間があまり経過していないという事情もある。

 ADLについて、コロナ発症前は自立29.1%、ポストコロナとして受け入れたときは自立が7.7%に下がっている。日慢協の病院から退院できたポストコロナ患者は自立が40.1%である。

 ポストコロナとして入院した時のアルブミン値を新型コロナを治療した病院ごとに比較すると、新型コロナ治療病院でコロナ治療をされた患者のアルブミン値の平均は3.3、自院でコロナ治療をした患者の平均は3.2、他院でコロナ治療をした患者の平均は2.8と最も低くなっている。
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介助が必要な人が多く入院

 では、緊急アンケートの集計結果について、個別に説明したい。まず、新型コロナ発症前の状況について。

 平均年齢は81.1歳。最高は101歳で、最低は40歳だった。年齢分布を見ると、80歳以上90歳未満が最も多く38.5%。続いて、70歳以上80歳未満が24.6%、90歳以上100歳未満が22.4%となっている。
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01_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 新型コロナ発症前の居所は自院が最も多く37.8%、次いで自宅28.0%、他院13.5%、介護保険施設11.7%、居住系施設7.8%だった。
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02_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 新型コロナ発症前のADLは一部介助が最も多く40.0%、続いて全介助が30.9%、自立は29.1%となっている。
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03_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 新型コロナ発症前の居所とADLについて。自宅の129人のうち自立が91人、一部介助が31人、全介助が7人であった。

 自院の場合には、174人のうち一部介助が88人、全介助が73人、自立が13人だった。当然のことながら介助が必要な人が多く入院されている。

 他院の場合には62人のうち全介助が27人、一部介助が22人、自立が13人となっている。介護保険施設では、54人のうち全介助が26人、一部介助が23人、自立が5人だった。

 全体の460人のうち一部介助が184人、全介助が142人となっており、介助を必要とする人は自院、他院、介護保険施設で多かった。
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04_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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コロナ専用病棟の入院期間は長い

 新型コロナ治療施設はどうか。ここで「新型コロナ治療病院(施設)」とは、主にコロナ感染専用病棟を持つ病院をいう。「他院」はそれ以外の病院である。

 この新型コロナ治療病院で治療したのは460人のうち283人で61.5%を占めている。 発症前の居所、つまり会員病院で治療した人は107人で、23.3%。他院で治療した人は28人で6.1%、介護保険施設は35人で7.6%となっている。
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05_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 コロナの治療等に関する入院日数は、全体の平均が30.5日、最長は302.0日、最短は2.0日だった。「新型コロナ治療病院」の平均は36.0日、最長302.0日、4.0日となっている。

 自院での治療の場合は、入院日数の平均は19.3日、最短が74.0日、最短は2.0日だった。

 見ていただくと分かるように、新型コロナ治療病院の平均が36.0日であるのに対して、自院で治療した人は19.3日となっている。すなわち、いわゆる急性期の新型コロナ治療病院のほうが入院日数の平均が長い。他院で治療した場合には23.4日で、これも新型コロナ治療病院より短い入院期間となっている。
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06_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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退院までの期間は約3週間

 コロナ治療後の状況も調べた。ポストコロナ患者を受け入れた病院は53施設で、患者数は415人。ポストコロナとして受け入れた入院月は、昨年5~7月は少なかったが、10月頃から今年1月にかけて増えている。

 ポストコロナとして受け入れた後、退院した患者の入院日数は、100日以上が12人で7.5%、90日以上100日未満が4人で2.5%、80日以上90日未満が14人で8.8%だった。

 20日以上30日未満は25人で15.7%。10日以上20日未満が22人で13.8%。
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07_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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ポストコロナ患者の多くは回リハに

 ポストコロナ患者が入院した病床は、回復期リハが最も多く176人(42.4%)、次いで地域包括ケア64人(15.4%)、精神病床58人(14.0%)、療養病床47人(11.3%)などの順だった。

 入院時のADLを見ると、全介助が最も多く195人(47.0%)、次いで一部介助188人(45.3%)、自立が32人(7.7%)となっている。

 一方、退院時のADLは、自立63人(40.1%)、一部介助57人(36.3%)、全介助37人(23.6%) だった。

 発症前から退院までのADLを比較すると、発症前は自立が29.1 %、一部介助が40.0%、全介助30.9%。入院時は7.7 %、45.3 %、47.0 %だった。
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08_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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生化学的にも厳しい状況に陥った

 入院時の血液検査値を見ると、尿素窒素の最高は87.5、異常検査値の割合は26.3%だった。アルブミンは正常値が4ぐらいだが異常検査値の割合が63.1%と高くなっている。
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09_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 このように見ると、コロナによって病態だけではなく生化学的にも厳しい状況に陥ったことが分かる。

 入院時のアルブミン値は、この表を見れば分かるように、かなりひどい状況になっている。低栄養は回復するまでにいろいろな症状が表れる。
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10_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 3.5以上4.0未満が27.3%、3.0以上3.5未満が33.4%となっており、3.0未満が約3分の1を占めている。
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11_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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他院や介護施設等に15.5%

 退院患者の転帰については、ポストコロナの受け入れを始めてからまだ2カ月程度ということもあり、入院中が半分ぐらいを占めている。

 自宅に帰られた人は約4分の1で、他院や介護保険施設、居住系施設に移られた人が15.5%という状況である。
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12_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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 コロナ発症前の居所とポストコロナ後の転帰について、その割合を示したのが次の表である。

 アンケート結果の説明は以上である。
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13_ポストコロナアンケート集計結果まとめ

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ポストコロナを積極的に引き受け

 コロナ患者は昨年暮れぐらいから急に増えた。その後の自粛によって良くなってきた。日慢協には慢性期医療の病院が多い。多機能の病院もたくさんあるが、都道府県指定のコロナ治療病院は少ない。

 ポストコロナを引き受けてほしいという厚労省の意向もあり、日慢協としては積極的に引き受ける方針で取り組み、その2カ月ぐらいのデータが今回の調査結果である。

 現段階ではまだはっきりしたことは申し上げられないが、速報として皆さま方にポストコロナ受入れの現状をお知らせしたいと考え、今回の記者会見で発表させていただいた。私からの説明は以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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