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「学校保健データの活用を」 ── 予防・健康づくりの議論で池端副会長

Posted By araihiro On 2020年10月29日 @ 5:17 PM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は10月28日、今後の医療保険制度改革に向けて予防・健康づくりなどを議論した厚生労働省の会議で、生涯を通じた健康づくりを進めるために「学校保健のデータを活用することはかかりつけ医としても非常に有用であるが、その可能性はあるか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「オンライン資格確認等システムに入れられる仕組みを構築すれば、かかりつけ医でも活用できると思っている」と述べた。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第132回会合を一部オンライン形式で開催し、前回に引き続き医療保険制度改革に向けた検討を進めた。

 厚労省は同日の会合に、これまでの意見を踏まえて再整理した資料を示し、委員の意見を聴いた。

 この日の主なテーマは、①予防・健康づくり、育児休業中の保険料免除、③傷病手当金、④任意継続被保険者制度、⑤負担への金融資産等の保有状況の反映の在り方、⑥医療費について保険給付率と患者負担率のバランス等の定期的に見える化──6項目。
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厚労省保険局総務課・須田俊孝課長__2020年10月28日の医療保険部会
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学校保健データで「予防などを推進」

 最初のテーマである「予防・健康づくり」について厚労省は、特定健診のデータを保険者に集約する仕組みについて課題を整理。「保険者が保健事業をより適切かつ有効に実施するためにはこれらの課題を解決する必要がある」と指摘した上で、法制上の対応案などを示した。

 厚労省が課題として挙げたのは主に2点。40歳未満の者について「事業主健診等の結果が事業者等から保険者へ提供される法的仕組みがない」としたほか、「実態として特に中小企業等からの保険者への提供実績が低い」と指摘した。

 質疑では、保険者にデータを集約する仕組みづくりをめぐる議論が中心となった。一方、小児期から成年、高齢者に至る生涯の健康情報を一貫して把握する仕組みの構築に向けた議論はなかった。

 池端副会長は、健診データについて「非常に重要なデータ」としながらも、「途中で切れてしまう」と指摘。学校保健のデータに言及し、「疾病予防などを推進していくために重要」と述べた。
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金融資産の紐付けは非常に難しい

 この日の会合では、個人の金融資産を把握する仕組みについても議論した。厚労省の担当者は「実務的な課題と制度的な課題について、さまざまな指摘を頂いている」とした上で、「全ての預貯金口座に付番がなされている状況ではない」「自治体から金融機関に口座情報を一括で照会する方法がない」などの課題を挙げた。

 その上で、「現時点において金融資産等の保有状況を医療保険の負担に勘案するのは尚早であり、預金口座へのマイナンバー付番の状況を見つつ、引き続き、医療保険制度における負担への反映方法の検討を進めることとしてはどうか」と提案。これに賛同する意見が相次いだ。

 池端副会長は「金融資産の紐付けは非常に難しいと思うし、さらに保険料に反映するとなれば、いろいろなトラブルが発生する」と懸念し、「引き続き検討ということでいい」と了承した。

 池端副会長はこのほか、医療費の見える化に関する議論で「医学部の学生などに、国民からの保険料で医療を提供するのだということを教育するようなシステムも必要ではないか」と提案した。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 予防・健康づくりについて
 私も全体の論点としては大賛成で、ぜひ進めていただきたいと思っている。その上で、質問を2点させていただきたい。
 まず、こういうデータというのは保険者にとって有用であることは大変理解できるが、一方で、かかりつけ医にとってもこういうデータは非常に重要である。特に経時的なデータは、生活習慣病等々をずっと診ていく上で非常に重要なデータである。
 現在のところ、ご本人に健診データなどを持って来ていただき、そのデータを見ることはあるが、途中で切れてしまっていることもある。マイナンバーカードが普及しなければ難しいのかもしれないが、保険者にとってもかかりつけ医にとっても、何らかの形で情報提供を進める必要がある。
 もちろん、ご本人の同意を取ることは必要だが、こうしたデータを提供いただけるようなシステムがあると、かかりつけ医としても非常に有用だと思う。この点について、可能性があるかどうかについての質問が1点。
 もう1つは、少し先の話であるが、最終的には学校保健のデータも疾病予防等々を推進していくために必要であり、早期の対応ということを考えると、学校保健のデータも集めることによって、さらに精緻なものができるのではないか。
 学校保健データとのリンクというのは将来的に可能性があるのかどうか、これもお伺いしたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・山下護課長】
 まず、この予防・健康づくりに関する保険データについて、保険者のほうに法律上集まる仕組みというようにお伝えしたのは、結果的にどうなるかと言うと、保険者側に集まるこのデータについては前回もご説明したとおり、オンライン資格確認等システムに、それぞれの保険者が持っている、例えば加入者のほうにデータを格納することになる。
 そのデータの格納というのは、加入者自身で見ることができるだけではなくて、マイナンバーカードで受診した際、自分の情報を自分が信頼できるお医者さんであり、薬局であり、そういった所に、それぞれ薬剤情報を含めてお見せするというような仕組みになっている。
 今回、提案させていただいた事業主健診の情報は40歳未満の情報を保険者に集めて、そして、これはまた今後の議論ではあるが、保険者の側で、それらのデータをきちんとオンライン資格確認等システムに入れる仕組みを構築することで、今、池端委員が言われたような、かかりつけ医でも活用できるような形になると思っている。
 学校保健のデータについては、学校で受けた健診の結果として、そのデータを診療現場で活用していただくのはとても大事だと思う。
 一方で、オンライン資格確認等システムは保険者と結ばれ、そして医療機関とも結ばれている。この中に学校保健のデータをどのように取り込めるのか。
 それは、例えば保険者にどうやってデータを提供できるのか、というところの問題をクリアしないと、残念ながら、すぐには円滑に活用できるデータではない。
 その一方で、これは文部科学省だが、学校保健のデータを別のデータベースで、ご自身のマイナンバーカードでご自身の学校保健のデータを見ることができるような仕組みを別途構築すると聞いているので、もしそうであれば、同じマイナンバーカードを使って別のデータベースに、これはオンライン資格確認等データベースとは違うデータベースになるのだが、そこからご自身で取り出して、かかりつけのお医者さんに見せるという仕組みに将来的にはなっていくのかなとも思っている。

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■ 金融資産等の保有状況の把握について
 私もご提案の結論でいいと思う。金融資産の紐付けは非常に難しいと思うし、調査するのも難しい。ましてや保険料に反映するとなると、いろんなトラブルが生じることもある。
 金融資産や不動産の有無によって受給できたり、できないということが生じる可能性もある。それが自分で自由になるような金融資産や不動産でない場合、いろんなトラブルになることがある。
 そうしたことも十分把握するためには相当な労力が逆に必要になってしまって、実際的ではないように思うので、「引き続き検討」ということでよいと思う。

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■ 医療費等の見える化について
 この見える化の問題は当部会で私も何度も発言させていただいた。今回、非常に分かりやすくグラフ化したものをお示しいただき、感謝を申し上げる。
 特に、6ページ(医療費の財源構成)、7ページ(制度別の財政の概要)、12ページ(年齢階級別1人当たり医療費、自己負担額及び保険料の比較)の資料は非常に見やすく、ある程度のことが一目瞭然で分かる。
 12ページでは、世代間の自己負担率等も見える化されている。非常に分かりやすい資料なので、ぜひこれをどんどん国民に広めていただきたい。
 特に、これから医療を担う若者への普及啓発も必要である。医学部など医療関係学部の学生さんに対しても、こういうことをしっかり知っていただいた上で、保険の中で自分たちが医療を提供するのだということをしっかり理解していただく。
 そのためにも、若い学生たちにこうした内容をきちんと教育するようなシステムも必要ではないかと思うので、これもあわせてご検討いただければと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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