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「要介護者が急性期医療の現場で増えてしまう」── 介護保険部会で武久会長

Posted By araihiro On 2019年8月30日 @ 12:48 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は8月29日、次期介護保険制度の改正に向けた論点などが示された厚生労働省の会議で、「従来の医療の対応の仕方では要介護者が急性期医療の現場で増えてしまう」と懸念し、要介護者を減らす視点も加味すべきと主張した。介護医療院への転換について自治体ごとの対応が異なることも挙げ、医療と介護のさらなる連携を強調した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第80回会合を開き、2021年度から始まる第8期の介護保険事業計画の策定に向けた今後のスケジュールを示すとともに、次期介護保険制度の改正に向けた今後の検討事項や論点について委員の意見を聴いた。

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今後の検討事項

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給付と負担の見直しを求める意見が相次ぐ

 意見交換では、保険料を支払う立場の委員や経済界の代表者から「給付と負担の見直しをさらに進める必要がある」との意見が相次いだ。

 一方、介護現場に関わる委員は、多様なサービスに対応するための人材確保の必要性などを訴えた。

 日本医師会の江澤和彦委員は、医療・介護サービスが共に提供される介護医療院などの重要性を指摘した。

2019年8月29日の介護保険部会1
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「高度急性期病院には介護職員がほとんどいない」

 武久会長は、医療と介護のさらなる連携を進めていく必要性を指摘した。「高度急性期病院には介護職員がほとんどいない。従来の医療の考え方では要介護者が急性期医療の現場で増えてしまう」と懸念し、要介護者を減らすための方策も検討するよう求めた。

 介護医療院への転換については、自治体によって対応が異なる現状を伝えた。転換が進みにくい理由として介護保険財政への影響などを挙げ、「介護医療院への迅速な移行を促すことは有効な政策。今後、十分に検討してスムーズに移行ができるようにしてほしい」と要請した。
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武久洋三会長2_2019年8月29日の介護保険部会
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 武久会長の発言について、詳しくは以下のとおり。
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〇武久洋三会長
 本日、今後の検討事項が示された。これまでの議論を踏まえ、非常に広範囲にわたる。その中で、要介護者の増加や介護職員の不足などが挙げられている。要介護者の中には、病気になって医療を受けて、その結果として要介護者になっている例も非常に多い。
 前回、7月26日の当部会で申し上げたように、介護職員の不足は相対的な問題である。要介護者が増えると介護職員が不足することになると思われるが、要介護者を減らす視点も必要である。
 医療の在り方がいろいろと問題になっている。高度急性期病院においても、入院患者の多くが高齢者である。20年前の倍に増え、入院患者の7割以上を高齢者が占めている。
 しかし、高齢者が急速に増えているにもかかわらず、高度急性期病院には介護職員がほとんどいない。そのため、看護師がその役割を担っている。介護に十分対応でききれていない結果、要介護者がどんどん増えている面があるのではないかと思われる。
 つまり、従来の医療の対応の仕方では、要介護者が急性期医療の現場で増えてしまう。要介護者が増えれば介護職員が不足するのは当然である。医療と介護は密接に関係している。
 当部会の検討範囲は介護保険が中心ではあるが、要介護者の増加には医療も関係しているので、医療と介護がうまく連携することが重要であると思う。
 介護保険料の問題もある。介護保険は市町村が保険者になっている。小さい市町村では高齢者が非常に多いので、それに比例して要介護者も増える。介護保険の負担について、自治体ごとにばらつきが出ることになってしまう。国民健康保険の運営主体が市町村から都道府県に移ったように、介護保険も都道府県が保険者にならないと、今後、非常に大きな問題が出てくるのではないか。
 介護保険3施設として、老健と特養、そして病院の介護療養病床がある。このうち介護療養病床では、介護職員の処遇を改善するための交付金の申請が他の2つに比べて非常に少ない。なぜかというと、病院と介護施設の両方を運営している法人の経営者としては、介護施設で働く介護職員と同じように、病院で働く介護職員の給料を補助金なしで上げることが非常に厳しいという事情がある。このため、介護療養病床における処遇改善交付金の割合が非常に低い。
 医療療養病床・介護療養病床から介護医療院への移行が進めば、その割合が改善されていくとは思うが、これら3施設の特長を生かした運営をして、できるだけ要介護度を改善していく必要がある。要介護者の増加を抑制するという視点も少し加味しながら、今後検討していただけたらありがたい。
 2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定における大きな改革は介護医療院の新設であったと思うが、本日示された検討事項の中では、11ページ(介護医療院について、移行等支援策を充実させて、円滑な転換を進めていくべき)と、25ページ(介護療養型医療施設から介護医療院への転換を促している)に少し書かれているだけである。
 現在、介護療養病床から介護医療院への転換、そして医療療養病床から介護医療院への転換は予測されていたようには進んでいないので、今後の検討事項として考えていただきたい。
 介護医療院への転換については、自治体によって対応が異なることが問題となっている。兵庫県の大きな島の中に、人口3万人ぐらいの市が二つある。その島で、医療療養病床から介護医療院への移行を申請したところ、一つの市では、「当市は介護施設が十分整っているため必要ない」という回答だった。もう一つの市では、「高齢者の増加が予想されるので迅速な移行を認める」という対応だった。このように全く違う結果となっている。同じような事が全国で起きていると思われる。
 その理由として、介護保険料の上昇がある。介護療養型医療施設から介護医療院に転換する場合には、いずれも同じ介護保険なので申請が認められやすい。しかし、医療療養病床から介護医療院への転換は、医療保険から介護保険への移行になるので、介護保険料が大幅に上がるケースもあると思う。
 こういう背景があり、同じような規模の市であるにもかかわらず、スタンスが全く違うという現状がある。今後スムーズな移行が進むように検討していただきたい。全国の病院病床のうち、約30万床が空床となっている。効率化を進め、介護医療院への迅速な移行を促すことも有効な政策であると思う。今後、十分に検討して、スムーズに移行ができるようにしていただければありがたい。

2019年8月29日の介護保険部会2
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                          (取材・執筆=新井裕充) 



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