- 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト - http://manseiki.net -

「留置カテーテルで寝たきりが増えてしまう」 ── 9月12日の定例会見で武久会長

Posted By araihiro On 2019年9月13日 @ 5:17 PM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月12日の定例記者会見で、「急性期病院に入院されたお年寄りの方は、入院したとたんに尿道留置カテーテルを装着され入院させられているとすれば、結局、寝たきりが増えてしまう。日本慢性期医療協会としては、これをなんとかして予防したいと思っている」と述べ、急性期病院から紹介患者を受け入れている後方病院の新規入院患者の状況などを調査する意向を示した。

 会見の冒頭で、武久会長は「日本の寝たきりはどこでつくられているのか」と問題提起。介護人材の不足に触れ、「寝たきりが少なくなれば介護職員も少ない人数で済む。要介護者が減れば介護職員も不足することはない」との見解を改めて示した。

 その上で武久会長は、寝たきり患者が急性期病院でつくられている恐れがあることを指摘し、急性期病院でバルーンカテーテルを安易に留置する病院が増えている現状を伝えた。尿道留置カテーテルの理由について武久会長は看護業務の増大などを挙げ、「ナースプラクティショナー制度に大賛成。増大する看護需要には看護師の指導の下に『基準介護』を設けて対応し、看護師本来のレベルの高い看護業務を行ってほしい」と述べた。

 武久会長の説明は以下のとおり。なお、同日の会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
.

要介護者が減れば介護職員が不足することはない

[武久洋三会長]
 最近、終末期や寝たきりなどが問題になっている。日本の寝たきりはどこでつくられているのか。寝たきりが少なくなれば介護職員の人数も少なくてよいということになるのではないか。前回の記者会見や7月の介護保険部会でお話しした内容に関連するが、本日は違った視点で、われわれの協会で調べた内容について、皆さん方のご意見をお聞きしたい。

 7月26日に開催された介護保険部会で、介護職員が大幅に不足するという前提で議論がなされた。私は「介護職員の不足は相対的なものである」と発言した。「相対的」という言葉の意味が分かりにくかったかもしれない。要介護者が増えるから介護職員が足りなくなるのであるならば、逆に要介護者が減れば介護職員の不足はないのではないかという意味である。

 実は、要介護者の多くは、要介護状態になる前に何らかの医療を受けている。残念ながら、医療を受けている間に要介護状態になる患者が多いという現実がある。しかし、適切な医療・介護により要介護者が減少するなら、相対的に介護職員の不足は改善されるだろう。
.

バルーンカテーテル留置の紹介患者がいる

 10年以上前になるが、急性期病院からの紹介で入院した患者のうち、膀胱内にバルーンカテーテルを留置されたまま入院してこられた患者が半分程度いた。

 関西地方の病院のデータである。A・B・C・Dの4つの急性期病院から患者を受け入れたときに、バルーンカテーテルが入ったまま送られて来た患者さんの数と割合について、2016年までの数年間のデータをまとめている。多いところでは4割もいる。

06_【日慢協】2019年9月12日の記者会見資料

.
 急性期で膀胱にバルーンカテーテルを留置したまま、慢性期病院に紹介してきた理由は何であったか。急性期病院では、「高齢患者で歩行が不安定なので入院直後にバルーンカテーテルを装着する」という理由が多かった。つまり、夜中にトイレに行こうとしてベッドを下りて歩いているうちに転倒してしまうことがある。病院の看護師の責任を問われるので、「危ない人はとりあえず管を入れておこう」ということだろう。

 看護職員に理由を聞いたところ、「高齢患者が病院内で転倒しないように」という予防策のほか、「安静臥床のため」「排尿のたびにオムツ交換をする余裕がない」という理由が挙げられた。
.

看護業務の中で「介護」が増えている

 かつて急性期病院では、介護の手間のかかる患者には家族の付き添いを強要していたことがある。それが禁止され、「基準看護」がつくられたわけだが、この移行期にも随分、急性期病院での葛藤があった。

 今の若い人はご存知ないかもしれないが、急性期病院に入院する時に「家族が付いてください」「誰か付いてください」と言われた。付き添い介護の紹介所があちらこちらにあって、そこに依頼して付き添ってもらうことがよくあった。

 急性期病院でも、高齢者の入院が増加している現状がある。高齢患者が多いため、看護業務の中での介護業務の割合が増えている。これは先月の記者会見でもご説明させていただいた。

14_【日慢協】2019年9月12日の記者会見資料

.
 こうした看護本来の業務ではない部分を他の職種に移すことはできないか。14ページのブルーで囲んでいる業務、15ページの赤で囲んでいる業務は、介護に移してもよい業務であるといえるだろう。

15_【日慢協】2019年9月12日の記者会見資料

.

バルーンカテーテル留置の状況を調査したい

 入院中に脱水や低栄養に陥る高齢患者も多い。治療のために入院したのに要介護状態になってしまっては大変である。2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定では、医療と介護の現場で低栄養や脱水の治療、早期リハビリテーション等に加算が付けられた。

 もし、今でも急性期などの病院でバルーンカテーテルの留置や、安静のためにベッド上での臥床を強いられている患者が多い病院があるとしたら、大きな問題である。

 19ページは、尿道留置カテーテルの長期使用による弊害である。医療関係の方でなくても、弊害があることはご理解いただけると思う。

19_【日慢協】2019年9月12日の記者会見資料

.
 介護力不足への対応のために、バルーンカテーテルの留置や過度のベッド上安静を強いられていることはないと思われるが、近々、急性期病院から紹介患者を受け入れている後方病院における新規入院患者の入院時の状況などを日慢協で調査したいと思っている。
.

バルーンカテーテル留置の患者が増えているのではないか

 本日開催した当会の常任理事会で役員の先生方に聞いたところ、バルーンカテーテルを入れられたまま紹介されてくる患者が一定数いるようだ。

自分で歩いてトイレに行くことができても、歩行が不安定な患者さんがいる。そういう患者にバルーンカテーテルを入れると、ベッドから全く動けなくなる。そのため、2週間、3週間入院していると、すぐに寝たきりになる。

 いわば寝たきりにさせられ、その患者を受ける後方病院で必死になって、こわばった関節を動かし、治すのは大変である。もし、寝たきりが急性期病院でつくられているということであれば、これは大変なことだ。

 治療のために安静が必要だからという理由で臥床を強要し、「おむつ交換が面倒だから」と言って安易にバルーンカテーテルを留置しようというスタンスの病院があるとしたら、変えようではないか。
.

介護需要の拡大、「医師が何とかしなければ」

 容易にバルーンカテーテルを留置してしまう病院側の理由は何だろうか。病院の都合でバルーンカテーテルを留置することがあるなら、やめよう。

バルーンカテーテルよりおむつ、おむつより排泄援助、排泄援助よりも排泄自立。そうすれば自宅に帰ることができる。これができていないから自宅に帰れない。すなわち、介護施設の数が必要ということになる。

 これからも高齢化が進行して、寝たきりや要介護者が増加すれば、介護職員の不足だけでなく、介護費用の果てしない拡大をもたらすだろう。

 近年、出生数が減少し、若人も少なくなり、ついには人口がどんどん減少し、国力が弱まっていくなかで、医療や介護の需要による費用の拡大に日本は耐えることができるだろうか。これからの介護需要の拡大に対して、医療を提供している医師の私たちが何とかしなければいけないと思っている。
.

ナースプラクティショナー制度に大賛成

 ナースプラクティショナー制度に大賛成。私は、日本看護協会が主張されている看護師のナースプラクティショナー制度の拡大には大賛成である。優秀な看護師は、さらにレベルを上げてほしいと思っている。

 そのためにも、増大する看護需要に対応するには「基準介護」を設け、看護師本来のレベルの高い看護業務を行ってほしいと考えている。

 高齢者が急増している現状であるから、昔と同じような医療・看護・介護の提供体制のままであれば、要介護者がどんどん増えて対応できなくなるのではないか。

 われわれは、良質な慢性期医療を提供するために頑張っている。しかし、頑張っても頑張っても、急性期病院に入院したとたんに尿道留置カテーテルを装着され入院しているという状況があれば、結局、寝たきりが増えてしまう。日本慢性期医療協会としては、こういう状況にならないよう、なんとかして予防したいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



Article printed from 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト: http://manseiki.net

URL to article: http://manseiki.net/?p=6273

Copyright © 2011 Japan association of medical and care facilities. All rights reserved.