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「不妊治療は玉石混淆」 ── 中医協総会で池端副会長

Posted By araihiro On 2021年1月14日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 不妊治療の保険適用に向けた診療報酬上の議論を開始した1月13日の中医協総会で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現状、不妊治療は玉石混淆と言わざるを得ない」との認識を示した上で、専門家の調査を踏まえた慎重な議論を求めた。厚労省の担当者は「国民の正しい理解の推進が非常に重要な政策課題である」と述べた。

 厚生労働省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第472回会合をオンライン形式で開催し、当会からは診療側委員として池端副会長が出席した。

 この日の主な議題は、①最適使用推進ガイドライン、②不妊治療の保険適用に向けた工程表、③薬価専門部会からの報告(見直し案)、④その他(指導・監査の状況、歯科用貴金属価格の一部訂正)──の4項目。

 このうち、②の不妊治療は「報告事項」という扱いだったが、約20分間に及ぶ質疑があった。そのほかの議題では特に議論がなかった。
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「保険外併用の仕組みの手続き」を使う

 不妊治療について、政府方針では「令和4年度当初から保険適用を実施」としているが、保険適用から外れる不妊治療の取扱いをめぐって議論がある。

 この日の会合で厚労省の担当者はこれまでの主な意見を紹介。「保険適用の対象とならない不妊治療が混合診療に当たってしまうおそれがあることについて整理する必要があるなどの意見があった」と伝えた。

 その上で、今後のスケジュールについて説明し、「(工程表に)『保険外併用の仕組みの手続き』とあるが、そうした枠組みを使った不妊治療の保険適用への円滑な導入を進めていく必要があるだろう」と述べた。
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抜粋03_【総-2】不妊治療の保険適用に向けた工程表について_20210113中医協総会

            2020年1月13日の総会資料「総-2」P3より抜粋
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保険適用外が「円滑に実施されるように」

 質疑で、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「保険適用外となった治療法の受け皿となる保険外併用での取扱いも含めて、その仕組みをしっかりと議論していくことが必要」との考えを示した上で、「この点について、どう考えていくのか、事務局にしっかりと回答をお願いしたい」と見解を求めた。

 厚労省・医療技術評価推進室の岡田就将室長は「現在、実施されている不妊治療は非常に多岐で、さまざまな方法によるものと考えている」との認識を示した。

 その上で、岡田室長は「保険適用となるもの、また、それから外れるものが円滑に実施されるように保険外併用の仕組みも使いながら、中医協での議論と連携を取りながら、議論を進めていきたい」と述べた。
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「現段階で具体的に申し上げるのは難しい」

 支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「さまざまな医療機関が保険適用外の不妊治療を行っていると思うが、安全性・有効性のデータは蓄積されているのか」と指摘し、「エビデンスに基づいた議論が必要だ」と述べた。

 幸野委員はまた、「工程表で『保険外併用の仕組みの手続き』も同時並行して検討することになっている」と指摘し、「この不妊治療の保険適用にあたっては、『保険外併用の仕組み』が前提となっているのか」と質問した。

 岡田室長は「現段階で具体的なことを申し上げることは難しい状況」とした上で、「多岐にわたる治療が行われている状況もあるので、保険外併用の仕組みを使うことも含めて円滑に保険適用ができるように検討していきたい」と答えた。
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不妊治療等の関連施策は「パッケージ」

 こうした議論を踏まえ池端副会長は「不妊治療の保険適用に向けた議論が進むと、子どもを望まない人やトランスジェンダーの方々に対する偏見などが生まれるような議論につながる可能性もゼロではない」と指摘し、今後の検討について見解を求めた。

 厚労省子ども家庭局母子保健課の小林秀幸課長は、不妊治療等の関連施策が「パッケージ」として進められていることを紹介した上で、「国民の正しい理解の推進」など必要な情報を「しっかり発信していきたい」との意向を示した。
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医療経済実態調査をめぐる議論も

 
 この日の中医協は、①薬価専門部会、②調査実施小委員会、③総会──が開かれた。総会に先立つ小委員会では、次期診療報酬改定に向けた医療経済実態調査をめぐる議論があった。

 厚労省の担当者は「令和2年度の損益状況は新型コロナウイルス感染症による影響を大きく受けている」とした上で、「単純に令和2年度の損益状況を勘案しても、今年末の次期改定における議論の中で、足元の経営実態を把握することは難しい」との認識を示した。

 その上で、今後の対応案として「新型コロナウイルス感染症による影響が比較的少ないと思われる月単位の損益の状況についても可能な範囲で調査してはどうか」と提案。具体的には「令和元年6月」「令和2年6月」「令和3年6月」の単月調査を挙げたが、診療側から慎重論が出た。
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「バイアスがかかる可能性もある」

 今村聡委員(日本医師会副会長)は「単月調査は現場の負担を非常に増やし、回答率がさらに悪くなる」と懸念。「データはあっても、その解釈自体がきちんとできるのかという問題もある」と指摘した。

 池端副会長も単月調査に伴う負担増などを挙げ、「それでも回答できるような医療機関は非常に安定している所であり、バイアスがかかる可能性もある」と述べた。

 同日の総会、調査実施小委員会における池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 不妊治療の保険適用について
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 調査については、専門家も含めてしっかりと実施していただきたい。現状、不妊治療は玉石混淆と言わざるを得ない面があると思う。
 医療保険部会でも発言させていただいたが、不妊治療を保険適用するということは、「不妊」というものを保険事故として扱うことを意味する。
 このため、不妊治療の保険適用に向けた議論が進むと、子どもを望まない人やトランスジェンダーの方々に対する偏見などが生まれるような議論につながる可能性もゼロではない。
 従って、中医協の議論といえども慎重に議論していかなければいけないという考え方もあると思う。この点について、事務局のお考えをお聞かせいただきたい。

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【厚労省子ども家庭局母子保健課・小林秀幸課長】
 中医協においては、経済的な観点を中心に議論していただいている。
 今般、政府において不妊治療をパッケージとして施策の推進を図ることを考えている。その一環として、不妊治療や不育症の問題に対する国民の正しい理解の推進が非常に重要な政策課題であるという認識を持っている。
 また、治療を続けても最終的に子どもを持てなかった方々に対しては、例えば里親や特別養子縁組などの選択肢もある。そうした情報もこれからしっかり発信していきたい。
 ピアサポートも進めたい。治療を受けても最終的に子どもを持てなかった、あるいは、つらい経験をした方々に対して、治療を行っている医療者サイドにその支援にも回っていただくなど、そうした相談支援、普及啓発の取組もしっかりと取り組んでいきたいと考えている。

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■ 医療経済実態調査について
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 私も今村委員と同じ意見である。単月調査は大変であり、収入を一定程度まで把握できたとしても、支出を単月にどう按分するかという作業が付いて回ってくると思う。
 今回の提案は、コロナの影響をなるべく除いた前回改定の影響を見たいという意味での単月調査であると理解したが、コロナの状況は地域差が非常に大きいと思う。おそらく今年6月の段階でも地域差の影響はあると思うので、その地域差をどう読み取るかという問題もある。さらに、コロナ患者を受け入れている病院と、そうでない病院との差をどう見るかという問題もある。
 このように細かく要素を分析しながら解釈しなければいけない。そのためには、回答率が相当増えないと、意味のある調査にはならないのではないか。
 一方で、前回調査の非回答理由では「業務多忙」との回答がある。調査内容がさらに複雑になる上に回答率が上がるとは到底、思えない。それでも回答できるような医療機関は非常に安定している所であり、そういう医療機関の回答ばかりになってしまうというバイアスがかかる可能性もある。
 調査すること自体を全面的に反対するものではないが、このように、いろいろな要素を考えると、かなりの負担になってしまって、しかも、得られた調査結果の解釈が難しくなるのではないかと危惧している。これについて、お考えを聞かせていただきたい。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・山田章平室長】
 単月調査で比較したいのは、次期改定について議論している時の医療機関や薬局の経済実態であり、これを推測できるデータを取りたい。
 どんなに新型コロナウイルス感染症の流行が下火となっても、コロナの影響を完全に払拭するのは困難だと理解している。
 ただ、今年末の次期改定の議論時において、コロナウイルスの影響は経営実態には反映されていると思う。
 そのため、コロナの影響を完全には払拭できていないと思われる次期改定時の経営実態に最も近い状況を、単月調査によって把握できるのではないかと考え、単月調査を加えて実施することを提案させていただいた。
 そこで、可能であれば、単月調査をすることの準備を事務局でさせていただきたい。実際に単月調査をするかどうかは、1月、2月に判断する必要はない。準備だけさせていただければ、春過ぎの段階でコロナの状況を見て、実際に調査できるかどうかを改めて、この場でご判断いただくということでも可能である。事務局で「単月調査もできる準備を整えること」について、お諮りしたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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