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入院医療の緊急アンケート結果を発表 ── 8月8日の定例会見で池端副会長

Posted By araihiro On 2019年8月9日 @ 5:17 PM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は8月8日の定例記者会見で、入院医療に関する緊急アンケート調査の結果を発表した。重症患者が多く入院する療養病棟で中心静脈栄養や死亡退院が多いことが分科会で問題となったことを踏まえて7月に実施したもので、中心静脈栄養は18.2%、死亡退院は45.4%だった。

 次期改定に向けて厚労省が7月3日に開いた中医協「入院医療等の調査・評価分科会」では、療養病棟での中心静脈栄養や死亡退院率などが議論になった。調査結果について委員から「医療区分3ではかなり死亡しているので、やはり看取りの場所になっている感じもする」との発言があったほか、中心静脈栄養の患者が半数以上を占めていることも議論になった。

 この日の会見では、同分科会の委員を務める池端幸彦副会長が緊急アンケートの結果を報告。「(分科会では)少し反論めいたお話をさせていただいたが、まずデータが必要ではないかと考え、緊急アンケートを行った」と調査の趣旨を説明した上で、中心静脈栄養については厚労省のデータ(療養1の医療区分3で53.7%)の示し方の問題点を伝えた。

 このほか、同日の会見では武久洋三会長が「『基準介護』を新設してはどうか」と提案。「介護職員を急性期病棟にも多く配置することにより、寝たきりがどんどん減っていくことに期待したい」と述べた。

 会見の模様は以下のとおり。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページを参照。
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20190808記者会見
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慢性期医療のフェーズが変わってきた

[武久洋三会長]
日本療養病床協会から日本慢性期医療協会になり、最近つくづく思うのは慢性期医療のフェーズが変わってきたということである。
 
 病気を持っている人の8割以上が高齢者であるという現実がある。高齢者になると1週間や2週間では治らないが、そこを急性期医療的なことも含めて慢性期医療が対応する。在宅療養を診療所の先生がこつこつと支え、そうした中で急に肺炎になる。そこを支える。
 
 また、急性期病院から慢性期病院に多くの患者さんが送られてくる。この患者さんを早く良くして日常生活に戻す。2018年度の診療報酬改定では、慢性期病院できちんと治して退院させたら評価するという点数になった。こうした流れが今後とも続いていくと思う。

 慢性期病院だから何カ月も何年もずっと入院しているというイメージは、もはやない。そのような患者さんは、むしろ介護医療院や介護施設に行くべきである。慢性期医療を提供している病院病床としては、重症の人を受け入れて、早く適切に治療して治していく、日常に返すことを期待されている。慢性期医療のフェーズが変わってきている。
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データが必要と考え、緊急アンケート

[池端幸彦副会長]
 本日のテーマは、①療養病棟入院基本料1の患者(中心静脈栄養&看取り)に関する緊急アンケート結果報告、②「基準介護」の新設について──の2点で、ご報告と提案をさせていただきたいと思う。

 まず1つ目は、中医協「入院医療等の調査・評価分科会」で議論になった医療区分3の患者に関する緊急アンケートを7月に実施したので、この結果を私から報告させていただく。

 7月3日に開催された入院分科会では、療養病床に関して医療区分3を算定する中で、中心静脈栄養が非常に多いということで、これに関してどう考えるかが問題になった。

 また、死亡退院率が50%を超えてかなり高いことも問題になった。これについて、療養病床は医療よりも看取り機能が大きいのではないかといった意見もあった。そこで私から少し反論めいたお話をさせていただいたが、まずデータが必要ではないかと考え、緊急アンケートを行った。
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15%を「多くてけしからん」と言えるか

 3ページは、入院分科会に出された中心静脈栄養に関するデータ。療養病棟入院料1では53.7%、2でも58.3%と、いずれも5割を超えている。

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03_20190808記者会見資料

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 しかし、これはあくまでも医療区分3の中に幾つかある該当項目のうち、中心静脈栄養が5割ということ。医療区分3が全体のどのくらいを占めるかといえば3割ぐらい。3割のうちの5割は15%である。

 すなわち、療養病床に入院している患者さんの15%ぐらいが中心静脈栄養を入れている患者さんということになる。あくまでも、その程度の割合である。これを果たして、「多くてけしからん」と言えるかどうか。そこは混同しないようにしていただきたい。
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中心静脈栄養18.2%、うち4割は持ち込み

 入院分科会のデータは以上だが、では当協会の会員病院はどのような状況か。

 7月、日慢協役員の関連61病院にアンケート調査を行った。1週間の緊急アンケートだが、病床数が約5,000弱、患者数は6,000人を超えるデータが集まった。その中で、中心静脈栄養を1日でも実施した患者さんを「実施した」とカウントした。

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04_20190808記者会見資料

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 中心静脈栄養を実施した患者さんは1,135名で、全体の18.2%だった。この1,135名のうち、他院あるいは自宅からの持ち込みは約4割だった。

 また、胃瘻や経鼻・経管栄養等の代替可能な方法があるにもかかわらず、中心静脈栄養を実施している患者数は1,135名のうち17名で、1.5%だった。

 さらに、その中で本人、家族がどうしてもそれを望んでいる患者さんが16名、ほぼ全体の9割以上ということで、本人、家族が希望していないが、代替可能な栄養法があるにもかかわらず中心静脈栄養をした患者さんは1名だけだった。

 その1名はどのような患者さんかというと、末梢点滴での持続治療が困難な状況下にある患者さんだった。すなわち、手足からの点滴を入れていたが、結果が出なくなり、あえて血管ルート確保の意味も含めて、中心静脈栄養ルートを使った。こういう理由で中心静脈栄養を行ったのは1名だけだった。
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併用としての中心静脈栄養も必要

 高齢者の場合、低栄養、脱水状態に陥ると毎日、通常の栄養量と水分に加え、これまでに不足した分を足さなければいけない。このため、経口摂取や経管栄養だけでは不十分であり、併用として中心静脈栄養を入れる期間も必要になる。

 ただし、胃腸を全く使わない場合は腸の絨毛が退化してしまい、腸の吸収を落としてしまうため、定期的に見直しを行う。経腸栄養のほうが栄養法としては優れていると思われるため、経口もしくは経管栄養を併用し、最終的にはそちらに切り替え、中心静脈栄養を抜去すべきである。

 当協会ではそのように考えており、そういう流れの中で、実際にはこういう結果が出たということをご理解いただきたい。
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死亡退院45%、特養や在宅等では看取れない

 続いて、死亡退院に関するアンケート結果について。療養病棟入院料1の退院患者約2,000名のうち、死亡退院は45.4%だった。これは入院医療等の調査・評価分科会で示されたデータとほぼ同じである。

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10_20190808記者会見資料

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 では、どういう人が死亡退院されたか。容態の急変等で死亡されたのは130名で、15%だった。急変ということは、入院中はそれなりに普通に療養あるいは治療を行っていた患者さんである。

 また、治療して回復を目指していたが、それにもかかわらず死亡された方が約4割。治癒することは難しいけれども、医療を継続しながら、看取りも視野に入れて入院された方が4割強だった。

 このほか、本来は医療の必要はなく、特養、自宅等でもみられないことはない患者さんが22名、率で言えば2.5%ということで、この患者さんはもしかすると特養、自宅を希望すれば移せた患者さんかもしれないが、この程度の割合。

 このような結果で、死亡退院45%のほとんどが特養、老健、あるいは在宅で看取れるかというと、決してそうではないということを、このデータは示していると思う。

 療養病床で死亡退院が多い理由として考えられるのは、ターミナル患者が療養病床へ集中しているからではないか。すなわち、療養病床以外に、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟などの多機能な病棟がある場合、治る見込みがある患者さんはそちらの病棟で治すが、最終的に治療のかいなく亡くなってしまう患者さんが療養病床に集中しているのではないかと推測している。
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「基準介護」を新設してはどうか

[武久会長]
 続いて私からは、「基準介護」を新設してはどうかという提案について述べたい。

 私たちを取り巻く環境が加速度的に変化している。かつて人が住む地域には必ず存在していたはずの役場や郵便局、学校や商店街が姿を消して、銀行も会社も世の中の仕組みが大きく変化している。それなのに、医療業界だけが大幅に遅れている。
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武久洋三会長_20190808記者会見
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 いまだに入院基本料は、医師と看護師の配置数だけで決められている。しかし現場の病棟内では、多職種のコメディカルスタッフが働いている。
 
 一般病棟7対1の入院患者の高齢化もどんどん進んでいる。平成28年度調査では高齢者が72.2%。もうすぐ8割になりそうな時期に来た。高齢患者は看護ケア以外に介護ケアのウエイトが大きく占めるようになっている。一部、「看護補助者」と呼ばれて配置されているが、十分な人員が配置されていないため、看護師が排せつ介助、食事の世話、身体清潔、身の回りの世話などの介護業務に追われているのが現状だ。
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純然たる看護業務が相対的に減っている

 16ページ。このブルーで囲んだ部分は、看護業務というよりは介護業務に近い。

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 17ページは、看護業務の他職種への移管の可能性。左側の7項目と、赤で囲っている部分は、看護師ではなく介護士がしてもよい分野である。

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17_20190808記者会見資料

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 急性期病院でも高齢者が増加しており、医療レベルの高い看護師が明らかな介護業務に多く関わることによって、純然たる看護業務が相対的に減っているのではないかという不安感がある。
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高齢者が増え、要介護者も増えている

 平均寿命がどんどん伸びている。30年前と比べて、約2倍の高齢者が入院している。平成28年度の調査では、7対1病棟に入院している患者さんの平均年齢が69.4歳で、現在は既に70歳を超えている。病院に入院している患者さんの平均年齢は70から80歳という状況にある。入院料ごとの分布でも、高齢者の割合が増加している。要介護者も増えている。

 患者の高齢化は避けて通れない。急性期病院にも介護ケアの必要な高齢者が急増している。要介護者は、一時的に何らかの疾病に罹患して、急性期病院での入院治療中に十分な介護ケアやリハビリテーションが行われていないことが要因となり、寝たきり状態に陥りやすい。

 そして、さらなる介護ケアが必要となった高齢者が慢性期病院や介護施設に紹介されてくるケースがどんどん増えている。
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介護職員の不足は相対的なもの

 7月26日に開催された介護保険部会では、介護人材の確保という一点に集中した議論がなされた。要介護高齢者が増え続けることを無条件で受け入れた上での議論であり、おかしいのではないか。

 私が最後のほうで、「介護職員の不足は相対的なものではないか」ということを言った。急性期病院での介護ケアが十分に行われ、寝たきり患者を減らすための対策が行われることによって要介護者の減少につながれば、介護施設も介護人材も少なくて済むのではないかというようなことを言わせていただいた。

 30年前、看護師はほとんど看護だけをやっていたが、現在は看護だけでなく介護のウエイトも非常に大きくなっている。しかし、看護師は介護の専門家ではない。このため、急性期病院で2週間、3週間寝ている間に動けなくなってしまう。

 すなわち、介護によるベッドサイドでのいろいろな生活可動域の改善などが十分なされているわけではない。また、急性期病院にはリハビリテーションスタッフも少なく、病棟に配属される機会が多いとはいえない。従って、病院病床に基準介護を設けるべきである。
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「基準介護」によって寝たきりが減る

 1950年には4.9%だった高齢化率が2014年には26.6%となり、2016年に夜間の看護補助体制加算が付いた。

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 「看護職員と看護補助者の業務分担の推進」と書いてあるが、おかしな文章がある。「看護職員が専門性の高い業務に集中することができるよう看護補助業務のうち一定の部分までは、看護補助者が事務的業務を実施できることを明確化し」とある。事務的業務だろうか。

 介護の専門職である介護福祉士は国家資格である。介護福祉士を多くの病棟業務、介護業務に配置する「基準介護」の導入は、まさに時代の要請である。

 看護師のレベルはどんどん上がっている。認定看護師や特定看護師、ナース・プラクティショナーなど、スキルの高い看護師が誕生している。

 看護師は、看護師にしかできないレベルの高い業務に専念するとともに、医療の高度化に努めてもらうべきである。介護業務については基準介護を設けて、介護職員を急性期病棟にも多く配置する。これにより、寝たきりがどんどん減っていくことに期待したい。

 「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」と言い続け、11年目を迎えた。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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