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「現場は逼塞し、大変厳しい」 ── 介護報酬改定の議論で武久会長

Posted By araihiro On 2020年11月10日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は11月9日、令和3年度の介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で「現場は逼塞(ひっそく)しており、大変厳しい」と窮状を伝えた上で、施設の改築などに必要な利益率について厚労省の見解をただした。厚労省の担当者は「何パーセントという数値は有していない」としながらも、「安定的・継続的にサービスを提供していただける報酬を確保していくべき」との認識を示した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第192回会合をオンライン形式で開催し、前回に引き続き次期改定に向けた検討を進めた。

 この日の主なテーマは、①感染症や災害への対応力強化、②介護人材の確保・介護現場の革新、③制度の安定性・持続可能性の確保──の3項目。介護人材を確保しつつ制度の持続性をいかに保つか、その調和を図る方策が焦点となった。
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再投資の費用は当然含まれる

 質疑で武久会長は、介護職が定着しやすい環境の整備や各加算を取得するために相当の費用がかかることを説明。現在のような低い利益率では改築などの再投資に振り向ける資金を蓄積できず、「介護保険制度が継続できない状況になるのではないか」と問題提起した。

 厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「介護サービスを安定的・継続的に提供していくことが重要であり、そのために法律上も介護報酬はサービスの平均的な費用を勘案して定めるとなっている」と説明し、「その費用の中には人材確保から再投資まで、安定的・継続的な費用は当然含まれるべき」との認識を示した。

 その上で、「例えば施設(サービス)から居宅サービスに転換するにしても、それにはやはり体力が要るので、安定的・継続的にサービスを提供することができる費用を事業所にお支払いできるだけの報酬を確保していくべき」と述べた。
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長く働き続ける環境整備を進める

 介護人材の確保に向け、厚労省は同日の会合で「職場環境等要件」を論点の1つに挙げた。

 厚労省は、処遇改善加算の要件の1つである職場環境等要件について、「職場環境の改善の取組みをより実効性が高いものとする観点から、どのような対応が考えられるか」とした上で、今後の方向性について「長く働き続ける環境整備を進める観点」を挙げた。

 その具体策として、「若手の職員の採用や、定着支援に向けた取組」などを例示。これらが「促進されるように見直しを検討してはどうか」と意見を求めた。
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P33抜粋_【資料2】介護人材の確保・介護現場の革新_20201109介護給付費分科会

            2020年11月9日の介護給付費分科会「資料2」P33から抜粋
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確かに若い人が減っている

 この提案に対し、石田路子委員(名古屋学芸大学看護学部教授)は「若手職員の採用はもちろん大いに進めていただきたい」としながらも、「『若手』という文言を入れる必要があるかどうか」と指摘。「若い方の力ももちろん必要ではあるが、多様な年齢層のマンパワーがさまざまな形で活用される分野でもある」とし、「この『若手』という言葉はカットしてもいいのでは」と提案した。

 厚労省の眞鍋課長は「事務局としては、長く働いていただくことを前提に、『若手』というふうに書いたが、この文言を削除することに関しての抵抗はない」と述べた。

 武久会長は「確かに若い人が減っている。いわゆる定年後のような方の採用や、パートの採用等が増えていることも事実」と理解を示した。
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現場の負担は変わらない

 この日、大きな議論になったのはロボットの活用。厚労省は「見守りセンサーを入所者の平均11%に導入した場合、夜勤職員1人当たりの業務時間が5.4%減少した」などの調査結果を示した上で、「夜勤職員配置加算について、見守りセンサーの入所者に占める導入割合の要件を緩和する」などの方針を提案した。

 これに対し、複数の委員から「現場の負担は変わらない」「人員配置基準の緩和ありきではないか」などと慎重な検討を求める意見があった。
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072_【資料2】介護人材の確保・介護現場の革新_20201109介護給付費分科会
073_【資料2】介護人材の確保・介護現場の革新_20201109介護給付費分科会

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直接介護にロボットは対応できない

 ロボットやICTの活用に積極的な意見も多く出た。神奈川県の黒岩祐治知事(全国知事会社会保障常任委員会委員)は「コロナ禍で接触機会の減少や職員の負担軽減に役立つということで、介護事業所にロボットなどの導入の機運が高まっている」と評価し、神奈川県の取組を紹介した。

黒岩知事は「ICT導入の補助金に対して本年度は介護ロボットが約1,800台、ICT導入も約300件の申請があり、補正予算を2回組んで対応している」と伝えた。

 見守りセンターの導入については、「夜間の職員の心身の負担軽減や、ケアのタイミングの的確化が図られた」と評価し、「人員基準の緩和や介護報酬における更なる評価を行うべき」と厚労省案を歓迎した。

 武久会長は「機械化によって人材を少し減らせるのであれば大変ありがたい」としながらも、「直接的な介護にはロボットは対応できず、記録などにもかなりの時間を割かれている」とし、人件費率の上昇が経営を圧迫している現状を説明。再投資などに必要な利益率について、「何かメルクマールのようなものがあるだろうか」と厚労省の見解を求めた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
 人材確保と制度の安定性について述べたい。
 新型コロナウイルスが冬にかけて再び流行の兆しであるため、政府もコロナ対策の費用を優先し、来年度の介護報酬には潤沢な財源の余裕はないのではないか。こうした状況下で頑張っておられる厚労省のご担当に敬意を表する。ただ、現場の者としては非常に厳しい状況であるので、お話しさせていただきたい。
 先ほど、人材確保について「若い人」という文言を外そうという話があった。確かに若い人は減っている。いわゆる定年後の方の採用や、パートの採用等が増えていることも事実である。 
 黒岩知事は県の補助を出てITの活用や介護ロボットの導入を進めているとご説明された。機械化によって人材を少し減らせるのであれば大変ありがたい。そのため、そういう機器を購入する費用に対して補助金を出していただけると大変ありがたいと思う。
 ただ、直接的な介護にはロボットは対応できず、記録などにもかなりの時間が割かれている。また、評判の良い施設というものは、長期間にわたって継続して勤務している職員が非常に多い。離職者が少なく、パートの人もさほど多くない。すなわち、評判の良い施設では人件費率が非常に上がっているというのが現状である。
 しかし、長期勤務している職員がたくさんいるからといって点数が増えるわけでもない。また、最近は加算の項目が非常に多くなっており、加算を取るための人員配置基準などによって、また人件費が上がっていく。長期勤務者が多い所には何らかの対応をしていただけると誠にありがたいと思う次第である。
 先日、令和2年度介護事業経営実態調査結果が公表された。それによると、特養の収支差率は1.6%、老健は2.4 %となっている。半分ぐらいが赤字に相当するようなサービスも当然ある。
 施設の建物は30年後、40年後にまたリニューアルしなければいけない。しかし、1~2%の利益率である。そこで、どのぐらいのパーセントの利益が毎年あれば40年後に新しい施設を建てることができるのか。何か目安があれば、担当課からお示しいただけると大変ありがたい。
 介護保険制度が安定するかどうかは、何十年か後にリニューアルできるかどうか。毎年少しずつ利益を蓄積していって、何十年か後にリニューアルすることが可能でなければ制度は継続できないということになる。
 40年後にはもう要介護者が減って、今の介護施設の3分の2ぐらいでよい、とお考えになっているのであれば毎年の利益率が低くてもいいとは思うが、今、現場は逼塞しており、大変厳しい。
 厚労省の皆さま方も大変厳しい中で、非常にものが言いにくいところではあるが、どのぐらいの利益率があれば40年後に新しい施設を建てることができるのか、何かメルクマールのようなものがあれば、お答えいただけると大変ありがたい。

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〇厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長
 介護サービスを安定的・継続的に提供していくということが重要であり、そのために法律上も介護報酬はサービスの平均的な費用を勘案して定めるとなっている。
 その費用の中には、今おっしゃっていただいたとおり、人材確保から再投資まで、安定的・継続的な費用というのも当然含まれるべきであろうと考えている。
 一方で、私どもは、それが定量的に何パーセントというふうに今、お答えできる数値のようなものは有してはいない。
 3年ごとに制度を全体的に見直し、報酬も全体的に見直していくという中で、介護保険事業計画の行方を見据える。
 例えば、施設から居宅サービスにサービスを転換するにしても、当然、それには体力が要るので、そういう計画を踏まえながら、事業所が安定的・継続的にサービスを提供していただけるような、そういう費用を事業所にお支払いできるだけの報酬を確保していくべきものと認識している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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