- 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト - http://manseiki.net -

病院独自の提供体制へ、「基準リハ」を提案 ── 2020年1月9日の定例会見で

Posted By araihiro On 2020年1月10日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 日本慢性期医療協会は令和2年1月9日、リハビリのアウトカム評価などをテーマに定例記者会見を開き、「基準リハビリテーション」制度の導入を提案した。武久会長は「従来のようなリハビリ療法士と患者の個別リハビリだけでなく、看護職員や介護職員とともに個別や集団リハビリなど、病院独自のリハビリ提供体制をつくることが可能」と説明した。

 この日の会見の主な内容は、①厚労省のFIM利得への疑問、②病院全体で早期改善退院の促進を、③これからのリハビリ評価をどうする、④アウトカム評価でリハビリを統括評価できるか、⑤FIM利得判定の行い方──の5項目。
.
20200109定例記者会見

 会見で武久会長は、発病直後からリハビリを実施することで要介護者や寝たきりを減少させる必要性を強調。「リハビリは必要な時に集中して行われるべきであり、何より優先すべきは生きていくための、より人間的な基本能力である摂食と排泄の機能改善リハビリである」との考えを改めて示した。

 その上で、武久会長は「どの患者にも必須の医療サービスであるリハビリを看護業務と同様に入院基本料に包括してはどうか」と提案。さらに、リハビリ療法士を病棟ごとに配置し、リハビリ療法士が提供時間を自由に定め、患者ごとに多様なリハビリを提供できるような制度への見直しを求めた。

 武久会長の説明について、詳しくは以下のとおり。同日の会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(https://jamcf.jp/chairman/2019/chairman200109.html)をご覧いただきたい。
.

信頼がなければ、制度は複雑化せざるを得ない

 
[池端幸彦副会長]
 新年おめでとうございます。では早速だが、令和2年最初の記者会見を始めたい。
.
池端幸彦副会長_20200109定例記者会見
 
[武久洋三会長]
 本年もよろしくお願い申し上げる。今回は、FIM利得への疑問など5項目についてご説明したい。
.

01_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 2ページをご覧いただきたい。11月29日の中医協総会に出された資料である。

 これはどういう意味か。FIM利得を10点にしたら、入棟時から退棟時に至る経過がこんなふうになったということだ。それまでは15点ぐらいのFIM利得だったが、10点になった途端に23点まで急に上がったという。
.

02_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 厚労省としては、FIM利得が10点になった途端に、急に上がるのはおかしいのではないかということだ。診療報酬制度を現場がちゃんと守っていないのではないかとの疑問を呈されたのだと思う。

 われわれは、きちんと真面目に診療して診療報酬をきちんと請求していると思っている。自分の病院に有利なように医療保険を勝手に左右することは許されないのは当然のことである。厚労省と医療提供側、お互いの信頼がなければ疑心暗鬼となり、良い制度にはならない。

 医療界が現在よりも信頼してもらえるように、誠実に患者に向き合い、最善の診療を行い、ありのまま請求しなければならない。お互いに信頼がなければ制度は複雑化せざるを得ない。
.

「基準看護」だけでよいのか

 現在、入院基本料は7対1、10対1と看護師さんの数でほとんど決まっている。一人ひとりの看護職員には多少なりとも優劣があると思うが、まずは決められた数の医師や看護職員が配置されているかによって評価されている。

 例えば、10対1の病棟では、患者40人に対して看護職員20人が配置されているということで、これが「基準看護」である。
.

17_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 このシステムは長期にわたり続けられていて、「基準看護」は医療界の中で評価され、運営されている。

しかし、いろいろな職種により病棟運営がなされているのに、看護職員の数だけでよいのかという意見も多い。
.

寝たきり増加の原因となっている

 最近、高齢患者の入院が増え、約30年前と比べると倍近い増加である。
.

05_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 ところが、7対1入院基本料が導入された2006年以降、基準看護の看護職員数は制度的には増えていない。

 身体拘束についてNHKの「クローズアップ現代+(プラス)」で討論が繰り広げられ、問題視されているように、急性期病棟(一般病棟)では、高齢患者の増加による介護ケア需要に十分対応できていない。

 認知症状がみられる患者や、歩行不安定な患者、夜中にトイレに行く高齢患者に対する身体拘束や膀胱留置バルーンカテーテルを実施する割合が増加したことにより、約1カ月後の退院時には、すでに関節拘縮が進行しており、日本の寝たきり増加の原因となっていることが指摘されている。
.

「基準介護」の実現に注力したい

 
 人員不足のための身体拘束や膀胱留置バルーンカテーテルを防止することは、要介護者の減少につながると考えられる。

 そこで日本慢性期医療協会では、2019年8月8日の記者会見で「基準介護」の新設を提案させていただいた。そして日本看護協会も、2019年11月28日に入院患者の高齢化に対し、看護補助者の増員を要望している。

 この「看護補助者」の呼称について、一般的には、「介護福祉士」「介護職員」と呼ばれているが、日本看護協会は「看護補助者」と呼んでいる。

しかし、お互いに病棟で介護業務を行うスタッフの必要性については考えが一致していると認識している。日慢協と日本看護協会と共に、「基準介護」の実現に注力したいと思っている。
.

発症直後からリハビリを提供すべき

 
 また、リハビリは回復期に集中的に行う制度となっているが、リハビリは当然、病気の発症と同時に行うことなどにより、格段に結果が良くなることは実証されている。

 一般病床で、リハビリの提供がほとんどなく、筋力低下や関節拘縮になったりして、平均約1カ月の急性期治療の後、回復期リハビリテーション病棟で改めてリハビリを集中提供することが常態化している現状に対して大いなる疑問を持っている。

 9ページのように、回復期リハビリテーションに入院してくるまで平均約29.9日かかっている。
.

09_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 急性期、すなわち発病直後からリハビリが行われれば、寝たきりはもっと減少するのではないか。

 しかしながら、高度急性期病院にはリハビリ専門医はほとんどおらず、療法士は総定員法によって十分に雇用できない状態が続いている。そのため、長期臥床により動けなくなってからリハビリを行うより、発症後すぐにリハビリが提供されることが重要である。
.

優先すべきは機能改善リハビリ

 
 リハビリは回復期にするものだという概念が広まっているが、それは間違っている。リハビリは、リハビリが必要な時に集中して行われるべきである。

 そして、何より優先すべきは生きていくための、より人間的な基本能力である摂食と排泄の機能改善リハビリである。

 現在のリハビリの提供体制は1単位20分間で、患者と1対1のリハビリを提供して、はじめて診療報酬の算定が認められて請求できる方式となっている。

 そこで、どの患者にも求められている医療サービスとして、リハビリを看護業務と同様に入院基本料に包括してはどうかと提案したい。

 リハビリ療法士を病棟ごとに配置し、リハビリ療法士が1人の患者に対するリハビリ提供時間も自由に定め、療法士による患者と1対1のリハビリの提供だけでなく、看護職員や介護職員と協力して行うリハビリや集団リハビリなども含め、患者ごとにさまざまなリハビリの提供を行えるようにしてはどうかと提案する。
.

「基準リハビリテーション」を提案する

 
 私たちは、2017年12月14日の記者会見において、「回復期リハビリテーション病棟」ではなく、「リハビリテーション集中病棟」を提案させていただいた。本日は、改めて「基準リハビリテーション」制度の導入を提案させていただく。

 リハビリ療法士がいなければリハビリテーションはできない。外来は別として、病棟に何名のリハビリ療法士が在籍しているかを、看護職員や介護職員と同じように評価してはどうかということである。

 病棟機能向上のために、現在の「基準看護」に加えて、改めて「基準介護」を提案するほか、新たに「基準リハビリテーション」を提案したい。

 さらに一歩進めて、急性期一般病棟や地域一般病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟や障害者病棟にリハビリを配置した病棟には、「基準リハビリテーション」の制度を適応させてはどうかと思う。
.

リハビリのアウトカムを意識する

 
 リハビリ療法士を病棟配置にすることで、多職種のコメディカルの協力も得て、総合的リハビリを実施することにより、素晴らしい効果が出るだろう。そういう病院に患者が集まっていくという、サービス業としてはごく当たり前の状況となる。日本の要介護者、寝たきり患者を半減させることを目指すことができる。

 「基準看護」だけでなく「基準介護」「基準リハビリテーション」を導入することによって、病棟をあげてアウトカムを意識し、短期間の入院で日常に戻ることができるように、あらゆる病棟が在宅復帰に向け、入院日数の短縮化が可能となると思う。

 リハビリテーションのアウトカムを意識するということは、診療報酬改定の基本方針にも挙げられている。
.

病院独自のリハビリ提供体制をつくる

 
 「基準リハビリテーション」制度について、リハビリ療法士20対1配置の場合で説明する。

 現状の疾患別リハビリの単位で換算し、リハビリ療法士1人1日当たり、3単位×6時間=18単位のリハビリを提供できると仮定する。

 患者40人の病棟に10人のリハビリ療法士が配置されると、患者1人当たり、毎日4.5単位分のリハビリを実施できることになる。

 しかも、従来のようなリハビリ療法士と患者の個別リハビリだけでなく、看護職員や介護職員とともに個別や集団リハビリなど、病院独自のリハビリ提供体制をつくることが可能である。
.

姑息な病院が存在する可能性がある

 
 このようにリハビリ療法士を病棟配置し、基本的にある程度のボリュームのリハビリの提供を確実に実施した上で、アウトカム評価方法としてはFIM利得の総和が20点以上改善し、入院日数に応じて高い実績指数が得られた場合に何らかのアウトカム評価を設けてはどうかと思う。

 20ページ下の緑色の表、点数が3の所を見ていただきたい。
.

20_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 FIMの7段階評価の診断が3点であれば、「50%以上75%未満」を自分で行えるとされている。

 実際には、自分で74%しかできないのに、76%にわずか2%上げるだけでFIM点数を3点から4点に上げることができるというような姑息な病院が存在する、と厚労省は推測している。

 これを防ぐためにも動画撮影を行い、1カ月ごとにでも何か客観的評価ができるようにしてはどうかと思う。さらに、各項目2点以上の利得を評価してはどうかと提案する。
.

自由なリハビリで早期に効率的な効果を

 
 22ページは、現在の回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価に関する計算式等の概要である。
.

22_記者会見資料(令和2年1月9日)

.
 現在のリハビリテーションの提供体制は1単位20分間で、患者と1対1のリハビリを提供して、はじめて診療報酬の算定が認められる方式になっている。

 これに対し「基準リハビリ」は、リハビリ療法士が看護職員と同じように、あらかじめ定められた人数が病棟ごとに配置されていることを評価するものであって、リハビリ療法士は1人の患者に対するリハビリ提供時間も自由に定めることができる。

 現在の制度では、20分間さえカウントすれば、ベッドに寝たままでマッサージをするだけでも脳血管障害であれば2,450円になる。リスクを犯して歩行訓練をしても同じ金額である。20分間が1秒でも欠けると請求はできない。

 これに対し看護の場合は、看護師が「注射をしたら何点」「体位変換をしたら何点」「清拭をしたら何点」というものではない。介護の場合も、「オムツを1回替えたら何点」とはなっていない。

 彼ら専門的リハビリ職種が病棟に在籍していることによって、総合的に行われる機能改善リハビリによって患者が良くなっていくという過程に対して「基準看護」「基準介護」「基準リハビリ」という方式で診療報酬体系を決めていくのはどうかと考え、提案させていただいた。以上である。

                         (取材・執筆=新井裕充) 



Article printed from 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト: http://manseiki.net

URL to article: http://manseiki.net/?p=6526

Copyright © 2011 Japan association of medical and care facilities. All rights reserved.