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費用対効果評価制度、「人材育成が非常に重要」 ── 医療保険部会で池端副会長

Posted By araihiro On 2020年3月27日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は3月26日、費用対効果評価制度の拡充に向けた課題などを検討した厚生労働省の会議で、「国民に分かりやすい形で提示することが必要」と指摘した上で、「しっかり議論するためにも人材育成が非常に重要ではないか」との考えを示した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第127回会合を開き、前回に続いて医療保険制度改革について議論した。

 厚労省が今回のテーマに挙げたのは、①傷病手当金、②任意継続被保険者制度、③改革工程表 2019における検討項目、④予防・健康づくり──の4項目。このうち③では、「今後の医薬品等の費用対効果評価の活用」などを取り上げた。
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厚労省保険局_20200326_医療保険部会
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人材を集中的に養成していただきたい

 医薬品等の費用対効果評価の活用について政府の改革工程表では、「新規医薬品や医療技術の保険収載等に際して、費用対効果や財政影響などの経済性評価や保険外併用療養の活用などを検討する」とし、今年6月に予定する「骨太の方針2020」に向けて「関係審議会等において検討」としている。

 これらを踏まえ厚労省は同日の会合に、費用対効果評価制度の体制と人材育成に関するイメージ図を提示。調査・研究や分析などを担う国立保健医療科学院が6人体制である状況などを説明した上で、費用対効果評価制度の拡充について「人材育成の状況や諸外国における取組も参考にしながら、これまでと同様に中医協で検討を継続していくこととしてはどうか」と提案した。
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31_【資料3】改革工程表2019における検討項目について_20200326医療保険部会

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情報を頂いて議論していく必要がある

 質疑で池端副会長は人材養成の必要性を指摘。「国立保健医療科学院の研究センター6名というのはかなり脆弱なシステムなので、人材をしっかり集中的に養成していただきたい」と求めた上で、「今後、引き続き、ある程度の情報を頂いて議論していく必要がある」と述べた。

 同日の部会における池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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336_20200326_医療保険部会

【池端副会長の発言要旨】
〇傷病手当金について
 健康保険と共済組合の支給期間の整合性に関しては、そろえていただいたほうがいいと思う。
 傷病手当金ができたスタート時点では、病気を治療して治った後、また元気になって働く、その治るまでの間を保障しようという考え方だと思う。
 今、疾病構造がかなり大きく変わった。がんも、完治はできないが寛解して、抗がん剤を服用しながら就業ができる状態まで回復しても、また再発する可能性もある。長く診ていかなければいけない。がんなどの疾病を持ちながら就労する方に対し、どう支援していくか。特に高齢者はがんが多い(ことも配慮すべき)。
また、うつ病を中心とした精神疾患は、治療しながら就労する。その期間はかなり長期にわたる。再発もする。完治というのは難しく寛解ということになるだろう。抗うつ剤を服用しながら就労していても、時々また仕事に行けなくなってしまう。こういう方がいる。その期間をどこに絞るかは非常に難しい。
 傷病手当金の1年6カ月をどうするかは別にして、不支給期間があれば、その分をあとで支給することはぜひやっていただきたいと思う。
 そういう意味では、疾病構造がどんどん変わっていくことに対して、この傷病手当金についても、疾患が発症した後、治療して完治する間の保障というこれまでの考え方を少しずつ変えていかないといけないではないか。そこまで言い出すと広い議論になってしまうが、今回、そういう意味でも支給期間をそろえることは非常に重要だと思う。
 資格喪失後の継続給付をどうするかという問題については、障害年金等の他の給付制度との整合性を見ながら、どこまで資格喪失後の手当てをするかは、きちんとあわせていかなければいけないのではないか。
 疾病構造が、がんにしても精神疾患にしても、その他の慢性疾患の急性増悪という形で非常に長期間、疾病を持ちながら就労することが多くなったことに対して、柔軟な対応ができる傷病手当金に変えていただきたい。

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〇医療費の見える化等について
 最終的には国民的な議論が必要になるので、国民がある程度、理解をして、上辺ではなく、本当に中身を理解して問題点も理解していただかないといけない。もちろん時間が少しかかるかもしれない。
 さらにもっと早くすすめなければいけないのは保険診療に関する教育。医療を提供する側の医師となる医学部の学生に対して、保険制度に対する教育がまだ十分とは言えない。
 私自身、臨床教授として大学で指導しているが、まだまだ保険制度について理解されていない。医療提供者側である医師になった時点で、まずは制度をしっかり理解し、自分たちはその保険制度の上で(保険医として)臨床を提供しているということを理解することによって、もう少し精緻な議論ができる。それにより、国民と向かい合うこともできると思うので、今すぐにでもやっていただきたい。

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〇医薬品等の費用対効果評価の活用について
 本日の資料に、費用対効果評価制度の概要が出ているが、私たち医療保険部会の委員がどこまで理解できるか。
 QALYやICERの考え方などが出ているが、これは医療の質とコストをどう見える化するかという、薬剤に関しての見える化する形の1つではないか。
 最終的には科学的に分析をするのだが、例えば自分の命があと1年延びるとしたら、どれぐらいお金を使っていいか、国民がどう考えるかを数値化するのがこの考え方だ。
 費用対効果制度に関しては、かなり専門的な議論になるので、中医協が中心になると思う。それを受けた上で、ある程度の議論が進んだ時点で、この場の委員が全て理解できるような形でお示しいただくと、それが国民に知れて、制度としてまとまってくる。どのようにして、この薬が認められたのかが分かってくる。
 そういう意味でも、ぜひ分かりやすい形でご提示いただくことが必要だ。現在、人材育成機関で国立保健医療科学院の研究センターの人材が6名というのはかなり脆弱なシステムであると思う。やはり人材をしっかり集中的に養成していただきたい。科学者の方々によっては意見が分かれるところもあるとお聞きしているので、そのへんをしっかり議論するためにも人材育成というのは非常に重要ではないか。
 科学は万能ではない。例えば今回、新型コロナウイルス対策にしても、科学的にはここまで認められるが、あとはポリティカルな判断でこうするということがある。
 この薬は科学的にはここまでで、保険収載は難しいが、一方で、こういうことは絶対必要だということが分かれば、それはなんらかの形で別の形で提供できるようにする。
 そういう政治的な、制度的な問題の見直しも必要になってくる。そこを考えるのが、この場ではないか。今後、引き続き、この医療保険部会である程度の情報を頂いて議論していく必要がある。

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〇予防・健康づくりについて
 医療保険部会で、この発言が適当かどうか分からないが、これまで予防・健康づくりに関しては、とかく医療費適正化に向けて、この施策の重要性がさかんに言われていたかと思うが、私が知る限り、実は国内外、論文を見ても、予防が医療費適正化につながったというエビデンスはあまりないように思う。
 ただ一方で、経済的な評価や社会的効果の評価は非常に重要で、いかに人生100年時代を最期まで元気で豊かに過ごせるかに対しては、予防・健康づくりは非常に重要であると思う。ぜひそういう視点も強調してアウトカムを出していただければと思う。
 「健康日本21」の頃から言われていたが、市町村に対して一定のペナルティをかけて受診率を上げようということがあった。私が知っている限り、実際はもう既にきちんと受診して通院、加療しているところにデータだけを出して受診率につなげるというような、ちょっと姑息的な形のデータの出し方というところも一部あった。
 こういうことではあまり意味がないので、しっかり腰を落ち着けて、きちんとしたデータのもとで予防・健康づくり等の指導をすることによって、本来的な人生を豊かにし、経済的にも社会的にもよい人生100年時代につなげることができれば非常にいいものになる。ぜひ、医療費適正化だけではなくて、そういう効果があるということをもっと内外にアピールしていただけるといい。

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20200326_医療保険部会
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                          (取材・執筆=新井裕充) 


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