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介護医療院の開設、「良かった」70% ── 11月14日の定例会見で調査結果を発表

Posted By araihiro On 2019年11月15日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会(日慢協)の会内組織である日本介護医療院協会は11月14日、日慢協の定例記者会見で、介護医療院に関する調査結果を発表した。それによると、介護医療院を開設して「良かった」との回答が70%で、「悪かった」は0%だった。日本介護医療院協会の鈴木龍太会長は「介護医療院の創設は好意的に受け止められている」と評価した。

 今回の会見は、①日本介護医療院協会「2019年度アンケート調査結果」について、②ICUの高齢重症患者を考える──の2つをテーマに開かれた。

 このうち①については、日本介護医療院協会の鈴木会長が調査結果を報告。②については、武久洋三会長が重症患者への対応等について見解を述べた。
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武久洋三会長_2019年11月14日の定例会見
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 最後に、第27回日本慢性期医療学会について、井川誠一郎学会長(平成医療福祉グループ診療本部長)が同学会にかける思いを語った。

 井川誠一郎学会長は「慢性期医療はこういうふうに進んでいるんだということを知ってほしい」と参加を呼び掛けた。同学会は12月3・4日の2日間にわたり、大阪国際会議場で開催される。

 この日の会見の内容について、詳しくは以下のとおり。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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厳しい改定だが、方向性に変わりはない

 
[司会:池端幸彦副会長]
 ただいまより11月度の定例記者会見を始めたいと思う。では最初に、武久会長からお願いしたい。

[武久洋三会長]
 いよいよ2020年度の診療報酬改定が間近に迫ってきた。どうやら厳しい改定になりそうだ。われわれは誠実に慢性期医療を提供している。どういう形になろうと、在宅医療を支えて慢性期医療の適正化を進めていく方向性に変わりはない。引き続き、慢性期治療病棟の推進に向けて取り組んでいきたいと思っている。

 医療・介護取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。昨年4月には、介護医療院が創設された。2020年度の診療報酬改定改定で厚労省は、急性期一般入院料1のうち、2~3割程度を移行させたいという考えをお持ちのようである。そうした中で、われわれ慢性期医療がどのような医療・介護を誠実に提供していけるかが重要な課題である。

 本日の記者会見では、介護医療院に関するアンケート調査の結果をお伝えしたい。重症の患者が増えている。そうした患者がどのような病棟に入るかによって、各病棟における対応も違うように思う。そうしたことも含め、今後の介護医療院の在り方について、皆さんと考えてみたい。

 それではまず、アンケート調査の結果について、日本介護医療院協会の鈴木会長からご報告をお願いしたい。
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目標10万床に対し、まだ1万4千床

 
[日本介護医療院協会・鈴木龍太会長]
 介護医療院の開設に関する調査の結果がまとまったのでご報告を申し上げる。まず介護医療院の開設状況について見ると、今年6月現在、Ⅰ型とⅡ型を併せて223施設、1万4,444床となっている。
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02_介護医療院の開設に関する調査結果_20191114記者会見資料

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 目標は10万床であるので、あまり転換が進んでいない状況である。当初の見込みでは、介護療養病床から約5万床、医療療養病床の経過措置から約6万床、転換型老健から0.9万床ということだった。これらは転換が優遇されている施設である。

 介護医療院が創設されてから1年が経過した。目標10万床に対し、まだ1万4千床にとどまっている。転換が進んでいるとは言い難いところがある。なぜ転換が進まないのか、今回の調査ではそのような点にも着目したので、ご紹介したい。
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移行定着支援加算の延長が必要か

 7月18日の定例記者会見で、武久会長が介護医療院への移行が進んでいない状況を説明した。その際、円滑な転換促進に向けて厚労省の強力な指導が必要であるという見解を示すとともに、介護医療院への移行を進めていくための課題として主に4点を挙げた。

 すなわち、移行定着支援加算の算定期限を延長すべきであること。それから、都道府県や市町村は介護医療院移行への事務手続きを簡便かつ迅速に行ってほしいということ。

 また、都道府県への地域医療介護総合確保基金の適用範囲を拡大し、介護医療院へのさらなる補助金としてほしいということ。このほか、国民健康保険の保険者と同様に介護保険の保険者を都道府県にしてほしいということも述べた。

 今回のアンケート調査では、このうち「移行定着支援加算の算定期限の延長」に関連して、円滑な移行促進に向けた課題を探るために実施した。すなわち、「移行定着支援加算の延長が必要か」という問題意識である。
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申請から開設まで平均2.9カ月

 調査は今年8月に実施した。対象は日慢協の会員1,045施設で、487施設から回答を得た。その内訳を見ると、介護医療院の開設済みが69施設、介護医療院への申請は済んでいるが開設できていないのが26施設、「検討中」が103施設、「移行予定なし」が最も多く289施設であった。

 まず、介護医療院への移行を申請してから開設の許可が出るまで、どのくらいの期間がかかったかを調査した。その結果によると、最長で12カ月という施設もあったが、平均すると約2カ月であり、全体的に言えば比較的スムーズに開設できている施設が多かった。

 開設の許可が出てから実際に開設するまでの間には、内装工事をしたり、県の担当者がチェックをしに来たりする期間があるため、許可が下りてからすぐに開院できるわけではない。そうした事情も含めて、移行申請から実際の開設までの期間がどのくらいかを尋ねたところ、最長12カ月で最短では1カ月、平均すると2.9カ月であった。

 調査前の予想では、もっと長い期間がかかるのではないかと思ったが、結果を見る限りでは、それほど長い期間はかかっていないという印象である。

 都道府県別に集計したところ、特定の都道府県で特に長いという傾向は見られなかった。開設許可までの期間は都道府県の対応によるものではなく、各施設の個別の事情によるものであると考えられる。
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転換するか、決めかねている

 補助金の状況はどうか。介護医療院への移行を促進するための支援加算について、自治体における予算確保の状況を調べた。それによると、「予算あり」との回答が全体で45.5%、「予算なし」が50.0%であった。補助金が出ない自治体が意外に多かったように思われる。

 補助金の申請状況については「活用できた」との回答が35.7%、「時間的に間に合わない」が27.1%だった。補助金があまりうまく使えていないようである。時間的に間に合わず、補助金を活用できていない施設もある。補助金の配布にはばらつきが見られる。

 開設までの苦労を尋ねたところ、既に開設済みの施設で最も多かった回答が「開設申請書の作成」で58%に上った。続いて多かったのが「行政担当官との交渉」で45%。開設までに20回以上も交渉した施設が44%あった。これはちょっと多いような気がする。「改修・新設の助成金」については42%が苦労している結果も出ている。

 一方、申請を検討中の施設について開設までの苦労を見てみると、「自施設内での合意がなかなかできない」という回答が30%、「医療施設でなくなることへの抵抗」が20%、「経営の不安」が19%、「職員の確保」が16%だった。これらの結果から、介護医療院に転換するかどうかを決めかねている状況がうかがわれる。
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「要望書」の案を作成した

 こうした調査結果を踏まえ、現時点における「要望書」の案を作成した。まだ未確定であり、内容については検討中であるが、主に2点を挙げたい。
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10_介護医療院の開設に関する調査結果_20191114記者会見資料

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 まず第一に、2020年度末に1年間に満たない期間の転換移行支援加算を受けている施設には加算取得開始から、1年間の加算算定を認めること。

 第二に、移行定着支援加算を2022年度から2023年度にも加算算定できるように期間延長をすること。

 これら2点の要望書を厚労省老健局老人保健課宛てに提出する予定である。時期は未定である。

 移行定着支援加算を1年間受け取るためには、来年4月までに開設する必要がある。しかし、4月よりも前に申請をしているにもかかわらず、事務的な処理手続きが間に合わないなどの理由で開設が遅れた場合には、開設した時点から最低でも1年間は加算が付くような方向で検討していただきたいと思っている。
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経過措置からの移行が進んでいない

 続いて、「日本介護医療院協会2019年度調査」の結果をお示ししたい。こちらの調査は、介護医療院を持つ199施設(会員98施設、非会員101施設)を対象に実施し、79施設から回答を得た。回答率は39.7%(療養床計6,318床)であった。

 調査をする前の予想では、開設したばかりの施設と、開設してからしばらく運営を続けた後の施設とでは結果が異なると考えたため、「開設2カ月目」と「調査直近月」の2時点の回答を得たが、集計をしたところ傾向の違いは見て取れなかった。このため、特に記載がないものは直近のデータであると考えていただきたい。

 まず、調査の概要をご覧いただきたい。
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02_アンケート調査20191114_記者会見資料

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 回答施設の稼働率は92%となっている。それなりに動いていると思う。取得種類はお示ししているとおりであり、Ⅰ型が多い。

 移行前の施設については、介護療養病床・診療所が64.4%、介護療養型老健が17.3%で合わせて約82%となっている。ほとんどが介護からの転換であることが分かる。

 一方、医療療養病棟1が意外にも多く8.0%だった。医療療養病棟2からは3.8%となっている。経過措置からの移行は3.6%と低い水準にとどまった。

 介護医療院がスタートした当初の予想では、経過措置からの移行が多くを占めると見られていた。しかし今回の調査結果を見る限り、経過措置からの移行はほとんど進んでいないと思われる。
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地ケアや急性期からの入所が6割

 介護医療院を開設した立地状況について調べてみた。それによると、Ⅰ型は病院内施設が最も多く95.7%、Ⅱ型も同様に病院内施設が多く、63.6%という結果だった。

 Ⅱ型の場合は独立型が22.7%となっている。平均要介護度についてはⅠ型が4.31、Ⅱ型は3.96となっている。

 これらの結果から、Ⅱ型はⅠ型よりも独立タイプが多く、要介護度が低い。従来型の老健に近いと言える。

 また、新入所者の元の施設について開設3カ月間と直近3カ月間を比較してみたところ、ほとんど変わりはなかった。最も多かったのは自院の地域包括ケア病棟や急性期の病棟からの入所で28%。他院の地域包括ケア病棟や急性期病棟からの入所は31%だった。

 すなわち、全体の約6割が急性期の病棟から移ってきている。療養病床からの入所は多くない。その理由について考えてみると、恐らく在宅復帰率にカウントできるからではないだろうか。それをうまく利用しているというのが最も大きな理由であると考えられる。
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Ⅱ型の入所元は、約8割が急性期等

 入所前の所在について、Ⅰ型とⅡ型ではどのように違うのかを調べた。Ⅰ型では、自宅系から13%、自院の地域包括ケア病棟などから21.5%となっており、他院も含めると約半数が地域包括ケア病棟や急性期の病棟から入所している。

 これに対して、Ⅱ型では自院の地域包括ケアや急性期の病棟から59.1%が入所し、他院も含めると約8割が地域包括ケアや急性期病棟から入ってきている。
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05_アンケート調査20191114_記者会見資料

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 この理由については今後検討してみたいと思っているが、やはり在宅復帰率にカウントできるということが影響しているのではないだろうか。
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自宅系への退所が16%、治療転院31.2%

 退所先については、自宅が9%、自宅系老人施設が7%で、合わせて16%が自宅系に退所していた。これは注目すべき数字であると思う。

 介護医療院は「看取りの場」とか「終の棲家」などと考えられていたところもあるが、自宅などへ16%が帰っている。すなわち、介護医療院は在宅復帰に向けて積極的に取り組んでいる施設であるということを表すデータであり、これはなかなかいいデータではないか。ただし、最も多いのはやはり死亡退院となっており、50%を占めている。

 一方、退所先について類型による違いを調べてみたところ、Ⅰ型とⅡ型ではかなり違うことが分かった。死亡退院の割合を見てみると、Ⅰ型は51.3%、Ⅱ型は36.7%となっており、Ⅱ型は死亡退院が少ない。
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06_アンケート調査20191114_記者会見資料

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 では、Ⅱ型では、どこに退所しているかを見てみると、自院の地域包括ケア病棟や急性期病棟が19.6%、他院の地域包括ケアや急性期の病棟が11.6%という結果だった。すなわち、介護医療院から地域包括ケア病棟や急性期の病棟へ31.2%が退所している。これは何を意味しているかを考えると、恐らく治療転院ではないかと思われる。
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ACPの延べ回数は直近月で最大37.9回

 1カ月間に実施したACP(アドバンス・ケア・プランニング)の100床当たりの延べ回数を見てみると、実施している施設は開設2カ月目では最大39.0回、直近月では最大37.9回だった。実施施設における平均は開設2カ月目で12.9回、直近月で13.1回となっている。

 なお、ここでいうACPとは、厚生労働省が施設基準としている内容に従った。意思の疎通ができないケースも含まれているため、厳密な意味でのACPとは違うことにご留意いただきたい。
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08_アンケート調査20191114_記者会見資料

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1人の入所者に月8回程度のリハビリ

 特別診療費の取得状況について見ると、リハビリテーションが多いことが分かる。リハビリテーションは特別診療費に加算される。PTのみだと1日3回までで、OT・STを合わせて1日4回まで算定できる。ただし、3カ月以内であれば1回123単位ということで、回復期病棟に比べると半値以下ということになる。

 さらに4カ月を超えると11回目以降は3割減算の86単位となってしまう。このため、リハビリの実施については人件費とのバランスも考える必要が出てくる。

 こうしたことを踏まえ、実施しているリハビリテーションについて見てみると、理学療法を実施している施設は80%で100床あたり63件だった。1カ月のトータルでは492回実施している。すなわち、1人の入所者に対して1カ月8回程度のリハビリテーションを実施しているという計算になる。
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在宅復帰を目指す機能を果たしている

 一方、理学療法減算も21件200回実施している。減算になるにもかかわらず、積極的にリハビリテーションを実施していることが分かる。
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12_アンケート調査20191114_記者会見資料

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 作業療法、言語聴覚療法の実施状況も同様で、減算になるにもかかわらずリハビリテーションを積極的に実施している状況がうかがえる。

 1カ月の平均を見てみると、PTは8回、OTが8回、STは7回程度の実施となっており、思っていたよりもリハビリテーションを積極的に実施している。こうした取り組みの結果として、先ほどご紹介した在宅復帰率16%につながっているのだろう。

 従って、介護医療院といえども積極的にリハビリを実施して在宅復帰を目指す機能を果たしているということが言えると思う。単なる看取りの施設ではないということが、このデータからも分かる。
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介護医療院の開設、「良かった」70%

 こうした介護医療院について、今後どのように質の担保を図っていくかが問題となる。質の評価方法の1つとして日本医療機能評価機構による評価も考えられる。

 この点について、将来的に日本医療機能評価機構の受審を導入したほうがいいかを尋ねてみたところ、肯定的な回答は29.1%、消極的な回答は24.1%だった。最も多かったのは「分からない」という回答で43.0%となっている。質の担保を図るための仕組みについては、今後も検討していきたいと考えている。

 最後に、介護医療院を開設して良かったかどうかを尋ねた。「良かった」という回答が70%で、「悪かった」という回答は0%だった。新たに創設されたばかりの制度に対して70%が「良かった」と答えている。こういう数字はなかなか得られないと思う。介護医療院の創設は好意的に受け止められていると言える。

[池端副会長]
 ご説明ありがとうございました。引き続き、武久会長からお願いしたい。
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必要度の「基準②」が議論になっている

[武久洋三会長]
 本日は、ICU(特定集中治療室)に入院している高齢の重症患者さんへの対応などについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思う。現在、ICUには終末期の患者さんが多く入院されていると言われる。

 こうした問題に関連して、現在議論になっている急性期病院の「重症度、医療・看護必要度」の基準について、ポイントをご説明する。

 現在、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」の基準には4種類ある。一方、ICUの基準は「A得点4点以上かつB得点3点以上」となっている。

 一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」の基準のうち、中医協などで議論になっているのが、いわゆる「基準②」と言われるもので、具体的には「B14」(診療・療養上の指示が通じる)または「B15」(危険行動)に該当する患者であって、「A得点が1点以上かつB得点が3点以上」となっている。
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慢性期病棟は軽症という概念は大きく崩れている

 看護必要度の該当患者割合は一般的に、高齢ほど高くなる。ただし、該当条件別に細分化すると、A項目3点以上はほぼ年齢に関係なく、C項目1点以上は高齢ほど該当患者割合が低くなっている。

 A項目に該当する患者の割合を項目別に見ると、呼吸ケア、心電図は高齢ほど高い割合である。専門的な治療・処置は、高齢ほど低い割合である。創傷処置や点滴、シリンジポンプなどは年齢に関係なく、ほぼ一定割合となっており、年齢に関係なく急性期医療の特性を反映した結果と言えるのではないか。

 日慢協の調査によると、慢性期病棟での重症度、医療・看護必要度が50%以上の病棟がある。急性期病棟は重症で、慢性期病棟は軽症という概念は大きく崩れている。

 終末期の治療はICUでも療養病床でもほとんど変わらない。しかし、入院費用には1日5~10倍もの差がある。
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ターミナル患者がリソースに大きく影響

 療養病棟入院料1では、看護職員20対1以上、介護職員20対1以上を配置しなければならない。すなわち、看護・介護職員を合わせて10対1以上の配置をしなければならない。さらに療養病棟入院料1では、医療区分2・3該当患者すなわち、重症患者を8割以上入院させておく必要があり、看護介護職員は非常に多忙である。

 そのため、病院によっては職員を加配するなどして対応している。ターミナル患者を受け持つ医師や看護師は、付きっきりの対応が必要である。具体的には、モニター管理、頻回の回診・巡視、体位交換、喀痰吸引、家族への状況説明、急変時対応などが挙げられる。すなわち、ターミナル患者が病棟にいるかどうかで大きくリソースが異なる。

 一方、特定集中治療室管理料の算定対象となる患者は、意識障害または昏睡、急性呼吸不全または慢性呼吸不全の急性増悪、急性心不全、ショック──などとされている。

 特定機能病院やDPC対象病院で診ているような重症患者について、療養病床では看護配置20対1で対応している。これは非常に大変である。
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高齢者の入院が忌避されてもいいのか

 ICUと療養1の重症患者は、病状も治療内容もほとんど変わらなくても、医療費は5倍も違うという矛盾がある。命は平等である。高齢だから治療しない、となれば全国の病院の多くは必要なくなる。日本では、高齢になって重症になっても、病院できちんと治療してくれないことになるのか。

 来年の診療報酬改定で、もしも急性期病院における一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の「基準②」すなわち「A1点かつB3点以上」を変更したり、除外するなら、高度な医療処置が必要な高齢者は、高度急性期病院から忌避されて断られるということが発生しても、高齢者はそれでよいということになるのかどうか。高齢者の病気は高度急性期でなく、地域包括ケア病棟で治せということか。

 医師や看護師が多くいれば、そこは急性期病院ということになっているが、高齢患者が少なく、若い患者が多ければ、そこは急性期と言われるのか。命を救うのに高齢者だから治療せず、若ければ治療するのか。救命できそうな患者は救命するのではないのか。
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重症患者への対応、「整合性を」

 高度急性期病院は人を揃え、最新医療機器を揃え、治療している。しかし、超高齢者の終末期に近い患者も多いことは事実である。超高齢者の治療をしないと、若年者の重症者は少なく、平均入院率は低下していく。

 急性期病床の適正化を進めるため、現在、重症度、医療・看護必要度の見直しに向けた議論が進んでいる。現行の基準である30%をさらに引き上げることも提案されている。11月1日の財務省・財政制度分科会では「改革の方向性」の案として、急性期一般入院料1の重症度、医療・看護必要度の基準を35%以上に引き上げる案が示されている。

 急病になった場合に、救急車で救急医療センターに運ばれてICUに入る場合がある。ところが、療養病床のある病院に救急搬送されれば、療養病床に入院することになる。1日の医療費は、高度急性期病院の10万円以上に対して療養病棟は2万円前後という大きな格差がある。

 こうしたことについても、どこかで整合性をとらなければいけない時代になってきたのではないか。今回の記者会見では、このような問題についても皆さんに考えていただきたいと思い、お話しさせていただいた。私からは以上である。
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第27回日本慢性期医療学会について

[井川誠一郎学会長(平成医療福祉グループ診療本部長)]
井川誠一郎学会長_2019年11月14日の定例会見 続いて、12月3・4日に大阪で開催する第27回日本慢性期医療学会について、学会長の私からご案内を申し上げる。

 われわれ日本慢性期医療協会のモットーは、「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」ということで、これは皆さんもご存知のとおりだと思う。

 われわれが取り組んでいる慢性期医療、高齢者医療というのは、いわゆる成人の医療だけでは対応できない。エビデンスというものがなかなか存在していないからである。

 われわれの慢性期病院に入院しておられる患者さんの中には、80歳を超えている方も少なくない。80歳を超えておられる患者さんに対する適切な医療はどうあるべきか、エビデンスの集積はいまだ十分とは言いがたい。

 現在のところ、壮年期の患者さんに対する治療のエビデンスを用いて対応している状況である。エクスペリエンスと言うか、それぞれの経験に基づいて治療している面もある。

 しかしながら、これほどの急速な高齢化が進む中で、もう一歩踏み出す必要がある。日本が世界に先駆けて、慢性期医療のモデルを構築すべきと考える。

 今後、欧米諸国も高齢化を迎える時代に突入する中で、われわれ慢性期医療を代表する団体としては高齢者に対する医療の在り方をエビデンスに基づきながらしっかりと確立していく必要があるのではないか。

 こうした思いを込めて、今回の日本慢性期医療学会のテーマは「“令和”時代の慢性期医療 ~スキルとエビデンスの融合を目指して~」というタイトルとさせていただいた。

 幸いにも、非常に多くの演題登録を頂いており、シンポジウムが5つ、一般演題は665題となっている。活発なディスカッションが交わされることと思う。素晴らしい学会になることを確信している。

 ぜひ、ここにいらっしゃる記者の皆さまにもお越しいただき、「慢性期医療はこういうふうに進んでいるんだ」「こういう治療も慢性期医療でやっているんだ」ということを知ってほしい。そして、一般の国民の皆さまに広くお伝えしていただければありがたいと思う。どうぞよろしくお願い申し上げる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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