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「民間の地域急性期を公的病院が吸い上げる」── 11月6日の医療介護総合確保促進会議で武久会長

Posted By araihiro On 2019年11月7日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は11月6日、基金を活用した再編・統合事例が示された厚生労働省の会議で、「周辺の民間病院が担っている地域急性期まで、公的な高度急性期が全て吸い上げてしまうような運営の仕方は、できればやめてほしい」と苦言を呈した。他の委員からも「地域の民間病院の患者が新しくて綺麗な公的病院にどんどん移る」と影響を懸念する声が出た。

 厚労省は同日、「医療介護総合確保促進会議」(座長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第13回会合を開催した。当協会からは、武久洋三会長が構成員として出席した。

 この会議は、地域医療介護総合確保基金の活用状況などを報告するため、毎年1~2回のペースで開かれている。医政局、老健局、保険局の3局が合同で開催する会議で、医療・介護政策に関わる主要なメンバーで構成されている。

 厚労省は同日の会合で、基金の執行状況や平成30年度交付状況、令和元年度内示状況などを報告したほか、医療介護連携の取組状況などを示した。その上で、基金を活用した再編・統合事例を紹介するため、兵庫県と高知県の担当者を参考人として招き、両県における再編・統合事例を伝えた。
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20191106医療介護総合会議
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新しい立派な病院が建つと、大きな影響

 委員の関心は、兵庫県の再編・統合事例に集まった。報告によると、県立柏原病院(稼働病床数184床)と柏原赤十字病院(同59床)が再編・統合し、「丹波医療センター」(320床)が新設された。

 これに対し、病院関係者は「稼働病床184床と59床を統合して320床になったということだが、稼働病床数が増えているだけでなく、どちらか1つの病院よりも大きい病院をつくってしまっている」と指摘した上で、「この影響はどうなのか。新しい立派な公的病院が建つと、周辺にある多くの民間病院に大きな影響を及ぼすことは避けられない」と懸念した。

 別のメンバーからも同様に「病床数が320というのはいかがなものか」との意見が出たほか、民間病院から人材が流出する影響を指摘する声もあった。「丹波医療センターは今後、急性期や回復期にも取り組む予定ということだが、そうすると当然、そこに人材が必要になってくるわけで、その確保のために圏域内にある民間の医療機関の人材が移ってしまうことがないのか」と危惧した。
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20191106医療介護総合会議1
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公立・公的は高度急性期に専念してほしい

 兵庫県の再編・統合事例について武久会長は、ベッド単価が民間病院の約3倍であることを指摘。「(総事業費)181億円を300(床)で割ってみると、1ベッド当たり約6,000万円になる。われわれ民間病院では、せいぜい頑張っても1ベッド当たり2,000万円」と疑問視し、「立派な公立病院なので、当然のことながら近隣の中小規模の民間病院は非常に大きな影響を受ける」と懸念した。

 武久会長は、人口減少を迎える中で、公立・公的病院の再編・統合を進める方針を支持しながらも、「地域急性期まで取り込んで民間医療にプレッシャーを与えるというようなことは控えていただき、やはり高度急性期に専念してほしい」と要請。「周辺の民間病院が担っている地域急性期まで、公的な高度急性期が全て吸い上げてしまうというような運営の仕方は、できればやめてほしい」と理解を求めた。

【武久会長の発言要旨】
 地方の人口はどんどん減っているが、資料によると公立・公的病院の数はむしろ増えていくように見える。公立・公的病院が増えると、その地域にある民間病院は当然、大きな影響を受ける。公立病院が担う医療と地域の民間病院が担う医療は違うと思う。
 兵庫県の事例(県立柏原病院、柏原赤十字病院統合再編整備事業)によると、総事業費が約181億円(うち基金約29億円)という。ベッド数は320床である。181億円を300で割ってみると、1ベッド当たり約6,000万円になる。われわれ民間病院では、せいぜい頑張っても1ベッド当たり2,000万円、100ベットで20億円ぐらいだと思う。1ベッド6,000万円という立派な公立病院なので、当然のことながら近所の中小規模の民間病院は非常に大きな影響を受けることになる。今後、さらに人口が減少し、高齢者も減っていく時代に、このような計画を立てるのがいいのかどうか。
 1945年、太平洋戦争が終戦を迎えた。焼け野原になり、病院もみな焼けてしまった。それから新たに病院が建って40年、1985年に建て替え時期になった。そして今、また全国の病院が建て替え時期を迎えている。ところが建築費が非常に高騰している。兵庫県の総事業費181億円は現状では特に高いわけではない。一方、民間病院は設備などが古くなって建て直したものの、残念ながら次々に倒産しているような状況がある。
 基金などが拠出されている公的病院は、ぜひ綺麗にして高度な医療をやっていただきたいけれども、地域急性期まで取り込んで民間医療にプレッシャーを与えるようなことは控えていただき、やはり高度急性期に専念していただけたら、税金を使っても一向に構わないと思う。
 兵庫県の場合は既に尼崎や加古川、そして姫路などで、全国に先立って公立・公的病院2つを1つにしてベッドを減らしてリニューアルしている。先を進んでいるとは思うが、加古川市では2つの病院を1つにして、その病院が年間20億円の利益を出している。私は四国にいるが、兵庫県にも病院があるので、その状況をよく見ている。非常にいい運営をしていると感じている。
 これから地方の人口はどんどん減っていく。そういう中で、公立・公的病院のベッドが多すぎる。そこで2つの病院を1つにしてベッド数を3分の2か半分ぐらいにして、より高度な、あと20年持つような病院をつくってくれることは地域住民にはいいとは思う。
 ただし、周辺の民間病院が担っている地域急性期まで、公的な高度急性期が全て吸い上げてしまうというような運営の仕方は、できればやめていただけたらと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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