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過疎地は赤字、「介護保険の公平性を」 ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

Posted By araihiro On 2020年7月21日 @ 11:17 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久会長は7月20日、令和3年度の介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で「小さな法人が過疎地などで厳しい状況でも維持していかなければいけない」と現状を説明した上で、「介護保険の公平性」について見解を求めた。厚労省老健局の大島一博局長は「過疎地や中山間地におけるサービスの課題というのは、法人格を問わず、今後大きな問題となってくる」との認識を示した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第180回会合をオンライン形式で開催し、前回に続いて介護保険の各サービスについて審議した。

 今回の主なテーマは、①通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護、②療養通所介護、③通所リハビリテーション、④短期入所生活介護、⑤短期入所療養介護、⑥福祉用具・住宅改修──の6項目。

 会合では、厚労省の担当者が①~⑥のテーマを資料1~6に分けて説明。それぞれについて論点を示した上で、委員の意見を聴いた。

 各テーマのうち、①と④の論点は同じ記載となっており、「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらずサービスを受けることができるようにする観点」などが挙げられている。
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抜粋【資料1】通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護_ページ_66

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通所介護サービス、「大変厳しい状況」

 質疑で、山口県周防大島町長の椎木巧委員(全国町村会副会長)は「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらずサービスを受けることができるようにする観点」に言及し、「離島や中山間地域においては事業所の安定的な経営と人材を確保できる仕組みの構築が最も重要な課題」と指摘した。

 厚労省の資料によると、通所介護の平成30年度決算における収支差率は3.3%(対前年度比△2.2%)、地域密着型通所介護では2.6%(対前年度比△1.8%)となっている。

 こうした状況を踏まえ椎木委員は「それぞれのサービスの経営状況はいずれも大変厳しい状況」とし、「事業所の経営の安定化による持続可能なサービス提供と、新規参入の促進、あわせて介護人材を確保できる仕組みの構築をお願いしたい」と求めた。
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「赤字だから」とやめるわけにはいかない

 武久会長も椎木委員と同様に「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらずサービスを受けることができるようにする観点」を取り上げ、過疎地での厳しい運営状況を指摘した。

 武久会長は「送迎は遠いので時間が掛かる。人数が少ない。専門職の雇用が厳しい」としながらも、「赤字だからと言って簡単にやめるわけにはいかない。その事業所が無くなってしまえば、そこの住民の介護サービスが全く無くなる。法人の利益にならないからと言って放り出すことはできない」と述べ、「民間事業者が莫大な利益を出しているのであれば、多少とも、こういう過疎地に対する協力もお願いできたらと思う」と述べた。

 その上で武久会長は「小さな法人が過疎地など地方で厳しい状況になりながら維持していかなければいけない介護保険のサービスについて、『都市部や中山間地域等のいかんにかかわらず』という観点が実際にきちんとできているように思えない」とし、「介護保険では医療法人や社会福祉法人以外に民間の中小規模の事業所も参加できる。規模の大きな所もある。過疎地で苦労している法人など多々ある。この介護保険の公平性について局長のご見解を頂きたい」と求めた。
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法人格の違いも踏まえ、どう進めるか

 厚労省老健局の大島一博局長は「介護保険そのものが公的な保険であるので指定事業所の方々には、すべからく、その公的サービスの一翼を担っているという気持ちでサービスを提供していただきたい」とした上で、「サービスの質の向上とともに、サービスをやめてしまうことによる影響も考える必要がある」との見解を示した。

 一方、医療法人や社会福祉法人など、それぞれについて「求められる責任がある」とし、「純粋に株式会社と社会福祉法人の間で同じようなレベルの責務を求めるということはまた難しい面もある」と指摘した。

 大島局長は「過疎地や中山間地におけるサービスの課題は法人格を問わず、今後大きな問題となってくる」とし、「法人格の違いによる要求のレベルの違いも踏まえつつ、全体として、どのように進めていけばいいか、大きな課題として考えていきたい」と述べた。

 質疑応答の模様は、以下のとおり。

〇武久洋三会長
 資料1(通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護)の65ページの論点に、「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらずサービスを受けることができるようにする観点」とある。
 先ほど、椎木委員もご指摘いただいた。私も山口県本郷町小規模多機能型居宅介護を運営しているので、中山間地域における状況は非常によく理解できる。
 何しろ送迎する場所まで遠いので時間が掛かる。人数が少ない。専門職の雇用が厳しい。少々の加算を頂いても赤字。しかし、赤字だからと言って、簡単にやめるわけにはいかないと私は思っている。
 社会福祉法人にせよ医療法人にせよ、そこの医療機関や事業所などが無くなってしまえば、その周辺の住民の介護サービスが全く無くなってしまう。法人の利益にならないからと言って、放り出すことはできないことだと思っている。
 徐々に人口も減っており、要介護者も減ってくる。論点には「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらず」と書いてあるが、この介護保険の現状から、どのように考えるか。
 民間事業者は非常にたくさんの利益を出していると公表されている。都市部等の効率の良い所を選んで運営しているとも聞いている。大きな利益を出しているのであれば、多少とも、こういう過疎地に対してのご協力もお願いできたらとは思う。
 われわれ小さな法人は過疎地なり地方で厳しい状況になりながらも維持していかなければいけない。
 この介護保険のサービスについて現在、「都市部や中山間地域等のいかんにかかわらず」という観点がきちんとできているようには思えない。
 赤字でも続けなければいけないのは私たちの責務と思っているが、介護保険では、医療法人や社会福祉法人以外に、民間の中小規模の事業所も参加できるようになっているし、規模の大きな所も参加できる。この介護保険において、地方や過疎地で苦労している法人は多々あると思うので、この介護保険の公平性について、局長にお話を頂ければ、ありがたいと思っている。

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〇厚労省老健局・大島一博局長
 非常に難しいご質問を頂いたと思う。介護保険そのものが公的な保険であるので、実施していただく指定事業所の方々には、すべからく、その公的サービスの一翼を担っているという気持ちでサービスを提供していただきたいとは思う。
 従って、当然、サービスの質の向上とともにサービスの継続性というか、サービスをやめてしまうことによる影響ということも考える必要があるかと思う。
 他方で、例えば社会福祉法人であれば、さまざまな税が免除されているわけであり、社会福祉法人としての責務と言うか、介護保険とはまた別に、社会福祉法人として求められる責任というのもあると思う。
 従って、純粋に株式会社と社会福祉法人の間で同じようなレベルの責務を求めるということは難しい面もあるかと思うが、過疎地や中山間地におけるサービスの課題というのは、そういった法人格を問わず、今後大きな問題となってくると思う。
 法人格の違いによる要求のレベルの違いも踏まえつつも、全体として、どうやれば必要なサービスが維持されていくのか、あるいは今後、ダウンサイジングみたいなものが必要になるとすれば、どういうふうに進めていくのがいいのかというのは大きな課題として考えていきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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