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DP号下船者、「無事に帰宅された」と報告 ── 橋本副会長、2020年3月13日の定例会見で

Posted By araihiro On 2020年3月14日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の橋本康子副会長は3月13日の定例記者会見で、ダイヤモンド・プリンセス(DP)号から最初に下船した約70人の診療や投薬、相談などに1週間、泊まり込みで対応したことを報告した。橋本副会長は「感染防止のほか、身体的・精神的な面へのフォローアップも実施し、全員無事に帰宅された」と笑顔で伝えた。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、この日の会見は当初の予定を変更して実施。「新型コロナウイルス感染に対する日本慢性期医療協会としてのスタンス」と題し、まず武久会長が現状認識などを説明した。

 武久会長はその中で、DP号を下船した高齢者の診療などについて厚労省から依頼を受けたことを伝えた。DP号の下船者は埼玉県和光市にある税務大学校の宿舎に約1週間とどまった後、自宅に帰宅した。その間、診療などを担当した橋本副会長が当時の様子を振り返った。

 橋本副会長は、「持病や高血圧、それから心臓が悪い、糖尿のお薬を飲んでいる、喘息があるという方もいたので、そうした症状などへの対応も必要だった。命には関わらないがQOLは大きく下がってしまうため、私たち医療スタッフがずっと泊まり込みで24時間対応した」と報告した。
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20200313_日慢協会見
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積極的に受け入れ、とても頑張っている

池端幸彦副会長_20200313_日慢協会見 こうした報告などを踏まえ、武久会長は「特に高齢者を中心に新型コロナウイルス感染者に対する緊急対応が必要な事態を想定している」との認識を示し、役員病院を対象に実施した緊急アンケートの結果を池端幸彦副会長が報告した。

 それによると、新型コロナウイルス感染症の疑い患者を含めた発熱患者全般への対応について、最も多かったのは「新型コロナウイルス疑い患者はすべて帰国者・接触者相談センターへ紹介し、それ以外の発熱患者は受診も含めて積極的に受け入れている」という回答で、35件(54.7%)だった。

 調査結果を受け、池端副会長は「発熱患者は受診も含めて積極的に受け入れており、とても頑張っている。他院が満床になっている場合にはしっかり対応していくという病院が多かった」とまとめた。
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感染終息に向けて積極的な協力を

武久洋三会長_20200313_日慢協会見 新型コロナウイルスによる肺炎について武久会長は「従来の肺炎死亡率10%に対し、今回の場合はもっと厳しい状況も考えられる」との認識を示した上で、「新型コロナウイルス感染患者が急増した場合には、地域医療を守るために協力する。感染症指定医療機関からの当該新型コロナウイルス感染症以外の患者を積極的に受け入れる」との意向を示した。

 その上で武久会長は、感染拡大により感染症指定医療機関のみでは感染症患者の受け入れが困難となった場合には、「『感染防止対策加算1』取得病院の指導の下、『感染防止対策加算2』の取得病院において患者受け入れを行い、感染終息に向けて積極的な協力を行っていきたいと思っている」と述べた。

 武久会長は「現在、市中感染蔓延期になりつつある段階とすれば、まさにこれからの発生者の増加のスピードとピークをいかに抑えられるか。そのために十分な感染対策と治療の準備を迅速に整えられるかの正念場を迎えている」と語った。

 同日の会見の模様は以下のとおり。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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正念場を迎えている

〇池端幸彦副会長
 ただいまから令和2年3月度の日本慢性期医療協会の定例記者会見を始めたい。
 本日は、当初の予定を変更して、このたびの新型コロナウイルスに対する当協会のスタンスということで武久会長からご説明をいただく。

〇武久洋三会長
 今、世の中が慌ただしくなってきてちょっとギスギスしている。新型コロナウイルスをめぐり、大変な状況になっている。今回は別件のアンケートのデータを説明する予定であったが、喫緊の問題である新型コロナウイルスに対する当協会のスタンスを発表させていただく。

 昨年12月に中国武漢市で初めて患者が報告された新型コロナウイルス感染症は、中国全土だけでなく世界中にその感染が拡がっている。厚労省の報道発表資料によると、3月12日時点での国内の感染者は620名いることが報告されている。

 現在、市中感染蔓延期になりつつある段階とすれば、まさにこれからの発生者の増加のスピードとピークをいかに抑えられるか。そのために十分な感染対策と治療の準備を迅速に整えられるかの正念場を迎えている。
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死の危険にさらされている

 ここで重要な対策は、この感染症罹患者の重症化を防ぎ、生命を守ることである。インフルエンザの10倍の致死率であると言われる。有効な抗ウイルス薬がなく対症療法が中心の現時点では、致死率が高いと言われている高齢者や基礎疾患を多くもっている方は、より死の危険にさらされることになる。

 WHOによると、中国国内で感染が確認された5万5,924人の最新のデータ分析からも80歳以上の感染者の致死率は21.9%と、実に5人に1人であったと報告されている。

 2月13日に、厚労省の幹部から私の携帯電話に直接、連絡が入った。翌14日の朝に、ダイヤモンド・プリンセス号から初めて下船する高齢者が埼玉県和光市の税務大学校に宿泊するので、診療を担当してほしいという依頼であった。2月13日はちょうど当協会の常任理事会の日でもあったので、そこでもご説明いただいた。

 そこで、私たちは2月14日から現地に行き、19日まで診療などを担当した。医師・看護師・薬剤師等のスタッフが毎日約10名ずつ対応し、約70名の下船された高齢者の診療や投薬、相談に応じた。

 2月14日からの約1週間にわたる期間、当協会の橋本副会長に、ずっと泊まり込みで対応していただいたので、ご説明いただきたいと思う。
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1週間、泊まり込みで24時間対応

〇橋本康子副会長
 先月13日に厚労省からの依頼を受け。14日にダイヤモンド・プリンセス号から下船されるというので、14日から19日まで7日間、医師・看護師・薬剤師などで対応した。時々、入れ替わりはあったが、毎日10名ぐらいで対応してきた。

 この方々は最初の下船者だった。PCRはマイナスで症状はない。濃厚接触者ではなく、原則80歳以上の方々が船から降りてこられた。毎日、降りて来られるのだが、その日に何人が降りるのかは、その日の朝にならなければ分からないという状態だった。

 私たちは、防護服を着て下船者に問診をした。陽性でも大丈夫な態勢をとり、「何かお困りのことはないですか」と相談に乗った。税務大学校の宿舎はすべて個室にお入りいただいた。

 私たちが対応した中で、最高齢は91歳。60歳代や70歳代の人も1人か2人はおられたが、ほとんどは高齢の方々だった。クルーズ船で旅行される方であるので、しっかりしておられる。

 ただ、やはり持病や高血圧、それから心臓が悪い、糖尿のお薬を飲んでいる、喘息があるという方はおられた。そのため、そうした症状などへの対応も必要であった。

 クルーズ船の中では薬が配布されていると聞いていたのだが、それは大事な薬だけであって、便秘や不眠などに対する薬は不足しているようだった。乾燥して身体がかゆいという訴えもあり、保湿剤や、かゆみ止めの薬も必要だった。

 花粉症の方もいた。海上では花粉症はなかったようだが、「着いた途端に鼻水がずるずる言っています」と。風邪か花粉症か分からないような状態で、花粉症の薬ももらっていないと言う。こうした処方などの対応が必要であった。

 命には関わらないのだが、QOLは大きく下がってしまう可能性が高い。そのため、私たち医療スタッフ3名(医師、看護師、介護福祉士)がずっと泊まり込みで24時間対応した。
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帰宅後の風評被害を心配していた

 医療班として行ったことは毎日の体温測定や体調チェック、そして先ほど申したような内服薬の処方。それだけではなく、いろいろな相談にも応じた。

 クルーズ船の中に閉じ込められ、税務大学校に来ても個室の中でずっと過ごす。部屋から一歩も出ないように、ということなので、食事はドアの前。体温測定の結果はご自身で書いていただき、それをドアの外に張り出してもらう。看護師らが各室を回ってチェックしていく。

 下船者たちは誰にも会わないので、ストレスを抱える。そのため、精神的なケアも含めて、私たちは毎日、電話を通していろいろお話しさせていただいた。

 ご高齢で動いていないので、ますます便秘になる。エコノミー症候群みたいなことになる恐れもあるので、それを防ぐために、1人体操や1人ゲームなどの方法をプリントアウトして配布するような支援もさせていただいた。保湿については、加湿器ではウイルス拡大を危惧し、逆に危ないのではないかと考え、湯船にお湯を貯めて、浴室のドアを開けておいていただくとか、そうしたアドバイスもした。

 個室はユニットバスだったので、お風呂に入ることはできたのだが、高齢の方がお一人なので夜間は不安だった。そのため、高齢の方には電話を差し上げて、「今から寝られますか」とか、「お風呂は入られましたか」と確認をした。

 感染防止への対応はもちろんだが、ずっと1人で部屋に閉じこもっておられるので、身体的・精神的な面へのフォローも行った。2月19日に、PCRがマイナスのまま全員、無事に帰宅された。

 ご本人たちは、帰宅後の風評被害をかなり心配されていた。せっかく楽しい旅行に行かれたのに、こんなことになってお気の毒であるという感想を持った。以上である。
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緊急対応が必要な事態を想定している

〇武久会長
 では、私から説明を続けたい。5ページをご覧いただきたい。
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P5_20200313_記者会見資料

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 日本病院会も全日本病院協会も、それぞれの会長の立場で要望書を出されている。金利を下げてくれとか、報酬面でもう少し運用させてくれとか、そういう要望である。

 当協会としては、要望というものをあまり出したことがない。本日の記者会見で現状を報告し、どのように対応するかの方針を示したいと考えた。
 
 私たち日本慢性期医療協会の会員病院も新型コロナウイルスについて、感染対策を強化している。

 しかし、既に市中感染蔓延期に入ろうとしている中、感染者は全国でさらに増えてくる可能性もあり、特に高齢者を中心に、この新型コロナウイルス感染者に対する緊急対応が必要な事態を想定している。

 そこで、当会役員病院の新型コロナウイルス感染症または疑感染者に対する現時点と今後の対応、さらに課題等について役員病院を対象に緊急アンケートを実施した。池端副会長から、ご報告を申し上げる。
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積極的に引き受けている

〇池端副会長
 「新型コロナウイルス感染症に関する緊急アンケート」の集計結果をまとめたので、ご報告を申し上げる。当協会の役員病院を対象に実施し、64病院から回答いただいた。

 設問1は「現在、新型コロナウイルス感染症疑い患者を含めて、発熱患者全般に対してどのような対応をとられていますか」という内容。

 これについて最も多かったのは、「新型コロナウイルス疑い患者はすべて帰国者・接触者相談センターへ紹介し、それ以外の発熱患者は受診も含めて積極的に受け入れている」という回答で、35件(54.7%)だった。

 次いで、「新型コロナウイルス疑い患者は電話対応(紹介を含む)のみで、それ以外の発熱患者は受診も含めて積極的に受け入れている」という回答が9件(14.1%)、「その他」は8件(12.5%)、「発熱患者全般に、原則として電話対応のみとしている」のは7件(10.9%)だった。

 最も少なかったのは、「新型コロナウイルス疑い患者の受診も含めて、発熱患者全般を積極的に受け入れている」という回答で、5件(7.8%)となっている。

 明らかに新型コロナウイルス疑いの患者は「帰国者・接触者相談センター」に紹介し、それ以外は積極的に受けている病院が非常に多かったので、とても頑張っているという印象である。
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入院の「対応していない」81.3%

 設問2「発熱患者全般を外来で受け入れる場合、どのような対策を講じていますか」では、「独立した外来窓口、待合室、診察室等を設けている」という回答が7件(10.9%)、「一般受付窓口で対応した上で、以後は車の中または別区画した待合室を設けている」という回答が36件(56.3%)だった。何らかの方法で他の患者と分けて対応している病院が約7割となっている。

 また、設問3「新型コロナウイルス感染症(疑い患者も含む)の入院対応、または対応の予定」については、「独立した病棟で、積極的に受け入れている」という回答は1件もなかった。

 病棟を区分けして個室対応しているのは3件(4.7%)、病棟を区分けせずに個室対応しているのが6件(9.4%)。入院となると、やはり「対応していない」が52件(81.3%)だった。

 現時点では、まだパンデミックになっていないこともあり、3月初めの時点では入院の対応をしていない病院がほとんどであった。
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新型コロナ感染の入院患者は0人

 設問4では、発熱患者等について、2月25日から3月3日まで1週間の外来患者数を尋ねた。

 それによると、63病院で合計545人。1日平均8.7人発熱患者を受け入れている。このうち、新型コロナウイルスの感染者は0人、疑い患者が37人(0.6%)であった。

 設問5では、発熱患者等のうち、この1週間で入院した患者数を調べた。それによると、新型コロナウイルス感染症以外の発熱患者が50人、感染症疑い患者は4人で、新型コロナウイルスに感染して入院した患者は0人だった。
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他院が満床の場合は対応する

 以上の調査結果を踏まえると、新型コロナウイルス疑い患者は「帰国者・接触者相談センター」に紹介し、それ以外の発熱患者は受診も含めて積極的に受け入れている。

 その他、新型コロナウイルス感染症対策全般に関してのご意見としては、マスクが非常に足りないので何とかしてほしいという声が非常に多く寄せられた。

 また、新型コロナウイルスそのものへの対応は難しいが、他院が満床になっている場合にはしっかり対応していくという病院が多かった。以上、アンケート調査のご報告をさせていただいた。
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日本は検査体制が遅れている

〇武久会長
 こうしたアンケート結果により、地域医療機能を誠実に果たそうとしている病院が既に存在することが分かる。

 日慢協の会員病院は、主に回復期や慢性期病棟が多いが、多機能な病院には、外来にも新型コロナウイルス感染疑い患者が増えている。

 感染が拡大すれば感染症病棟が不足し、地域の一般病院に数多くの入院患者が増えるかもしれない。

 大流行になるまでは政府の方針に従って、感染症指定医療機関を中心として治療が行われるのをサポートする役目に徹したいと思うが、日本は検査体制が遅れている。1日5万件くらいの検査が可能なら、陽性患者数はもっともっと増えるだろうと思われる。
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医師は感染対策の指導を

 慢性期病棟には高齢者の重症患者が多い状況である。この状況で新型コロナウイルス感染患者を受け入れることは、既に入院している患者への感染の恐れがあり、大変厳しいものである。

 しかし患者が急増し、全国の一般病院も多く受診するようになれば、医療機関として責任を果たさなければならない。

 また、会員病院併設の特養・老健などの介護保険施設、通所事業所等でも感染防止対策を行わなければならない。

 介護施設や通所事業所は、いったん感染者が出るとコントロールが困難なことは、これまでの経験と今回の報道を見ても明らかである。

 施設管理者が危機意識を強く持って、スタッフや利用者の感染対策を常に管理してほしい。手を洗う、消毒する、触る所を拭き取る、咳やくしゃみのエチケットなど、提携病院の医師は、可能なら1度現場へ出向いて指導することを検討してほしい。
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地域医療を守るために

 12ページは、誤嚥性肺炎など従来の肺炎の死亡率である。
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P12_20200313_記者会見資料

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 NHCAPでは15.5%、日慢協の会員病院3,180症例で10.7%ということで、従来の肺炎の死亡率は10%前後であるが、今回の場合はもっと厳しい状況も考えられる。

 新型コロナウイルス感染患者が急増した場合には、地域の病院として、地域医療を守るために協力することはやぶさかではない。

 高齢者の肺炎等については、日慢協の会員病院は非常に多くの症例数を診ている。高齢者の肺炎治療に習熟しているが、今回の新型コロナウイルス感染症は死亡率が高いので、緊張感を持って対応したい。しかるべき時期のために準備をしている状況である。
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感染終息に向けて積極的に協力

 日本慢性期医療協会としてのスタンスは、まず日本の法律、政府・地方公共団体の指示に従って対応する。その上で、感染症指定医療機関からの当該新型コロナウイルス感染症以外の慢性期の患者を積極的に受け入れる。

 現在、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れるべき病院として、特定感染症指定医療機関が10床、第一種感染症指定医療機関が103床、第二種感染症指定医療機関が1,758床、結核病棟3,502床があり、全て合わせても5,373床しかない。

 これらの病棟が満員になれば、あとは一般病院や日慢協の会員病院も積極的に協力するということはやぶさかではない。

 感染症指定医療機関は、設備・感染対策が一般病院より充実しているため、感染症以外の患者を受け入れている病棟を空けてでも受け入れるべきである。

 そのためにも慢性期病院では、感染症指定医療機関に入院されている感染症以外の転院可能な慢性期の患者を積極的に受け入れようとしている。

 万が一、感染拡大により、上記の感染症指定医療機関のみでは感染症患者の受け入れが困難となった場合、「感染防止対策加算1」取得病院の指導の下、「感染防止対策加算2」の取得病院において患者受け入れを行い、感染終息に向けて積極的な協力を行っていきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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