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「国民に丸投げして『自己責任』は乱暴な議論」 ── 薬剤自己負担の引上げで池端副会長

Posted By araihiro On 2020年3月13日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は3月12日、薬剤自己負担の引上げなどを審議した厚生労働省の会議で「国民に丸投げして『自己責任』と言うのは非常に乱暴な議論」と述べ、スイッチOTC化された医療用医薬品を保険適用から外すことに反対した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第126回会合を開き、薬剤自己負担の引上げについて委員の意見を聴いた。

 同日の会合で厚労省の担当者は、まず政府の改革工程表を提示。「薬剤自己負担の引上げについて、市販品と医療用医薬品との間の価格のバランス、医薬品の適正使用の促進等の観点から、関係審議会で検討することになっている」と当部会の所管事項であることを説明した上で、諸外国の薬剤自己負担の仕組みなども参考にしつつ検討することを伝えた。
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01_【資料2】薬剤自己負担の引上げについて_20200312_医療保険部会

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フランスやスウェーデンなども参考に

 諸外国の仕組みについて厚労省の担当者は、財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の分科会で昨年11月に示された資料を紹介。「薬剤の内容に応じた償還率を設定しているフランスや、薬剤費の額に応じた自己負担を設定しているスウェーデンなども参考になるのではないかという資料」と説明した。
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11_【資料2】薬剤自己負担の引上げについて_20200312_医療保険部会

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 また、保険外併用療養費制度の活用を挙げ、「例えばOTC化された医薬品については、初診料や検査料については保険給付としつつ、薬剤費については保険外併用療養費ということで全額自己負担にするという案が提案されている」と説明。「こういったことも踏まえながら検討していくことが本件の課題であると認識している」と述べた。

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厚労省保険局_20200312_医療保険部会
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「小さなリスクには自助で対応」という考え

 質疑で保険者の代表は「国民皆保険制度を将来にわたって持続可能なものとするためには、後期高齢者の窓口2割負担の改革だけではとても実現できないので、薬剤費の自己負担の引上げも重要な取組の1つ」と指摘。「今回、示された諸外国の例も参考にしつつ、十分な財政効果が得られるような見直しを図っていただきたい」と要望した。

 また、事業主を代表する立場の委員は「小さなリスクには自助で対応するという考え方の下で、薬剤の保険給付の範囲の見直しをさらに進めていくべき」と改めて主張。セルフメディケーション税制に言及し、「対象薬剤をスイッチOTC薬以外にもぜひ拡大するということが重要。OTC類似薬効群については、対象薬剤のまま投与を控えるという啓発をぜひお願いしたい」と求めた。
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「患者に分かりにくくなってしまう」との声も

 こうした意見に対し、日本医師会の松原謙二副会長は「医師として、この薬が必要だと判断したときに、『これはスイッチOTCだから使えない』という説明はしにくい」と指摘。アスピリンを例に挙げ、「心筋梗塞の予防に使っているのに、『風邪にも使えるからスイッチOTCで、別の所でもらってください』という話にはまずなり得ない。患者さんに分かりにくくなってしまうばかりではないか」と反対した。
 
 日本薬剤師会の森昌平副会長は、薬剤一部負担金が導入された平成9年当時を振り返り、「薬局でも患者さんへの説明で非常に苦労をした。全て理解をして患者さんに説明しなければならないのは薬局にとっても非常に負担が大きいし、国民にとってもとても分かりにくいのではないか」と指摘。「薬剤費の自己負担については極めて慎重に議論していく必要がある」と述べた。

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20200312_医療保険部会
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高齢者がセルフメディケーションできるか

 池端副会長は「80歳、90歳の高齢者が本当にセルフメディケーションできると思っておられるのだろうか」と疑問を呈した上で、「高齢者の方々は何も知らずに飲んで、逆に何も知らずにやめていることがいまだに多くある」と現状を説明。スイッチOTCについて「非常に玉石混淆」とし、「セルフメディケーションとして、全部、国民に丸投げして『自己責任』と言うのは非常に乱暴な議論だと思う」と慎重な対応を求めた。

 議論を踏まえ、遠藤部会長は「いろいろとご意見を頂いたので、今後、それらのご意見を踏まえて議論を深めていきたい」とまとめた。
 
 同日の会合では、薬剤費の自己負担の引上げのほか、大病院受診時の定額負担拡大についても議論した。委員として出席した池端副会長の発言は、以下のとおり。

【池端副会長の発言要旨】
〇薬剤自己負担の引上げについて
 医薬品の問題は確かに医療費の中で大きなウエイトを占める非常に大事な問題だと思うし、こういう議論も必要だろう。後発医薬品の使用促進やポリファーマシーの是正は非常に重要で、より進めていかなければいけない。
 しかし、だからと言ってスイッチOTCを保険外にするとか、セルフメディケーションをどんどん進めていくべきかは別の議論が必要である。
 諸外国に見習うべきとの意見があるが、日本は世界一の超高齢社会。80歳や90歳の高齢者が本当にセルフメディケーションできると思っておられるのだろうか。私は1人の医師としてとても危惧している。 
 働き盛りの若者であれば、しっかり自分の体や薬をチェックして、ある程度はセルフメディケーションの方向に行くべきだと思うが、高齢者の方々は何も知らずに飲んで、逆に何も知らずにやめていることがいまだに多くある。それを是正するのが保健指導であったり、かかりつけ医の役割であると思う。
 また、スイッチOTCに関しては、私の目から見ると玉石混淆と言うか、ほとんど外してもよいと思われるものから、これはどう考えても困るというものまでさまざまある。例えば、アスピリンは、1つの製剤でいくつかの薬効を示す。ある薬剤と別の薬剤がぶつかると副作用を示すものはいくらでもある。そうした中で、セルフメディケーションとして、全部、国民に丸投げして『自己責任』と言うのは非常に乱暴な議論だと思うので、もう少し丁寧に、高齢者に分かりやすい議論をしながら進めていかないと、逆に保険財政を圧迫しかねない。かえって病状を悪化させて、重篤になってから医療機関にかかるということもありうる。服用を突然やめたら、状態が悪化することもよく見られ、実際に私は何度も経験している。
 しかし、患者はそういうことをよく知らない。「薬局で、薬だから安全だと思って」と考えるが、既に別の薬を服用している場合などを考えると、薬局のスイッチOTCを自分の判断で服用することが危険なこともある。
 かかりつけ医や、かかりつけ薬剤師の指導などが何もなく、スイッチOTC化をどんどん進めていく流れについて、私は大反対をしたい。

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〇大病院受診時の定額負担拡大について
 この議論について、社会保障審議会の医療部会と医療保険部会、そして中医協との役割分担が示されているが、もう少し明確にしていただきたい。具体的には、検討事項の1つである「入院と外来の機能分化」について、医療部会で内容をまとめてから当部会で要件などを検討するのか、両部会で同時並行で検討を進めていくのかを明確にしていただきたい。
 大病院の外来受診時の定額負担の拡大については、初診と再診の関係について、実態も含めてデータを出していただいた上で議論していく必要があると思う。再診での定額負担があまり機能していない中で、それをなおざりにしながら200床をさらに広げるべきかという議論に入るべきではない。
 再診に関しては、「徴収を認められない患者」や「求めないことができる患者」があるが、解釈によっては曖昧になっている。そうしたこともあり、再診に関しては、あまり定額負担が取られていない所が多いような気がしている。初診にばかり目が行って、実は再診はあまり取られておらず、結局、大病院の外来にどんどん患者がに流れているのが現状ではないか。大病院における長期処方の問題もある。
 こうした状況の中で、入院と外来の機能分化がなかなか進まないこともあると思うので、そうした議論も大事ではないか。
 また、患者の受診行動を変えることも大事であるが、病院の収入構造も考える必要がある。大病院でも入院と外来の収入で成り立っている中で、外来を絞って入院だけで収入構造が成り立つかどうか。
 そうした点もシミュレーションしながら、病院の機能などを検討していく必要があると思う。現実には、大学病院でも外来が収入源になっているので、病院の収入構造の改革も含めて本当は議論していただかなければいけない。これは医療保険部会のマターではないかもしれないが、そういう視点も必要ではないか。

                          (取材・執筆=新井裕充) 


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