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老健課の提案、「現場としては支障がない」 ── 運営基準等の議論で武久会長

Posted By araihiro On 2020年12月3日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 「今回の老健課の提案は適切ではないか。現場としては支障がない」。令和3年度介護報酬改定に向けて運営基準等の改正案について審議した厚生労働省の会議で、日本慢性期医療協会の武久洋三会長はこのように述べ、厚労省の提案を了承した。しかし、人員基準の緩和などをめぐり強い反対意見もあったため、一部の事項は継続審議となった。

 厚労省は12月2日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第195回会合をオンライン形式で開催した。武久会長は会場で参加した。
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武久洋三会長と眞鍋馨課長ら_20201201介護給付費分科会
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 この日のテーマは、運営基準に関する事項について。厚労省はこれまでの議論を踏まえ、介護サービスを提供する事業者らが遵守すべき事項の改正案を示し、大筋で了承を得た。
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改正案の目次
              2020年12月2日の介護給付費分科会「資料2」を基に作成
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トップに「感染症対策の強化」

 厚労省が示した「運営基準の改正等の概要(案)」は6項目で構成。そのトップに「感染症や災害への対応力強化」を掲げた。
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運営基準の改正等の概要(案)
              2020年12月2日の介護給付費分科会「資料1」を基に作成
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 改正案の中で、全てのサービスに共通する事項でも「感染症対策の強化」を最上位に挙げている。こうした方針は委員の賛同を得た。

 しかし、1ユニットの定員やグループホームの夜勤職員を緩和する方針について「利用者を増やし、介護職員を減らすという見直しになる。断固反対する」などの意見があった。
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「決定を強行するわけにはいかない」

 約2時間にわたる議論を終え、最後に田中分科会長が発言。「今日はいろいろな議論があったので、分科会長の責任で少しまとめを言っておかなければいけない」と切り出し、夜勤職員と利用定員の緩和策に言及。「今日、決定を強行するわけにはいかないというのが分科会長としての判断」との認識を示した。

 田中分科会長は「今日、提示された運営基準等の多くについては皆さんに良いと言っていただいたが、2つ問題が残った。1つは省令事項のうちのグループホーム夜勤職員で、何人かの委員から懸念が示された」と説明し、「この取扱いについて私と事務局でさらに相談したい」と伝えた。

 ユニット定員の緩和については、「多くの方から懸念が表明された」とし、「安全性や質の確保、実効性の担保の部分について引き続き事務局において対応案をしっかり検討していただき、次回、もう少し議論しなくてはならないと感じた」と述べた。
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ユニットケア、「一体的な運用が可能」

 厚労省は、改正案の中で「個室ユニット型施設の設備・勤務体制の見直し」と題し、「1ユニットの定員を15人を超えない範囲で緩和する」とした。
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P4抜粋【資料2】運営基準等の改正案_2020年12月1日介護給付費分科会_ページ_04

             2020年12月2日の介護給付費分科会「資料2」P4から抜粋
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 また、「認知症グループホームの夜勤職員体制の見直し」として、「夜勤2人以上の配置に緩和することを可能」とした。その際、「一体的な運用が可能な構造」などを求めている。
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P7抜粋【資料2】運営基準等の改正案_2020年12月1日介護給付費分科会_ページ_07

             2020年12月2日の介護給付費分科会「資料2」P7から抜粋
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「もはやユニットケアではない」

 質疑の冒頭、鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は「これでは介護現場はさらに苦しくなるのではないか」と語気を強め、見直しを求めた。

 続いて伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)も「職員の配置を減らす内容ばかり」と苦言を呈し、「一体的な運営が可能な構造」との記載に言及。「一体的に運営することを日常的に行うようなことを許容したら、これはもはやユニットケアではない」などと批判した。

 鎌田委員、伊藤委員の発言と厚労省担当者の答弁は30分以上に及んだ。
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医療と介護ができるだけ密接に

 武久会長は、土地の確保が難しい都市部などでは同一施設内に4人部屋と個室を併存せざるを得ない事情を伝え、「病院の場合は個室も4人部屋も1つの詰所(ナースステーション等)で対応している」と説明した。

 その上で、武久会長は医療と介護の一体的な運用を進める必要性を指摘し、「医療と介護ができるだけ密接になって利用者のために一番良いサービスを提供できること、そして公平でバランスがとれたサービス給付ができることにするのがこの会議の目的であると思うので、今回の提案も評価している」と厚労省案に賛同した。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
 伊藤委員のご発言に関連して述べたい。グループホームや老健、特養など約50施設を運営している事業者としての立場からは、これらの比較が十分にできる。
 例えば、100ベッドの老健でグループホームと同じような割合で夜勤職員を配置すると、11名の夜勤になる。特養のユニット型では、2ユニットに1人の当直である。
 一方、グループホームは9名に対して1名の夜勤者になっている。このグループホームを運営している者の立場として言うと、入所して間もない場合には状態が少し不安定な人もいるが、慣れてくると非常に環境が良く、9名のほとんどの方々は安定した生活をされている。これは現場での話である。
 もちろん、入所してきたばかりで認知症の症状が重い人は老健や特養にもいるので、大規模な施設ほど夜勤者や従業員が多くいるのも事実である。
 しかし、老健や特養、グループホームなどを比較して、これらのバランスを考えてみると、今回の老人保健課の提案は適切ではないかと私は思っているし、現場としては支障がないと思っている。
 私も長く介護給付費分科会の委員を務めさせていただいている。ここには、事業所を運営している人や実際に勤務している人、また学者や外部の人などが参加しており、バランスの取れた方々がそれぞれの立場で発言している。私も長い期間にわたり、そうしたご意見を聴いてきた。介護給付費を公平に分配するという非常に重要な仕事だと思っている。
 介護保険によるサービスというものは、入所・通所・訪問と、大きく分けて3つしかない。介護保険制度が始まった2000年以降、この3つの中に非常に多くの種類の介護サービスが生まれている。
 そうした中で、この介護給付費分科会での議論で重要なことは、どのサービスもバランスよく、平均的に給付されるべきという観点である。
 例えば、先ほど述べたように老健や特養の夜勤者に対して、グループホームが2倍以上のデューティとなっているというのは、あまりにもバランスを欠くのではないか。そのため、老人保健課はそうした細かいことも調整した上で、今回のような提案になっているのではないかと思う。
 私は病院も運営している。この分科会に医療側から参加しておられる東憲太郎先生や江澤和彦先生はお分かりだと思うが、病院では個室と4人部屋とで、別々に詰所になっていることはない。個室も4人部屋も同じ病棟内にある。
 かつて、「できるだけユニットを推進すべき」という考え方もあったが、都市部では支払いがなかなか厳しいということもあって、従来型の4人部屋と個室ユニットが2つ併存している。すなわち、同じ施設内に2つの施設があるため、これらを別々に考えるのはあまりにも効率が悪いというふうに判断されたと思う。病院の場合は個室であろうと4人部屋であろうと、1つの詰所で対応している。
 今、医療の要素が介護の要素に非常に強く関わってきている。医療と介護ができるだけ密接になって、利用者のために一番良いサービスを提供できること、そして公平でバランスがとれたサービス給付ができるということがこの分科会の目的であると思うので、私は今回の提案も評価している。

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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
 20年間の歴史を踏まえたご発言であった。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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